2008年4月アーカイブ

「クローバーフィールド」パンフレット 今日公開の「大いなる陰謀」に3分遅れで間に合わず、しょうがないので1時間以上待って「クローバーフィールド HAKAISHA」。IMDBでは一時期、評判悪かったのだが、今見たら7.8と高くなっている。公開まで一切情報を伏せたので期待値が高かった観客が当初は低い点を入れたのだろう。僕も面白く見た。

怪獣の造型がいいですね。あれは間違いなくエヴァ系のデザイン。壊れた人間とトカゲが合体したような形で、自然界の生物とはとても思えず、劇中でも言及されるが、アメリカ政府の実験施設から逃げ出したのに違いない(ただし、実験施設がニューヨークの近くにあるはずはなく、怪獣が攻撃する都市をフロリダとかサンフランシスコ、あるいは五大湖沿岸地域あたりにしておけば、良かったのではないかと思う)。おまけの小さな怪物の方は「ガメラ2 レギオン襲来」のソルジャーレギオンを思わせる(それよりはずっと小さいけれど)。

日本の怪獣映画が怪獣を倒すことに傾注しているのに比べて、アメリカ映画の怪獣はディザスター映画(パニック映画)的側面が強調される。この映画もそのパターン。元々のヒントは「ゴジラ」のフィギュアにあったそうだが、米国版「ゴジラ」(ローランド・エメリッヒ監督)と同じアングルがあったりして、製作のJ・J・エイブラムス、怪獣映画が好きなのではないかと思う。小さい怪獣が出てくるあたりは米国版「ゴジラ」や「エイリアン」の影響だろう。米国版「ゴジラ」の小さいゴジラは明らかに「ジュラシック・パーク」のヴェロキラプトルの影響がありましたけどね。ついでに言えば、噛まれた人を軍隊が隔離するのは「グエムル 漢江の怪物」でしょう。

登場人物が撮影したビデオ映像で語るという同じ手法を用いた「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」も実は嫌いではないのだが、怪異の正体がまったくといってよいほど出てこないのが大きな不満だった。この映画では怪獣の姿をそこそこ見せてくれるけれども、まだまだ見せ方が足りない。きっちり見せて、その正体まで明らかにすれば、言うことはなかった。そのあたりは続編に持ち越されるのだろう。限定的な視点で描いた怪獣映画として良い出来だと思う。

僕は複数の人が撮ったいくつかのビデオ映像をつないだ構成とばかり思っていたが、撮影したビデオカメラ自体は1台だけだった。ああいうパニック状況の中でビデオを撮り続けるというのはちょっとリアリティを欠くのだけれど、まあしょうがないか。

それにしても揺れに揺れるこの画面、三半規管の弱い人には勧められない。うちの家内などは絶対に無理。

「うた魂♪」

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「うた魂♪」パンフレット序盤のオーバー演技の漫画チックな描写にがっくりし、これはダメかなあと思ったら、中盤から良くなり、終わってみたら、まあ満足できる出来栄え。前半がダメダメなのは意図的だったんじゃないかと思えるほど後半がよろしい。クライマックスでじっくり合唱を聞かせるのがいいし、夏帆もだんだん本来の魅力を見せる。好きな男子にふられた(と思った)悲しい顔が歩いているうちに明るさを取り戻す短いシーンとか、ガレッジセールのゴリに啖呵を切るシーンとかうまい。

北海道の七浜高校合唱部の荻野かすみ(夏帆)は自分のルックスと歌声に異常な自信を持ち、自意識過剰かつナルシスト気味。ある日、思いを寄せる生徒会長の牧村(石黒英雄)から合唱中の写真を撮ってもらい、口を開けた姿が「産卵中のシャケみたい」と言われた上にその写真を生徒会新聞に掲載されてしまう。大ショックで意気消沈のかすみは合唱部をやめることを決意。ラストステージでのかすみの気のない歌い方を見た湯の川学院高校合唱部の権藤洋(ゴリ)から「あんな歌い方、歌への冒涜だ」と罵倒されてしまう。権藤は3年前、町で尾崎豊の歌を歌う女性に会い、歌の魅力にとりつかれてヤンキーな格好のまま合唱部を作ったのだった。権藤たちの「15の夜」の合唱に感激したかすみは再び、歌への情熱を取り戻す。

脚本の栗原裕光はこれが初の劇場用映画。監督の田中誠もメジャーな作品は初めてらしい。だから完璧な出来には遠いし、もう少し洗練された演出がほしいところなのだが、少女の人間的な成長を描くというオースドックスな構成は外していない。コンクールの審査員役でゴスペラーズが出演、合唱場面で流れる主題歌の「青い鳥」も担当している。夏帆のほか、部長役の亜希子も毅然とした感じが良かった。

「ポストマン」パンフレット 長嶋一茂製作総指揮&主演。かなり意外なことにこの映画は評判が良く、映画生活でも2ちゃんねるでも「泣いた」「感動した」という声が多い。日本郵政が協力していることから見て、郵便局PR映画であるのは間違いないし、確かにそういう風な場面で幕を開けるのだけれど、単なるPR映画で切り捨てられない、人を引きつける部分を持っているのだ。それは何なのだろうと映画を見ながら思っていた。映画の技術も脚本も演技も物語もステレオタイプの域を出ていない。今時、回想シーンに紗をかけるなどという時代遅れの演出をする映画デビューの今井和久監督にも特に優れた部分は見あたらない。

それでは映画のどこに感動するのか。愚直さ真っ当さ朴訥さ誠実さのある部分なのである。そういうものに価値を見いだすことができる人ならば、この映画は幸福になれる映画だ。一茂が一生懸命に猛スピードで自転車をこぐシーンはそれだけで感動ものだ。一生懸命な姿勢の底にあるのは人の幸福を願う愚直なまでに誠実な信念なのである。そういうものを真正直に見せられたら、僕らはつい冷笑してしまいがちなのだけれど、冷笑したくない雰囲気がこの映画にはある。この映画はアナログで懐かしい雰囲気に包まれた一種のファンタジーなのである。

長嶋一茂が演じるのはオートバイを使わずに自転車で郵便配達をする海江田龍兵。病弱だった妻が死んで間もなく三回忌を迎える。家族は高校受験を控えるあゆみ(北乃きい)と小学生の鉄兵(小川光樹)。あゆみは寮のある私立高校への進学を望んでいるが、龍兵には「家族は一緒に暮らして食卓を囲むのが一番」という信念があり、反対している。

この設定の下、龍兵の生き方が触媒となって周囲の人間が変化していく姿を描く。あゆみの副担任で教師の仕事は腰掛けと思っている臨時教師(原沙知絵)や元はエリート郵政官僚の上司も考え方を改めることになるのだ。郵便を誤配して「300通の中で1通間違えたってそれがなんだ」という開き直る新人に対して龍兵は「受け取る人にとっては1対1だ」と答える。その真摯な考え方と生き方が周囲の人々と同様に観客の心をも動かすのだろう。

実は長嶋一茂主演の映画は「ミスター・ルーキー」も僕は好きだった。あの映画でもまた一茂はプロ野球選手になる夢をあきらめない男に説得力を持たせていた。その一茂のキャラクターは今回もプラスに作用している。まだ人情がある田舎の小さな町が舞台なのもこうしたオーソドックスな物語に説得力を持たせることになったのだろう。

蛇足的に付け加えておくならば、こういう諸々の要素があったにしても、必ずしも映画が成功するわけではない。この映画の成功は危ういバランスの上に成り立っている。同じことやって次も成功するかというと、この演出力ではかなり疑わしいのも事実なのである。また同じパターンで見せられたら、僕は冷笑するかもしれない。

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」パンフレット タイトルからして甘っちょろい映画にほとんど興味はなかったのだが、上映前にパンフレットを読んで「おおおっ」と思った。共同脚本ローレンス・ブロック…。マット・スカダーシリーズ(「800万の死にざま」とか)のブロックが脚本を書いている。そこで座り直して真剣に見ることにした。

出だしは「ふーん」と思うぐらいの出来だったが、中の2つの話が良かった。最初のアル中警官の話がいかにもブロックが加わった感じを漂わせる。次のギャンブル依存症のようなナタリー・ポートマンも良かった。この2つがいい出来なのにプロローグとエピローグがやはり甘っちょろい。もっと中の話と関連づけてはどうかと思う。スローモーション(というか、コマ落としのような感じ)を多用しているのも目障りだ。アクセントとして用いるならともかく、こんなに多いと見にくいだけである。カーウァイ、自分に酔っているのではないか。

中の話が良いのでそんなに悪い印象は持たなかったけれど、どうしても話のまとめ方に弱さを感じた。帰宅してIMDBで調べると、ブロックが映画の脚本を書いたのはこれが初めてらしい。なぜ書いたのか。パンフレットをざっと読んでみたが、どこにもその理由は書いてないようだ。

パンフレットによれば、元々、この話は「花様年華」に入れるはずのものだったという。それがプロローグとエピローグの部分なのだろう。傷心を抱えて旅に出るっという設定までがカーウァイ独自のもので、中のエピソードをブロックが担当したのではないか。それにしてもミステリ風味はないし(もっともブロックにミステリを求めるのはちょっと違うような気がする)、ニューヨークとアル中警官という2つの点だけがブロックらしいというのはもったいない。

ま、レイモンド・チャンドラーもヒッチコック映画の脚本は書いているので、ミステリ作家が映画の脚本を手がけるのはそんなに珍しいことでもない。それに映画は脚本通りに撮られるわけでもない。中の2つの話の厳しさをカーウァイが勘違いして甘くまとめてしまったのか。ブロックらしさのあった脚本をカーウァイが封じたのかもしれない。

ちなみにこの映画のノベライズの翻訳はスカダーシリーズを訳している田口俊樹が担当している。ノベライズの方にはブロックらしい部分が残されているのか、気になるところだ。

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