2005年9月号

出席者:笹原 鬼束 横山 杉尾 林田 杉尾 手塚 (書記)酒井

今回は、「サマリア」「宇宙戦争」「フライ,ダディ,フライ」の3本です。では、合評会レポートをお送りしたいと思います。

サマリア

【データ】2004年 韓国 1時間35分 
監督:キム・ギドク 製作:べ・ジョンミン 製作総指揮:キム・ドンジョ キム・ユンホ 脚本:キム・ギドク 撮影:ソン・サンジェ 音楽:パク・ジウン イ・ソンファン 編集:キム・ギドク 出演:クァク・チミン ソ・ミンジョン イ・オル オ・ヨン イム・ギュノ イ・ジョンギル

今年の映画祭で、上映された注目作です。どうも、玄人受けするような作品のようです。

笹 原 全然何の知識もなしに行ったのでびっくりしました。ストーリーも良いのですが、主役の女の子2人が素晴らしくて、目とか顔とかに釘付けでした。後半もお父さんと娘の話ですが、展開が読めなくてどうなるのかなと思ったのですが、素晴らしくて・・。予想外の展開の映画で2回見ました。

手 塚 あの監督の去年の作品が「悪い男」で、ぜんぜん意味が分かりませんでした。ですから、見る気もならなかったのですが、進められて見ました。最初の少女の2人のシーンが幻想的で、あの年頃の女の子の雰囲気をよく出していました。こういう女の子って、普通に存在していて(援助交際をやっている)いるような描き方をしているので自然に見ていました。ただ、その後の少女が亡くなってからのもう一人の少女の行動であるとか、それを知ったときの父親の行動であるとかが唐突でしたが、自分の立場に立つと理解できました。題3部は、一番暴力的だったけれども、一番幻想的でもありました。一方通行の愛情だけれどのそのような中で私たちは生きているのだなと思いました。

鬼 束 別な子も死んだような感じがしました。ラストの父親の行動は理解できなかった。全体的には悪くない映画でした。不思議な映画でした。

林 田 嫌いでした。意味は分かるのですが、生理的に受け付けませんでした。のめり込むことが出来ずに、冷めた目で見ていました。父親との関係もよく分からないし凝視することが出来なかったです。次の展開が分からなくて・・。あの父親はいやでした。理解が出来なかった。

酒 井 この作品は、今年見た作品の中ではナンバー1になるほど優れた作品でした。3つの部分から成り立っているのですが、それぞれ人によって解釈が違います。つまり見ている人に色々な事を自由に考えさせると言うところが凄いです。静かで、必要以上の事を言っていないのです。たとえば、娘が「父親が援助交際の事実を気づいていたのか」とか、それとなく雰囲気で示してあるのですが、よく分かりません。そのようなところが随所にありました。暴力的な映画ですが、静かでもあります。その点では「たけし」の映画に似ています。この監督、ものすごく才能があります。

笹 原 この監督だけは、韓国映画の中でも群を抜いていると思います。とにかく、今一番注目すべき監督です。

杉尾(隆) 観た直後今年の外国映画のベスト1と思いました。母亡き後、娘と父には強い絆と強い愛が存在していただけに娘の行為を直接問いただすことのできない父の気持ちが痛いほどわかる気がした。娘の涙、象徴的なヘッドフォーンなど説明のセリフなしのシーンもいろんなことを解釈できて印象深い。キムギドク監督作品、いつも観るたびに感動するとともに、しばらく後を引く。

この映画は、大いに驚きを持って迎えられたようです。その他、この監督の過去の作品にも言及されて行きました。

宇宙戦争

【データ】2005年 アメリカ 1時間57分 配給:UIP映画 監督:スティーヴン・スピルバーグ 製作:キャスリーン・ケネディ コリン・ウィルソン 原作:H・G・ウェルズ 脚本:ジョシュ・フリードマン デヴィッド・コープ 撮影:ヤヌス・カミンスキー プロダクション・デザイン:リック・カーター 衣装:ジョアンナ・ジョンストン 音楽:ジョン・ウィリアムス シニア視覚効果スーパーバイザー:デニス・ミューレン
 出演:トム・クルーズ ダコタ・ファニング ティム・ロビンス ミランダ・オットー ジャスティン・チャットウィン

スピルバーグの新作ということで大いに注目を浴びた作品です。では、出来はどうでしょうか。

杉尾(久) 面白くないと言うこともなかったけど、内容がない。宇宙人が出てきて暴れ回って、勝手に死んで。映像はすごいなと思いました。面白くない事はないけど、面白い事も特になかったかな。トム・クルーズも特に強い印象はありませんでした。

酒 井 結構楽しめました。映像が凄かったです。ところどころスピルバーグ特有のユーモアにあふれていました。今回の映画の視点は、「一般市民がこのような状況に追い込まれたときどうなるか」という視点で描かれています。主人公は普通の人間だし、特に勇気を持っている訳でもないし。。。惜しいのは、リアリティーに徹しようとしながら、ハリウッド映画の壁があってところどころそうなっていない点です。飛行機が落ちた後は、多くの死体が散乱していて当たり前なんですが、そんな物は一切出てこない。そこのところがこの作品の限界でもあると思います。最後のシーンは頂けませんでした。別れた息子がボストンに先に着いているとか、元妻の家だけが無事だとか。

林 田 退屈はしませんでした。感想は、杉尾さん、酒井さんとほぼ同じです。あれじゃ、宇宙戦争でない。ずっと前から地球を狙っているのにバクテリアで死ぬのは、おかしい。研究不足です。

鬼 束 終わって、これだけと思ってしまいました。バクテリアで死ぬのを見逃してて、何かよく分かりませんでした。広がりがほしかったです。

手 塚 トライポットが出てくるところは凄く面白かったのでしたが、それ以降、トライポットをのぞき込んだり、(普通は逃げるよな!)等の行動に、リアリティーがなかった。 ティム・ロビンスの隠れているところで、目が出てきて何を出すかと思ったら、いきなり鏡を出して驚きました。宇宙人の行動が不思議でとても頭が良いとは思えませんでした。最後のところは、せめて「復活の日」の「草刈政雄」ぐらいしてもらわないと許せないなと思いました。

横 山 導入がおもしろい。宇宙人が出てくる前兆とか・・。でも、話があっさりしていて深みがなかった。ドラマがないし、リメイクする意味がよく分からなかった。前作(1953年度の作品)の方が良かったのではないでしょうか。

笹 原 みんな言ったことは分かるのですが、単純に昔(「ジョーズ」「激突」)のスピルバーグの作品に戻ったのではないかと思います。最近のスピルバーグは駄目だったのでこの作品は気に入っています。思わせぶりも多いのですが、スピルバーグが描きたかった事をうまく表現されたかは別にしても、単純に面白かったです。映画本来の「見せ物」的良さがあったと思います。それにしても頭の悪い宇宙人でした。

杉尾(隆)ウェルズの有名な原作でSF映画の古典をスピルバーグが今の技術で映画化ということで期待が大きすぎたのか、最初のビルと地面の破壊の映像はすごいのに途中からなんとなく乗れなくなった。トムクルーズも最後までかっこよくない、スピルバーグでなかったらこの役は受けなかったのではと言った人がいましたが私も同感です。もっと脚本を練ってほしかった。

つっこみどころがある作品なので、大いに盛り上がりました。

フライ,ダディ,フライ

【データ】2005年 2時間1分 配給:東映 監督:成島出 製作:坂上順 黒澤満 企画:遠藤茂行 藤島ジュリーK 原作:金城一紀 脚本:金城一紀 撮影:仙元誠三 美術:小川富美夫 主題歌:Mr.Children 音楽:安川午朗
 出演:岡田准一 堤真一 松尾敏伸 坂本真 青木崇高 広瀬剛進 星井七瀬 渋谷飛鳥 愛華みれ 浅野和之 温水洋一 徳井優 大河内浩 田口浩正 神部浩 鴻上尚史 モロ師岡 須藤元気 塩見三省

注目作ではなかったので、概ね評価が高いようでした。

笹 原 成島出監督の「油断大敵」という映画がすごいと聞いてました。その監督がその次に取った映画です。シンプルで面白かったです。堤真一に強いイメージがあったので少しがっくりでしたが、岡田君がよかったです。思っていたイメージと少し違う映画でしたが、意外にストレートな映画でした。

横 山 面白かったです。直ぐに話が分かってしまうのですが、それでも高校生の描き方とか、脚本も良かったです。岡田もいい役者だなと思いました。

鬼 束 ストーリーを聞いていたのであまり面白くなかったです。序盤のモノクロは成功していましたけど・・。堤真一はもう少し体重を変えるとか、顔が変わらないので、惜しかったです。

林 田 面白かったです。最初から終わるまで無我夢中で見ました。人間の体と精神といのは志を持てば強くなると言うことを感じました。岡田准一は、知らなかったのですが体つきがきれいだなと思いました。元気を与えられました。見た後で活気がみなぎって来るような作品でした。大好きな映画でした。

杉尾(久) 一度みて、気分が爽快になって、2回見ました。堤真一も私自身、最初の注目作から弱いイメージがあったので、それほど違和感がありませんでした。犯人に対する怒りとか、鍛えている途中の笑いとかユーモアとか、家族愛の感動とか、そう言う物が巧く入っていて、思う存分喜怒哀楽を味わいました。岡田君が素敵でものすごくきれいで、帰ってから鏡の前で、「鷹の舞」をしました。自分の大切な者を守るのは弱虫では駄目だということを痛感しました。

酒 井 非常に映画的な作品で盛り上がりもあって、色々な要素が入っていて分かりやすい作品になっていました。観客が期待するとことを、外さずに出しているところが良かったと思います。堤真一のイメージは、弱々しいのでないので、ちょっと違和感がありました。それぞれのもう少し深い部分も欲しかった気もしますが、これぐらいがちょうどよいと思います。

笹 原 あっさり勝ちすぎたのは、ちょっと肩すかしを食らいました。もう少し、決闘のところでピンチにならないと・・・

杉尾(隆) 高校生グループが堤真一扮するお父さんを鍛えて、頑張らせる話なのです。親父が予想以上に頑張るため自分たちも真剣になる、30年前の青春映画なら最後は挫折して終わると決まっていたのが、これは違う、正攻法で話がすすみ予測を裏切らずにエンディングになる。世の父親の多くがこんなことができたら思ったことでしょう。よくできた映画だと思います。

その後、バスの乗客の役者がそれぞれ良いとか、高校生の描き方とか、話題が尽きませんでした。

今月の一本

林 田 はるか、ノスタルジィ

横 山 アイランド

笹 原アイランド、マラソン

杉尾(久)長野県の無言館の画学生の絵「中村万平」の絵

酒 井アイランド

手 塚 サイドウェイ キングコングの予告編

鬼 束 カナリア

杉尾(隆) 海を飛ぶ夢