スクリーン(新聞連載コラム) 

2003年9月

「仮面ライダー555 パラダイス・ロスト」 子供向けでも映画的な衝動
(2003年9月4日付)
 今の三十―四十代前半の方々は「仮面ライダー」の洗礼を受けているだろう。「変身!」と言って、高所から飛べば、気持ちだけはヒーローに変わっていたのだ。その魅力を再生させているのが、新世代ライダーシリーズで、その最新作がこの『仮面ライダー555(ファイズ)』だ。
 子供向けの映画と高をくくって見始めると、そのうち事態は変わってきて、作品の中に数々の映画的な衝動があることに驚くことになる。
 例えば、バイクを馬と見立てれば、一種の閉じ込められ型の西部劇に見えてくるはずだし、主人公をヒロインが散髪するシーンにも同様の構造がみなぎっている。
 この散髪のシーンは全編の中で最も美しいシーンで、思わずジョン・フォードの名前をつぶやきたくなる。もちろん、子供を対象にした映画ゆえに作りは甘い。しかしながら、この剛速球・ど真ん中ぶりを誰がばかにできるだろう。(臼井)


「HERO」 アクションに東洋的美意識
(2003年9月11日付)
 秦の時代、秦王を狙う三人の刺客をすべて討ち取ったとして一人の男(無名)が謁見を許される。彼の口から三人の刺客を討った物語が語られる。驚くべき物語とは。
 「初恋のきた道」「あの子を探して」のチャン・イーモウ監督の新作である。一流の俳優を集め(ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイーなど)、ワイヤアクションやコンピューターグラフィックスを駆使し、膨大な製作費(三十億円)を費やしている。この作品で最も印象に残るのは鮮やかな色彩感覚とこまやかな演出である。特にアクションシーンの美しさは映画史に残るのではないだろうか。作品はまた「赤」(激情と嫉妬)「白」(真 実)「あい色」(ロマン)「緑」(回想)「黒」(神秘)の色に意味を持たせている。
 ハリウッドの大作は大味な作品が多いが、この中国映画は細部まで監督の東洋的な美意識が行き届き、丁寧に作られている。この夏一番の推薦作である。 (酒井)


「WATARIDORI」 胸を熱くする鳥たちの飛翔
(2003年9月18日付)
 秋から冬へ、冬から春へ、いろいろな渡り鳥たちが、それぞれのルートで仲間と一緒に飛び続ける。ただただ必死で、数千キロの空を飛び続ける渡り鳥たちの姿は神秘としか言いようがなく、思わず胸が熱くなる作品である。
 彼らと一緒にカメラも空を飛ぶ。飛ぶ鳥をこんなにも間近で見られるなんて今まで思ってもみなかった。それを監督のジャック・ペランは撮影に三年間かけてやってのけてくれた。
 鳥たちの目から眺めた地球は美しい。そこには地図に引かれた国境線はない。われわれは鳥とともに空を飛びながら思う。人は多くの選択肢の中から自分の人生を選び取るが、渡り鳥には選択肢はないのだと。「生きる」とはこういうことだったのか、これほどに過酷なものだったのかと。
 音量を控えた素晴らしい音楽とフランス語のナレーションが耳に心地よい最高級のドキュメンタリー作品である。(林田)


「閉ざされた森」 サスペンスの醍醐味を堪能
(2003年9月25日付)
 サスペンス映画の醍醐味(だいごみ)はファーストシーンから観客を引きつけ、どきどきわくわくさせながら、ラストのどんでん返しで私たちを「あっ」と言わせる点だろう。この「閉ざされた森」はサスペンス映画ファンの渇きを癒やす作品となるかもしれない。
 ハリケーンによる風雨の中、ジャングルでの訓練に出た米軍レンジャー隊が行方不明となり、二人の隊員だけが救出される。この事件を調査した女性大尉オズボーンと元レンジャー隊員のハーディは、訓練教官のウエスト軍曹が不可解な死を遂げたことを突き止める。殺人者は誰か?
 次々と新たな事実が浮かび上がり捜査は難航する。そしてたどり着いた本当の“真実”とは?
 一つの証言が前の証言を覆し、その度に異なる“真相”が展開されてゆくという黒澤明監督「羅生門」のスタイルでストーリーは進む。
 サスペンス映画の醍醐味を堪能できる作品である。(酒井)


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