スクリーン(新聞連載コラム) 

2004年2月

「解夏(げげ)」 失明の不安と恋人への思い
(2004年2月5日付)
 視力を失っていく苦しみとはどのようなものなのか。主人公の隆之は医者からベーチェット病で視力を失うと告げられる。隆之は恋人と別れ、実家の長崎に帰り、視力を失う前に故郷を心に刻み込もうとする。しかし別れた恋人が現れ、「失明後は隆之の目になっていきたい」と告げる。
 長崎を舞台にした美しくて悲しい物語である。観客に生きる勇気と喜びも与えてくれる。主人公を演じる大沢たかおは難しい役をうまく演じているが、女優陣にはもう少し真に迫った演技がほしかった気もする。
 監督の磯村一路は主人公の失明に対する不安や苦しみ、そして恋人への思いを繊細に表現している。それでいて作品が暗くならない点は評価できるが、主人公がやがて失う光をどれだけうまく表現できたかは疑問も残る。傑作と言えるほどの出来ではないが、見逃すにはもったいない作品である。それにしてもこの映画、長崎をPRしすぎでは。(酒井)


「ミシェル・ヴァイヨン」 悪役に力なく恐ろしい作劇
(2004年2月12日付)
 下火であるモータースポーツ復興の起爆剤となるであろうフランス映画の快作だっ! と見る前はこの文章の末尾を決めていたのだが、そんな映画ではなかった。
 善と悪を示す言葉としてエエもん、ワルもんという語が関西弁にあるが、青がエエもんで赤がワルもん、というのがこの映画である。しかも普通、ワルもんはエエもんと比肩する力を持ってこそ面白いわけだが、このワルもんにはそんな力はない。全くない。恐ろしい作劇である。
 その代わりに勝つための方策として拳銃は使う、誘拐はする、揚げ句の果てに色仕掛け。モータースポーツ映画のはずだが…と自問する観客を置き去りにして、ワルもんは悪の限りを尽くす。ただの卑劣漢という気もしないではないが、そういえば最近これほど悪に徹したワルもんを見てないことに気づき、ある種すがすがしかったといえばすがすがしかった。(臼井)


「シービスケット」 苦難乗り越え復活する人々
(2004年2月19日付)
 一九三〇年代のアメリカ。優れた素質を持つが、くせがあるために実力を出し切れない競走馬「シービスケット」、けんかっ早い騎手、行き場のない元カウボーイの調教師、息子を亡くし生きる希望を失った馬主が「シービスケット」を通じて自分の傷を癒やしていく。
 多くの苦難を乗り越え復活する「シービスケット」の姿は見る人に勇気と感動を与える。最近のアメリカ映画には珍しく、細部にわたって丁寧な描き方で、特に「馬はこれほど美しい動物であったか」と思わせる撮影には感心する。
 主演のトビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジス、そしてクリス・クーパーも良い味を出している。映画の出来栄えはほぼ申し分ないが、前半のエピソードが少し長すぎる。もう少し工夫して、物語を引き締めた方が良かった。「典型的な楽天的アメリカ映画」だけれど、見終わった後の「心地よさ」はなんとも言えない。(酒井)


「この世の外へ クラブ進駐軍」 ジャズで描く戦後の混乱期
(2004年2月26日付)
 五人の若いジャズメンの生き方を通して戦後の混乱期を描いた阪本順治監督の最高傑作である。
 脚本・撮影・音楽・美術のどれも文句なしに良く、役者の演技と相まって画面に厚みを感じた。
 役者では萩原聖人と松岡俊介に著しい成長を感じ、英米の名優ピーター・ムランとシェー・ウィガムの演技にうなった。そういえば、阪本監督は前々作「KT」でも韓国の俳優キム・ガプスの名演を引き出した実績がある。哀川翔と徳井優のコミカルな怪演も見逃せない。彼らが演奏するジャズの名曲も見事。なかでも「ダニーボーイ」はドラマの重要なキーとなり、印象的である。
 朝鮮戦争に動揺する米兵たちを描くクライマックスは自衛隊をイラクに派遣する現在の日本と重なり、決して人ごとではないと考えさせられてしまう。
 ラストをうまくまとめてしまったのは構成上仕方がないが、十分見応えのある映画だ。必見!(笹原)


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