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2002年4月号

参加者:酒井 笹原 杉尾 野口 林田 書記:鬼束

『オーシャンズ11』は、今年のサッカー・ワールドカップ開催にあてて作られたとか、タケちゃんの『BROTHER』を見たコーエン兄弟が思わす「オー・ブラザー!」と叫んでこの映画を作ったとか、トレイシー・ウルマンが叩き潰したガラス玉の数はウディ・アレンの失敗作の数だったとか、『蝶の舌』のラストは漫画「あずみ」で小山ゆう大先生がパクっていらっしゃったとか、そんな話もあったりなかったりしながらの合評会でした。では、どうぞ!

オーシャンズ11

出演:ジョージ・クルーニー ブラッド・ピット ジュリア・ロバーツ  アンディ・ガルシア マット・デイモン ドン・チードル  監督:スティーブン・ソダーバーグ

笹 原 『トラフィック』に続くソダ−バーグの映画なので期待して見たのですが、こんなもんかなとちょっと失望しました。J・ロバーツ−別れた奥さん−の話がミソになっているんだけど、それだけであとはうまく描いてないなあという。特に前半が面白くなくて、後半は盛り上げたかなという感じはありました。役者を揃えた割には面白くないというか、この手の映画って今までいっぱいあるんで、それを破るだけのものは今回なかったなあという感じはしました。目新しいものがなかったと。

野 口 私はキャスティングも割と好みでしたし、楽しく見ました。謎解きの要素があるっていうところが、私が楽しんで見た要素のひとつなんですけど。それ以外の、G・クルーニーがやっぱり格好いいなあとか、B・ピットもいいなあ相変わらずとかいうところを見たわけですよ。ただ、一番気に入らないのが、ラストの物扱いされてしまったJ・ロバーツかなというところでしょうか。

酒 井 演出は卒がないんですけども、『トラフィック』のような演出の凄さを感じさせるようなところはなくて、『エリン・ブロコビッチ』に戻ってしまったようなそんな感じを受けました。豪華な雰囲気は出てるんだけども、ストーリーが収まるところに収まってるっていうのがイマイチ面白くないんですよね。11人の、スター5人以外のところに昔のスター俳優を出してくれたら、余計映画に弾みや重みがついたんじゃないかなって気はしたんですけど。

林 田 最近、アメリカ映画に飽きがきてて期待しないで見に行ったんですけど、まあ楽しい映画でした。こんなうまく行くはずがないわとか思いながら見ましたけど。J・ロバーツが、なぜ彼女を使う必要があったかなと思うようなつまらない役で、あの人の魅力が全然なかったような気がしたんですね。もっと他にいい人がいたのにと思うくらいでした。G・クルーニーは今までは嫌いだったんです。こういうごつくって髭があってというのは全然苦手なタイプだったんですけど、『オー・ブラザー!』で面白くって、今回もシャレた感じが出て、それでちょっとこの映画が好きになれたのかもしれません。これが嫌いな俳優だったら、そうたいした映画じゃなかったかもしれません。

鬼 束 寝ました。ころりんころりん。全然面白くなかった。これを見る前はすごく元気だったのに、見終わったらその元気がすっかりなくなってしまいました。J・ロバーツが僕は唯一良かったような気がしたんですが。酒井さんも言われたけど、『トラフィック』とは全然比べようがない。金を積まれて、頼むから撮ってくれって言われて作ったのかなと思いました。

笹 原 今回は、G・クルーニーがやりたくて、お金安くてもいいからって言ってJ・ロバーツとか集めて、それとソダーバーグにやらせたかったっていうことなんですよ。

鬼 束 5人以外のメンバーがちゃっちぃですよね。

酒 井  ちゃっちぃでしょ。

笹 原 それもあるねえ。

鬼 束 無名の人たちでもいいんだけど、魅力がないですよねあの人たちね。これから出てくるのかもしれないけど。ただ、じいさん役の人は味があった。あの人がロブ・ライナー監督のお父さんなのかな?D・チードルさんは分からなかった。ストーリーが何か古臭いなーって思ったら、リメイクだったんですね。

林 田 4、5年前、ラスベガスに行ったので景色が懐かしかった。

笹 原 ここは本当のとこなんでしょ?

林 田 本当のとこ。細かいことは分からないけど。


オー・ブラザー!

出演:ジョージ・クルーニー ジョン・タトゥーロ ティム・ブレイク・ネルソン  チャールズ・ダーニング ジョン・グッドマン ホリー・ハンター  監督:ジョエル・コーエン 脚本:ジョエル&イーサン・コーエン

酒 井 好きな映画です。雰囲気も良くて、特に音楽がね。カントリー・ウエスタンでもないんですが、南部の感じで。僕はアメリカ映画の中でもロード・ムービーってのが好きなんですよね。おもちゃ箱か手品みたいに、次何が出てくるんだろうっていうような非常に楽しみな作品で、ごきげんになって帰ってきました。脚本もいいし、多少のつじつまの合わないところは、そんなことどうでもいいじゃないと思わせる出演者と監督のパワーがあった。

林 田 私も大好きでした。アメリカ映画の、軽くって楽しくって昔からあるタイプの映画でした。ロード・ムービー、好きで『テルマ&ルイーズ』とか車で走ったり逃げたりは意味もなく好きです。途中で宗教が出てきたりとか笑うところもいっぱいあって、歌も何かの替え歌かなと思うくらい知ってる感じの歌で、私が若い頃に流行ったタイプの映画だと思います。最近のCGとか使った映画はどうもついていけなくて。この古いタイプの映画を見て映画館を出る時は、顔が笑いながらって感じでした。

笹 原 雰囲気は好きなんだけど、ちょっと私乗れなかったっていうかね。ずっとね、冷めて見てる自分が分かるんですよ。面白いところもあって、脇役もいろいろ出てましたよね。ただ一つ、G・クルーニーが顔を黒く塗っても、南部の人には見えないんですよ。残りの二人はいかにもって感じだったけど。それがちょっと気になったというのはあったんだけど。

鬼 束 終盤はすごく盛り上がったんだけど、それまでは笑うに笑えなくて、3人の表情はいいんだけどなあと思いながら見ていた。そしたら、最後のみんなで歌うシーンで、知事選とかで政治の話も入ってきていて、でも、人間って政治とか何か難しいことより歌うのが最高だよねー!っていうのを感じて、僕はあのシーンがとっても好きなんですけど。それと『スティング』以来好きな俳優であるC・ダーニングがもうだいぶいい年なのに頑張って出てきて、踊りまで披露してくれたのがうれしかった。林田さんは笑ったっておっしゃったけど、笑ってもいいんだろうけど、あのKKKが出てくるとこですね。あそこは結構真剣だと思ったんですけど。監督としては。今更あんなことを言わなきゃいけないくらい、アメリカはまだまだ危ないところがあるんだろうなあと思いました。これが、1930年代を描いただけとしても、寓話であるとしてもですね。3人の中では一番目立たない小さい人(T・B・ネルソン)が意外といい味を出していたなあと、見終わって2、3日してから思いました。J・グッドマンは『バートン・フィンク』でも同じような凶暴な役じゃなかったかなあと思って楽しかった。チラシにいろんな人の見た感想が短いコメントで出ていたけど、最後の渋谷陽一さんのが一番ピタッ!ときて、やっぱ渋谷陽一って何か持ってる人なんだなあと思いました。あの悪い保安官みたいな奴が連れている犬がすごい悪そうな顔で、よく選んだんだろうなあ、この犬って思って。(笑)滅茶苦茶悪そうな犬。最初のところ、手錠に繋がれてて列車に乗るじゃないですか。あー、これ一人落ちたら皆落ちるなって思ったら本当に落ちて。(笑)あれ、どうやって撮ったのかなって?

笹 原 列車の中と(外?)は別撮りでしょうね。

鬼 束 ドイツ人の情緒不安定男みたいな奴が、機関銃でバババババッって牛を撃ち殺すのは一瞬うわっと思って、でもすぐに着色弾(『レオン』のナタリー・ポートマンのシーンを思い出す)かな?とも思ったんですが。その直後の牛に車がぶつかるシーンもその時はきっついなあと思ったけど、後で考えるとCGだったのかなと。でも、あれは、そういうトリックを使ってはいるけど、僕たちはここで本当に牛を殺して(犠牲にして)でも訴えたいことがあるんだよっていうふうに見ないといけないんじゃないかなと思いましたけど。


おいしい生活

出演:ウディ・アレン トレーシー・ウルマン エレイン・メイ ヒュー・グラント  監督・脚本:ウディ・アレン

笹 原 W・アレンは大好きで、最近宮崎に作品が来ないんですけど、来る時は見て好きなんですけど、今回全然最初から最後まで笑えなかったし、目新しいものもなかった。予告編でやってたのといっしょで、何もそれを外れるものもなくて。いつも、W・アレンからは学ぶものが、面白いこととか意外なことがいろいろあるんですけど全然なかったんで、あーこれで終わり?って感じで。せいぜい最後は落ちでもあるかなと思ったらなかったので、それが不満でした。W・アレンじゃなきゃそうでもないんでしょうけど。発想は面白かったんでしょうけど、それが伸びなかったかなって私は思いました。

酒 井 この映画、前半と後半でガラッと変わるんですよね。前半の部分−前半と言っても3分の1くらいですか−は70点〜80点で、後半のあとの部分は酷くって30点〜40点くらいと。つまり、前半のお金持ちになる前、要するに泥棒をしようとたくらんでいるところ、そこ辺はいかにもW・アレンタッチでポンポンポンポンとドジをしながら。そこまでは良かったんだけども、いざお金持ちになってからが、ダダダダダァーっと普通のつまらない三流のね映画になってしまったと。これが非常に残念なんですよね。お金持ちになって奥さんが浮気をするところも、W・アレンらしさというか、ひとひねりもふたひねりも欲しかったと思います。お金持ちになったら何もいいことないよって、そんな教訓の映画かなって。(笑)僕、基本的にW・アレンの映画って合わないんですよね。W・アレンの映画は口で言うコメディが多いんですよね。だから、それがいまいちこちらの感覚に合わないというか、訳してる雰囲気は分かるんだけども、日本語がW・アレンの言ってることにヒットしていないもどかしさがあって、いまいちW・アレンの中に入れないというので、W・アレンのコメディは面白いって言われるけれども、センスがいいって言われるのも分かるけれども、いまいち乗れないんですよね。前作『ギター弾きの恋』は好きだったので、次回作に期待したいと思います。

林 田 W・アレンは『カイロの紫のバラ』は好きでしたけど、それ以外はあんまりそうでもないんですよね。今回のは、年取って主演に出なくてもいいのにと(笑)、思いましたけどね。監督だけしとけばいいんじゃないかなって気持ちがしました。途中で寝てしまって。(笑)笑おうと思って行ったんですよ。最近、映画で笑ってないし笑いたいなと思って行ったので、なお笑うところがなかった。やっぱり出だしはちょっと笑ったかな。ずうーっとそれが続くかと思ってたら、途中で何か会話がうるさくなってきて…。(笑)最後も寝てたんですね。すみません、もう私のは消してください。(笑)

鬼 束 最初出だしから面白かったんですよ。話の内容を全然知らなかったので、まずあのW・アレンが銀行強盗をするというのが意外で。僕は昔のW・アレンの作品はまだ見てなくて、最近やっと彼が描く神経質なキャラクターというのに慣れてきて、ああこの人はこういう人が描きたいんだなあと思えるようになっていたから、あのW・アレンが銀行強盗するっちゃ!どんななっちゃろか?!と思って見てたら、集まってくる奴が馬鹿ばっかりで。(笑) 大ボケ大会なんですよね。もう、笑えて笑えて。水道の水が噴き出たところは、僕が見てるW・アレン作品ではなかった珍しいドタバタ喜劇で、うわあー、こんなことやってるっておかしくて、うれしくなって。一瞬、蓮實先生の『リュミエール元年』で読んだ「馬の水浴び」?のことや、映画の最初のコメディがホースで水を撒いてる時だったことを思い出しました。で、クッキー屋が流行ってる時に、あーこれクッキー屋になればいっちゃわーってすぐ思ったんですよ。こいつらやっぱり馬鹿やわ、クッキー屋やればいっちゃわーって思ってたら(笑)、警官がやってきて、「フランチャイズ」!なんですよ。
 普通の展開で始めさせないで、もっていき方がというかすごいアイデアがつまっていて、うまいなあと思いましたねえ。クッキー屋が流行ったら、今度は従姉妹のメイですよ。極めつけの、パンフレットの言葉だったかを借りれば、一本ネジが取れたような人。最高でしたね。うれしかったあ。それで、銀行強盗も終わったし、あとどうなるのかなと思ったら教養の話になって。『マイ・フェア・レディ』のひねり版みたいなやつで。H・グラントは、悪役のほうが好きですね。そして、あの宝飾品のガラス玉を壊すシーンだけど。あれを盗みに入る前にW・アレンが、この家の間取りはバッチリ分かっているって言ったのも、はじめの銀行強盗の時に図面を逆さに見ていたという振り(伏線)があるから、あーあの頭の中で間違ってるんだろうなあ(笑)と思ったら、そうでもなかった。ここもすごいんですよね。観てるほうが、あれを盗む時に部屋を間違うんじゃないかと思うとそうはしない。それやっちゃうと面白くないというか、こっちで思ってることをやられると「やっぱりね」と得意になる反面、予想をなぞられてる形になるから退屈しちゃうし間延びしちゃうんですよね。
 その間ストーリーの進行を待っとかないといけないから。そこら辺の読み方というか、はずし方というか上手いですよねえ。クッキー屋をすればいいと思った時もそうだったし、このあと鑑定人になれば真っ当な仕事になるわと思った時もはずされる。そして、なんともふわふわとけんかしながらも楽しい二人のおいしい生活が続いて行くんですよね。ところで、あのガラス玉は、ウディ自身が自分の作品の中で気に入っていない作品の数かも?と思ったけどそれにしては多過ぎる気もするので、音楽に凝る彼のことだから、音とかリズムとかも計算してあの数だったのかもしれないと思いました。ダンダンダンダンダンダンダンダン!という数は正確じゃないけど叩き潰す音ね。
 でも、あのインチキ教養授業で、T・ウルマンは目が肥えて、本物と贋物の見分けがつくようになってんですよね。そこで、これは鑑定士になればいいと思ったんだけど、前述したように、ならない。最後、これH・グラントの金庫から盗んだんだろ?とW・アレンが聞いた時、ウルマンはいや違うみたいな答えをしたんですよ。それで、じゃああれはもともと贋物だったの?でも、あれをグラントに渡す時は彼女あいつにベタぼれだったから贋物を贈るわけないしと、よく分からなくなったんですよ。パンフレットを見たら、やはりあれはグラントの金庫から盗んだことになっていたから、あのシーンのやりとりはあの夫婦ならではの掛け合いだったんでしょうね。夫婦のことは他人には全ては分からないということですよね。

林 田 深いですねえ。よっぽどおいしかったんでしょうね、あのクッキーね。クッキーぐらいどこにでも売ってるのにね。すごいお客さんだった。

鬼 束 今、リストラとかあって大変じゃないですか。でも、何が幸運になるか分からないですよね。そういうのも感じたんですよ。

林 田 私もそれは思った。

鬼 束 ああそれと、テレビの中で経済のコメンテーターみたいなのが出てきて、「消費者の好むものを作ればいい」とか言うんですよ。それがテレビで放送されるのが2回出てくるんですよ。それで、W・アレンは、こういう人種はこういうちょっと考えれば誰でも分かっている当たり前のことしか言わないんだよって言いたいのかなってまず思って、でも同時に確かに消費者が好むものを作ればいいんだ変に難しく考えることはないとも言いたかったんじゃないかなと思いました。

林 田 私、もう一遍見るわ。なんか面白くないと思ってよく見てなかった…。

笹 原 『アニー・ホール』の前のドタバタ喜劇に戻ったような気がしたんですけどね。

酒 井 W・アレンて、いろんなタイプの映画を作るチャレンジャーですよね。ミュージカルに挑戦したりね。


蝶の舌

1999年 スペイン 出演:フェルナンド・フェルナン・ゴメス マヌエル・ロサ ウシア・ブランコ  ゴンサロ・ウリアルテ  監督:ホセ・ルイス・クエルダ

酒 井 非常に格調のある素晴らしい映画ということなんでしょうけども、はっきり言って僕は乗れなかったていうか、感情移入がしにくかったんですよね。印象に残っているのは、最後の3分。先生が連れて行かれる時に悪口を言わなきゃいけなかった少年の顔。そこまでのスペインの共和制が軍国主義に変わるところの、だんだんだんだん危機が忍び寄ってくるところが、もうちょっとうまく演出できなかったかなって気がするんですよね。蝶の舌の話なんですけども、私は「興梠」のほうがいいんですけども。(笑)

一 同 (笑)

笹 原 言いたいことは分かるんだけども、先生と生徒の淡々とした話があって、ラストだけが衝撃なんだけども、前半で乗れなかったっていうのが残念でした。これは私の勉強不足もあって、勉強してればもう少し違ったかなって感じはしたんですけどね。

野 口 予告編でおいしいとこ全部見ちゃったなと言ってしまえばそれまでのような気がするんですけど。悪い映画じゃないんですよね。ラストにいろんなものを集約させるんであれば、途中が淡々と少年の繊細さを追っかけすぎたというか、あの辺が中途半端だったのか何なのか。蝶の舌っていうモチーフを持ってきたところが、味付けの仕方として一種の手法なんだよなあっていうのを考えながら見てしまったので、とても入り込めたものではありませんでした。っていう感じ。

杉 尾 すごく私は素敵な映画で、もちろんラストシーンも印象に残ったんですが、ナイナイの岡村君のミニチュアみたいなモンチョがかわいくてですね。そのモンチョが(パンフレットに?)書いてあるけど、成長していく過程を丁寧に撮ってあって、あたたかい感じで私はとっても好きでした。映画の色っていうかトーンもすごく抑えた感じで、ひとつひとつ自然とかも切り取って絵にしたらいいような感じでですね。それと、定年前の老教師が、喘息をもっているモンチョに対してほぐしていく過程が正面からバン!というんじゃなくって、あったかい感じで解きほぐしていくというのがですね、自然の中でいろんなものを気付かせながら?それと、モンチョのお兄ちゃんの感じもすごく良くて、モンチョがお兄ちゃんを慕ってる様子がうらやましくて、うちの息子はものすごく兄弟仲が悪いから。(笑)モンチョから見るとすごく大人に見えるお兄ちゃんも、私たちから見るとまだまだかわいくて、中国人みたいな感じの娘さんに恋心を抱くっていうところが切なかったです。そこもやっぱり、ぐうーっとくる場面だったかなあ?モンチョがちょっと大人の世界をのぞくってところが、嫌味なく描かれていました。政治的なことは私には分からないけど、最後のほうに衝撃的なシーンがあって、それが言いたかったのかもしれないけど、私はその前の日常的な部分がすごい忘れちゃいけないものがたくさん織り込まれててこういう映画は好きです。『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』とかね、『ギルバート・グレイプ』とか少年が出てくるものはぐうーっときますね。『ニュー・シネマ・パラダイス』もね。それで結論は、私はとっても好きな映画でした。

酒 井 私たちは、この後のスペインの歴史をあまり知らないので、ヨーロッパの人たちは知ってるから見る力がだいぶ違うと思うんですよね。僕の記憶が正しければ、この次の年くらいにスペインの内乱が起こって、ベロニカっていう町での大虐殺が起こって、それから不幸な時代がスペインって国、ずうーっとフランコの独裁が続くわけですよね。ですから、そういう暗黒の時代が来る一瞬の光の輝きというかな、ちょうどそれがこの映画の時代なんですよね。そういうのの認識っていうのは、僕らはやっぱり分かりませんからね。それとやっぱりスペインの人たち、あの時もうちょっと自分たちは戦争というもの、軍の独裁というものに対して反対しとけばその後に30何年も苦しまなくてすんだのにという、その後悔というかその念が非常に強いと思うんですよね。それを少年の目を通して、少年の成長というものを通して見ながら、時代というものをバックにしてるというところがこの映画の評価されているところだと思うんですけども。学校の中でこういうことを教えてくれる先生っていうのは、終わりなんだよっていうのもあるんでしょうね。

−ここで、スペインには王室はあるんですか? あるんじゃないかなという話がありました−

杉 尾 (私、)少年の気持ちにしかなってないから。(笑)

酒 井 でも、そう言いながら、僕はもうひとつ乗れなかったんですよね。(笑)

笹 原 最初、若い男女が山小屋に行って変なことするところを覗くというところがあって、あれからどうも、なんでこんなことするのっていう…。その辺から高尚な気持ちが薄れてしまってるっていうかさ。(笑)

野 口 そこら辺は、それなりに、男の子のすることはそんな高尚なことばかりじゃないよっていう。

杉 尾 『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』も男の子が大事なところを壜に突っ込んで大変だったっていうのがあって。(笑)

−蝶の舌のはたらきの話はあったけど、それが何を意味するってことはなかったという話がありました−

野 口 いろんなこと観察しなさいよってことかな位に私は受け取って。そういうモチーフとして蝶の舌をもってきて、それでこういう味付けの映画にしたかったのねって…。

酒 井 ほろ苦い映画ですよね。ラスト、少年の純粋な気持ちで嘘をついて、先生の悪口を言わなきゃいけないっていう。しかし、その嘘をつくっていうのは、この時代のスペインのほとんどの人たちの心を代弁してるんでしょうね。そういうふうにしていかなきゃ自分たち生きていけないんだっていう。

林 田 何処でもそうですよね。そういう時代っていうのは思ってることが言えない。

杉 尾 もうちょっと分かりやすく描いたほうがいいような気もするけど、そうするとラストがいきてこないような気がする。けど、どうやろ…。


今月の一本

笹 原 『ラットレース』…すごかった。 『助太刀屋助六』

野 口 『ジェヴォーダンの獣』…久しぶりにちゃんと映画を見た気分にさせてくれた。

酒 井 『ラットレース』…最近のコメディでは面白かった。『ユリイカ』…ビデオで3日かけて見たけど、いい映画です。ただ、「ユリイカ」ってタイトルの意味が分かんないんですけど、誰か。(野口 「我、発見せり」というギリシャ語なんだそうです。)あー、本当!そういう意味なんだあ。僕はどこかでイカが出てくるのかなあと思って…(笑)長いけど、あの長さは内容的に必要だなと思いました。

林 田 『オー・ブラザー!』にしとこうかな。

鬼 束 「冒険王」…平田オリザの青年団の演劇。僕にとっては圧倒的でした。「後家殺し」…落語。『GO』で使われていた三遊亭圓生さんの「紺屋高尾」のCDのカップリング話。

来月の合評予定作品  『メメント』 『化粧師』 『息子の部屋』の予定です。

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