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シネマ1987online

赤い橋の下のぬるい水

「赤い橋の下のぬるい水」

土着的な性を取り上げ続けている今村昌平らしいテーマと言えるが、出来の方は普通の映画である。今村昌平の外見はすっかり好々爺になってしまったけれど、この映画にも枯れた印象がある。撮影中に妊娠数カ月だった清水美砂に色気が足りないということは置いておく(もともと清純派だから、そんなに色気はない)にしても、秘密を共有した男女の親密な描写が不足している。男の方の快楽にのめり込む様子も不十分である。

では女の性を追求しているかというと、そうでもない。性の本質ではなく、その周辺のいろいろな事情が子細に語られるだけである。だから映画は水であふれているのになんだか枯れた印象になる。主演の2人が同じなので「うなぎ」の延長のような感じになってしまうが、「うなぎ」の重たさに比べてこちらは軽く、心地よい。心地よいけれど、やはり「赤い殺意」や「神々の深き欲望」などなど過去の今村昌平の傑作群に比べると、不満を感じずにはいられない。倍賞美津子や北村和夫、中村嘉葎雄、坂本スミ子ら脇役の充実ぶりは光るが、映画全体に抜きん出たものはなく、巨匠が作った水準作と言うべきか。

富山県のある町が舞台。赤い橋のたもとの家にすむサエコ(清水美砂)は体の中に水がたまる体質。水がたまると苦しく、万引きをしてしまう。この水はセックスをすることで放出される。リストラで失業中の中年男・笹野(役所広司)は仲のよかったホームレス・タロウ(北村和夫)の生前の言葉「盗んだ宝を赤い橋のたもとの家にある壺の中に隠した」を思い出し、この家にたどり着く。サエコに迫られて初対面でいきなりセックスし、事情を打ち明けられた笹野はサエコの要望に応じてせっせとセックスに励むことになる。という設定ならば、男女の性の深淵を描くことになるはずなのだが、そうはならない。サエコが出す水の描写は本当に放出という感じで、堰を切ったように、噴水のように水が噴き出す(あんなに出たら、脱水症状になるに違いない)。部屋は水浸しになり、部屋から流れ出たぬるい水に川の魚が集まってくるのだ。ラストには噴出する水に虹がかかる描写(!)さえある。この映画、基本的にはおおらかな艶笑譚なのである。

すぐに東京に帰るつもりだった笹野は若い漁師の新太郎(北村有起哉)から漁の手伝いを頼まれ、民宿に泊まってこの町に住むことになる。映画は笹野とサエコを軸に、サエコと同居する老婆(倍賞美津子)や釣りの老人(中村嘉葎雄)、民宿を経営するその妻(坂本スミ子)、新太郎の父親(夏八木勲)らを描いていく。この人間関係のドラマがなかなか面白い。「人生は○○○が硬いうちだぞ」と言う北村和夫をはじめ、いかにも今村昌平らしいキャラクターばかりである。こういう話にどう決着をつけるのかと思っていたら、映画は終盤、サエコの過去を知るヤクザ(ガダルカナルタカ)を登場させる。「うなぎ」のような展開だが、こちらはあっさり片が付く。

今村昌平の過去の映画はどれもエネルギッシュな力にあふれていた。どろどろした描写には一部辟易もしたけれど、今回の映画のようにそれがないとなると、物足りなくなる。年を取ったからといって悟りの境地に行かなかったのは今村昌平らしいが、体力の衰えは描写の力の衰えにもつながるのかもしれない。

【データ】2001年 1時間59分 配給:日活
監督:今村昌平 製作総指揮:中村雅哉 企画:猿川直人 製作:豊忠雄 伊藤梅男 石川富康 原作:辺見庸「赤い橋の下のぬるい水」(文藝春秋)「くずきり」(「ゆで卵」所収・角川書店) 脚本:冨川元文 天願大介 今村昌平 撮影:小松原茂 音楽:池辺晋一郎 美術:稲垣尚夫
出演:役所広司 清水美砂 中村嘉葎雄 夏八木勲 不破万作 北村和夫 倍賞美津子 北村有起哉 ミッキー・カーチス ガダルカナルタカ 坂本スミ子 田口トモロウ 不破万作 でんでん 根岸季衣 小島聖 モハメド・ラミン 三谷昇

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