リング0 バースデイ

「リング0 バースデイ」 リングシリーズの化け物・山村貞子がどのように生まれたのかを描く前日談だが、独立した一編として見ても十分に面白い。キーワードは超能力者の悲劇。脚本の高橋洋、監督の鶴田法男ともスティーブン・キング「キャリー」や「デッド・ゾーン」が頭にあったらしい。貞子の超能力は病気を治すなど良い方向にも使えるはずだった。それが世間の無理解ともう一人の邪悪な存在によって、取り返しのつかない悲劇を招いてしまう。貞子は被害者なのである。穏やかで幸福な場面から一転する、絶望的で痛ましいラスト。この2ショットは映画の主題を端的に表している。映像、音楽を含めて完成度は高い。そして最後まで怖い。

リングウイルスが蔓延した現在から30年前の1969年。美しいが影のある山村貞子(仲間由紀恵)は劇団飛翔の研究生だった。公演を間近に控えたある日、主演女優が怪死。劇団は貞子の入団以来、おかしなことが連続して起こっており、疑いは貞子に向けられる。しかし演出家の重森(若松武史)は貞子を主役に抜擢した。団員の反発が強まる中で、貞子の心のより所は音響効果担当の遠山博(田辺誠一)だけ。その遠山に思いを寄せる立原悦子(麻生久美子)は貞子に激しい嫉妬を抱く。一方、新聞記者の宮地彰子(田中好子)は13年前の超能力者・山村志津子の公開実験の謎を探り、貞子周辺の取材を進めていた。彰子の恋人は公開実験の取材後、謎の死を遂げたのだ。彰子は取材を通じて悦子と知り合い、共謀して貞子への復讐を計画する。

劇中劇で演じられる「仮面」の公演が最初のクライマックス。悦子はここで公開実験のテープを流す。これによって貞子の超能力が暴走、公演を見に来ていた貞子の主治医を殺してしまう。ここまでは監督の意図した通り、「キャリー」を思わせる展開だ。貞子はパニックを起こした団員たちから嬲り殺しにされる。団員たちは彰子の導きで、貞子の養父・伊熊博士の住む森の中の家へ。そこで博士は貞子の双子の妹の存在を告げる。母親似の貞子に比べて、妹は父親似の邪悪な存在だった。博士は妹に注射を続けて成長を抑え、自宅に幽閉していたのだ。そして森の中で惨劇が始まる。

貞子の入団以来、団員たちは井戸を巡る悪夢を見る。この段階ではまだ井戸に絡む悲劇は起きていないから、これは予知夢なのだろう。まったくの偶然だろうが、井戸と双子が絡む展開は昨年の塚本晋也「双生児」にも共通する。双子の片割れが邪悪な存在というのはブライアン・デ・パルマ「悪魔のシスター」など過去にもいくつか例があった(双子ではないが、僕はデヴィッド・クローネンバーグの「ザ・ブルード 怒りのメタファー」もなんとなく思い出した)。だからオリジナルなものではないのだが、この映画の場合、映像と演出に力が感じられる。陰影に富んだ奥行きのある映像で、説得力のある描写に成功しているのだ。一部に使われているモノクロとカラーの中間のような“銀のこし”と呼ばれる現像(市川崑は「幸福」でこれを全編に使用していた)も効果的だ。

主役の仲間由紀恵にはやや硬さが見えるが、薄幸な貞子をうまく演じている。鶴田法男監督は怪異を見せない演出に徹しており、怖い。貞子の不幸をダメ押しするショッキングなラストはリングシリーズとしてはなくてはならなかったのだろう。ここまでやられれば、貞子が世間に怨みを持つのもよく分かる。ただし、超能力者の悲劇を描く映画であれば、これがなくても映画としては成立すると思う。鶴田監督には次作ではシリーズものの制約に縛られない自由な題材のホラーを撮って欲しい。

【データ】2000年公開 1時間37分 製作:「リング0 バースデイ」製作委員会 配給:東宝
監督:鶴田法男 原作:鈴木光司「レモンハート」(「バースデイ」所収) 脚色:高橋洋 撮影:柴主高秀 美術:山口修 音楽:尾形真一郎 主題歌:ラルク・アン・シエル
出演:仲間由紀恵 田辺誠一 麻生久美子 田中好子 雅子 若松武史 伴大介 高畑淳子 水上竜士 角替和枝 古谷千波

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ISOLA 多重人格少女

「ISOLA 多重人格少女」 同じ超能力者を主人公にしていても、紛れもないホラーの「リング0」と違って、これはSFとミステリー方面にシフトしている。人の意識を読む超能力者(エンパス)が多重人格の少女を救おうとする話。少女には13番目の人格として邪悪なISOLAが宿っているが、実はこの人格、他者の霊魂だったという筋立てで、阪神大震災直後の神戸を舞台にストーリーが繰り広げられる。題材を詰め込みすぎたためか、どのエピソードも未消化に終わった感がある。SFXの予算も十分ではなかったようで、テレビの2時間ドラマを見ているような気分になった。

超能力者の賀茂由香里(木村佳乃)が震災直後の神戸にボランティアとしてやってくる。由香里は人の意識が自分の中に流れ込んでくるのに耐えられず、向精神薬でそれを抑えている。神戸の街で不思議な少女千尋(黒沢優)と出会った由香里は心理カウンセラーの野村浩子(手塚理美)から千尋が多重人格者であることを知らされる。千尋は幼い頃、交通事故で父母を亡くし、遺産目当ての叔父夫婦に育てられた。叔父から性的虐待を受けたことで、人格が12に分裂。最近、それに13番目の人格ISOLAが加わった。ISOLAは凶暴で他の人格を支配しようとしているという。由香里は千尋を救うことを決意。「雨月物語」の怨霊・磯良(いそら)の話にヒントを得て、ISOLAの秘密を探るため、幽体離脱の実験をしているという高野弥生(渡辺真起子)を訪ねるが、弥生は震災で既に死んでいた。弥生の講師で恋人でもあった真部和彦(石黒賢)によると、弥生は幽体離脱に成功したが、その時に震災に見舞われて死んだのだという。由香里は戻るべき体をなくした弥生の霊が千尋の人格に入ったことを突き止める。

話は悪くない。描写がどれも中途半端なのが敗因だろう。映画初主演の木村佳乃はまずまずなのだが、エンパスの苦悩があまり伝わらない。これをもっと描いてくれないと、なぜ千尋を助けるのか、分からないのである。また、千尋を助けることで自分の能力に自信を持つとか、主人公の人間的成長の描写も必要だったのではないか。これは例えば、「シックス・センス」にもあったし、監督が好きだという「デッド・ゾーン」にもちゃんとあり、こうした悩む超能力者を主人公にした映画には不可欠なのである。クライマックスにもエンパスとしての能力が生かされていず、主人公をエンパスにした必然性が感じられない。原作者の個人的な事情だろうが、物語を震災直後にする必要もなかった。映画としては「リング0」のように原作のストーリーを無視して物語を組み立て直す必要があったのではないかと思う。

【データ】2000年公開 1時間32分 製作:「ISOLA 多重人格少女」製作委員会 配給:東宝 製作総指揮:原正人
監督:水谷俊之 原作:貴志祐介「十三番目の人格 ISOLA」 脚色:水谷俊之 木下麦太 脚本補:桑原あつし 畑島ひろし 撮影:栗山修司 音楽:デイヴィッド・マシューズ 主題歌:氷室京介 ビジュアル・エフェクト:松本肇 杉木信章 
出演:木村佳乃 黒沢優 石黒賢 手塚理美 渡辺真起子 山路和宏 寺島進

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ラブ・オブ・ザ・ゲーム

FOR LOVE OF THE GAME

「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」 主人公のビリー・チャペル(ケヴィン・コスナー)はデトロイト・タイガースの投手で、数々の栄光を築き上げてきたチームの大黒柱でもある。しかし40歳を迎えて、腕は痛み、体にはガタがきている。ある日、ビリーはオーナーからチーム売却の方針を伝えられた。新オーナーはビリーをトレードに出すつもりらしい。ビリーは好きな野球を辞めるかどうかの瀬戸際に立たされる。おまけに恋人のジェーン(ケリー・プレストン)は仕事でロンドンに移住するという。ビリーはさまざまな思いを秘めてニューヨーク・ヤンキース相手のマウンドに立つ。

映画はこのビリーにとっての最後の試合を追いながら、ビリーの回想でジェーンとの愛の日々を描く。ジェーンは16歳でジャンキーの男との間に子どもを生み、ホントの恋をする暇もなかった。愛に対して臆病になっているという設定である。演じるケリー・プレストンがなかなかいい。若く見えるけれども、実際は38歳。大人のラブストーリーにピッタリだ。対するビリーは野球一筋の人生。野球を取ったら何もない男なのである。サム・ライミはこの2人の関係をじっくりと時間をかけて描いている。

映画は終盤、ビリーが完全試合を達成できるかどうかに焦点が移るけれども、その後にいったん仲違いしたビリーとジェーンが再び結ばれるシーンを描く。野球映画というよりも中年男女のラブストーリーとして収斂していくのである。試合の場面はCGを使っているのだろうが、ケヴィン・コスナーのピッチング・フォームを含めて出来はいい。過去に珍プレーで放映されるような致命的エラーをした黒人選手が、それを払拭する好プレーを見せるなど伏線の張り方がやや分かりやすすぎるのが難か。

それにしても、サム・ライミの変貌をどう受け止めればいいのだろう。前作「シンプル・プラン」はサスペンスだったから、まあホラーと縁がないこともなかった。だが今回は野球を絡めたラブストーリーだ。あの「死霊のはらわた」の監督がなぜ、と戸惑ってしまう。はっきり言えば、この映画、演出に際だった点は見られず、取り立てて褒めるところもない代わりに、悪口を言うべきところもない(長すぎる点を除けば)。極めてフツーの出来なのである。予告編を見て、これがサム・ライミの作品とはとても予想できなかった。もちろん異端から正統への転換が悪いわけではない。フツーの映画で監督の個性が表れないような映画を撮る意味が分からないのである。サム・ライミが今後、どういう道を進んでいくのか分からないけれど、少なくともこれがゴールではないだろう。過渡期の作品と位置づけていいのではないか。

【データ】1999年 アメリカ 2時間18分 ユニバーサル映画提供 
監督:サム・ライミ 製作:アームヤン・バーンステイン エイミー・ロビンソン 原作:マイケル・シャーラ「最後の一球」(ハヤカワ文庫NV) 脚色:ダナ・スティーブンス 撮影:ジョン・ベイリー 音楽:バジル・ポールドゥリス
出演:ケヴィン・コスナー ケリー・プレストン ジョン・C・ライリー ジェナ・マローン ブライアン・コックス

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ワールド・イズ・ノット・イナフ

THE WORLD IS NOT ENOUGH

「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」いつものように始まるタイトル前のアクション・シーンの手際が悪く、これはもしかしたら、と思ったら、やはりその後のアクションにもキレがさっぱりない。アクション・シーンの演出は前作「トゥモロー・ネバー・ダイ」(傑作!)に続いて第2班監督のヴィク・アームストロングだが、全体を締めるマイケル・アプテッドの演出の方に問題があったようだ。きわめて大味なのである。パンフレットによると、「アクション活劇としてはシリーズ中でも屈指の出来に仕上がっていた反面、テンポを速めるためにドラマ部分を犠牲にしていた感が否めなかった前作が、一部のファンから不評だった」ため、今回はドラマ重視に変えたのだそうだ。ドラマ重視とはいっても、おっと思ったのはボンドがためらいもなくボンドガールを撃ち殺す場面だけで、それ以外はいつものようにアクションを交えたストーリーが進行する。ボンドガールを演じるソフィー・マルソーが美しく素晴らしいだけに、この程度の演出では残念だ。

今回の敵はテロリスト。M(ジュディ・デンチ)の友人で石油王のロバート・キングがこともあろうにMI6の本部で爆殺される。犯人は国際的テロリストのレナードことヴィクター・ゾーカス(ロバート・カーライル)。レナードはMから暗殺指令を受けた009が撃った銃弾が頭に残り、痛みを感じない怪物となっていた。そしてMI6とキングに恨みを抱いている。次の狙いは娘のエレクトラ・キング(ソフィー・マルソー)らしい。Mはジェームズ・ボンド(ピアース・ブロスナン)にエレクトラの警護を命じる。エレクトラは以前、レナードの一味に誘拐され、自力で逃げ出した過去があった。レナードは旧ソ連の地下核実験場から核弾頭を盗み出し、エレクトラが建設中のパイプラインを妨害する。ボンドはエレクトラの態度にも不審な点を見いだす。

007シリーズはスーパーヒーローを主人公にしたファンタジーだから、ドラマ重視と言われても困るのである。ドラマを盛り上げようという努力は買うが、マイケル・アプテッドの演出、今ひとつピリっとしない。この程度のドラマなら、もっとアクションシーンに力を注いで欲しかった。前作のロジャー・スポティスウッドのうまさが身にしみる出来である。

ソフィー・マルソーは大変良い。「ラ・ブーム」から20年、すっかり落ち着きのある美女に変貌していた。今回はマルソーの魅力を引き出しただけでも収穫はあったと思う。これでもう少し役柄が良かったら言うことはなかったのだが…。もう一人のボンドガール、デニース・リチャーズは「スターシップ・トゥルーパーズ」に出ていた女優。今回はあまり活躍の場がなく、マルソーの貫禄には負けている。ま、これはキャリアの差だからしょうがない。ボンド3作目のピアース・ブロスナンはタイプとしてはロジャー・ムーアに似ていると思う。僕はこの人を見ると、どうしても「マーズ・アタック!」のあの首だけのシーンを思い出してしまっていたのだが、昨年の「トーマス・クラウン・アフェアー」あたりからいい味を出すようになったと思う。

個人的には第8作「死ぬのは奴らだ」から劇場で007シリーズを見ている。つき合いの長いシリーズなので、今回つまらなかったからといって見捨てはしない。次回はいよいよ20作目。区切りの作品だから、きっと大がかりな仕掛けを用意するのではないか。捲土重来を期待しよう。

【データ】1999年 2時間8分 イギリス UIP配給/MGM作品
監督:マイケル・アプテッド 製作:マイケル・G・ウィルソン バーバラ・ブロッコリ 原案:ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド 脚本:ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド ブルース・アスティアン 音楽:デヴィッド・アーノルド 主題歌:「ワールド・イズ・ノット・イナフ」ガービッジ 撮影:エイドリアン・ビドル
出演:ピアース・ブロスナン ソフィー・マルソー ロバート・カーライル デニース・リチャーズ ロビー・コルトレーン ジュディ・デンチ デズモンド・リューウェリン ジョン・クリース サマンサ・ボンド ゴールディ 

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