シネマ(新聞連載コラム)

2004年5月

「コールドマウンテン」 故郷目指す男 待ち続ける女
(2004年5月13日付)

故郷コールドマウンテンを目指す。女は彼の帰りを信じてひたすら待ち続ける。果たして二人は再会を果たせるか。
 「イングリッシュ・ペイシェント」のアンソニー・ミンゲラ監督作品。主演はジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、そして本作でアカデミー助演女優賞を受賞したレニー・ゼルウィガーとくれば、傑作に仕上がっていいはずなのに、何か物足りない。
 映像は格調が高く、152分の上映時間も退屈しない。音楽も南北戦争当時の雰囲気をうまく盛り上げている。しかし名作「風と共に去りぬ」にあってこの作品にないものは南部の女性が持つ芯(しん)の強さ。それがキッドマンに表現されていない。ミンゲラの演出も端正さだけで力強さが感じられない。傑作になる条件がそろっていたのに残念である。(酒井)



「キル・ビルvol.2 ザ・ラブ・ストーリー」 不屈の主人公 母性くすぐる
(2004年5月20日付)

まれに悪口を言うのが楽しくてしょうがない映画がある。本当に嫌なら無視するのが健康にも良いので、悪口が楽しく言える映画というのは、どこかに愛情を感じてしまっているということだろう。奥さんがご主人の悪口を言うのに似ている。
 前作「キル・ビル vol.1」は、そんな快楽を大いに味わわせてくれたが、この続編は、ごく普通の出来の悪い映画になってしまっている。それにもかかわらず、どこか本気で駄目だと言えないのは、観客の母性をくすぐる部分があるからだろう。
 終盤、主人公の四歳になる娘が出てきて、復しゅうに燃える彼女をたじろがせるのと同じ構造だ。
恐らく娘は作品自体の、そして主人公は観客のメタファー(例え)だろう。
 何回も死にひんし、そのたびに復活する主人公はどこか映画の現況に似ている。映画への情念ゆえに主人公はよみがえる。それが観客の母性をくすぐるのだ。(臼井)



「グッバイ、レーニン!」 ベルリンの壁崩壊描く秀作
(2004年5月27日付)

一九八九年、東西ドイツを分断していたベルリンの壁が崩壊した。当時の東ベルリン市民の混乱ぶりが親子、近隣、友人の愛を中心に描かれる。
 主人公アレックスの父親は十年前に西側へ亡命。母親は東ドイツに忠誠を誓い、社会主義の世界で生きてきたが、改革要求デモに参加したアレックスを見てショックを受け、心臓発作で昏睡(こんすい)状態となる。その間に東西ドイツは統一、東ドイツも資本主義社会に変わる。八カ月後、母は目覚めるが、わずかなショックでも与えたら命はない。アレックスは母に東ドイツの変容を知られないようにと、涙ぐましい努力をする。
 大きな社会の動きの中で、庶民の混乱ぶりがコミカルに描かれ、笑いながら物語に引き込まれていく。終盤、母親が父親の後を追えなかった事情を打ち明けるシーンは涙なしには見られない。ドイツアカデミー賞など多くの賞を獲得したことも納得できる秀作である。(林田)




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