トロイ

Troy

「トロイ」パンフレット「U・ボート」「エアフォースワン」のウォルフガング・ペーターゼン監督が3200年前を舞台にトロイとギリシャの戦いを描いたアクション大作。ホメロスの「イリアス」の映画化で、ちゃんと「トロイの木馬」も登場する。数万の軍隊が激突するシーンのVFXは「ハムナプトラ2 黄金のピラミッド」や「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズですっかりおなじみになったため、あまり新鮮さはない。ストーリーは女1人のために戦争を起こすというもので、これに勇者アキレス(ブラッド・ピット)など複数の登場人物の個人的恨みが重なる。本来なら2時間43分を持ちこたえる話ではないと思うのだが、それでも力作となったのはペーターゼンの演出がしっかりしているからか。ただし、物語の組み立てには違和感がつきまとった。すっきりしない話なのである。

デヴィッド・ベニオフの脚本はトロイとギリシャを単純に善悪に分けず、双方のキャラクターを掘り下げて描いている。単純な悪役はスパルタの王メネラオス(ブレンダン・グリーソン)ぐらいだ。しかし、この描写の仕方では、どちらにも感情移入しにくいという欠点が残る。主人公はアキレスだが、いとこを殺された恨みからトロイの王子ヘクトル(エリック・バナ)を殺し、馬車で引きずるシーンなど、いくら恨みが大きくても主人公としてはふさわしくない。スパルタ王から王妃ヘレン(ダイアン・クルーガー)を奪った弟パリス(オーランド・ブルーム)をかばうヘクトルは、理想的なキャラクターとして描かれ、途中まではこちらが主人公なのではないかと思うほどだ。

アキレスはアガメムノン王(ブライアン・コックス)に忠誠を誓わない自由なキャラクターとして登場する。生まれながらの殺し屋で、戦いに参加するのは後世に名前を残すためである。普通、こういうキャラクターは主人公たり得ないので、脚本はアガメムノン王との確執からトロイ攻撃には否定的な人物として描いている(途中で部下に帰れと命令する)。だから個人的恨みを果たした後、木馬に潜んでトロイ攻撃に参加する理由が見あたらなくなるのである。

王妃を奪った王子パリスのいるトロイが本来なら、悪のキャラクターになるところだが、ヘレンはパリスと本当の愛に目覚めたという設定。奪われた方のメネラオスは最低の人物として描かれる。これがどうも脚本の間違いの発端だったようで、こういう設定なら最後はトロイの方に勝利が導かれるのが普通である。高い城壁に守られているとはいっても、トロイはギリシャに比べれば、兵士の数も少ない。そこへ大量の軍隊が攻撃を仕掛けるのだから、「ロード・オブ・ザ・リング」の例を持ち出すまでもなく、これは守る側に守りきってほしいところだ。これがそうならないのは原作を尊重したためだろう。ああいう神話伝説は常に勝者の視点で描かれるから、こんな展開になるのも仕方ないのかもしれない。

だから、脚本はアキレスのキャラクターに工夫をして、ギリシャ、トロイ、アキレスの3つの立場を描いている。こうした組み立てで何を描いたかというと、実のところ、何も描いてはいない。上が始めた戦争で一般の民衆や兵士がバタバタと死ぬ戦いの虚しさとかを浮かび上がらせたりしない。見ていてどうもすっきりしないのはこんな風にキャラクターの設定にぶれがあったり、脚本の詰めが甘いからだと思う。アキレスがアキレス腱を傷めるシーンなど、必要だったかどうか。

オーランド・ブルームは「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラスのように最後に弓を引くシーンがある。ピットやバナなど男優陣が好演しているのに対して、戦争の原因となったヘレンを演じるダイアン・クルーガーをはじめ、女優陣には今ひとつ華やかさがなかった。アキレスの母親役にジュリー・クリスティー、トロイの王役でピーター・オトゥールが出ている。

【データ】2004年 アメリカ 2時間43分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ウォルフガング・ペーターゼン 製作:ウォルフガング・ペーターゼン ダイアナ・ラスパン コリン・ウィルソン 脚本:デヴィッド・ベニオフ 撮影:ロジャー・プラット 美術:ナイジェル・フェルプス 衣装:ボブ・リングウッド 音楽:ジェームズ・ホーナー
出演:ブラッド・ピット エリック・バナ オーランド・ブルーム ダイアン・クルーガー ブライアン・コックス ショーン・ビーン ブレンダン・グリーソン ピーター・オトゥール ローズ・バーン サフロン・バロウズ ジュリー・クリスティー

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ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン

The Rundown

「ランダウン」パンフレットハムナプトラ2 黄金のピラミッド」のスコーピオン・キングことザ・ロック主演のアクション。アマゾンの奥地へ秘宝探しに行ったまま帰らない息子を連れ戻すよう頼まれた賞金稼ぎの主人公が、ジャングルの鉱山で人々を奴隷のように扱う悪玉(クリストファー・ウォーケン)の一味と戦う。よくある設定だが、ザ・ロックのアクションは切れ味がよくて楽しめる。中盤にあるゲリラの小柄な兵隊たちとのアクションは肉弾相打つといった様相と同時にワイヤーも駆使して軽やかだ。ザ・ロック、こんなに身のこなしがいいとは思わなかった。やはりプロレスラーだから空中戦も得意なのだろう。その相手となるゲリラのリーダー、マニート役のアーニー・レイズ・ジュニアは元格闘技チャンピオンとのことで、キレのよい身のこなしを見せる。アクション指導をしたのはスタントマン出身のアンディー・チェン。香港製カンフーアクションはもはやハリウッド映画でも珍しくないが、この映画のアクションは香港べったりではなく、ザ・ロックでもまったく違和感がなかった。

主人公のベック(ザ・ロック)は暗黒街の賞金稼ぎ。冒頭、賭けの5万ドルを支払わないNFL選手の元に押しかけ、ボディガード数人を簡単に倒すシーンで凄腕ぶりを見せつける。ベックにはレストラン経営の夢があり、借金を帳消しにすることを条件に暗黒街のボスの息子トラビス(ショーン・ウィリアム・スコット)を探しにジャングルの奥地に行く。そこはハッチャー(クリストファー・ウォーケン)という男が支配しており、鉱山で膨大な人々を安い賃金で働かせていた。ベックはマリアナ(ロザリオ・ドーソン)が経営する酒場でトラビスを見つけるが、トラビスが秘宝のありかを探し当てたことを知ったハッチャーが横取りしようと、酒場に手下を連れてやってくる。ベックとトラビスはジャングルに逃げ、ハッチャーが執拗に後を追う。最初は反目していた2人が次第にうち解けるバディ・ムービーのような調子で映画は進む。これにハッチャーの支配を脱しようとするゲリラが絡み、映画は終盤のアクションへとなだれ込んでいく。

鉱山の遠景シーンなどにCGも使ってあるが、全体的にユーモアを盛り込んだB級アクションとしてそつなくまとまっている。ザ・ロックの現代劇デビュー作としてはまず無難な作品と思う。ザ・ロックは祖父から3代続けてのプロレスラーだが、意外に知性を感じさせる顔つきをしており、ユーモアのある演技も悪くない。作品を選べば、もっと人気が出るスターなのではないかと思う。冒頭でゲスト出演のアーノルド・シュワルツェネッガーとすれ違うシーンがあり、アクション俳優の世代交代を感じさせた(今のところ、この映画がシュワルツェネッガーの最終出演作となるのだろうか?)。次作は「ウォーキング・トール」(1973年、ジョー・ドン・ベイカー主演)のリメイクである。

監督はピーター・バーグ。俳優としての出演作も多いが、劇場用映画の監督を務めるのは「ベリー・バッド・ウェディング」(1998年)に続いて2作目。3作目はビリー・ボブ・ソーントン主演の「フライデイ・ナイト・ライツ」。近くアメリカで公開されるらしい。

【データ】2003年 1時間44分 配給:UIP
監督:ピーター・バーグ 製作総指揮:ヴィンス・マクマホン リック・キドニー 製作:ケヴィン・ミッシャー マーク・エイブラハム カレン・グラッサー スタント&コーディネーター:アンディー・チェン 脚本:R・J・スチュアート ジェームズ・ヴァンダービルト 撮影:トビアス・シュリッスラー 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ プロダクション・デザイン:トム・ダッフィールド コスチューム・デザイン:ルイス・ミンゲンバック
出演:ザ・ロック ショーン・ウィリアム・スコット クリストファー・ウォーケン ロザリオ・ドーソン ユエン・ブレムナー ジョン・グリース アーニー・レイズ・ジュニア

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ブラザーフッド

Brotherhood

「ブラザーフッド」パンフレット「俺はお前のために靴磨きになった。母さんはお前のために市場で働いて腰が曲がっても、少しも苦に思っていない。お前は家族の夢であり、希望なんだ」。兄弟2人一緒に無理矢理徴兵されたジンテ(チャン・ドンゴン)は高校生の弟ジンソク(ウォンビン)にそう話す。地獄のような戦場から弟を無事に帰すため、ジンテは地雷埋設の危険な任務に進んで参加し、奇襲作戦の提案もする。武勲を挙げ、勲章をもらえば、弟を除隊させることができるからだ。しかし、ジンテのあまりに非情な振る舞いにジンソクは次第に反発するようになる。

南北統一への悲痛な思いをスパイ戦に絡めて描いた傑作「シュリ」のカン・ジェギュ監督が朝鮮戦争を題材に取った戦争映画。韓国で史上最高の1,200万人以上の観客を動員したという。同じ民族同士で殺し合わねばならなかった朝鮮戦争の悲劇を詳細に描き、戦場の惨禍を徹底的に描き出す。これに兄弟の泣きのドラマを入れて、隙のない映画になるはずだった。残念ながら戦場シーンは「プライベート・ライアン」に及ばず、泣きの部分も作りがうまくない。細部の作り込みに荒さが残る。

冒頭、平和な時代(とはいっても第2次大戦終結から1950年までの5年間にすぎない)の兄弟の交流にはわざとらしさを感じるし、軍隊から列車に乗せられ、恋人ヨンシン(イ・ウンジュ)と母親に別れを告げるシーンの演出は大仰に思える。演出過剰の部分は「シュリ」にも見られたのだが、「シュリ」にはそれを超えて見る者を納得させる熱い思いがあった。もちろん、この映画にもその熱さは受け継がれているのだけれど、ジンテの終盤の行動は常軌を逸したものにしか見えてこない。

イデオロギーに立脚せずに戦争を描くことは、興行上の意味から見ても有利だし、広く大衆性に訴える利点がある。だからこの映画は韓国で大ヒットしたのだろう。ただし、ドラマの作りとしては、兄弟愛を中心に据えるのもいいが、バカな戦争を引き起こした者たちへの批判も必要に思う。この映画の終盤が極端な展開になったのはこの批判の視点が甘いからだと思う。共産主義勢力とアメリカの代理戦争的側面を描き出し、戦争によって苦しめられる民衆の怒りの矛先を明確にしないと、小さな兄弟愛の話だけで終わってしまうことになる。

【データ】2004年 韓国 2時間28分 配給:UIP
監督:カン・ジェギュ 企画:カン・ジェギュ プロデューサー:イ・ソンフン 脚本:カン・ジェギュ 撮影:ホン・ギョンビョ プロダクション・デザイン:シン・ボギョン スタントコーディネーター:チョン・ドゥホン キム・ミンス 特殊効果スーパーバイザー:チョン・ドアン 音楽:イ・ドンジュン
出演:チャン・ドンゴン ウォンビン イ・ウンジュ コン・ヒョンジン

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シルミド

Silmido

「シルミド」から韓国で「ブラザーフッド」に抜かれるまで興行収益のトップだった作品。これも1200万人が見たという。誤解しやすいのだが、大ヒットする作品の質が必ずしも高いわけではない。「ブラザーフッド」とこの映画を見て、改めてそう思う(キネマ旬報によると、韓国で観客動員数が増えたのはシネコンの増加が背景にあるという)。まずまず面白い映画に仕上がってはいるけれど、絶賛するほどではない。

死刑囚やヤクザを集めて訓練し、北朝鮮の金日成主席暗殺部隊を組織する話。実話を基にしたフィクションだが、こういう話ならば、もう少しキャラクターが立ってほしいと思う。指導官役の名優アン・ソンギや部隊のリーダー格ソル・ギョングなど渋くていいキャラクターだし、他の兵士もそれぞれに描き込まれているのだけれど、まだまだ物足りない。もっと強烈なキャラが欲しいところだ。

1968年に北朝鮮の特殊部隊が朴大統領を暗殺するため韓国に潜入する。暗殺は阻止したが、韓国政府はショックを受け、逆に金日成主席暗殺を計画。死刑囚など重罪を犯した犯罪者31人を集め、無人島のシルミ島で空軍の684部隊の訓練兵として過酷な訓練が始まる。訓練の途中で死ぬ者も出るほどの過酷さだが、次第に隊員たちは実力を付け、隊員同士の結束も生まれる。3年が過ぎ、やっと金日成暗殺の指令が下るが、途中で中止命令が出る。南北関係は対立から対話に変化しつつあり、684部隊も邪魔な存在になってきていたのだ。韓国政府は訓練兵たちの抹殺を命令する。

物語は1968年から順を追って語られる。事件はクライマックスのバスジャックで明らかになったわけだから、ここを冒頭に持ってきて振り返るという構成がハリウッド映画などでは一般的なのではないかと思う。そういう意味ではあまり工夫がない構成である。前半の訓練シーンが長すぎるのをはじめ脚本の出来は決して良くない。こういう男ばかり出てくる映画で、史実に絡む話だと、ついつい脚本家には笠原和夫のような才能が必要と思いたくなる。

はぐれ者たちが途中で国家に裏切られ、国家への反逆を決意するというのは冒険小説にもよくあるタイプの話で個人的にはとても好きなのだが、この映画の場合、どうも入り込めない部分が残った。描写がうまくないのである。監督はカン・ウソク。2時間15分の上映時間はもっと刈り込んだ方が良かったと思う。

【データ】2003年 韓国 2時間15分 配給:東映
監督:カン・ウソク プロデューサー:イ・ミンホ 脚本:キム・ヒジェ 撮影:キム・ソンボク 音楽:チョ・ヨンソク ハン・ジェグオン
出演:ソル・ギョング アン・ソンギ ホ・ジュノ チョン・ジェヨン イム・ウォンヒ カン・ソンジン イ・ジョンホン

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スキャンダル

Scandal

「スキャンダル」パンフレットラクロの「危険な関係」を18世紀の朝鮮に翻案した作品。監督のイ・ジェヨンはスティーブン・フリアーズ版「危険な関係」を見て、映画化を決めたという。数ある「危険な関係」の映画化のうち、僕はフリアーズ版しか見ていないが、この「スキャンダル」はそれに劣らない出来だ。危険な恋愛ゲームの首謀者チョ夫人がラストに見せる深い後悔と喪失感は秀逸。人の心を弄ぶゲームによって、当事者さえも傷つき、破滅していく様子を象徴的に見せた。チョ夫人を演じるイ・ミスクが映画を引き締めている。

李朝末期の朝鮮。政府高官の妻チョ夫人(イ・ミスク)は子どもに恵まれず、夫は16歳の側室ソオク(イ・ソヨン)を迎え入れることにする。内心穏やかでないチョ夫人は従兄弟のチョ・ウォン(ペ・ヨンジュン)にソオクを妊娠させるよう持ちかけるが、プレイボーイのチョ・ウォンは簡単すぎてつまらないと断る。その代わりに提案したのが婚約者の死後9年間も貞節を守り続けているチョン・ヒョン(チョン・ドヨン)を落とすこと。それに成功すれば、褒美として初恋の人でもあったチョ夫人と関係を持つとの条件つきだった。チョ・ウォンはあの手この手でチョン・ヒョンにアタックをかける。チョン・ヒョンが参加している天主教の組織に多額の寄付をしたり、暴漢に襲わせたチョン・ヒョンを助けたり、何通も手紙を出したり。次第に心を開いたチョン・ヒョンは突然チョ・ウォンに熱烈なキスをされて、すべてを投げ出す決意をする。そしてチョ・ウォンも本気でチョン・ヒョンを好きになっていく。それを知ったチョ夫人は嫉妬からチョン・ヒョンを陥れようと画策する。

ペ・ヨンジュンは「冬のソナタ」のイメージを一掃して好演しているが、惜しいのは貞淑なチョン・ドヨンが普通の女優でありすぎること。フリアーズ版のミシェル・ファイファーのような美人ではないので、プレイボーイが本気で好きになる対象としてあまり説得力がない。やはり恋愛ゲームの犠牲者である側室役イ・ソヨンの方が美人だった。エンドクレジットの後にイ・ソヨンのその後の変化が3カット映される。この恋愛ゲームの犠牲者の一人でありながら、溌剌としていてちっとも犠牲者という感じがしないイ・ソヨンのたくましさ(若さ)は主演の3人と対照的である。

イ・ジェヨン監督の演出は端正かつ情感のこもったものだが、前半は話の展開が分かっているためかメリハリに欠けると感じた部分もあった。朝鮮の貴族社会を詳しく再現した美術と衣装はよい仕事をしている。バロック調の音楽もいい。

【データ】2003年 韓国 2時間4分 配給:シネカノン 松竹
監督:イ・ジェヨン 原作:ピエール・ショデルロ・ド・ラクロ「危険な関係」 脚本:イ・ジェヨン キム・デヴ キム・ヒョンジョン 撮影:キム・ビョンイル 美術:チョン・グホ 音楽:イ・ビョンウ
出演:ペ・ヨンジュン イ・ミスク チョン・ドヨン イ・ソヨン チョン・ヤンジャ ナ・ハニル イ・ミジ チェ・ソンミン ユン・ソンニョ

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