仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL

「仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL」チラシ 昨年の「仮面ライダーアギト Project G4」に続く劇場版仮面ライダー。テレビシリーズの龍騎の物語は13人のライダーがミラーワールドを舞台に最後の一人になるまで戦うというもので、ライダーたちはモンスターと契約し、力を得る代わりに定期的にモンスターを倒してその力を契約モンスターに与えねばならない。映画はテレビシリーズに先行して、この戦いの最後の3日間を描く。なぜ13人のライダーが存在するのか、その理由やミラーワールドにモンスターが生まれた理由などを明らかにしていくのだが、脚本も演出も話をまとめきれていない感じがする。アイデアだけがあって、技術が伴っていないというのは「アギト」でも感じたこと。細部が雑で魅力に欠ける。ドラマも盛り上がらない。あるのはプロットのみで、映画らしい描写は欠落している。監督は「アギト」と同じ田崎竜太。脚本は井上敏樹。やっていることは所詮、テレビの延長で、もちろん映画製作の意図もテレビシリーズの最終回を映画でやるというだけの企画だから、面白くなりそうな設定なのにもう一つ突き抜けた映画にならなかったのは仕方ないのかもしれない。

映画には新しく仮面ライダーファム(加藤夏希)と謎の仮面ライダーリュウガが登場してくる。ライダーは6人に減っており、さらに凄絶な戦いが続くという展開。しかもリュウガがミラーワールドの封印を解いたため、モンスターたちが人間界に大挙押し寄せてくる。龍騎はライダー同士の戦いをやめさせようとし、同時にモンスターたちと戦っていく(6人のライダーの中でリュウガと王蛇が悪役に当たる)。話が全部分かってしまうと、スケール感の乏しさを感じざるを得ない。13人のライダーの戦いというのはキネ旬のインタビューによると、「人造人間キカイダー」がヒントにあるそうだ。ミラーワールドと言えば、ミラーマンだが、モンスター誕生の秘密などに僕は永井豪の影響を感じた。そういう過去のヒーローもののあれこれを取り入れており、基本的にこれはと思える独自性はない。ラストは「ガメラ3 邪神覚醒」のアレンジだろう。主人公の龍騎こと城戸真治(須賀貴匡)とファムこと霧島美穂(加藤夏希)のロマンスなども、もう少しドラマティックにしたいところ。一番の儲け役はそのファム役の加藤夏希で、初めての女ライダーを颯爽と演じている。映画版の大きな収穫が加藤夏希であることは衆目の一致するところだろう。ただ、ファムの最後の処理の仕方には異論があるし、それがまったくドラマに影響を及ぼさないというのも脚本上の失敗としか思えない。龍騎の契約モンスターである龍(ドラッグレッダー)の造型も映画ならもう少しリアルに描いて欲しかった。

ライダーシリーズで残念なのは「クウガ」で子ども向けを脱却したのに、またもや元の木阿弥に戻ってしまったことで、龍騎に登場するライダーたちが一様にドラグバイザーといういかにもすぐに玩具として商品化できる道具を身につけているあたり、まったくがっかりさせられる(子どもは喜ぶだろう)。これはマーチャンダイジング上、仕方がないのかもしれないが、この路線ではもはやこのシリーズから傑作が生まれることはないのではないかと思えてくる。

作品的にはあまり感心しないのだが、なぜこれが大ヒットするのかという点は大いに気になる。たぶん、単なる子ども向けの(併映の短編「忍風戦隊ハリケンジャー シュシュッと THE MOVIE」のような。でもそれなりによくできている)映画とは異なる雰囲気があるからだろうが、この程度の出来では子どもと一緒に見に行った親たちを満足させられないだろう。

【データ】2002年 1時間18分 配給:東映
監督:田崎竜太 製作:白倉伸一郎 武部直美  中曽根千治 原作:石ノ森章太郎 脚本:井上敏樹 撮影:松村文雄 音楽:丸山和範 渡部チェル 美術:大嶋修一 アクション監督:宮崎 剛 金田治 特撮監督:佛田洋 VFXスーパーバイザー:高橋政千 VFX Director:佐藤敦紀
出演:須賀貴匡 松田悟志 杉山彩乃 加藤夏希 萩野崇 涼平 弓削智久 久遠さやか 栗原瞳 角替和枝 津田寛治 沢向要士 蛭子能収 ベンガル 賀集利樹 要潤 友井雄亮

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ピンポン

Ping-Pong

「ピンポン」パンフレット松本大洋の原作漫画を「タイタニック」のVFXにも関わったという新人の曽利文彦監督が映画化。期待値よりはやや低かったが、良い出来だと思う。主演の窪塚洋介をはじめ、中村獅童、ARATA、サム・リー、大倉孝二、夏木マリ、竹中直人らいずれもキャラクターが立っている。主人公の挫折と再起を描くスポ根ものとして先が読める展開なのだが、それでも面白く見られるのはキャラクターが際だっているからだろう。努力しても努力しても凡人は天才には負けるという厳しい現実と、天才ですらもただ才能だけでは一等賞にはなれないという当たり前の真実をさわやかに描いて大変気持ちがよい。VFXが効果的に物語を語るためのものとして使われ、メインになっていないのも懸命な在り方で、曽利監督、上々のデビュー作だと思う。

ペコ(窪塚洋介)の天才ぶりをもっともっと描くとさらに良かったと思うが、これは監督の計算なのかもしれない。ペコに対して実力を出さない(出せない)スマイル(ARATA)の本当の力をチャイナ(サム・リー)やドラゴン(中村獅童)や小泉コーチ(竹中直人)は見抜く。スマイルが力に目覚め始める前半のまま進めば、これはスマイルが主人公であってもおかしくない話だった。あるいは中国で落ちこぼれて日本にやってきたチャイナが主人公でもいいし、勝ち続けることを自分に課したたために卓球の楽しさを忘れてしまったドラゴンでも良かった。さらに限りなくどこまで行っても凡人にしかすぎないアクマ(大倉孝二)が主人公であれば、これはまた違った映画になったはずだ。スマイルに簡単に負けてしまい、「なんでお前なんだよー!」と叫ぶアクマの心情は「アマデウス」で天才モーツァルトに嫉妬した凡人サリエリの心情と同じものだろう。

曽利監督は、あるいは原作の松本大洋はペコを描くのと同じぐらいの比重をかけて、これらの脇の人物たちを描いていく。誰もが自分の人生では主人公。しかし、公の場でも主人公たり得ることが非常に稀であることもまた普遍的な真実だ。そしてペコを除く4人の選手はいずれも自分の限界を知っており、ヒーローの存在を信じている。インターハイの予選でペコに勝つことだけを目標に卓球を続けてきたアクマが、卓球を捨てたペコに再起を促す言葉を吐く場面が象徴的で(この場面は原作よりも映画の方がうまい)、これはヒーロー待望の物語でもある。大方のスポ根物語が描くような落ちこぼれが勝っていく快感とは別次元のところでこの物語は成立しており、それにもかかわらず、脇の人物たちが強い印象を残す。天才がただ勝っていくだけの物語なら、面白い映画にはならなかっただろう。

ペコの再起の場面で原作では大学の卓球部に通うエピソードがあるなど細かな違いはあるにしても、宮藤官九郎は原作をほぼ忠実に脚本化している。アクの強い絵の原作よりも映画はスマートすぎる感じにはなったが、これまたうまい脚本化だと思う。

【データ】2002年 1時間54分 配給:アスミック・エース
監督:曽利文彦 エグゼクティブ・プロデューサー:椎名保 プロデューサー:小川真司 鈴木早苗 井上文雄 原作:松本大洋 脚本:宮藤官九郎 撮影:佐光朗 美術:金勝浩一 音楽:二見裕志 真魚
出演:窪塚洋介 ARATA サム・リー 中村獅童 大倉浩二 荒川良々 近藤公園 平野貴大 末満健一 翁華栄 三輪明日美 小泉拓也 小沼蔵人 北山小次郎 山下真司 石野真子 松尾スズキ 夏木マリ 竹中直人

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リターナー

「リターナー」パンフレットジュブナイル」で本格的なVFXを見せた山崎貴監督の第2作。前作で感じた不満を一掃させるSFアクションに仕上がった。タイムトラベルとエイリアンの侵略と戦争をミックスしながら、ドラマの重点はあくまでも2002年現在の中国系マフィアとの戦いに絞ったのが良い。「ジュブナイル」で正統派の清楚な美少女という感じだった鈴木杏は今回、勝ち気で活発な少女を演じており、「後は任せたぞ!相棒」と叫ぶ場面は主人公ミヤモト(金城武)の苦渋の過去(「隠れてろ!相棒」)と重なることで、主人公の思いが噴出した名場面となっている。主人公にアクションが様になっている金城武を持ってきたのは懸命なキャスティングで、前作での大きな不満は鈴木杏の相手役の少年たちの演技の拙さにあったのだから、金城武の起用がまず成功の要因だろう。鈴木杏と金城武のコンビはおかしくて切なくて、いい味を出しており、ぜひぜひこのコンビで続編を作ってほしいと思う。

何かの予告編か、と思えるようなタイトル前の慌ただしい未来の描写から、映画は2002年10月19日の現在に舞台を移す。船上。中国系の人身売買マフィアが子どもをコンテナに閉じこめている。泣き叫ぶ子どもに向かって、組織の幹部で金髪のミゾグチ(岸谷五朗)が銃を放ち、血しぶきが飛び散る。そこへ主人公のリターナー、ミヤモトが登場。ミヤモトは裏社会の取引から金を奪還する仕事をしている。ミゾグチを見たミヤモトはミゾグチが10数年前、友人をさらって内臓を売買した男であると知る。ミヤモトは大陸のマンホールで暮らしていたが、友人を殺された復讐を果たすため、ミゾグチを追って日本に来ていた。ミヤモトはミゾグチを追い詰めるが、突然現れた少女を撃ってしまい、ミゾグチを取り逃がす。

薄汚い格好をした少女はミリと名乗り、ミヤモトの首に爆弾を仕掛けて無理矢理、自分の任務に協力させる。少女は2084年から来た、と話す。その時代、地球はエイリアンに侵略されて、人類はチベットの山奥で細々と抵抗を続けている。しかしそこにもエイリアンの手が伸びる。ミリはぎりぎりのことろで、2002年に逃れてきたのだった。ミヤモトはミリの話を信じないが、爆弾には逆らえず、渋々協力することになる。ミリの目的は地球にやってきた最初のエイリアンを抹殺し、未来を変えることだった。

今回もまた監督、脚本、VFXを担当した山崎貴はSFをよく分かっているな、と思う。設定にも展開にも不備な点は見当たらず、安心して見ていられる。「マトリックス」のように銃弾の軌跡を避けるシーンがあったり、エイリアンの造型が「エイリアン」に似ていたり、未来社会の戦争に勝利するために過去を変えようとする設定自体が「ターミネーター」を思わせたりするのだが(ついでに言えば、ミリが未来から持ってきたソニックムーバーという武器は「サイボーグ009」の加速装置がヒントではないかと思う)、そんなことがまったく気にならないほど映画は充実している。VFXの充実もいいが、役者の演技とドラマの展開がひたすら良く、主演2人のドラマが極めてエモーショナルだ。これが一番重要で、日本映画ではあまり成功していないSF映画の作り手として山崎貴は着実に進歩しており、注目し続けたいと思う。

【データ】2002年 1時間56分 配給:東宝
監督:山崎貴 プロデューサー:宅間秋史 堀部徹 安藤親広 脚本:山崎貴 平田研也 音楽:松本晃彦 撮影:柴崎幸三 佐光朗 美術:上條安里 VFXプロダクション:白組 制作プロダクション:ROBOT
出演:金城武 鈴木杏 岡本夕起子 村田充 飯田基祐 清水一哉 河合千春 ディーン・ハミントン 趙暁群 高橋昌也 樹木希林 岸谷五朗

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美しい夏キリシマ

「美しい夏キリシマ」謝恩上映会パンフレット黒木和雄監督が故郷のえびの市で全編ロケした作品。1945年の8月を監督自身がモデルである15歳の少年の目を通して描く。根底にあるのは監督が学徒動員先の都城の工場で空襲を受け、友人を亡くした体験。黒木和雄は頭がざっくり割れた友人の姿を恐ろしく感じ、逃げてしまった。そのことによって約1年間ノイローゼ状態になったという。映画の主人公・康夫(柄本佑)はこれに加えて肺浸潤のため学徒動員を免除されている設定だが、それが物語の中心にあるにしても、ここで描かれるのは終戦間近の日本の田舎町の風景である。

高知の田舎町を舞台にした「祭りの準備」(1975年)や原爆投下1日前の長崎の人々を取り上げた「TOMORROW 明日」(1988年)がそうであったように、映画は全編、方言で語られる。描かれるのは霧島山のふもとにある霧野村という架空の村での人々の営みであり、この2作と共通する部分の多い内容でもある。しかし、中島丈博が脚本を書いた「祭りの準備」や井上光晴原作の「TOMORROW 明日」よりも重要なのは、これが黒木和雄の体験に基づく自分のストーリーだからで、えびのを舞台にした映画の製作を要請されて当初は「Kirisima 1945」というタイトルで映画を撮ろうとした(戦時下を取り上げた)のは、ここで描かれたことが黒木和雄の原体験であるからにほかならないだろう。

友人を亡くしたトラウマと権力への不信(兵隊への不信)の芽生えが主人公にもあり、主人公は終戦後、進駐してきた米兵に向かって竹槍で突進することになる。戦争中、神といわれた天皇への疑問を主人公が口にしたり、敗戦を嘆く兵士たちの中で一人「ケッ」という顔つきをしている一等兵の豊島(香川照之)などの描写を見ると、反戦と反権力をさりげなく散りばめた黒木和雄のスタンスがよく分かる。ただし、こちらの胸を打つのはそうした主人公の姿よりも普通の村の人々の姿である。主人公の裕福な家で働く女中のなつ(中島ひろ子)が家同士のつながりで結婚した相手・秀行(寺島進)は南方戦線で片足をなくしている。仕方なくといった感じで結婚したなつだったが、秀行から「自分はこんなぶざまな姿になってしまった。なつさんはここでしばらく母の手伝いでもして、この家からもっと素晴らしい人のところへお嫁に行けばいい」と言葉をかけられることになる。

あるいはやはり南方戦線で夫を亡くしたイネ(石田えり)の一見弱いながらもたくましい生き方などもそうだろう。「すんもはん、すんもはん」と言いながら最初に登場してくるイネは経済的に苦しい生活の中で脱出願望を秘めている。豊島と関係するのはその願望が根底にあったからだろうし、最後には家を焼いて古里を後にすることになる。「美しい夏キリシマ」というタイトルは多分に郷愁を誘う内容を思わせる。監督自身にもそうしたニュアンスがあったのかもしれないが、映画から受けるのは甘っちょろい郷愁よりも人々の切実な生き方に対する共感である。美しいのは古里の風景ではなく、そこに住む人々なのである。

えびの市での謝恩上映会のパンフレットに映画評論家の佐藤忠男が「これは日本映画史のうえで長く名作として語り継がれるべきすぐれた作品である」と書いている。僕は「祭りの準備」より完成度としては劣ると思う。これは題材が監督自身に近すぎたことが原因の一つだろう。複数のエピソードを収斂させていくべきラストが「祭りの準備」の旅立ちの場面(原田芳雄が「バンザイ、バンザイ」と叫びながら、主人公江藤潤の乗った列車を追う場面)より、ややインパクトに欠ける。ただ、今の邦画のレベルを軽く超えている作品であることは間違いない。僕の世代では題材そのものには何ら郷愁を持ちようがないが、映画のタッチは70年代の日本映画が持っていた切なさや、やるせなさを漂わせ、その意味での懐かしさを感じた。それは主人公の苦悩を表すのに効果的に作用している。

主人公を演じた柄本佑は柄本明の息子。監督はオーディションで「何を考えているか分からないところ」が気に入って起用したという。黒木和雄映画では常連の原田芳雄が主人公の祖父を演じて画面を引き締め、主人公と心を通わせる女中のはる役の小田エリカもいい。このほか左時枝や宮下順子、牧瀬里穂など特に女優陣の好演が光っている。

【データ】2002年 1時間58分
監督:黒木和雄 製作総指揮:深江今朝夫 プロデューサー:仙頭武則 脚本:松田正隆 黒木和雄 撮影:田村正毅 音楽:松村禎三 美術:磯見俊裕
出演:柄本佑 小田エリカ 石田えり 左時枝 香川照之 中島ひろ子 宮下順子 寺島進 入江若葉 平岩紙 倉貫匡弘 牧瀬里穂 原田芳雄

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