99年ベストな映画たち

I 映画のツボをバラすな

まず「シックス・センス」から。幽霊を見る能力を持つ少年(ハーレイ・ジョエル・オスメント)と医師(ブルース・ウィリス)の交流を描く、このホラー映画の大いなる蛇足が冒頭の「この映画には秘密があります」との字幕であることは明らかだ。あの字幕によって、映画が始まって10分ほどで映画のポイントは分かってしまう。あとはその確認作業になるだけ。描写の怖さや丁寧な演出があるから、僕は評価はするが、あの字幕さえなかったらもっと楽しめたのにと思う。その点、「ファイト・クラブ」(注・公開が12月なのでベストテン対象外)は完全にポイントの部分を伏せた。予告編などからは秘密のクラブを舞台にした暴力テーマの映画のように見える。実際はもっと深いものがあり、後半はカルト集団の暴走と主人公のアイデンティティーが絡む展開に変わって面白い。「セブン」のデヴィッド・フィンチャー監督を見直した。事前に「何かある」と聞かされれば、中盤の ヘレナ・ボナム・カーターのセリフで見当は付くけれど、秘密を完全に伏せた宣伝はうまくいったと思う。映画の秘密を観客に伏せるのは鉄則。これは雑誌やWeb上に氾濫する映画評(感想)のページでも同様だ。

II スター・ウォーズはなぜつまらなかったか?

キネマ旬報でもシネマ1987でも洋画の1位になった「恋におちたシェイクスピア」はシェイクスピアを主人公にしたラブストーリー。ウエルメイドな作りで、役者の演技を堪能できた。主演のジョセフ・ファインズとグゥイネス・パルトロウの魅力も大きく、アカデミー作品賞も納得できる。これとほぼ同時代を舞台にし、一部キャストも重複する「エリザベス」は軟派なシェイクスピアとは逆にガッチガチの硬派な内容。私生児として生まれたエリザベスがどのように女王への道を歩んだか、宗教対立を軸に宮廷の“仁義なき戦い”として描いた。  個人的には1999年のベストは「マトリックス」だ。黒いコスチュームで決めたキアヌ・リーブス、キャリー・アン・モスのかっこよさ、効果的なスローモーション、絶望的な未来世界という設定、香港映画の手法を取り入れたワイヤーアクション。いや、しびれました。サイバースペースを舞台にしたスタイリッシュなSFアクション、と表面的にとらえてもかまわないが、SFのアイデアがしっかりしているのに好感が持てる。2部、3部の企画は当然といえよう。ウォシャウスキー兄弟はこれで一気にメジャーになった。

シリーズものでつなげば、「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス」がある。なんと、シネマ1987のベストテンでは12位。10以内に入らなかったのは、前3部作ほど面白くなかったのだから仕方ない。SFXは比べものにならないくらい進歩しているのにどうしてこんなことになったのか。要するに主人公がいなかったためなのだろう。グワイ・ゴン・ジンとアナキン・スカイウォーカー(ダース・ベイダー)とオビ・ワン・ケノービ、この3人がいずれも主役を張れなかったことに問題がある。前3部作ではルーク・スカイウォーカーというしっかりした主人公がいて、その人間的成長も描かれたが、今回はまだ子どものアナキンを主役にできなかった。来年公開される「エピソードII」ではアナキンとオビ・ワンが中心的な存在になるはずだ。アナキン役をだれが演じるかも含めて興味は尽きない。

III ベストテンまであと一歩

スタンリー・キューブリックの遺作「アイズ ワイド シャット」は妻の不倫まがいの告白を聞いて不安定になった主人公(トム・クルーズ)の彷徨を描く。失敗作とも言われたが、僕は日常のすぐそばにある闇の世界に引き込まれそうになった男の話として面白く見た。過去のキューブリック作品らしい映像も随所にあり、巨匠の遺作として恥じるところはない。

ベストテンにかすりもしなかった作品にも見どころのある映画は多い。例えば、「トーマス・クラウン・アフェアー」。スティーブ・マックイーン、フェイ・ダナウェイ主演「華麗なる賭け」(1968年)のリメイクだが、犯罪中心だった前作に対して、今回は美術品を盗んだ犯人と保険調査員のラブアフェアーを中心にした大人の映画になっていた。中年女性の心の揺れ動きをレネ・ルッソがうまく演じ、監督のジョン・マクティアナンも復調の兆しを見せた。

ドイツ映画「ラン・ローラ・ラン」は恋人の命を救うため、主人公ローラが必死にベルリンの街を走り回る話。それだけなら、なんということもないが、なんとこの主人公、人生をリプレイできるのである。嫌な局面に陥ったら、事件の発端からやり直す。そしてまた走る走る。アニメーションも取り入れたポップな展開は注目に値する。

サイモン・バーチ」は障害を持って生まれた子どもサイモンと親友の交流を描く。 サイモンは自分の障害について「神様がプランを持っている」と信じている。そのプランがいかに実現されるかまでをマーク・スティーブ・ジョンソン監督はきめ細かな日常の描写で見せた。障害者を主人公にした映画にありがちな感動の押し売りがなく、好ましかった。

忘れてはいけないジャッキー・チェンの「フー・アム・アイ」。ビルの屋上で繰り広げられる驚異的なアクションは映画史に残ると断言できる。ここまでやれるスターはほかにいない。ジャッキーは空前絶後のアクションスターであることを証明した。(1999年ベストテン号)

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