参加者:酒井、笹原、杉尾、野口、林田 書記:鬼束
2002年最初の映画談義、お題は『ハリー・ポッター…』と『赤い橋の下…』。一見、子供用と大人用、対照的な作品が選ばれた。よゐ子のみんなはもう見たのかな? それでは、いつものようにのらくろと。(注:「のらくろ」は例会の後、二次会で行く居酒屋さんの名前です)
アメリカ 2時間32分 出演:ダニエル・ラドクリフ ルーパート・ブリント エマ・ワトソン マギー・スミス アラン・リックマン リチャード・ハリス 監督:クリス・コロンバス
鬼 束 あまり面白くなかったんですよね。メインのストーリーがはっきりしてなかったんですよ、最後。賢者の石って結局何やったの?とか、何のために守ったの?とか、あのニコラス何とかって600才くらい生きてた人は何やったの?、悪い奴の目的は? そういうのが何もなくて、特撮を見せたかったのか、不要と思われる部分が多くて、メインのストーリーが説明不足でなおざりになっていたと思いました。ああいう特撮で喜ばせようというのは、幼児か小学校低学年くらいだったら喜ぶかもしれないけど、それより上の子供は別に面白くないんじゃないかと思うんですけどね。ストーリーを面白くしないと。おばさんの家族にいじめられるところはよく作ってあったんですけど、あそこもやはり長いかなあ。いいんですけどね、あそこはね。でも、全体が長いですからね、そこを考えるとですね。C・コロンバスだからあんなもんかなあとは思うんですけど。あ、結局ターバンを巻いた奴が悪かったというのは、アメリカにはやっぱり同時多発テロの前からビンラディン氏の脅威があったのかなと思いました。(野口さんから、このターバンについては、原作ではきちんと理由があったということでした。)ホウキに乗ってゲームをするシーンが、『スターウォーズ エピソード1…』のレースシーンのスピード感に似ているなと思ったんですけど、あれに及ぶべくもなくですね。ビビッときた台詞として、正確ではないですが、「この世には善も悪もなく、力の強さを求めるものと力が弱いままでいい(とあきらめる)ものがあるだけだ」「お母さんは君を守った時、印を与えた。それは(額の傷ではなく)見えないもの−愛−だ」というのがありました。
酒 井 人気先行型で、残念ながらその人気に対して映画のほうが追いついてないんじゃないかなという感じはしました。もうちょっとクオリティが高ければよかったんですけど。まず、問題点はやっぱり長いんです。子供用で大人も見れるというのですけど、子供を中心とした話の場合に2時間半はとてももたないですね。もっとストーリーのエピソードを削って焦点を合わせる必要があります。前半はもったんですけど、後半になるとダレてくるんですよね。ストーリーが散漫になったために、敵に対して集中できる部分が非常に少なくなってきて、謎を持たせながら最後にあっけなくやられてしまったので、ちょっとガックリきたという点があります。細かいところとか特撮は、僕はよく出来てると思うんですよ。だから、ある意味では、子供向けの作品としてはクオリティの高い作品じゃないかなという気がします。映画の雰囲気、特にイギリスの雰囲気とかスコットランドの雰囲気はよく出てましたね。そこらへんがやっぱり非常に上手いと思いますね。ここまでヒットするような作品じゃないんじゃないかなと私は思いますけども、くだらない作品でもヒットしないよりはヒットしたほうがいいので、ええ。(笑)。ただ、ひとつしゃくだったのは、12月に大阪で『ピストルオペラ』を見ようと思ったんですけど、『ハリー・ポッター…』の大ヒットでひとつの映画館が全部『ハリー・ポッター…』になってしまって、『ピストルオペラ』がどこかに消えてしまって見れなかったので私は非常に悔しい思いをしました。(笑)
林 田 本が人気があって、その読者が見に行くということですよね。
杉 尾 元旦の映画の日に家族を誘ったんだけども、誰一人行くと言わずに(笑)。1000円ポッキリで楽しんでは帰ってきました。映画の感想は、やっぱ前半だけかな面白かったのはですね。ぐいぐい引き込まれていって。駅のところで壁をすり抜けていく発想とか面白かったですね。魔法の世界も暗い世界じゃなくて、ちゃんと太陽がさんさんと照ってて夢をみるような感じで。魔法学校も『千と千尋…』の湯屋を洋風にしたような感じで。(笑)迷路があって、私も迷い込んでみたいなって思いながら見ました。でも、やはり後半はダレてきて、鬼束さんも言われたけど、賢者の石が何じゃろか?って思って、あれがあればどうなるんだろうとか思うもんだから、全然気持ちをもっていけないっていうかね、どれが悪者かっていうのもあまりはっきりしなくって。この人(A・リックマン)は、『ギャラ…・クエ…』のトカゲヘッドで途中ですごくうれしくなりました。(笑)
笹 原 A・リックマンは、『ダイハード』の悪役(テログループのリーダー役)で有名になりましたね。
杉 尾 やっぱり小学校低学年とかには、すごいもってこいの映画だと思いました。映像的にはすごくきれいで面白かったです。
林 田 私はイギリスにたった3日しか行ったことがないんですけど、その時はツアーとかじゃなしに一人で歩いたんですよね。イギリスが憧れの街なんです。イギリスで暮らしたいとか夢物語に思ってるんですけど、そういう意味ですっごく面白かった。イギリスらしさがものすごく出てて、学校に着くまでは本当にイギリスを歩いているような感じで面白かったんですね。見ているあいだは、筋とかお話とかは二の次だったような気がします。ただ雰囲気が好き。キングクロス駅のあたりを歩いたので、何かワクワクして。お話そのものは意味不明でいいのかな?って思ったんですけど。理屈はもうどうでもいいのかな?あんまり、これがこうでこうでという理屈じゃなくて、シンデレラにしても何にしても理由はなくなるでしょ、カボチャがどうとかとか、あんな感じでもうどうでもいいのかなって私は思ったんですけどね。おとぎ話として面白い。ただ、やっぱり悪者が出てきたりとかいうところは半分寝てたかもしれない。(笑)どっちがどうでもいいやって感じで。世界中でベストセラーになったというその理由はどれなのかなって、本を読んでないので。そういう意味はちょっと、どこでこれがそんなに人気があるのかなあっていう気持ちはありましたけど。
野 口 原作をつい最近いっぺんに読みまして、それでまあ『ハリー・ポッター…』ヒットして映画は面白いのかなって気になったくらい原作は面白かったです。いろいろ噂は聞いてたんですが。映画のほうは、正直言って中途半端だというのを感じました。どこがというと、原作のほうはディテールを大事に大事に積み重ねていったうえでの冒険物語なんですよ。だから、ファンタジーもリアルさが出てる。だから、子供ものめり込むんじゃないかなっていう感じが私はしたんですが。映画のほうはですね、筋をなぞってるだけで、リアリティを求めるためのディテールにあまり気を配っていないような感じがちょっとしまして、ハリー・ポッターとその友達っていうのを、原作のほうは友達関係をすごく細かく描いてるんですよ。そういうのをもうちょっと出してもよかったんじゃないかなっては思いました、長いんですけど。でも、いらないエピソードはいっぱいあるし。ただ、話の筋を変えちゃったり、ヘタなところを削っちゃうと原作ファンが怒るって、これ作るの大変だったかなっていう気もちょっとしたかな。ホウキにのってゲームをするシーンとか、最後のチェス盤のシーンとか私は結構好きでした。あと一個言いたいのが、ハリー役の男の子、みんないいって言うんですけど、私はいまいち物足りないんですよ。赤毛の子が表情がコロコロ変わっていいですよね。(笑)だから、ハリー負けてるじゃんていう感じが物足りなかったです。
笹 原 原作のイメージと違うっていうこと?
野 口 そうですね。原作のほうは、もうちょっと自分でいろいろ考えて行動してたんですけど、映画のほうは、結構女の子がこうじゃないかって引っぱったりとかしてるところもあって、何かこいつはいまいち頼りねえなって、そんな感じがちょっとし過ぎたきらいがあります。
笹 原 私もやっぱり長いということが一番のあれですね。家族で行ったので仕方なく吹替版を見たのですが、前半のホウキに乗ったゲームのシーンと後半の敵討ちかな、二つに分かれてしまってるんですよね、完全にね。その辺がちょっときつかったかなって気はしました。半分もう終わったかなって思ったらまた次の話かっていうような感じもあって、ただ、私はイギリスには行ったことはないんだけども、非常にイギリスの雰囲気好きなんで、あの人らの着ている服までパブリック・スクール系の服でさ、ああイギリスだなって最初から最後まで思いました。助演の女優、男優はほとんどイギリス系揃えてるでしょ。M・スミスにしてもA・リックマンにしてもね。その辺がね、もうそうそうたるメンバーなんですよ、この助演のメンバーはね。そういう意味じゃちょっと面白かった。A・リックマンを起用したってのは、こいつが犯人だなって思わせる、これひとつのひっくり返しだなっていう感じはしたんですよね。あの人悪役しかやってないから。もう、憎くてたまらんていう感じ。だからそういう意味で僕らも、あ、意外な犯人っていう具合にね。面白くないことはなかったんですけど、まあこんなもんかなって。今回課題作にしたのは、やっぱりそれだけ話題になっているし、ちょっとみんなの聞いてみたいなっていうのがあったものですから。ちゃんと続編を考えた作りになってます。
鬼 束 今、話を聞いてて思ったけど、映画も原作に負けないようなのを作らないと、決まったように本はいいけど映画は面白くないって言われる。
笹 原 だから、思い切って裏切って作るくらいあるといいんだけど、そこら辺は許されないんだよね、やっぱり商売やからね。難しいわね。
林 田 本は自分勝手に素晴らしいものを想像しちゃうから…
杉 尾 それをビジュアルにするっていうのはなかなか。
酒 井 今年の正月映画って、やたらお子様向けが多くって面白くないんですよね。(笑)
鬼 束 毎年そうやっちゃけど、今年は特にひどい気がする。
野 口 『ハリー・ポッター…』のせいって言えばせい。
杉 尾 幼い頃に魔法(使い)にあこがれて、ホウキをまたいで遊んだ記憶があるんですよ。(笑)あの頃見てればすごかっただろうなあって思う。
酒 井 僕は子供にホウキを買ってやろうかって言ったらね、掃除させられるから嫌だって言った。
一 同 (大笑)
杉 尾 子供が見ると面白いんじゃないかと思う。
日活株式会社 119分 出演:役所行司 清水美砂 北村和夫 倍賞美津子 北村有起哉 不破万作 中村嘉葎雄 夏八木勲 小島聖 ガダルカナル・タカ 高田渡
監督:今村昌平 脚本:冨川元文、天願大介、今村昌平 撮影:小松原茂 美術:稲垣尚夫 照明:山川英明 原作:辺見庸 音楽:池辺晋一郎
鬼 束 今村昌平監督は、このあいだ『楢山節考』と『カンゾー先生』を見て、性の解放みたいなのを描かれてるんですよね。再びそれを扱われたということで。良かったですよ、役者もいいし。でも、なかなか話すのが難しいかなあという。3人の釣り人がいましたよね。あの人たちが、『かあちゃん』の4人組と同じような役回りという感じで良かったんですけど。高田渡さんが、バタッと倒れる酔っ払いの路上生活者の役で出ていらっしゃいましたよね。性の解放というか、スケベなことは自然なことで基本的にはいいことなんだよということなんですよね。
酒 井 今村昌平の映画っていうのは、僕ははっきり言って苦手なんです、あの独特の世界は。でも、この作品を見て、今村昌平大監督は衰えてないなっていう印象を受けました。ただ、昔のねちっこさが、ややちょっと淡白になってきたかなって感じはするんですけども。だから、その分僕にとっては受け入れやすかったと思うんですよね。あれ、独特の世界ですよね。女性がああいうふうに潮を吹くっていうのは、普通はまずそんなにありえないですよね。これをシンボリックにしてどう解釈するかっていうところですけどね。考えれば考えるほどものすごく卑猥になってくるんですけどもね。(笑)これは何なんだってね(笑)。演技陣は、このあいだ見た市川崑の『かあちゃん』よりも全員一枚上。僕はみんな良かったと思います。上手いのは、演技陣が今村昌平の世界に全部引きずり込まれて、その中でうまーく動いているというかね、全部マッチしてるんですよね。だから、その中で誰一人として違和感のある人物ってのは出てこなくて。昔の作品に比べてインパクトは少なくなってるんじゃないかなって気はします。今村昌平が作った普通の作品という評価になるんじゃないかなと思います。ただ、ストーリーの話でこれはどうだ、あれはこうのっていうことになると結局ものすごく卑猥な話になって、何かドロドロしたそういうSEXの話になってきて、この映画は語り出すとおそらくにっかつのロマンポルノよりもはるかに猥褻でですね何かいやらしい作品じゃないかなという気はするんですけども。
野 口 正直言って、最初は結構笑いました。
酒 井 笑う映画ですよね。
野 口 笑う映画だと思います。さっきおっしゃった役者が全部ハマってるっていうのが笑いたい原因のひとつじゃないかと思うんですけど。最初、水が流れてきて魚が寄ってくるじゃないですか。あんな大量の水がっていうのと、わっ魚が寄ってるっていうので笑って、で、マラソン選手の人とか、おばあちゃんとか、釣り人さんとか皆それぞれよく考えたら、役所にしろ清水美砂にしてもよく考えたら卑猥なんだけど、全部笑うんですよ。もう、これは生命の神秘を笑い飛ばしてる映画だなって思って、さらさら受け流して見るしか私はなかったんですけど。大人の世界を語るには私はまだちょっと早い。
杉 尾 逃げた。(笑)
酒 井 逃げましたね。(笑)
野 口 はい、逃げさせていただきました。(笑)
笹 原 今回の話ってのが、特殊な、潮を吹く話なんだけれども、昔はにっかつロマンポルノとかでそういう潮吹きの話とかはあったんですよ。それはもう完全にポルノとしてね。だけど、そういうのと違って今村昌平はそういう描き方は全然してなくて、もっとカラッとした形で描いてたのがユニークだったなと思いました。私はそんなに、何かね、変な…(笑)抱くような映画じゃないなっていう気はしたんですけどね。そういう目的で描いてないからね、今村昌平は。あっけらかんと性を描いているんで、ま、それは昔からなんですけどね。確かに酒井さんが言われるように、昔の今村に比べればね、ものすごく乾いてきたなっていう。じっとりとしたねちっこさはなくなってるんですけども、逆にそれがいい面もあるし悪い面もあるかなという。この前の映画『カンゾー先生』もね、あれは久々に評価したんですけども、それも結構軽いと言ったら悪いけれどもそんなに重さがないんですよね。テーマは一貫して同じ「性」なんですけども。あそこまでやるかって。さっき野口さんが言ったように、本当に笑いが出てしまうくらいの映画なんですよね。長年今村昌平を見てる者としてはちょっと物足りない面はあるけれども、健在だっていうところがね救いかなっていう感じはしました。でも主人公たち、よくやるよなっていう感じの(笑)ね、話ですね。(笑)
酒 井 潮で魚が寄ってくるので、それに浸かってる魚はね、環境ホルモンで雌化するんですよ。−この後、酒井さんの専門分野の話がありました−
鬼 束 北村有起哉さんが、北村和夫さんの息子さんとは知らなかった。
笹 原 『日本の黒い夏…』でも凄かった。こいつは誰や!と思ったら、今回も上手いよね。あの人が出てきただけで締まるくらい。あの若さでね。
鬼 束 もろ地元の人みたいな感じだった。小島聖ちゃんが出てた、湯布院で会った。でも、全然気がつかなくて、後でチラシ見て。
笹 原 役者揃ってるもんね。今村組がまた復活したなっていう。
野 口 最後の虹には笑いましたね。
笹 原 『カンゾー先生』も最後ね。
鬼 束 最後、何か、これ本気にするなよっていうような感じで。
野 口 ユーモアですよね。
笹 原 清水美砂が鏡で合図して呼ぶじゃないですか、早く来てくれって、あそこが一番いいですよね、なかなかね。
野 口 エロチックですよね。
鬼 束 助けてやらんといかんとですよね。
笹 原 本能的なものかね。
鬼 束 人助けみたいだったけど、ま、本能的なのもあるだろうけど。
笹 原 監督、清水美砂が気に入っててね。
鬼 束 清水美砂が次も使ってほしいって、このあいだBS2で言ってた。「監督には言えないですけど」って。(笑)
笹 原 あの人色気がないからね。(笑)かえっていいかもしれんね、いやらしさがないからね。
酒 井 いやらしさがないからカラッとしている、それがね、この映画のいいとこなんですよ。あれがじとっとしてたらね、ものすごく暗くなる。(笑)
鬼 束 清水美砂やから、本当生々しくないっていう。
杉 尾 役所行司じゃないといかんということはないんでしょ?
笹 原 まあ、たまたま…
鬼 束 でも、好きやから。好きな人じゃないと…。
鬼 束 『晩菊』(成P巳喜男監督) 面白かったあ。『めし』も見たのですけど、両作品とも杉村春子さんが絶品ですね。
酒 井 『スパイ・ゲーム』 今月の一本という程じゃないけど、期待してたよりまあまあ面白かったから。しわくちゃだらけのレッドフォードの顔がなんともいえませんでした。
杉 尾 『昼下がりの情事』(オードリー・ヘップバーン主演) すごいシンプルだけど、ものすごい気持ちをつかまれるというか。やっぱり女性はほっそりしてないと最後につかんでもらえないというのが、あれでわかるというかね。(笑)ゲーリー・クーパーの片手でパッと持ち上げてもらえるくらいの体型は維持しておかないと。(笑)
林 田 『傷だらけの天使』(阪本順治監督) とよえつ(豊川悦司)が好きっていうのが大前提で、すごく良かった。
野 口 「空想科学漫画読本」(柳田理科雄 著) 「巨人の星」の大リーグボール養成ギブスに難癖をつけるとか、「北斗の拳」のお前はそんなジャンプして闘っちゃいけないと難癖をつけるとか、すごく馬鹿々しいんですけど笑うという、久しぶりにひたすら純粋に楽しい時を過ごしました。
笹 原 『バンディッツ』 最近いろいろ見た中では、ちょっと面白かった。すごい面白いということはないんですけどね。暇があったら見てみてください。
『シュレック』 『リィリィ・シュシュのすべて』 『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』『山の郵便配達』