茄子 アンダルシアの夏

「茄子 アンダルシアの夏」パンフレット絵はスタジオ・ジブリの作品とよく似ているが、「幻魔大戦」や「千年女優」などのマッドハウスの作品。黒田硫黄の連作短編「茄子」の一編「アンダルシアの夏」を「千と千尋の神隠し」などの作画監督・高坂希太郎が監督した47分のアニメーションである。47分という長さは劇場用映画としては商売になりにくい中途半端さで、オリジナルビデオとして企画されたのではないかと思ったら、やはりパンフレットにそう書いてあった。いくら短編が原作だからといっても、劇場にかける以上は1時間20分程度の作品にするものなのだ。その代わり料金は1,000円だったが、これには異論があって、以前3時間の映画で2000円だったか3000円だったかを取った作品があったけれど、上映時間の長さと料金とは決して比例するものではないだろう。無駄に長くて心をピクリとも動かさない作品はたくさんあるし、短くても十分満足できる作品もある。劇場用映画としての長さはともかく、これは自転車レースをアニメではたぶん初めて取り上げて、CGも駆使した佳作になった。主人公の心情とレース展開がクロスしてくるところが定石とはいえ、うまい。ラスト近く、かつて兵役から帰った主人公が故郷でつらい思いをした経験とレースを終えた今の主人公がオーバーラップするところでなんだかジーンと来てしまった。この作品は十分、こちらの心を動かしてくれた。

スペイン全土を駆け抜ける自転車レース「ブエルタ・ア・アスパーニャ」。主人公のぺぺはパオパオ・ビールチームのアシストとして故郷のアンダルシアでのレースを走ることになる。摂氏45度の中で行われる過酷なレース。集団から抜け出したペペを8人の選手が追う。故郷ではちょうど兄のアンヘルがカルメンと結婚式を挙げたところだった。カルメンはかつてのペペの恋人。兵役に行っている間に兄に奪われた。ちょうどペペが兄の兵役の間に兄の自転車を自分のものにしたように。パオパオ・ビールのエース・ギルモアがレース中に事故を起こしたことから、ペペはエースとして最後までトップを行くよう命じられる。スポンサーから首を言い渡されそうになっていたペペは必死でペダルをこぐが、後方にいた集団からみるみる迫られてくる。

ペペは兄とカルメンのこともあって故郷を遠く離れたいと思っている。しかし、現実はなかなかうまくいかない。絶望的なつらさは乗り越えたけれど、まだちょっとつらい思いが残っている主人公なのである。描き込めば、さらに深く描ける題材なのだが、映画は47分という短さもあって、淡泊である。しかしその淡泊さが、かえってスマートに見える。主人公が自分の不幸を嘆くようなダサダサの展開から逃れられたのはこの描写のスマートさがあったからだろう。高坂希太郎の脚本・演出は間違っていないと思う。レース場面のCGも迫力がある。高坂監督によるホントの長編も見てみたい。

【データ】2003年 47分 配給:アスミック・エース
監督:高坂希太郎 エグゼクティブ・プロデューサー:椎名保 プロデューサー:丸山正雄 作画監督:高坂希太郎 演出:高橋敦史 原作:黒田硫黄「茄子」 脚本:高坂希太郎 美術設定:池田祐二 撮影監督:白井久男 音楽:本多俊之 エンディングテーマ:忌野清志郎「自転車ショー歌」
声の出演:大泉洋 小池栄子 筧利夫 平野稔 緒方愛香 平田広明 坂口芳定 醍醐貢正 佐藤祐四 羽鳥慎一 市川雅敏

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ウルトラマンコスモス VS ウルトラマンジャスティス The Final Battle

「ウルトラマンコスモス VS ウルトラマンジャスティス」パンフレット「ウルトラマンコスモス」の3度目の映画化。3度も映画になったウルトラマンは初めてで、円谷プロはこれ以外に映像化するキャラクターがないのかと思えてしまう。そんなにこだわるほどの内容ではないだろう、コスモスは。それでもある程度、VFXは整っているし、ストーリーも分かりやすいから、子供たちはまずまず満足するだろう。ただ、このレベルで甘んじていては、かつて特撮をリードした円谷プロとしては情けないのではないか。

2000年後に地球は有害な存在となるとの理由で、宇宙の調和を守る宇宙正義が地球上のすべての生命の抹殺を図る。ウルトラマンジャスティスはその決定に基づき、コスモスと対決。コスモスはジャスティスとロボット怪獣グローカーの連合軍に敗れ、消滅してしまう。地球滅亡まであと35時間。かつてのチームEYESの面々は消えたコスモスとムサシを探し求める。一方、ジャスティスは地球人の女の子に触れ、徐々にその心を変化させていくが…。

有害な存在になるのにまだ2000年の猶予があると言うムサシ(杉浦太陽)に対して、ジャスティスの地球での姿ジュリ(吹石一恵)は「サンドロスにも2000年の猶予を与えて失敗した」と切り返す。サンドロスは昨年の「ウルトラマンコスモス2 THE BLUE PLANET」に出てきた怪獣で、このシリーズ、ちゃんと映画第1作、テレビ、映画第2作、そして今作と一応つながっている。

宇宙正義という存在が今ひとつよく分からないのは置いておくにしても、ジャスティスの心を変化させるのに愛や希望や夢という言葉を持ち出して説明するあたりがダメなのである。地球と人類を守るコスモスと宇宙を守るジャスティスの対比が映画のメインテーマになるはずなのに、そのテーマは深化されず、極めて表面的な描写で終わってしまう。宇宙にとって有害な人類をなぜ守るのか。このテーマを突き詰めれば、映画はもっと深みが出てきたはずだ。なのに脚本はテーマの設定だけで、その後の展開の工夫を放棄している。子ども向けと思って、この程度のことしかやらないようでは大した映画ができないのは自明のことだ。

人類の守護者と宇宙の守護者という対比は、「ウルトラマンガイア」の人類の守護者(ガイア)と地球の守護者(アグル)の対比によく似ている(監督・特技監督の北浦嗣巳はガイアシリーズも担当した)。そういえば、ガイアでもこのテーマは突き詰めきれずに終わったのだった。去年も思ったのだが、「ウルトラセブン」のような名作を生むにはやはりしっかりと話を作っていく必要がある。

【データ】2003年 1時間17分 配給:松竹
監督・特技監督:北浦嗣巳 監修:円谷一夫 チーフプロデューサー:鈴木清 音楽:矢野立美 脚本:長谷川圭一 川上英幸 撮影:大岡新一 美術:大沢哲三 衣装デザイナー:小暮恵子 衣装:新井正人
出演:杉浦太陽 吹石一恵 市瀬秀和 清水圭 麻田ユリカ 仁科克彦 東城大 嶋大輔 坂上香織 須藤公一 鈴木繭菓 斉藤麻衣 松尾政寿 西村美保 市川兵衛 嶋田久作 大後寿々花

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仮面ライダー555 パラダイス・ロスト

「仮面ライダー555 パラダイス・ロスト」パンフレットアギト」「龍騎」に続く3作目の劇場版仮面ライダー。昨年の「龍騎」はテレビシリーズの最終エピソードとして映画化されたが、今回はテレビとは異なる番外編である。人類の進化型であるオルフェノクが増殖し、人類は1000人余りに減っているという設定で、オルフェノクからの解放を目指す人類とオルフェノクの中心であるスマートブレイン社との戦いが描かれる。この設定が無茶である。1000人余りの人類が数十億のオルフェノクからどう解放されるというのか。オルフェノクを人間に戻す手段があるならともかく、それもなく戦うだけなら先行きは見えている。共存か脱出かしかないだろう。確かに人類との共存を目指すオルフェノクも出てくるが、その存在は大きなテーマに発展していかない。物語を善と悪の単純な図式に押し込めず、もっともっとテーマを深化させる姿勢が必要だった。そうしていれば、映画の終盤に明らかになる意外な事実も効果を増しただろう。脳天気なラストの処理を見ると、物語の収拾をつけられずに途中で放棄したのではないかと思いたくなる。劇場版の仮面ライダーは設定をストーリーとしてまとめる力が根本的に足りない。いい加減、分かる(話の作れる)脚本家を参加させてはどうか。

どこかの国で遠くない未来に起こった物語、と説明される。追い詰められた人類は対抗手段として、スマートブレイン社が持つ“帝王のベルト”の奪取を図るが、圧倒的な数のオルフェノクの前にはなすすべがない。解放軍の園田真理(芳賀優里亜)は乾巧(半田健人)が変身した555(ファイズ)を救世主と信じている。その555は1万人の仮面ライダー(ライオトルーパー)との戦いで行方不明となっていた。巧は記憶を変えられ、隆と名前を変えて生きていたのだ。真理との再会で記憶を取り戻した巧はオルフェノクでありながら、人間との共存を願う木場勇治(泉政行)と協力し、スマートブレイン社と戦う。しかし、ブレイン社の画策で木場と人間たちの間に誤解が生じ、巧は木場と戦う羽目になる。

テレビの555に関しては最初のエピソードしか見ていないので、よく知らない。登場する仮面ライダーは戦闘用特殊強化スーツとのことだ。スーツなら身につけるのが普通だが、そこは仮面ライダーだから携帯電話型の装置に555と打ち込み、ベルトに挿して、「変身!」と叫んで装着することになる。映画は今回も田崎竜太が監督を務めている。もう3度目なのではっきり書くと、田崎竜太に才能は感じられない。この人に作れるのは設定だけなのだと思う。急いで付け加えておくと、この設定だけは魅力的なのだ。問題はそこからどのようにストーリーを発展させていくか、細部をどのように描くかなのである。これがないから、仮面ライダーの映画化はテレビの延長としか見られないのである。生きるか死ぬかの瀬戸際なのに仮面舞踏会のシーンなどがあることにがっかりするし、主人公が記憶を変えられて別の人間として生きているという必然性が感じられない。第一、1万人の仮面ライダーに捕まった後、どうやって逃げたのか何も描写がない。細部が大ざっぱなのである。VFXはいい線行っているのにこれでは惜しい。と、今回も同じような感想になってしまう。どうでもいいが、クライマックスのアリーナのシーンは明らかに「クローンの攻撃」(の貧弱なコピー)だ。

同時上映の「爆竜戦隊アバレンジャー」はテレビと同じ30分ほどの長さ。これはスーパーヒーローもののパロディみたいなシリーズになっているが、前座の役割に徹している(「これから555だよ!」とのセリフがラストにある)のに好感。

【データ】2003年 1時間20分 配給:東映
監督:田崎竜太 製作:福湯通夫 泊懋 早河洋 アクション監督:宮崎剛 原作:石ノ森章太郎  脚本:井上敏樹 撮影:松村文雄 特撮監督:佛田洋 クリーチャーデザイン:篠原保 美術:大嶋修一 音楽:松尾早人 主題歌:ISSA「Justiφ's-accelmix-」
出演:半田健人 芳賀優里亜 黒川芽以 速水もこみち 溝呂木賢 村上幸平 大高洋夫 ピーター・ホー 泉政行 村上幸平 角替和枝 田口主将 津田寛治

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