ラッシュアワー2

Rush Hour 2

「ラッシュアワー2」

ジャッキー・チェンとクリス・タッカーの刑事コンビが活躍するアクションの第2作。前作を僕は見ていないが、タッカーがメインでジャッキーはサブだったらしい。今回は名前も同時に出るから対等の扱いである。最後におなじみのNG集があることから見てもジャッキーの意見はかなり採り入れられたらしく、ジャッキー主演の映画と言っても通るだろう(ジャッキー自身、「前作は嫌いだ」と公言している)。ジャッキーのアクションは相変わらず素晴らしいが、スケール的にダウンしているのは年齢(47歳)からいっても仕方ない。「フー・アム・アイ」がジャッキー本来のアクションの最後になるのでは、との思いをあらためて強くした。全体的にあまり締まらない話で、監督のブレット・ラトナーの演出もルーズだが、それでもそこそこ面白く見られるのはジャッキーの人徳というべきか。甲高い声でわめくクリス・タッカーのけたたましさに予告編では閉口したけれど、通して見るとそうでもなかった。ただし、大して魅力もないのに、なぜこの程度の俳優がジャッキーと肩を並べるのかは分からない。

香港のアメリカ大使館の爆破で2人が殺害される。事件には偽札作りの香港マフィアが絡んでいるらしい。ちょうど香港にはリー(ジャッキー・チェン)とカーター(クリス・タッカー)が休暇で来ていた。リーは上司からの指示で香港マフィアのボス、タン(ジョン・ローン)を捜査。カーターも一緒に事件に巻き込まれることになる。2人はタン主催の船上パーティーに乗り込むが、なんとタンの部下の殺し屋フー・リ(チャン・ツィイー)が2人の目の前でローンを撃ち殺してしまう。事件は振り出し。2人は手がかりを追ってロサンゼルスへ帰る。プロット的には簡単だが、ジャッキーのアクションを見せるためと割り切れば、その方が好ましいし、話に破綻はなく、香港映画よりもはるかに構成はしっかりしている。ジャッキーのアクションとしては最初の方にあるビルの竹を組み合わせた足場での格闘(「プロジェクトA2」に同じような場面があった)や爆弾を口に入れられたジャッキーが右往左往するクライマックス(なんだか「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」を思い出した)などが見どころか。

この映画で一番注目したのはもちろん、「初恋のきた道」「グリーン・デスティニー」に続いて映画3作目となるチャン・ツィイー。しかし、これまた予告編で見て危惧していたとおり、化粧が濃く、いつもの清楚な魅力はなかった。だいたい、ツィイーのアップが少ない。ラスト近く爆弾を抱えて登場するシーンのみ、本来のツィイーの素顔に近い表情が見られたが、マフィアの殺し屋という役柄が基本的に合わないこともあって魅力を発揮していない。アクションはさまになっているけれど、アクションだけで起用されるべき女優ではないでしょう。そのあたり、ブレット・ラトナーのダメさを感じる。殺し屋役よりもロセリン・サンチェスが演じた謎の美女の方をやってほしかったが、まだサンチェスほどの色気はないので無理かもしれない。

ジャッキー自身が語っていることだが、ハリウッドではジャッキーのアクションに規制がかかるらしい。ジャッキーが目指した(と思える)ロイドやキートンの映画はハリウッドが作ったのに、ジャッキー本来のアクションは暴力的と見られるという。「それで僕は決めたんだ。その年に1本アメリカ映画に出たら、もう1本は必ず中国映画に出るっていうことをね。僕のファンのためにも、ちゃんといつものジャッキー映画を作り続けることにしてるんだ」。ジェット・リーとの共演も計画しているというジャッキーの真の魅力を十分に堪能できる作品を心待ちにしたい。

【データ】2001年 アメリカ 1時間30分 配給:ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:ブレット・ラトナー 製作:ロジャー・バーンハウム アーサー・サルキシアン ジョナサン・グリックマン ジェイ・スターン ストーリー:ロス・ラマンナ 脚本:ジェフ・ネイサンソン 撮影:マシュー・F・レオネッティ 音楽:ラロ・シフリン 衣装デザイン:リタ・ライヤッック 美術:テレンス・マーシュ スタント・コーディネーター:コンラッド・E・バルミザーノ 特撮コーディネーター:マイク・メイナーダス
出演:ジャッキー・チェン クリス・タッカー ジョン・ローン チャン・ツィイー ロセリン・サンチェス アラン・キング ハリス・ユリン

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トレーニング デイ

Training Day

「トレーニング デイ」 ロス市警の新人警官イーサン・ホークが麻薬捜査課に移った最初の1日を描くサスペンス。上司のデンゼル・ワシントンから捜査現場の実地トレーニングを受けることになるが、思いも寄らない窮地に陥る。キャスティングが命の映画で、何も知らずに映画を見ると、後半の展開に意外性がある。ただし、その意外性が終わると、映画は結局、小悪人の自滅話のようになってしまう。イーサン・ホークかデンゼル・ワシントンかで、今ひとつ視点が定まらないのが残念。ラストはやはり主人公の手で終わらせるべきだったろう。脚本はロス市警で起きた“史上最悪の警察スキャンダル”をモデルにしたらしい。それならトレーニングという設定は必要なく、正面からこのテーマを取り上げた方が良かったのではないか。ストーリー・テリングとテーマがうまく噛み合っていない感じを受ける。要するに回りくどいのである。ロスのギャングの怖さや荒れた街の風景などはリアルに描かれており、ワシントンも相変わらず熱演しているが、同じロスが舞台でテーマ的にも似ている「L.A.コンフィデンシャル」に比べると、ちょっと物足りない。

麻薬捜査課に配属された新人警官ジェイク・ホイト(イーサン・ホーク)は初日に有能な捜査官アロンゾ・ハリス(デンゼル・ワシントン)に電話で呼び出される。カフェで待っていたアロンゾは署には行かず、街で実地に麻薬摘発をトレーニングする。車の中でアロンゾはジェイクに麻薬の吸引を強要。できなければ、麻薬捜査官にはなれないと脅す。言われるままに吸引したジェイクは朦朧とした意識の中で暴行現場を目撃。車を飛び出し、少女を救うが、アロンゾは犯人2人を逃がしてしまう。大物だけを狙うアロンゾにとって暴行犯は興味の対象外らしい。2人はアロンゾの情報屋ロジャー(スコット・グレン)の所へ向かう。そこでロジャーはアロンゾにロシア人が命を狙っていると告げる。アロンゾが先週殺したロシア人は大物だったらしい。それを逃れるには大金を用意する必要があった。アロンゾは麻薬密売人のボスの家で捜査に見せかけて金を盗み、さらにロジャーの金を狙う。金で逮捕状を出させたアロンゾは配下を集め、再びロジャーの家へ。ロジャーがこれまでに集めた大金を強奪しようとする。アロンゾはジェイクにロジャーを撃ち殺すよう命令するが…。

後半の意外性というのはつまりデンゼル・ワシントンの悪役のことで、これが分かって以降、映画は悪徳警官の末路と、秘密を知ったジェイクが陥る危機を描くことになる。ジェイクが3人のギャングの家へ置き去りにされる場面は怖いが、どうも本筋から離れた余計なサスペンスという気がしないでもない。アロンゾの最期については今時珍しいパターンだが、かつてはこういう話よくあった。アントニー・フュークワー(「リプレイスメント・キラー」「BAIT」=日本未公開)の演出は平均的。1日だけのドラマを追ったデヴィド・エアーの脚本の意欲は買うけれど、もう一工夫必要だったのだと思う。

【データ】2001年 アメリカ 2時間2分 配給:ワーナー・ブラザース
監督:アントニー・フュークワー 製作:ジェフリー・シルバー ブルース・バーマン 脚本:デヴィッド・エアー 撮影:マウロ・フィオーレ 音楽:マーク・マンチーナ 美術:ナオミ・ショーハン 衣装:ミケーレ・マイケル
出演:デンゼル・ワシントン イーサン・ホーク スコット・グレン トム・ベレンジャー クリフ・カーティス ドクター・ドレー スヌープ・ドッグ メイシー・グレイ

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アカシアの道

Acacia Walk

「アカシアの道」

アルツハイマー病にかかった母親(渡辺美佐子)と娘(夏川結衣=「陰陽師」)の物語。痴呆の母の介護という現実的な問題を扱った映画でもあるのだが、それ以上にこれは松岡錠司監督(「バタアシ金魚」)が言っている通り、母と娘の葛藤の物語になっている。回想で描かれる娘の小学生時代の描写に心が痛む。娘を生んですぐに離婚した母親は教師をしながら一人で娘を育てるが、娘への態度は氷のように冷たく、しつけには異常に厳しい。友達が来て騒げば、頬をぶたれる。狭い団地で「お前なんか生まなけりゃ良かった」という言葉を投げつけられる。ほとんど虐待に近いとも言えるこの環境は娘にとって地獄だっただろう。原作者の近藤よう子は親の立場からの児童虐待をテーマにした漫画を描いた後、その裏返しでこれを描いたのだそうだ。逃げ場がない環境での虐待は悲惨としか言いようがない。「お前のためを思って」という言葉とともに押しつけられる親の理想ほど、子どもにとって迷惑なものはないのだ。

娘が高校卒業後、家に寄りつかず、編集の仕事をしながら一人で生活しているのも当然なのである。しかし娘は母の痴呆症状の連絡を受け、団地に帰って来ざるを得なくなる。母親の痴呆は徐々に進み、記憶が混乱し、必然的に以前のように罵詈雑言を浴びせられる。徘徊して家に戻れなくなる、アイロンをつけたままにする、火事になりそうになる。その一方で娘の恋人(杉本哲太)は母親がアルツハイマーと知って離れていく。介護を頼もうと思っても、公的介護は順番待ち。民間に頼めば費用がかかる。そんな風に主人公は追いつめられていく。娘は叔母(藤田弓子)から母親がすぐに離婚したのはその前に大きな失恋があったためらしいと聞かされる。父親との結婚もその反動だったらしい。それと子どもに対する虐待とは次元の違う話なのだが、人間の心理はそう簡単ではない。

虐待と介護。どちらも結論を出しにくいテーマなので、ラストの処理も難しい。映画は後半、父親を殺しそうになった青年(高岡蒼佑)を登場させ、母親とほのかな交流をさせることで、息詰まる親子関係の変化の兆しを描く。この青年の扱いが今ひとつで、1年後への場面転換もやや唐突な感じを受けるのだが、破綻した家族の再生への道筋を松岡錠司は示したかったのだろう。主人公はラスト、「私、小さい頃、こうやってお母さんに手を握ってもらいたかったの。お母さんは握ってくれなかったけど、私は握ってあげる」と、痴呆の進んだ母親に語りかける。穏やかな親子関係への変化を示唆して映画は終わる。

ストーリー的には必ずしも穴のない作品ではないと思う。それをあまり感じさせないのは描写に力があるからだ。母親のビールしか入っていない冷蔵庫、夫と子どもの微笑ましい光景にかぶさる幼なじみの「あの人浮気しているの」という言葉、母親の世話をやんわりと断る近所の主婦の描写など細部にいちいち説得力がある。松岡錠司監督は重いドラマを緊密に演出し、ただの介護問題啓発映画などにはしなかった。渡辺美佐子は当然のことながらうまく、夏川結衣も好演している。

【データ】2000年 1時間30分 配給:ユーロスペース
監督:松岡錠司 製作:堀越謙三 松田広子 原作:近藤よう子 脚本:松岡錠司 撮影:笠松則通 美術:磯見俊裕 衣装:宮本まさ江 音楽:茂野雅道
出演:夏川結衣 渡辺美佐子 杉本哲太 高岡蒼佑 天光真弓 りりィ 小沢象 小林麻子 高倉香織 藤田弓子 坂口美樹 原未来 平塚摩耶

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ブロウ

Blow

「ブロウ」 アメリカにコカインを広めた麻薬密売ディーラーを描く実話。ブルース・ポーターの原作がどうなっているか知らないが、デヴィッド・マッケンナの脚本はユングの人生を家庭の幸福の観点から構築している。「金なんて幻だ」という父親とそれを理解しないで諍いを続けた母親(しかし、この母親も息子の悪事は許さない)。麻薬密売で大金を得た主人公は後半、両親と同じように、金をめぐって妻と争うようになる。この構成が良かったのかどうか。主人公はある時期、アメリカのコカインの8割を密輸で供給したという。その割に普通の、むしろ善良な男にしか見えないのである。テッド・デミ監督は時代背景も取り入れ、テンポ良く手堅くまとめてはいるが、演出にあまり際だったところは見られない。ただし、ジョニー・デップが相変わらずうまいので、水準的な作品にはなっている。

小さな会社を経営し、破産した実直な父親(レイ・リオッタ)と金への執着が強い母親(レイチェル・グリフィス)との争いに嫌気が差した一人息子のジョージ・ユング(ジョニー・デップ)は1960年代末に家を飛び出し、親友とともにカリフォルニアへ行く。そこでマリファナを覚え、密売するようになる。小規模の小売りから始めたユングはメキシコで直接マリファナを大量に買い付け、密輸して大金を得るが、実家に帰ったところで母親から警察に通報され、逮捕される。刑務所に服役中、同室のコロンビア人と意気投合し、出所後はコカインの密輸に手を出す。メディジン・カルテルのボス、パブロ・エスコバルの信頼も得て巨万の富を築き、知り合いの婚約者マーサ(ペネロペ・クルス)を横取りして結婚。一人娘のクリスティーナを溺愛する。しかし、幸福は長くは続かなかった。

映画が緊張感を帯びるのはエスコバルの登場シーン。「ここでは命が安い」というセリフ通り、男が簡単に銃殺されてしまうのを点景として見せる。しかし、ノワール的な部分はこういうところぐらいで、主人公は気楽にマリファナを売り、コカインを密輸する。デミ監督は「これは完全に誤った方向へ陥ったアメリカン・ドリームの物語だ」という。主人公は大金は得たが(やがてすべて失う)、家庭の幸福は得られなかったという視点がやや常識的ではある。だから終盤、娘との交流と逮捕によるその破綻、孤独な服役生活へと続く描写が今ひとつ物足りない。どこで物語を終わらせるかは難しいところだが、もう少し前で終わらせ、後は字幕での紹介程度で良かったのではないか。2時間3分は少し長く感じた。

主人公の前半の恋人役でフランカ・ポテンテ(「ラン・ローラ・ラン」)が出演している。ハリウッド・デビュー作という。「ラン・ローラ・ラン」の時よりすっきりした美人なので驚いた。マリファナの密売屋として登場するポール・ルーベンスはかつてのピーウィー・ハーマンで、IMDBのフィルモグラフィーを見ると、映画にはけっこう出ているようだが、この作品で完全復活を感じさせる好演を見せている。なお、ユングは2015年まで服役するという。

【データ】2001年 アメリカ 2時間3分 配給:ギャガ=ヒューマックス
監督:テッド・デミ 製作総指揮:ジョルジア・カサンデス 製作:デニス・レアリー ジョエル・スティラーマン 原作:ブルース・ポーター 脚本:デヴィッド・マッケンナ ニック・カサベテス 撮影:エレン・クラス 美術:マイケル・ハナン 衣装:マーク・ブリッジス
出演:ジョニー・デップ ペネロペ・クルス ポール・ルーベンス フランカ・ポテンテ レイチェル・グリフィス レイ・リオッタ ジョルディ・モリャ イーサン・サプリー マックス・バーリック

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