シネマ(新聞連載コラム)

2004年7月

「デイ・アフター・トゥモロー」 異常気象描くパニック映画
(2004年7月1日付)
 古代気象学者のジャック・ホール博士(デニス・クエイド)はこのまま地球温暖化が進めば、氷河期を迎えると発表する。多くの人々から非現実的と非難を受けるが、やがて世界中で異常気象が発生、氷河期が到来する。
 大ヒットした「インデペンデンス・デイ」のスタッフが特撮を駆使して異常気象を描き出す。ロサンゼルスを襲う竜巻、ニューヨークをのみ込む超大型の津波、欧州に襲来する大寒波、そして到来する氷河期。これらの異常気象が今までに見たことのないような映像で描かれている。
 後半は氷に閉ざされたニューヨークにいる息子を助けに行くホール博士を中心に展開する。製作者は親子の愛情で氷河期の氷を溶かしたかったようだが、ハリウッド映画特有の雑な描き方によって暖かくならなかったのは残念だ。この作品、地球温暖化の原因に対する突っ込みが足りない。普通のパニック映画に終わっている。(酒井)


「ロスト・イン・トランスレーション」 疎外感共有する男女のロマンス
(2004年7月8日付)
 シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)はカメラマンの夫とともに東京に滞在している。大学を出たばかりで、やることはない。ある日、CM撮影に来ている俳優ボブ(ビル・マーレー)と出会う。彼の悩みは日本人相手のうんざりするような仕事と妻から深夜に届くファクス。二人の共通の話題は「眠れない」こと。
 東京の街と人が彼らには異質で、その疎外感が彼らを結び合わせたとか、いや彼らのもともとの生活の疎外感が大きく作用したとか、描写には繊細さが漂う。洗練された会話(監督・脚本のソフィア・コッポラはアカデミー脚本賞を受賞)にはユーモアの中に切実な本心が見え隠れしている。
 言葉にならない気持ちのようなものが、せりふや街の景色や二人の名優の表情から伝わってきて、それがどこかに引っかかり、いつの間にか膨れ上がる。豊かな情緒あふれる作品だ。(野口)


「真珠の耳飾りの少女」 官能的な場面思わず息のむ
(2004年7月15日付)
 一六六五年のオランダ。光と影を絵の中に見事に取り入れ、遠近法をうまく使った画家フェルメール(コリン・ファース)の家に、使用人として少女グリートが来る。少女に絵心があると見抜いたフェルメールは、アトリエに彼女を入れて色の調合を手伝わせる。妻には内証で彼女をモデルに描いた作品が、「真珠の耳飾りの少女」である。
 絵の中に秘められたフェルメールと少女の許されぬ恋。少女を演じるスカーレット・ヨハンソンは実に美しい。無言のまま見詰め合う二人の目の情熱的な鋭さには圧倒される。二人にしっとする妻の気持ちもよく分かる。
 フェルメールは妻の真珠のピアスをモデルとしての彼女に着けさせるため、彼女の耳に穴を開ける。痛々しくも官能的な場面には思わず息をのむ。フェルメールの一枚の絵から想像される恋の物語。久しぶりに重厚な古い欧州映画を見た気がする。(林田)


「スパイダーマン2」 前作より深い主人公の苦悩
(2004年7月22日付)
 二年前に大ヒットした「スパイダーマン」の続編。前作はハリウッド映画のヒーロー物とは違い、スパイダーマンとして生きる主人公の苦しみを描くことによって、ドラマに深みを持たせた作品になっていた。本作はその後のスパイダーマンの心の成長と活躍を描いている。
 ヒーローとして生きていく主人公の苦悩は前作より深く、一度はスパイダーマンを捨てる決心さえする。ドラマの部分が充実しており、スパイダーマンが活躍するシーンの特撮も前作をしのぐ出来栄えである。トビー・マグワイアの演技は素晴らしく、主人公の心の動きをうまく表現している。
 この作品が成功したのはスタッフ全員が「スパイダーマン」を心から愛し、大切にしているためだろう。だから手を抜いた場面がないのである。続編がつまらない映画が多い中でこの作品はうれしい例外となった。ぜひ劇場に足を運んでほしい。(酒井)

「赤目四十八瀧心中未遂」 死出の旅路の男女を濃密に
(2004年7月29日付)
 人生に絶望し、尼崎に流れ着いた元エリートの生島(大西滝次郎)は焼き鳥屋の女主人・勢子の世話で毎日、臓物をさばき、もつにくしを刺して暮らしている。その生島の前に、同じアパートに住む女・綾が現れる。綾にひかれた生島は「この世の外へ連れてって」という一言に誘われて死出の旅路へと向かい、赤目四十八瀧を登っていく。
 昨年度の映画賞を総なめにした作品。昨今のさっぱりした映画と違い、濃密である。描き方が油っぽく、二時間四十分はかなりきつい。しかし、その独特の世界観は他の作品を圧倒する。尼崎に住む底辺の人々、生島の疎外感、綾のかれんさ…。
 寺島しのぶの体当たりの演技が素晴らしい。大楠道代や内田裕也らの演技も個性的で存在感がある。映像は尼崎の吹きだまりの雰囲気をうまくとらえているほか、後半の赤目四十八瀧の映像美が圧巻だ。決して見やすい映画ではないが、一見の価値はある。(酒井)


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