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2001年4月号

出席者:加賀 酒井 笹原   書記:杉尾
 場所を喫茶あずみに移してからの初の合評会です。残念なことに、会員の皆さん、いろいろと忙しく、今回出席出来たのは4名となりました。しかし、語る内容は熱く、少人数ながらも大変楽しい会となりました。さて、最初は『クリムゾン・リバー』からいってみたいと思います。

クリムゾン・リバー
監督 マチュー・カソビッツ
出演 ジャン・レノ バンサン・カッセル ナディア・ファレス

酒 井 随分前に観たので、ちょっと記憶があんまりないのですけど、あの映画っていうのは謎解きというより雰囲気が良かったと思います。特に犯人にたどり着くまでの、中世のおどろおどろしい雰囲気が全体を覆っていて、その雰囲気でみる作品だと・・・。なんかそこら辺がこの映画の成功したところだと思います。中世の雰囲気を取ってしまうと、そんなに大したことないんじゃないかなぁ・・。昔からの因習が伝わってて、それがその犯罪に繋がったという感じのものだったと思うんですけど、謎解きとしては、いまいちという感じがしました。ま、しかし、非常楽しめる映画でした。

笹 原 展開が早くて、音楽も撮影もカメラもどんどん動き、乗せられて観ました。ま、猟奇殺人とか謎解きがいろいろあって、ジャン・レノとか、もう1人の(バンサン・カッセル)刑事が別々に事件を追っかけていって、それが繋がっていくところなんか非常に上手いっ! もし映画を撮るんであれば、こういうふうに皆が次を期待するような映画を撮って欲しいと思いました。ラストは、どういったらいいのか、ま、解らないけど・・・・。解りませんでした。(笑)

杉 尾 最初、死体のアップから始まり、それこそおどろおどろしくって、「えっ、これから何が始まるのだろう・・」というような・・・これからの陰惨なストーリーを暗示する始まり方で、導入としては大変良かったと思います。全体を見終わった時は、『羊達の沈黙』と『クリフ・ハンガー』を足したような感じがした。(笑)最後、実は双子だったということだけど、助かった女性が不敵な笑いをしたように見えたので、実はどっちの女性が助かったのかなと思ったけど、指がないからすぐ解るし、やっぱ良い方の娘ですよね。閉鎖的な中で、倫理的な事を犯して犯罪にまでいっちゃったという動機が面白かったです。古い雰囲気の中に、科学的な新しいものが入り乱れて・・・。

酒 井 盛り上がって来たわりには、最後が双子だったってのがちょっとねぇ〜〜。どうせなら、最後のあの雪崩で大学が、木っ端微塵に壊されて(笑)このおぞましい世界が終わってしまうんだという・・(笑)ボカァ、そこまでやって欲しかったですねぇ〜〜ははは。

笹 原 彼女が雪崩の研究家だったからそれを使って何かあるだろうなと思ってはいたけどね。案の定で、あれが一応見せ場だったんですかね。

酒 井 フランス映画の伝統に何かちょっと新しいところを加えて良かったですね、フランスでヒットしたのも解るような気がします。個々のピースが徐々に繋がっていって・・映画に無駄がないんですよね。だから、グイグイ引き込まれていって・・・・でも、最後に双子じゃ、やっぱりちょっとね〜〜(どうしても納得行かない様子。)

笹 原 どんどん話しが進んでいって考えるゆとりを与えなかったよね。ま、ゆっくりと考えると、おかしい部分があるよね、確かに。(この後、沢山の細かい疑問を出し合うが、割愛します。)もう一度観たら疑問も解けるかもね。

酒 井 なぁ〜んだ双子だったのかという、このがっかり感はあるけど。久しぶりにサスペンスで上等なものを観たなとは思いましたね。あの雰囲気というのはいかにもヨーロッパのものでないと出せないところもありますよね。ヨーロッパの監督がもっているものだと思うんですよ。似たような映画でショーン・コネリーの『薔薇の名前』ってのがありましたよね。最後、ロープウェイで霧の中に上がっていく場面とか非常に雰囲気あったのに、頂上についた途端に、ぱーっと明るくなってダイナし。それこそクリフ・ハンガーでしたね。(笑)あんなんじゃなくって、最後、悪の舞台の大学内で、なんか〜こう〜優生学の象徴的なものが上から、グァバァ〜っと三人の上におっこちてきて死ぬとかさぁ〜はははははは、そんなラストにして欲しかったです。(そりゃぁ〜、いいなぁ。)

加 賀(ここで、遅れて来た加賀さんの感想です。)話の設定が良いですね。閉鎖された大学をメインにして。あと、猟奇殺人とか・・・。別々の事件から、別々の角度から一つの事件に繋がっていくという、その設定だけで、もう良いですねぇ。結末はもうどうでもいいです。(笑)僕は原作を読んだんですけど、結末だけは原作の方が良いです。原作はあの若い刑事(バンサン・カッセル)だけが生き残るんですよ。脚本に原作者も参加しているんだけど、やっぱり映画用に面白くしているというのはありますよね。雪崩とかは原作にはないので・・・ま、映画用によく短く上手くまとめているなと思いました。でも、フランスでは、大ベストセラーだったらしいけど、僕は『ハンニバル』の方がいいと思う。主人公の設定で、犬が嫌いというのがあったんですけど、あれは全然説得力がなく面白くも何ともない。あれだったら、例えば‘禁煙していていつもイライラしている’とか‘甘党でいつもポケットにキャンデーが入っている’とかそんな方がまだいいよね(笑)ちなみに原作では、犬嫌いが原因で部下を死に追いやってしまうというエピソードがありました。あと、オープニングの取り方が素晴らしいと思いました。あの撮り方は上手いよね。


ペイ・フォワード 可能の王国
監 督 ミミ・レダー
主 演 ケビン・スペイシー ヘレン・ハント ハーレイ・ジョエル・オスメント

酒 井 まず、題名が何の事かさっぱり解りません。(笑)僕は、このタイトルは日本人には非常にマイナスになっているのではないかと思います。もうちょっと映画に見合うだけの題名をつけて欲しかった。愛妻曰く「何これ、SF?・・・ああ、(化粧品販売の)アムウエーの映画?!」なんて言っていたくらいですから・・(笑)ヒットしなかった理由の一つかなと思います。僕はこの映画非常に良い映画だと思います。ハーレイ・オスメントの演技は非常に上手い!!びっくりしました。あれだけやるとは思いませんでした。回りの役者も芸達者をそろえているので、全然破綻なしに演技が上手い!!この話自体は現代のおとぎ話みたいなもので、ま、実際には起こり得ないという内容の話なのですけど、これを、観ている人間にリアリティを持たせたというところが、この映画の良いところじゃないかと思います。きれいな話なのだけど、きれいなだけではなくて、アメリカの底辺の人間の生き様とかいろんなところを見せて、それでもなおかつそういうふうにして親切な心を施せば・・・という自分への見返りに関係なしに・・という、そういう考え方に非常に共鳴すると思うんですよ。やっぱり、そういう根本的なものがずっと流れているから「世の中クソばっかりだけど捨てたモノではないよ」という言葉が出てきますけど、こんな世の中でも非常に肯定的に、ま、頑張っていこうよっていう、多くの人への応援歌というか、勇気づけられる映画だと思うんですよ。僕は、そういう姿勢が大好きです。そんなに優れた映画ではないのだけど、今、心に残る映画を挙げろといわれたら迷わず挙げる一本です。問題なのは、最後のシーンなんですけど、ま、彼が三つのことをやって、結局どれもうまくいかなかったと・・・。で、それをテレビで取材を受けた後、最後になんとか一つでもと思ってやって、最後に殺されることで今までのアメリカ映画とは違ったモノを感じたんですね。普通楽天的な映画だったら死にはしないと思うんですよ。だけど、コレを殺すことによって、より悲壮感を与えておいて、残したものは非常に大きいんじゃないかと思います。観る人間に対してインパクトを与えていると思います。だから、ここで殺してしまったことは、僕はとてもポジティブにとらえているのですけど・・・・。好きな映画でした。考え方は楽天的なのだけど心に残る一本です。

笹 原 見終わって、「良かった」と思う映画でした。昔、小学校の時の‘一日一善’を思い出しました。(笑)僕は、俳優をずっと観ていたんだけど、あの主人公のケビン・スペイシーが自分に閉じこもっているような人がなぜあんな発想をする(授業の内容)のかフシギでした。ど〜もねぇ〜。矛盾した感じがするなぁ。ヘレン・ハントは、彼女が出ている映画を三本つづけて観たんですが、これがナンバーワン、良かったです。アル中で、でも、自分の子供を一生懸命育てているという、その感じがよく出ていて、ホント非常に良かったです。

酒 井 ラスベガスという場所がまた良かったですよね。あのきたなぁ〜いところと、母親が働いているような華やかな場所と・・アメリカの今の社会をものすごく象徴している気がしますよね。

杉 尾 見終わった後に、「何か良いことをやらなくっちゃ!」と言う気になった。(笑)予告を観ただけの時は、不幸の手紙とか、ねずみ講を連想した程度だったんだけど・・。みんなが考えつきそうで、見落としているような部分をうまく使っているなぁと思います。オープニングは、なにかアクション映画でも始まるのかというような出だしで、興味をひきました。四ヶ月の時間差を使って、過去と段々重なっていく流れがよくできてるなと思いました。ああいう境遇の家庭で、トレバー君のような聡明で賢く思いやりのある子供がよく育つなぁと思ったけど、それは母親が、愛情を上手に注いでいるからだと理解出来ました。(仕事場から電話をかけて、子供を気遣うところとか・・・。)多少の気持ちの行き違いは、お互いを思う気持ちでプラスの方向に向かうのだと思います。最後に殺されることについてだけど、楽天的に終わられないためということであれば、なにも殺されるのは彼でなくても良かったかなという気はしました。・・・でも、伝説的に仕上げるにはあれがベストだったのかなぁ。

酒 井 やっぱりね、精神構造の根本的なところに、キリスト教の考え方が入って居るんですよね。だから殉教者は殺してしまわなければならないんですよね。いろんなことをするんですけれども、それをするために自分を犠牲にするわけですよ。だから、そういう行為をするためにどんな悪い人間でも、どんなお金持ちでもそれをやるという・・・。根本的には人間の精神に、健全さ、性善説みたいなものが流れているというのが入っていると思う。だから、ある意味では楽天的なんですよね。僕はあそこで助かったりすると楽天的なものが全面に出てきて、なんだ所詮いつものアメリカ映画のパターンじゃないかという感じがするんだけど、殺したことによって非常にひきしまる感じかするんです。

笹 原 映画の流れでは、いつも彼は失敗したと言っていたけど、実は成功しているんですよね。あのいつもいじめられている子供のことがひっかかっていて、本当は助けたいのだけど出来ない・・・しかし、ラストであれを見かけると必然的に助けざるを得ない・・ですよね。

杉 尾 彼は死んだけれど、清々しい感じが残りましたね。

笹 原 それぞれのエピソードの過程の描き方が上手いよね、だから、あの映画がしっかりしてくるんですよね。ミミ・レダー監督の女性的なところがあまり前面にですぎると嫌だけど、それはなかったですよね。

杉尾 母と子のバスステーションでの場面は感動で涙がでました。女性の監督ならではの描き方ですよね。

酒 井 もう少し、ヒットしてもいいのにね。みんなに見て貰いたい映画ですよ。

 この後、あのレポーターの描き方が少し‘いやらしい’感じがするとか、母親とその母親との確執が描かれていなかったとか、ボン・ジョビの演技が優しすぎるとか、親切も時には大きなお世話になる時もあるよねなど、話は尽きなく盛り上がっていきました。


今 月 の 一 本

笹 原 〈キャスト・アウェイ〉

酒 井 〈狗神〉

杉 尾 〈天国への階段〉白川 道著

加 賀 〈0 ゼロ〉柴田 よしき著

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