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2000年6月号

出席者:臼井、加賀、酒井(正)、笹原、杉尾、矢野、書記:鬼束

グリーン・マイル

出演:トム・ハンクス、マイケル・クラーク・ダンカン、ジェームズ・クロムウェル、デヴイッド・モース、ハリー・ディーン・スタントン
監督:脚本:フランク・ダラボン 原作:スティーブン・キング

鬼束 前に見たので忘れてしまったのですが、眠りはしなかったからまあまあ良かったんじゃないかなあと思うんですけど。悪いものを吸い込んでバーって吐き出すところが印象的でした。

酒井(正) 僕もかなり前に見たので忘れたところもあるんですけども。あの映画で一番印象に残ってるのは、予告編です。予告編が良くって、ああ感動作かなという期待が大きかった割には、そこまで達しなかったような気がします。ストーリー見てると、小説の方がもっといいんじゃないかなという気がして、それがちゃんと出てないような気がしたんですけども。ただ、けなしてぱかりいるから、悪い映画かというとそんな悪い映画じゃないし、質が高いと思います。でも、ちょっと引っかかったのが、あの吐き出すシーンですね。なんかSFっぽくなって、あの種の映画でSFっていうのは、使うぺきじゃないんじゃないかなと思うんですけども。あの雰囲気がどうも別の映画のような感じがあって、ちょっと好きになれなかったんですけども。

笹原 原作のスティーブン・キングは他の人と描き方が全然違うんで、私は今酒井さんが言われたようなのは気にならなかったんですよ。どっちかというと、特撮というよりも奇跡っぽいような感じの話なんで、寓話っていうかあんな感じかなっていう感じなんですけども。違和感はなかったですね。確かにそうめちゃくちゃ傑作というわけじゃないんだけども、割と細かいとこでは凝ってるなと思って。ネズミの使い方とか、看守の悪い奴とか他の看守の人たちとかね、非常に印象に残ったんですけども、いまいちしっくり来ないところは、原作をいかしきれてないのかなと思いました。あとで批評とか読むと、なんであそこまで分かってて、彼は無実だということを証明しなかったんだろうと思ったけど、あの時代やからね、無理だと思うんですよね、今の時代じゃないんだから。えん罪というかね、今さらひっくり返すのは。このあいだ宮崎映画祭であった『トゥルー・クライム』もあんな感じのでしたね。あれは現代だからできるけど、という感じはしました。

矢野 やっぱりあのネズミが一番印象的でした。全体的には静かに語が進んでいって、嫌な看守さん?エリートっぽい、あの人のふるまいとかですね、電気椅子がこんななのかっていうこととかですね、いろんなことを初めて知りましたけども。主人公の人が、最後は疲れて僕は死にます、私は死ぬ方を選びますというところが少し悲しいなっていう感じで、思いましたけれど。でも、いっぱい泣いてしまいました。

杉尾 私もそのSFX? のところは、あまり違和感なくって、寓話だなっていう感じで、見れました。3時間だったけど、全然長く感じなかったです。エリートの看守の人にどうして立ち会いというか指揮をとらせたのかなあというのが納得いかなくて、出ていくっていうのが条件にしてもですね、どうして彼の処刑の時にやらせたのかなっていうのが、すごく納得がいかなかったです。すごく嫌ってたのに、あのおじさんの気持ちになると、どうしてトム・ハンクスがしたのかなというのがちょっと分からなかったです。それと、横山さんのホーム・ぺ一ジを読んだら、えん罪っていうのを、原作ではすごくそのえん罪を証明するのにみんなが奔走したというか、頑張ったっていうのがすごく描かれているのにっていうことが書いであったので、多分そこらへんは映画は省いてあったんだろうなと思います。それと、トム・ハンクスじゃなくて、所長が彼を指揮させるように原作では言ってたって書いてありました。私も、もしあの人がいたら、治してほしいところがいっぱいあるなあと思いました。(笑)ネズミがすごいかわいくって良かったです。ずっと死なずに生き永らえていくのもきついだろうなあって思いました。

笹原 最初と最後が無駄だったかなて、だから最後の印象が悪いのはそこなんですよね。とぼけてますよね最後ね、これは本当の話やろか嘘やろかという感じになりますよね。あれいらんかったなあと思ってかえって。せっかくいい話なのにね、という感じはしましたけどね。

酒井 僕は、善悪がはっきりし過ぎてるところがあんまり好きじゃないんですけどね。いかにも悪者は悪者、いい者はいい者とあまりにもくっきりし過ぎてるところが、なんかいまいち引っかかるんですけどね。

杉尾 なんかでも、シリアスな話じゃないみたいだったから、重たくならずに行ってる? 『デッドマン・ウォーキング』みたいなのかなと思って見たんだけど。

酒井 4回泣いた人います?

一同 う一ん。

酒井 それじゃあスピルバーグは泣き虫なんだね。(笑)

笹原 監督はテレビで、僕の映画でスピルバーグは4回泣いたんですよって言ってましたもんね。

臼井 3回に訂正してましたよ。(笑)

鬼束 ネズミは特撮じゃないんでしょ。

杉尾 いろんなネズミを使ったらしいよ、転がすネズミとか。

鬼束 電気椅子の死刑は、もっときれいなものと思っていた。


アメリカン・ビューティー

出演:ケヴィン・スペイシー、アネット・ペニング、ソーラ・パーチ、ミーナ・スバーリ、ウェス・ベントレー、クリス・クーパー
監督:サム・メンデス 撮影:コンラツド・L・ホール

鬼束 寝らずにちゃんと見れましたので、まあまあだったと思います。ケヴィン・スペーシーって人がどういう人かっていうのを、今日職場の先輩の日高貞幸さんから聞いて、コメディアンなんだと思って、いい役者さんだなあと思って。バラの花びらの、中に入って裸になっているのは、アネット・ペニングかと思ってたら、女の子だった。

酒井 後味はあまり良くなかったんですけども、映画としての洗練度とか完成度は非常に高いんじゃないかと思うんですよね。ここ5年来のアカデミー作品賞をとった作品のなかでは映画の出来としては、一番優れているんじゃないかと思うんですよね。ただ、これは映画としての出来が優れているということだけで、好きか嫌いかって言われると、僕は嫌いですね、扱っている題材が。ああいう映画がアカデミー賞とって、1億ドルですか配給収入が、あること自体がアメリカって国はかなり異常じゃないかと思うんですけどね。とにかく、なんかアメリカの一番嫌な部分が、きれいというか、ぺったりとお化粧がかって描かれたような感じがして。映画的には優れているけれども、そこに流れている根本的な主題ってのが僕は好きになれないということです。

笹原 これは難しいんですね、何て言ったらいいのかね。映画としては、面白かったんですけども、現代をかなりリアルに描いてて、それ自体は少しえげつないようなところもあるんだけども、現代のアメリカを描きたかったんでしょうけども。監督はアメリカ人じゃないよね? だからかなって感じはしたんですけどね。ケヴィン・スペーシーはうまいなっていうのは思いました。

矢野 昨日見てきました。

杉尾 ほやほや

矢野 ほやほや、湯気がこう。良かったと思います。ずっと言われてるように、題材的にはすごく深刻なことだったんですけども、でも実はこういったことは自分の身近なところにいっぱいあるんですよね。最後、主人公の人は救われた感じなんだけど、主人公の奥さんと隣のご主人は救われませんよね。悲劇で終わるところが辛いなあっていうふうに思いました。やっぱり願わくぱね、そういったことを乗り越えたさわやかさみたいなものが、望ましいとは思うんですけども。なんかこう身につまされるようなことが、自分も含めてまわりいっぱいあるんですよね、だから。本当にこう乗り越えてもらいたいなというか、(笑)そう思いました。良かったと思います。

杉尾 あまり期待してなかった分、面白かったです。今のアメリカのっていうよりも、日本でもそうなんじゃないかっていう感じてした。ハハって笑うんじゃなくて、ブフってこう笑うような?ところがたくさんあって、ひとりひとりの性格を考えながら見てるのが面白かったです。贋の、厳格なお父さんがいる、家庭のビデオを撮ってたぼく、彼がすごくせつなかったっていうか。だから今、すごい17歳くらいの子供の犯罪とかもあるけれども、やっぱりこう親との関わり方というか、そういうヒントがたくさん入ってたような感じがするかなあ。いくら折檻受けたり、きつくされてもやっぱり子供は親のことを思ってるんですよね。お父さんのこと好きだよっていうあの子の言葉がすごくせつなくて。勘違いされたのもそれを釈明することを言わずに、もういいってこうつっぱねちゃったところもせつなくて。あの少年が、すごく印象に残ってます。最後にケヴィン・スペーシーが、子供の同級生に入り込んじゃって、自分を見失ってたんだけれども、その彼女が初めてっていうのは本当なんでしょうね? それを聞いて、ふと我に返るというか、おかしくなっちゃってたのが正気に戻るっていう。で、なんだこんなことなんだわっていう、日常のいろんなことで腹立てたりとか、家庭の中で不満があったりとかいうのも、ちょっと引いてもう1回自分で思い返してみると、そんなに怒ることでもないし、悩むことでもないしっていうところでほっとしたところで殺されちゃったんだけれども、そこらへんが印象に残りました。

笹原 まあちょっと正気に戻るのが遅かったていうかね。(笑)そういうことですわね。

杉尾 怒りが、怒りっていう気持ちが持続しないっていう言葉も印象的でした。

笹原 あの女の子二人の描き方が、一方はあぱずれで一方はまじめという感じだったけど、結局最後は逆転してしまってるのね。本当は、あぱずれに見えたのが純情で、というそこはうまいなと思ったですね。

矢野 表面的に見て、その人たちがどういう人かって本当のところは分からないですよね。よくあるけど、表面的に見たものがすぺてじゃないというね。一人一人そうですよね。みんなそうだったなあって感じがしましたけども。遅過ぎたのをどうやったら早められるか。(笑)

杉尾 隣のお母さんもかわいそやったよね。(笑)

笹原 ナチの皿があったということは、やっぱそっちの…だったんでしょうね。自分のそういうとこは絶対見られたくないという、しかも本当は男が好きだったという。自分はそれが嫌だったから絶対息子にも望みたくなかったんだけども。

鬼束 男が好きなのは、ストーリーの中でそうなったんじゃないんですか?

酒井 自分でその意識があったから、息子があの部屋に入って上半身裸でいた時に、すぐ頭の中でそれが浮かぷわけですよね。だから、自分の嫌な部分が息子もそうなんじゃないかという。これが、普通のそういうこと考えない人やったら、全然ね。

笹原 なんとも思わんやろうね。

酒井 だからうまいんですよね。

笹原 構成がうまいよね。

鬼束 後半がよかったから、もう1回見てみたいなあっていうのはあるんですけどね。(ここで、当日仕事の後、この映画を見に行って、合評会に間に合わなかった加賀さんの感想を“のらくろ"で聞いたので書いておきます)

加賀 普通の人が普通じゃなく見えて、普通じゃない人が普通に見えた。


トイ・ストーリー2

酒井さんが先月号に短評を書いていらっしゃったので、笹原さんがそれを代読してから始めた。

笹原 「子供の話と思って全く期待してなかったのですが、結構楽しめました。『スター・ウォーズ』のパロディが入っているところも面白かったです。でも、どちらかというと、この手の映画はあまり好きではありません」というところですね。

酒井 今ので訂正はありません。追加もないですね。

笹原 私はびっくりしたのは、これは大人の映画だなと思ってびっくりしたんですけとね。おもちゃが、自分の行く末とかを案じるというね、命題があってね、それで話が進むっていう。なんだこれはって感じてした。そのへんで変わってて面白かったです。子供は面白いのかなと思って見てたんですけど。

臼井 1よりも2のほうが好きなんですが、実写でもああいうこときっちりやれぱすっきり面白いのが撮れるのにという気はします。(『グリーン・マイル』について一言あるのですが間き取れません)CGの進化によって、子供の映画でもああいうふうに起承転結をきっちりさせてくる、破綻なく、という部分は非常に興味深いですね。興味深いっていうだけで、それがなんだっていうのは、もうちょっと時間かかるのかもしれませんけと。そういう意味で、アメリカ映画っていうのは、過渡期なのかもしれないです。それは『プライベート・ライアン』見た時からじわじわと、映画としては破綻してるのになということをじわじわ感じつつ、かつその部分部分は確かにすごいと思う。『プライベート・ライアン』にしても何が「起」で何が「承」で、語り口からしておかしな語でしたからね。そういう意味じゃ子供の映画の方がすきっとしてるというのはなんなんだろうと。ディズニーの映画見てたら分かるけど、結局ディズニーって古典ぱっかりやってるわけでしょ。古典というのは起承転結すっきりとしている話であって、アニメだけが起承転結すっきりさせてしまってるというのは、アメリカ映画はそれこそ何処に行くんでしょうという、そういう疑問だけは投げかけときたいなあという。そやから、映画は面白かったんですが、…

笹原 ゴールデングローブ賞か何かを他のを押しのけて取ったのですが、それだけの中身はあったなという感じはしたけど。アニメで実写で描くようなこどをしているのに違和感はあるけど、面白かったという感じはあったんですよね。

矢野 子供と一緒に見に行きました。おもちゃを大事にしてくれるかなって思いながら、でも帰ったらいつもといっしょでした。(笑)『スター・ウォーズ』のパロディのところもなんか分かったみたいで、楽しく見てたようです。長〜い感じしましたけど。(笑)でも、楽しかったですよ。

笹原 のっけがさ、“男はつらいよ"なんですよね。

臼井 それって山田洋次の影響じゃないでしょう?

笹原 でもあの夢のパターンやっちゃわ。山田洋次の影響だと思ったよ。

臼井 それはないと思うけど。

笹原 ああいう持って行き方ってのはめずらしいじゃないですか。

(ここで、夢落ちの話がされているのですが、聞き取れません)山田洋次監督の新作『学校W』の日向ロケの話をしてます。

臼井 CGで見せるのの限界なのか70分か80分というのは小気味よかったですけども。

笹原 アニメのNGシーンというのも面白かった。わざと作ってるのよね。『バグズ・ライフ』まで出てくるというね。


ストレイト・ストーリー

出演:リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク
監督:デヴィッド・リンチ

杉尾 さっきとは逆にすごく期待して行ったんですけども、私は胸にぐっと迫ってくるものがなかったです。ていうのが、お兄さんに会いにトラクターに乗って出かけるわけだけども、それだけの思いをしてお兄さんに絶対会いに行きたいっていう部分を、もうちょっと描いてほしかったんですね。そのお兄さんに会いに行くというよりも、ひとつのことをやり遂げるっていうところがすごく感動したっていうのも見たけれども、私はやっぱりあの最後のお兄さんに再關するシーンでぐっときたかったもんだから、途中のエピソードもいろいろあるけれども、その中でなぜそういうふうにお兄さんと仲たがいしたかとか、何年も口もきかずに会いもしなかったのかという部分を、もうちょっと描いてもらうと、最後にこうああそこまでしてやっぱりこうきたんだ、そして自分の力でお兄さんに会いに行くんだっていう部分が出てきたんじゃないかしらって思ったので、ちょっと物足りなかったというか。ただ、アメリカのゆったりした田舎の風景とか時間の流れとか、そういうのはこう気持ちがなごむというか。出てくるおじいさんとかがすごくよくって、だけどひとつひとつのエピソードも使い古されたというか、ベトナム戦争のことにしても、三つ薪を重ねたら折れないとか。そういう部分とか、ちょっと兄弟の部分がひとつだけ出てきましたよね、車の修理の、あのへんはさらりとしてたから、あれで兄弟は仲がいいほうがいいんだみたいなことを言われでもあまりピンとこない。なんか茶化してあって。一緒に暮らしてる娘さんの部分は、描き方が私は面白かったです。

笹原 リンチだから何かあるかなと思いつつもなにもなくて、最後までいってしまったというか、あこんなもんかていうだけで、何の感動もなければ、こんな語だったんだなっていうだけで特にありませんでした。

酒井 僕は見終った後は良かったんですけども、時間がたつとなんかだんだん陳腐に思えてきて。テビット・リンチがああいう映画を邊るということに関して、どう考えていいのか、こういう映画も撮れるぞということを言いたかったのか、それともちょっと頭がおかしくなったのかよく分からないですけども。(笑)でも、なんか見ててほっとするんですよね。『アメリカン・ビューティー』みたいな映画とこれとが同じ時期にアメリカで作られて、はっきり言って両極端の映画だと思うんですけども。ほっとするけれども、後そんなにはだんだん色あせて印象が薄くなってきているなと。細かいところを見ると、倹もお兄さんに会う必然性ですかね、そういうところがなんかああいうふうにトラクターを乗り回して行く翻りには、なんか淡々としてるというか、なんかもうちょっとあるのかなと思って、テビット・リンチだからきっと会う前に死んじゃうんじゃないかとそう期待してたんだけども、そういうこども全然なく、なんか普通の映画でそういうところ終わったていうところですね。非常にきれいに撮ってるからいいんじゃないですか。

臼井 別にこれ起こさなくてもいいんですけど、アメリカ映画、彼はカナダ出身なわけですけども、僕の見方だけなんでしょうけど、アメリカ映画が今の現状は非常にだめなんだということをすごく危倶してるのかなていう。結局、もともとアメリカ映画っていうのは、ああいう映画を連作してて、さっき杉尾さんが言ったようにしっかりとした動機付けとかできてないのがリンチなんですけどね。結局、何のために帰るのか、何があったのか、もしくはそのじいさんがなにをしてたのかは、全然今回触れてないわけですよね。そういうのは、リンチじゃないってみんな言うけど、やっぱりリンチなんですよ。途中で出てくる犬にせよ、鹿にせよ、全部リンチなんですよ。結局、リンチ汁に染まってるわけですけど、見ててすごくアメリカ映画を意識してたんですね。というのは、さっき言ったみたいに…アメリカっていろんなもんが潰れてると思うし、日本も潰れてると思うんですが。それを敢えて題材化して映画を撮っていくんですけど、そういうことに対してすごい危倶感みたいなものがリンチの側にあって、それで結局なんか分らんけど再生の物語を創ろうと。時速7キロと言いますけど、あれはロードムービーじゃないと思うのは、ロードムービーって行き着く先には何もなかったていうのがロードムービーの基本ですから、何かを求めていって何かを求められるというのは、アメリカ映画の起承転結なんですね。あの7キロていう時速は、実はその距離を移動してるんじゃなしに時間を移動してるんじゃないか。10年ですかけんかして。その10年という時間を遡らせるためにあの7キロ、トラクターによるゆっくりとした移動っていうのを考えてやってるんじゃないかなって気がして。ほんで、10年前に何があったのかなっていうことを考えると、結局リンチがデビューしたくらいに遡ってるのかなど。
 そやから、映画とかの寓話で考えてみると、リンチがああいう変な映画を連発してたっていうのも、結局どーんとしたしっかりとしたアメリカ映画の規範みたいなものがあって、それで撮れてたんやけど、アメリカ映画の規範みたいなものが、今完全に崩れてきているのかなと。そこでリンチが、敢えてアメリカ映画の豊かさ、ま俺みたいなひねくれものでもこれくらいの映画はむれるんだよというようなつもりで撮ったんかなていうふうに見てたんですね。
 そういう意味じゃ、僕も確かにアメリカ映画の方向性っていうのは果たしてどうなるのかとか、危倶みたいなものはすごくあるんで。『プライベート・ライアン』みたいなものに行ってしまうのか、そういうことを考えるとリンチが持っている危倶感みたいなものにはすごく共鳴してしまって、倹は非常にあれを見てて、なんか感動っていうか、映画を持つ感動じゃなしに、リンチの立場みたいなものか、そういうものにすごく感銘を受けた…感動したんで。
 最後に出会うのが、ハリー・ディーン・スタントンという、これはロード・ムービーの主役を連発してた人で、実はハリー・ディーン・スタントンはリチャード・ファーンズワースよりも年下だと思うんですよ。その年下の人間を敢えて兄貴にして、そこに会いに行く倒錯感でいうのは、やっぱり時間をさかのぼって旅をしてたんだなっていうそんな気がすごくします。『パリ、テキサス』『都会のアリス』といったヴィム・ヴェンダースの主人公だった、ロード・ムービーの主人公だった者を最後に持ってくるっていうのは、妙にアメリカ映画だったんだなって気がすごくしてきますね。そういう意味じゃ、僕は「ストレイト・ストーリー』っていうのは、今年の映画の中でかなり秀作のような気がします。そういう原理的な立場に立って言えば。そんなふうに僕は見えました。

杉尾 それは、臼井さんや笹原さんもかもしれないけど、テビッド・リンチという監督が歩んできたというか、そういうこととか作品とかをよく熟知してるからそういうふうに見られるかもしれないけれども、私なんかそういうのはちょっと疎いもんだから、あの作品だけで見てしまうんですね。映画っていったら、なんとなく過ぎて気持ちよかったなていうのもまあいいんだけれども、それだったら何も映画じゃなくてもいいのかなって思ったりするし、やっぱりこう見終った後からじわっと来る、それを思い出してね、ああいうところが良かったとか、あれってこういう意味だったのかっていうくらい残ってくるっていうのをどうしても求めてしまうっていうか。だから、それからいくとやっぱり。私、監督とかそういうのよく分からないから、言われてみれぱそうなのかなあって思うんだけれども、臼井さんがそういうふうに言わなければ私は分からなかったというか。

笹原 臼井さんが言ったのは私は全然思い浮かびもしなかったよ、はっきり言うと、全部。だから、考え方違うんですよ。簡単に言うと、テビッド・リンチだからこの人はほめた、私はテビッド・リンチだからだめだったていう。

杉尾 私はいつも思うんだけど、この監督さんの作品だからちょっとこうこうっていう、まそれは個人の見方だから否定はしないんですよ。

鬼束 トラクターのゆっくりしたのが、今の時代ってスピードを求められるじゃないですか、そういう時にああいうのやりたかったんじゃないのかなと思いました。宮部みゆきもですね『クロス・ファイア』の中でおぱさんに言わせてるんですよね、「のろくさくても、わたしたちが行かなきゃいけないのよ」って。今、思い出したんですけど。1回目寝てしまったんですが、もう1回見てもいいなと思います。


く今月の一本>

笹原 『イグジステンズ』2年前もテビット・リンチ(「ロスト・ハイウェイ』)とクローネンパーク(『クラッシュ』)をいっしょに見れたのは幸せでしたと言ってるんだけど。『クラッシュ』ほどはよくないんだけども、妙にいやらしかったね。

酒井 『笑の大学』非常に楽しめました。

矢野 『ワン・ピース』毎週水曜日の7時か7時半からやってる。面白いですよ。海賊のアニメ。

杉尾 やっぱり『ザ・ビーチ』でしょ。(笑)嘘よ。それしか見てないんですよ。それしか見てないから、『ザ・ピーチ』のストーリーじゃなくてデカプリオ!

鬼束 『幻の光』と「どついたるねん』と『恋人たちの食卓』

臼井 『遠い空のむこうに』博多に行って見てきたんですよ。これは、泣いた!素晴らしい!

加賀 T・ハリスの『ハンニバル』

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2000年7月号

参加者:鬼束・加賀・酒井・笹原・杉尾・矢野 書記:笹原

どら平太

監督:市川崑  出演:役所広司、菅原文太、浅野ゆう子、片岡鶴太郎、宇崎竜童、石倉三郎,石橋蓮司、岸田今日子、大滝秀治

酒井 3週間ぐらい前に日ました。我々のサークルメンバーがたまたま同じ日に4人(臼井・酒井・鬼束・笹原)見たという「どら平太」です。確か初日の土曜日でした。まだ、日本で時代劇を作ることができるということを認識できたので非常にうれしかったです。最近、時代劇が「雨あがる」とか「御法度」とかあったのですが,時代劇のイメージから言うと「どら平太」は時代劇のメインストリートという感じがして非常にうれしかったですね。ペストではないが、かなりレベルが高いというか、我々が納得できる形の映画に仕上がっていたと思います。特に印象的なのは「堀外」の雰囲気ですよね。「堀外」とはどんな所かという話の後で、ぱっと出てきた面面が悪のかたまりという雰囲気をよく出していた。そういうところはうまいなと感じました。ただ、主人公が現代風に描かれていて、少し軽いような感じがした。この脚本が作られたのがだいぷ昔なので、それから修正されたのではないでしょうか。主人公は、三船敏郎のイメージを浮かべていたのですが、結構いい線いっていたような気がする。しかし、もしかしてあれが最後の〈時代劇〉になるのではないか、という気がしないではない。

杉尾 あんな時代劇だったら私もOKです。時代劇でも歴史が入ってくると弱いので…。岸田今日子がチョイ役だったけど良かった。コミカルなのがいいですね。気持ちよく峰打ちでスパスパスパと倒していく、あのスピードがいいですね。しかも強い強い! 着物の下がはだけるところがゾクッとくるんですね、おばさんは(笑)。それと、石橋蓮ち やんがいい味を出していた。もう少し見たかった。石倉三郎といいコンビでした。菅原文太が親分ぶって話しているのに、恐くない。どうも、悪玉という感じが伝わってこなかったです。とにかくすごく面白かったです。

矢野 時代劇を映画館で見たのは初めてでした。新鮮な感じがしたし、面白かったです。浅野ゆう子だときづくのに少し時間がかかりました。

加賀 話はおいといて、脇役が豪華で、監督がうまく生かしていた。昔原作を読んだことがあるのですが、あまり印象に残っていない。多分、山本周五郎の他の本に比べると地味な話だったような記憶があります。役者で話が生きてきたなという感じがしました。ケーブルテレビで昔、勝新太郎が主演した同じ原作の映画「町奉行日記」を見たのですが、それと比べると、今回のは正統派の時代劇という感じてした。

鬼束 だめでした。と言うのが、「雨あがる」を見ながら、自分でもあれは許せるなと自分では思っていたのですが、役者でない人が役者として出ていて違和感があった、という意見を聞きました。今回はそれがだめでした。役所広司とか、うまい人はそれなりにうまいのですが、演出が、素人っぽい、テンションの高い演技をさせていて、もったいないな、と思った。役者はいい人が揃っていたのですが、あの作り方はまずいな、と思いました。今のところはそうですが、もう一度見たらたら違うかもしれません。

笹原 この映画を見てから、何かいい感想がないかずっと考えていたのですが、先日酒井さんの話の中にこれだ、と思う言葉がありました。人の言葉で申し訳ありませんが、それは「こういう時代劇が見たかった」という言葉でした。これが私が言いたかったことを言いあてていました。映画は全体的にはいいのですが、やはり菅原文太の悪役が弱い。彼はどんな悪い奴でもやれる役者なのですが、あえてこの映画に出てくる人はみんないい人、という演出の意図があって[いい悪役]を演じたのでしょう。せっかく張り切った役所広司の相手役として非力だったのが残念だった。小悪党の石倉三郎と石橋蓮司は良かった。私はあれだけで充分でした。

杉尾 役所広司と鶴太郎の友情が良かった。(杉尾さん今回は風をおしてこられたので、元気がなく、このあたりはマイクが違いせいもあってよく聞こえませんでした)蓮ちゃんが見れただけで良かった。でも、ラストがしつこかった。

酒井 NHKの時代劇は綺麗な時代劇で、この映画はほこりっぼさとか、小汚なさがある時代劇で、リアリティがあって良かった。暗い夜の雰囲気とかが本物らしく作ってあるのが嬉しかった。そういうところがあの映画の好きなところです。

笹原 家老連中、特に大滝秀治が出てくるだけで場面をさらう。うまいね。


ザ・ビーチ

加賀 デイカプリオは馬鹿なお兄ちゃんて感じ(笑)。

笹原 監督(ダニー・ホイル)は選んでるが、映画は最悪!

加賀 うん、最悪!

杉尾 良かった!デイカプリオ。よく頑張っていた。大人になった(笑〉

笹原 何も珍しいことがない! 少しでも予想を裏切ってほしかった。

杉尾 「へとんしれん」て言うんですかね。宮崎弁で。

笹原 あたってる、その表現!

酒井・矢野 それどういう意味?

杉尾 標準語にすると「くだらねえ」(笑)。でもディカプリオは良かった

加賀 あと味の悪い映画でした。

矢野 ビデオで見た方がいい?

杉尾・笹原・加賀 一斉に「見らん方がいい!」


ボーン・コレクター

酒井 面白かったですよ。不気味な雰囲気がよく出ていた。あの種の映画としては平均点高いんじやないかと思います。ただ、犯人が唐突なんですよね。なぜあの人が犯人なのかという動機づけが弱い。

笹原 警官の女性が良かった。まあまあかな。


スペース・トラベラーズ

酒井 アニメの主人公に一人一人を当てはめてやったんだから、それを最後まで完結してほしかった。非常に不満でした。

加賀 脚本がこなれてなかった。

笹原 深津絵里が良かった。昔は好きではなかったが、最近良くなった。テレビの「きらきらひかる」「踊る大捜査線」とか。今回はまるで彼女のために作ったような映画だった。ラストがいいですよね。1人だけ違う演技をしていて、彼女だけ別の世界にいる。

酒井 邦画ははずれた場合に、テレビドラマと変わらないくらいのレベルになるので悲しい。アメリカ映画だったら、はずれてもこんなアクションシーンをこんな大両面で見れただけでも良かった、と思える。

笹原 加賀さん、「見なくていい」って言うんじゃなかったの。

加賀 見なくていい!(笑)ビデオかテレビで充分です。

笹原 「ザ・ピーチ」よりいいんじゃない。

加賀 どっちもどっちかな(笑)

杉尾 「ザ・ピーチ」はディカプリオがいいから。

加賀 「スペース〜」は金城武も渡辺謙もカッコ良かったよね。

笹原 もったいないくらい役者は揃っていたのにね。

酒井 渡辺謙が後で戻ってきて皆が脱出するのを手助けすると最後の最後まで信じていたのに、裏切られた。あいつは何だったんだって思った。設定はかっこいいテロリストで、偉そうなことを言うんですよね。

笹原 警察なんかも最初はふざけた描き方しているのに、最後はまじめに突入するのが、面白くない。

加賀 あの映画のためにわざわざアニメを作ったって話題になったのにね。


今月の1本

鬼束 前に見たんですけど「君のためにできること」。いい気持ちになる映画です。

加賀 「ミッション・トゥ・マーズ」期待しないで見たら、それなりに面白かった。

酒井 さっき見てきた「アイアン・ジャイアント」。あのロポツトが非常に強いのにピックリしました。

矢野 有田美智世さんの臍帯血バンクのお話。

杉尾 宮部みゆきの「ぼんくら」。入るまでがなかなかだったけど、段々面白くなってきた。

笹原 「アンドリューNDR114」。さすがアシモフの原作だけあって、本格SFの傑作でした。

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