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2004年8月号

ドッグヴィル

ラストがとても重要なため、ネタばれしています。

酒 井 3時間という映画で、ちょっと長くて疲れました。でも演出がすばらしかったです。家が無くてラインだけなんだけれど、家があるように見せるしぐさというか、観ている観客に村のイメージを思い起こさせるような演出はすごいな、と思いました。閉鎖的な村に終われている女性が入ってきて、はじめは仲良くなるんだけれども次第にいじめられるようになる、という話で、テーマは寓話的で、人間の醜い部分を全部さらけ出しているんですね。これを見ると救いが無くて、嫌になってきます。しかし、これが演出がすごいので、説得力があるから、そのいやらしいところに納得ができるんです。それで最後にどうするか、というと、女性を追いかけているギャングに引き渡すんですが、そこで村人は全員、ギャングに殺されてしまう。そこが納得行かなかったんですね。何でその醜いところを全部殺してしまうんだ、と。結局、こういう悪と言うか、醜い部分を全部やっつけちゃって良いのか、ということなんです。そこに抵抗感がありました。でも、演出や盛り上げ方、それに二コール・キッドマンはすばらしかったです。

手 塚 主演にコール・キッドマンが居なければ観に行かなかったと思います。セットが無い、壁の無い舞台のようなところで人が生活しているところというのが実際にあったらすごい物が観れるんじゃないかとラブホテルを見ながら想像したことがあるんですが、そのときに、所詮人間ってそんな物、というか、傍から見たらばかばかしいようなことを本人たちは一生懸命やってるんだろうな、と思いました。たまたまこの映画の中でも、一番最初にグレースがレイプされるシーンで、カメラがレイプされているところからずーっと下がっていって、周りの人たちが普通に喋っているシーンが写るので、トリアー監督としては、こういうことが見せたいばっかりに、こういう何も無いセットを作ったんじゃないかと思いました。海賊ジェニーという曲が元になっているとパンフレットで読んだんですが、その訳詞を見て、中嶋美由紀のエレーンという曲を思い出しました。予告編で、二コールキッドマンが「獲物」という表現で紹介されていたんですが、ふさふさした毛皮と振り向いた顔がきれいな狐のように見えて、ま さに狐狩りという感じでした。

笹 原 チョークで書いたセットで最初は「え?」と思うけれども、だんだんそれがあたりまえというか、壁が無いのに壁が見えてくるような描き方がすごいなと。グレースが、最初はうまくいくんだけれども、だんだん疎外されていく、それを多数決で決める、民主主義的というのがとてもよくわかるんだけれども、それでいやらしい方向に言っている、それが監督が描きたかったところかな、という気はするんですが。若干アメリカ批判というか。それが最後の皆殺しにつながるのかな、と思いました。結構きつい映画なんですが、最後の皆殺しでなぜかすっきりするんですよね。何でかな、とよく考えたら、仁侠映画といっしょなんですよね。いじめられて我慢に我慢を重ねて、最後に全部切ってしまう、と。あと、皆殺しというのはアメリカ批判だな、という気がしたんですが、今までそういう描き方をした人はいなかったし、ラース・フォン・トリアーというのは、ダンサー・イン・ザ・ダーク(失敗作だと思うけれども)でもそうだったんですが、人がやらないことをしているというところはすごく買っています。描けない部分を描いてくれたというのが嬉しかったです。役者もそろっていて、往年の名優ががんばっています。今回は二コール・キッドマンが一番うまいですね。

野 口 すっきりしました。二コールがきれいだったです。

横 山 非常に気持ちの良かった映画でした。途中まではどうなることかと思いましたが、やはりああいう復讐の話は面白いな、と。ラース・フォン・トリアーの映画の中では一番面白かったです。二コール・キッドマンが良かったですし、他の村人役の俳優もそれぞれに嫌な感じがうまくて、大変面白かったです。


21グラム

酒 井 期待していたんだけれども、重たすぎて救いが無いような感じで暗くなって帰ってきました。どういって良いのか・・・いい映画だと思うんですけれど、今ひとつ入りきれなかった部分がありました。

杉 尾 重かったです。最初の描き方が複雑で、最初の30分くらいはストーリーも人間関係もわからなくて、その分必死で観ました。かえって入り込めたという感じです。「みなさんさようなら」みたいにぽんと死んでしまうのもあるんだろうけど、人間って言うのはもっと生に執着するのが本当かな、と、これを観ると思います。自分の大切な家族が理不尽に殺されてしまって、その後でも本人は生きていかないといけない、という部分があって、ちょうど佐世保の女の子が殺された後だったので、そのお父さんの気持ちとかを考えてしまいました。

手 塚 いろんな場面が交錯していくというのは、事前に予習していたので大丈夫だったんですが、ナオミ・ワッツが荒れた過去を持つ女性で、立ち直って幸せな家庭を築き、それを支えにしていただろうけれど、突然失ってしまった、というすごい悲しみがツボにはまって、最初に妹とプールで泳いでいるシーンから泣けました。彼女が幸せそうな顔をすればするほど泣けました。留守番電話を何度も聞きなおすシーンとか、娘が嫌いだといっていた靴紐のままで死んでしまったとか。ショーン・ペンが訪ねていったときに、自分が寂しいから求めようとするんだけど、心臓のことを知ったら「馬鹿にするな」って言って怒るシーンとか、身につまされる思いで見ていました。ベネチオ・デル・トロが事故のときに女の子と目が合った、といって泣いているところとか、さりげなくハムスターを置いて出て行くところとか、良かったです。なぜあそこまで時間軸をばらばらにしないといけないのかな、と考えていたんですが、あれはショーン・ペンが語り部として出てくることから、死ぬときの彼の思い出みたいな感じだったんじゃないかな、と感じました。

加 賀 暗くて救いようが無くて、オチも無くて、もうちょっと若いころに見たらこういう映画も何かのためになるのかな、という気もするけど、40過ぎたらもっと明るい映画で楽しく過ごせれば良いな、と思いました。時系列がばらばらになっているとか、移植をしたショーン・ペンが加害者と被害者に絡んでくるとかいうのはすごく新鮮で、三人が三人ともすごく演技派の男優女優で、重量感はありました。ナオミ・ワッツの映画は初めてだったと思うんですが、なかなかいい女優さんですね。

林 田 暗いと聞いていたのでもう観ないと思っていたんですが、すごく薦められて観ました。そしたらそれほどでは無かったです。暗いけど、すごく面白かった。3つの家族のストーリーが入り混じって、バラバラなストーリーが最後でまとまるという。21gというのがなんだろう、と思いました。死ぬときに体が21g軽くなる、と予告編では言っていたけど、いったいなんだろう、と思っていたら、やっぱり人の心とか魂が抜けるわけですよね。私は思うんですが、人間は心と体が別物で、ロボット的に体はあって、21gの心というか、魂はまた別ということかな、と。私自身は移植というのは好きじゃないんです。自分の子供のことを思えば、と言われるけど、私はあきらめる。じっと病院で待っていて、誰かが死んだら大喜びで移植する、ということ自体が、宗教は信じていないけど、そういうのにも拒否反応があったので、やっぱり部品をくっつけたとしてもこういうわずらわしいことが起こるかなあ、とかは思いました。子どもが死ぬところ、靴紐のところとかはぜんぜん駄目でした。もう私だったら気が狂いそうになると思う。そういうことは、育てる間に沢山あるけど、そういうあとにしなれたりしたらどんなに嫌か、辛いかと。なんだかバラバラにいろんなことを考えたんですが、最終的には移植をしてまで生きるのはどうなのかな、と言うところにたどり着きました。ショーン・ペンがやっぱりどんどん良くなっていきますね。若いころは事件ばっかり起こしていたのに、いいおじさんになったな、と思いました。

笹 原 救いが無いですよね、暗くて。もう少し光があればな、と思うんですが。期待していたというのはあるんですが、意味合いが違ったみたいです。ショーン・ペンはどうも「ミスティック・リバー」と重なるんですが、やっぱり後半はああなったか、という感じもあって、ちょっと駄目でした。それぞれの演技も良いし、演出も悪くない。でももうちょっとストレートに観たかったな、という気はします。最初にラストシーンを持ってこなくても良かったんじゃないかと思いました。

野 口 バラバラに話が交錯している意味が良くわからないな、と私も思っていたんですが、そのほうが感情移入しやすかったのかもしれない、と、聞いていて思いました。ばっちり予習していったんで、ストーリーとか人間関係とかわかってから観たのであんまり入り込めなかったです。案外、めちゃくちゃにバラバラにしているんじゃなくて、次にこういうシーンが来たらあ!と思うだろうな、というのがあったのかな、と。話がわかればそれでいいやと思うことにしました。でも、バラバラな分、いろんなときにいろんなことを考えざるを得なくて、いろいろ考えました。役者がうまくて説得力があるからなのか・・・


下妻物語

杉 尾 言葉で説明できないです。とにかく面白くて、テンポも良くて、ロリータとか、ヤンキーとか興味は無いんだけど、観ているうちにあの洋服がかわいいな、とだんだん思えてくる自分が恐ろしいです。途中から、ああ着てみたい気もするな、とか思ってしまいました。桃子がおフランスの話をしながら、自分の世界を持っていながら、自分は性格悪いです、と言い切るところがいいし、イチゴのほうも、群れて行動していたのが、そんなんじゃいけない、とそこから離れていく、という部分がしっかり描いてあって、桃子は桃子で、自分だけで生きていくよりも友達がいると人生が変わってくるというところもあって、そこがすごく、ただ笑ってるだけではなくて面白かったです。最後の、牛久大仏の決闘のところで、あまりにも向うの啖呵がすばらしかったので、危うくだまされるところでした。なぜかジーンときました。つい2回見てしまいました。

手 塚 邦画はあまり観ないんですが、すごく楽しくて、笑えたし、帰りに自転車をこいでいる時についがに股になって、蛇行運転したくなりました。危ない運転している車にガンを飛ばしたりとか、ヤンキー魂を目覚めさせてくれました(笑)。良かったです。あれ以来、娘にも「びしっと根性見せんかい!」という感じで説教するようになってしまいました。

加 賀 オープニングの、桃子が交通事故で飛ばされるところから、ずっとびっくりして、この後どうなるのかな、と思ったりしましたが、下妻という都会のそばのものすごい田舎で、フランス風の生活をするというギャップがすごく面白いですね。ギャグをあちこちにちりばめてあって、桃子自身はちゃんと自分の生き方を持っていて、最後はイチゴとの友情に目覚める、というところが、よくできてると思いました。新鮮だったのは、ロリータという種族を初めて知ったことです。桃子が学校で一人でお弁当を広げて、しかも中にはお菓子しか入っていないところとか、びっくりして、ああこういう人がいるんだ!と思いました。昔マリー・アントワネットが、庶民が食べる物が無くて困っているという話を聞いて、ケーキを食べれば良いのに、って言った話を思い出しました。テンポも良くて、話もちゃんとしていて、最後はきれいに収めてあって、久しぶりに楽しい映画を見たという気がします。

林 田 2回見ました。2回目は今にも出産しようかという娘を連れて行ったのですが、おかげですばらしい女の子が生れました!ほとんど言われてしまったのですが、いじめられて、とか、友達がいなくてかわいそう、という映画は良くあるけど、これは自分から友達がわずらわしくて一人でいて、自分の好きなことだけをやっていく、という、それがすばらしかった。今の中学生とか高校生も、人のことなんかどうでもよくて、自分がこうありたければこう進めばいいや、というふうに生きていけばいいんだな、というところが見せてあったというところと、やっぱりヤンキーは、私は素質が無かったから、すごくあこがれました。メールの文章とかもおもしろかったです。使いたいんだけど、使えなくて。宮崎のヤンキーはメールは宮崎弁なのかな、とかくだらないことも考えました。作り方とかは、やっぱりうまいと思いました。ただの馬鹿騒ぎじゃないし、任侠みたいなところもあって、でも一人できちんとやっているところも、家族も描いてあって、何もかもすばらしかったです。服装は・・私はやっぱりヤンキーの服装が好き!土屋アンナ大好きです。

笹 原 これだけ腹を抱えて笑ったのは久しぶりです。深田恭子のデビュー作の「神様、もう少しだけ」というのがあるんですが、これがすばらしくて再放送があるたびに観てるんですが、その後に何本か映画にも出ているんですが、へたくそなんですよ。今回も決してうまくは無いんですが、はまり役でした。彼女がいたからできた映画だな、と思いました。土屋アンナとの対比と、最後にひっくり返る、という構図、テンポ、ギャグもちりばめてあって、つくりがうまいなあ、と感心しました。片端から人に薦めました。

酒 井 映画が漫画なんですよね。漫画を忠実に芝居にしたような感じなんですよ。ものすごくナンセンスなところも、普通は形にしないところも、全部見せてるんですね。それがすごく面白い。ロココとヤンキーという、本当は仲良くしちゃいけないものが仲良くなっているというのも面白いです。本当は相容れない物の間に友情が芽生えて、だんだん裸で付き合うようになっていく。最後は助け合うというところが感動モノです。要するに漫画の世界なので面白いんですが、最後のほうには友情を中心に描いていくという展開がうまいです。最初はロココの話が中心になりますが、こんな奴本当にいるのかよ、と新鮮に思うんですが、そのうちにいるかもな、と思うようになる。一方でヤンキーというのは大体持っているイメージのとおりで、やっぱりロココとヤンキーは結びつかない。それがいっしょになって失恋したりしながら友情を深めるというストーリーの展開が非常に良いです。

横 山 観ている間は面白かったんですが、後に何も残らなくて、こういう映画はベストテンを選ぶときには落ちるだろうと思いました。やっぱりCMディレクターなので、軽くて・・場合場合は面白いんですが、少し一本調子だったかな、という気はしました。


今月の一本

酒 井 「そして人生は続く」最後の車が坂を上がるシーンが良かったです。思わず押してあげたくなりました。

手 塚 「パッション」傲慢の意味を気付かせてくれました。

加 賀 「ジョゼと虎と魚たち」大阪弁もかわいい子が言うと良いですね。

横 山 「深呼吸の必要」

林 田 「21g」

笹 原 「ラブストーリー」猟奇的な彼女より好きです。最初から最後まで愛しいという感じでした。

野 口 「裁かるるジャンヌ」絶対寝るだろうと思ったらそうでもなく。映像がかっこよかったです。

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