U-571

U-571

「U-571」 第2次世界大戦を舞台に、ドイツの暗号機エニグマの奪取作戦を展開するアメリカ海軍潜水艦乗組員の話。監督2作目のジョナサン・モストウは緊張感あふれるタッチで一気に見せる。話を大きくせず、ドイツの潜水艦と駆逐艦との二度の戦闘だけに絞った構成は正解で、密度の濃い映画になった。駆逐艦からばらまかれる爆雷の恐怖感、深海で潜水艦の壁がきしみ海水が噴き出すサスペンスをリアルに描き出している。ストーリー的にはアリステア・マクリーンなどの海洋冒険小説を彷彿させるもので、その意味でも好みの映画ではある。ただし、話がオーソドックスすぎて新しさに欠けるきらいがある。ドイツ兵の描き方など、30〜40年前の映画とほとんど変わらないし、潜水艦内部の描写もウォルフガング・ペーターゼン「U・ボート」などで既に見たようなものが多い。技術的には高水準なのだが、傑作と断言しにくいのはそんな思想の古さがあるからだ。

1942年4月、ドイツのUボート“U-571”が大西洋上の戦闘で故障し、救助の無線連絡をする。それを傍受した米海軍は旧式潜水艦S-33でドイツの暗号機エニグマの奪取作戦を展開。ドイツの潜水艦に見せかけて近づき、一気に奪い取るが、急襲してきた別のUボートの魚雷でS-33は撃沈。艦長(ビル・パクストン)以下、乗組員のほとんどは死んでしまう。生き残った副艦長のアンドリュー・タイラー大尉(マシュー・マコノヒー)、ベテランチーフのクロフ軍曹(ハーヴェイ・カイテル)らの乗組員は奪い取ったUボートで敵のUボート撃沈に成功。しかし、味方に救助を要請すれば、傍受されてエニグマの暗号を変えられる。ドイツの戦艦が数多くいる中をくぐり抜け、タイラーたちは必死のサバイバル戦を展開する。

追撃してきたドイツ駆逐艦との戦闘が最大の見せ場。U-571は相手の通信室の破壊に成功するが、大量の爆雷を撒かれ、限界ぎりぎりの水深200メートルまで潜航する羽目になる。ここで潜航が止まらなくなる、というのが潜水艦映画の定石とも言える場面。ぼろぼろになった潜水艦と一発しか残っていない魚雷でどう戦うか、モストウ監督はリアルな演出で緊迫感を盛り上げる。

主人公のタイラーは性格的な優しさから、艦長になれなかった男。それが戦闘を通じて非情さを兼ね備え、一流の艦長に成長していく、というサブストーリーがある。納得行かないのはここで、海軍の現場が本当にそうであったにしても、仲間を犠牲にしていく精神には共感できないし、たった一つの暗号機のために命を懸けるという行為も僕には馬鹿らしく思える。これは例えば、軍上層部の理不尽な命令で一人の兵士を救うためにバタバタと犠牲者が出た「プライベート・ライアン」と同じような設定なのだが、根本的に異なるのは「プライベート・ライアン」にはその行為に対する批判的視点があったことだ。「U-571」でも部下の一人が批判的なことを言うが、任務を無事遂行したところで終わってしまっては、明確な批判にはならない。好戦的、タカ派的と見られても仕方がない側面がこの映画にはあり、それが積極的評価をためらわせる一因となっている。戦争映画で視点をどこに置くかは重要なポイントだと思う。

【データ】2000年 アメリカ 1時間56分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:ジョナサン・モストウ 脚本:ジョナサン・モストウ サム・モンゴメリー デヴィッド・エイヤー 製作:ディノ・デ・ラウレンティス マーサ・デ・ラウレンティス 製作総指揮:ハル・リーバーマン 撮影:オリヴァー・ウッド 美術:ウィリアム・ラッド・スキナー ゴエス・ウェイドナー 衣装:エイプリル・フェリー 音楽:リチャード・マーヴィン
出演:マシュー・マコノヒー ビル・パクストン ハーベイ・カイテル ジョン・ボン・ジョヴィ デヴィッド・キース ジェイク・ウェーバー マシュー・セトル デイブ・パワー トーマス・グアリー ジャック・ノーズワージー

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ミュージック・オブ・ハート

Music of the Heart

「ミュージック・オブ・ハート」 ニューヨークのイースト・ハーレムにある公立学校を舞台に、バイオリン教室の存続を図る教師と子どもたちの姿を描く。実話を基にしており、同じ題材を扱ったドキュメンタリーは1996年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたという。ホラー以外の映画に初挑戦のウェス・クレイヴン監督が丁寧な演出を見せ、主演のメリル・ストリープもいつものように絶妙の演技を見せる。ハーレムでの教育の難しさだけを描いても1本の映画になったと思うけれど、その種の“教育映画”は過去にもいくつか例がある。クレイヴンは主人公ロベルタ・ガスパーリの生き方に焦点を当て、“女性映画”の趣を持つ人間味のある温かいタッチの映画に仕上げた。危機に陥ったバイオリン教室を救うためコンサートの開催を進める後半の描写がやや駆け足になったのは惜しまれるが、まず楽しめる映画になっている。

映画はハーレムのバイオリン教室が軌道に乗るまでと、その10年後、コンサート開催を計画する後半とにはっきり分かれる構成。海軍将校の夫と別居したロベルタ(メリル・ストリープ)は2人の息子とともに故郷のニューヨークに帰ってくる。高校時代の同級生ブライアン(エイダン・クイン)の紹介でハーレムの学校の臨時教師となり、バイオリンのクラスを受け持つ。ロベルタが教師となったのはあくまで生活するためであり、音楽教育への理想を最初から掲げていなかったところがいい。足に障害を持つ少女に向かって「人間は足だけで立つんじゃないの。しっかりとした気持ちで立つのよ」と話すのは自分の素直な気持ちなのである。この場面の前に夫から離婚を申し出る電話があり、ロベルタがショックを受ける場面がある。このセリフは自分に対しても言いきかせているわけだ。前半はハーレムの凄まじい環境を点景に取り入れ、私生活に悩みながら生徒を厳しく指導して、最初のコンサート(というか発表会)を成功させるまでが描かれる。

10年後、ロベルタの教室は3つに増え、1400人の生徒を送り出すまでになっていた。ところがニューヨーク市教委が予算を削ったために存続の危機にさらされる。ここからロベルタの戦いが始まる。生徒の父母の協力を得て、教室存続の資金を得るためのコンサートを企画。ロベルタの教室をテーマにしていた写真家ドロテア(ジェイン・リーヴズ)の夫が有名バイオリニストのアーノルド・スタインハートだったことから、コンサートには有名バイオリニストたちが協力することになる。ニューヨーク・タイムズが教室の危機を報道し、会場もYMCAからカーネギー・ホールへ。話を聞いたホール館長のアイザック・スターンが協力したのだった。カーネギー・ホールでのコンサートという夢のような話を実現させたのはロベルタの個人的人間関係とマスコミを利用したうまい戦略にあったのだろう。

50歳を超えたストリープは体系的にややふっくらし、そのためか、映画から受ける印象も丸くなった感じがする。30代で出ていた「クレイマー、クレイマー」や「ソフィーの選択」のころはうまい女優ではあったけれど、どこかギスギスした感じがつきまとっていた。あのころのストリープでは、厳しいのに優しいというこの映画のような幅のある演技はできなかったと思う。ストリープの演技に支えられた部分が大きい映画だと思う。公立学校の校長役はアンジェラ・バセット、ロベルタの母親役がクロリス・リーチマン。演技力のある女優がそろっている。

【データ】1999年 アメリカ 2時間3分 ミラマックス・インターナショナル提供 配給:アスミック・エースエンタテインメント
監督:ウェス・クレイヴン 製作総指揮:ボブ・ワインスタイン ハーヴィ・ワインスタイン エイミー・スロトニック 原作自叙伝:ロベルタ・ガスパーリ「ミュージック・オブ・ハート」(角川文庫) 原案ドキュメンタリー「ハーレムのヴァイオリン教室」 脚本:パメラ・グレイ 撮影:ピーター・デミング 衣装:スーザン・ライアル 音楽:メイスン・ダーリング 主題歌:グロリア・エステファン&イン・シンク「ミュージック・オブ・マイ・ハート」
出演:メリル・ストリープ アンジェラ・バセット グロリア・エステファン エイダン・クイン ジェイン・リーヴス クロリス・リーチマン キーランン・カルキン チャーリー・ホフハイマー ジェイ・O・サンダース ジョシュ・ペス

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マルコヴィッチの穴

BEING JOHN MALKOVICH

「マルコヴィッチの穴」 15分間だけ俳優のジョン・マルコヴィッチになれる穴を巡る奇妙な味わいの映画。2000年アカデミー賞で助演女優、監督、オリジナル脚本の3部門にノミネートされた(受賞はなし)。大変ユニークなストーリーだが、ワンアイデアに終わらず、ストーリーをSF的に発展させている点に感心させられる。なぜマルコヴィッチになれるかの(一応の)説明もあるのだ。アイデンティティーや性同一性障害の話が出てくるけれど、そちらが本筋ではなく、三角(四角?)関係を中心に据えたユーモアタッチがいい。あくまでもエンタテインメントなのである。伏線をきちんと張ったチャーリー・カウフマンの脚本は秀逸。初監督のスパイク・ジョーンズの演出も真っ当で、非現実的題材を手際よくまとめている。ちょっと欲を言えば、展開に納得はしたものの、こちらが驚くほどの意外性はなかった。SF的なアイデンティティーの話なら「ダークシティ」や「マトリックス」が上だろう。

売れない人形使いのクレイグ(ジョン・キューザック)は生活のためにある会社に就職する。オフィスは7階と8階の間の天井の低い7と1/2階にある(8と1/2階でないのがいい。ここの由来も説明される)。従業員はみんな背をかがめて歩いているという構図がまずおかしい。クレイグはここで美しいOLマキシン(キャスリーン・キーナー)と出逢い、一目惚れするが、相手にされない。ある日、クレイグはキャビネットの裏に小さなドアを発見する。中に入ると、そこは俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中だった。そこではマルコヴィッチの目で外を見て、感じることができる。15分後なぜか高速道路の脇に落下する。クレイグとマキシンはこの穴で商売を思いつく。1回200ドルでマルコヴィッチを体験させるわけである。別の人間になってみたいという欲求を持つ人間が多いためか、商売は大繁盛。クレイグの妻ロッテ(キャメロン・ディアス)もこれを体験し、病みつきになる。実はロッテは性転換を望む性同一性障害を持っている。マルコヴィッチの穴に入った時、マルコヴィッチとマキシンが愛し合ったことから、マキシンを愛してしまうのだ。クレイグも絡めた複雑な四角関係が生じることになる。

映画は後半、穴の秘密とクレイグの野望を軸にストーリーを展開させる。クレイグが人形使いであるという設定が生きてくるのはここからで、少し見え見えではあるが、まあ仕方ないだろう。マルコヴィッチは周辺の異変に気づき、クレイグたちを問い詰め、自分でも穴の中に入る。そこの処理はおかしい場面になっているけれど、ちょっと納得いかない。ああいう風にはならないだろう。鏡を2つ合わせて中をのぞき込むような感じになるのではないかと思う。あるいは“クラインの壺”か。穴の秘密は「永遠に美しく…」のようなものである。ただ、この脚本のオリジナリティーは大いに認めなければならない。ストーリーの底に意地の悪さも透けて見えるこの脚本、なぜこういう発想が浮かんだのか不思議だ。

ジョン・キューザックは長髪とひげ面で最初はだれだか分からなかった。キャスリーン・キーナーはしどけない色っぽさがいい。本人として登場するジョン・マルコヴィッチほか、ゲスト出演的なスターの使い方(特にチャーリー・シーンのおかしさ)も楽しい。

【データ】1999年 アメリカ 1時間52分 ユニバーサル・インターナショナルピクチャーズ提供 シングル・セル・ピクチャーズ グラマシー・ピクチャーズ プロパガンダ・フィルムズ作品 配給:アスミック・エース
監督:スパイク・ジョーンズ 脚本・製作総指揮:チャーリー・カウフマン 製作:マイケル・スタイプ サンディ・スターン スティーヴ・ゴリン ヴィンセント・ランディ 撮影:ランス・アコード プロダクションデザイン:K・K・バーレット 衣装:ケイシー・ストーム 音楽:カーター・バーウェル
出演:ジョン・キューザック キャメロン・ディアス キャスリーン・キーナー オースン・ビーン ウィリー・ガースン バーン・ピヴン グレゴリー・スポレダー チャーリー・シーン ネッド・ベラミー スパイク・ジョーンズ ジョン・マルコヴィッチ ショーン・ペン ブラッド・ピット ウィノナ・ライダー アイザック・ハンスン

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X-メン

X-MEN

「X-メン」  冒頭にナチス収容所で両親と引き離される少年の姿が描かれる。この少年が後に人類を滅ぼそうとするマグニートー(イアン・マッケラン)であり、マグニートーが人類に持つ憎しみの理由を象徴させたわけである。ただこの場面、直接的にミュータントへの差別と迫害を描いた方が良かったような気がする。ナチスの行為を人類全体に敷衍するには少し無理があるのではないか。マグニートーが体験した不幸はミュータントだったからではなく、ユダヤ人だったからで、個人的な復讐ならば、その対象はナチスの方に向かうはずなのである。「ユージュアル・サスペクツ」「ゴールデンボーイ」のブライアン・シンガーが監督した「X-メン」はこのように単なるSFアクションに終わらせない含みを持たせてはいるものの、ほんの少しポイントがずれている。非常に惜しい。ニュータイプがテーマだった「ガンダム」と共通するところがあるけれど、迫害と差別、あるいは新しい人類の覚醒をもっと深く掘り下げないと、せっかくのテーマなのに取って付けたような印象しか受けない。出演者やSFXが魅力的なだけに残念な作品と思う。

原作は1963年に始まったアメリカン・コミックス。登場人物はかなり多いそうだが、映画はX-メンもマグニートー一味(「ブラザーフッド」というらしい)も数人に絞り込んである。これがスケール感を欠くことにもつながった。映画の中心となるのは全身に超合金アダマンチウムを埋め込まれたウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)と、人に触れるとその人の生命力や能力を奪ってしまうローグ(アンナ・パキン)。自分の能力に嫌気がさして家出したローグは場末の酒場でその日暮らしのストリート・ファイトを続けるウルヴァリンと出会う。一緒にトラックで走行中、マグニートー一味のセイバートゥース(タイラー・メイン)に襲われる。危機一髪の瞬間、X-メンのサイクロップス(ジェームズ・マーズデン)とストーム(ハル・ベリー)が救出した。X-メンはミュータントと人類の共存を願うプロフェッサーXことエグゼヴィア教授(パトリック・スチュアート)が作った組織。迫害を受けるミュータントの子どもたちの受け入れ先ともなっている。一匹狼が性分のウルヴァリンは反発しながらも、X-メンと行動を共にする。

マグニートー一味の狙いはローグの能力にあり、人類をミュータントに変える装置を操らせようとしている。映画は後半、ローグの争奪戦が展開される。これに絡んでくるのがミュータントを人類の脅威として登録法案の成立を画策する上院議員ロバート・ケリー(ブルース・デイビソン)。ケリーはX-メンにとってもマグニートーにとっても敵対関係ということになる。黒ずくめのコスチュームがスタイリッシュなX-メンたちに比べて、マグニートー一味の方はセイバートゥースもトード(レイ・パーク)もミスティーク(レベッカ・ローミン・ステイモス)もまるで怪物のような存在。分かり易いとはいうものの、これではちょっと幼稚である。

原作ではそれぞれのミュータントの過去も描かれているらしい。上映時間の関係で映画ではウルヴァリンに絞られる。ウルヴァリンは何者かによって全身に金属を埋め込まれたらしいが、その際の記憶は消されている。その秘密は映画では明らかにならず、恐らく作られるであろう次作に持ち越しとなった。これは絶対、続編を作って欲しいものである。ウルヴァリンを演じるヒュー・ジャックマンは若い頃のクリント・イーストウッドを彷彿させるが、イーストウッドほど演技に幅が感じられない。次作までにもう少し演技力に磨きをかける必要があるだろう。パトリック・スチュアートとイアン・マッケランは重厚さを感じさせ、映画に風格を与えている。ジーン・グレイ役のファムケ・ヤンセンをはじめ女優陣は良かった。

【データ】2000年 アメリカ 1時間44分
監督:ブライアン・シンガー 製作:ローレン・シュラー・ドナー ラルフ・ウィンター ストーリー:トム・デサント ブライアン・シンガー 脚本:デイヴィッド・ハイター 製作総指揮:アヴィ・ライド スタン・リー リチャード・ドナー トム・デサント 撮影:ニュートン・トーマス・シーゲル プロダクション・デザイナー:ジョン・マイヤー 視覚効果スーパーバイザー:マイケル・フィンク 特殊メーキャップ・デザイン:ゴードン・スミス 音楽:マイケル・ケイメン 衣装デザイナー:ルイース・ミンゲンバック
出演:ヒュー・ジャックマン パトリック・スチュアート イアン・マッケラン ファムケ・ヤンセン ジェームス・マーズデン ハル・ベリー アンナ・パキン タイラー・メイン レベッカ・ローミン・ステイモス ブルース・デイビソン マシュー・シャープ ブレット・モリス ロナ・シェクター ケネス・マクレガー シャーン・ロバーツ ドナ・グッドハンド ジョン・E・ネルズ ジョージ・ブザ

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