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2002年11月号

出席者:♂ 鬼束 加賀 酒井 笹原 横山  ♀ 野口  杉尾(書記)

美しい夏キリシマ

監督:黒木和雄
出演:柄本佑 石田えり 原田芳雄 香川照之 牧瀬里穂

鬼 束 前半、寝てしまいました(笑)。脚本の松田正隆さんが書いた演劇を見ているのですが、人のどうしようもない弱さを撮るというところが、その人らしさを感じました。全体的には、映画にはところどころ(この人の脚本では)向かないなと感じました。退屈でした。ひとつには、台詞(声)が小さかったということもあります。それと、字幕がついていて、それを読みながら映画を見る分、映像に集中できなかった。(注:宮崎映画祭では、聴覚障害者にも映画を楽しんでいただきたいとの趣旨から、字幕付きで上映してました。)映像自体も粗い感じしましたね。もう一度、機会があれば、見てみたい気分はします。山の中のちょっとした空間に、宮崎らしさを感じました。主演の子(柄本佑)が不思議な雰囲気を持っているなと思っていたら、俳優の柄本明の息子だと聞いて成るほどと納得しました。

笹 原 私は非常にこの作品を買っています。最近の監督作品の「スリ」とかが、力なく感じていたし、演出も駄目だなァと思っていたんですけど、今回は、良い意味で大変チカラが入っていて良いと思いました。自分の体験を基にした題材だったし、監督が心から撮りたいと思っていた作品だったということもあるかと思います。今まで、この監督が撮ってきた集大成。「祭りの準備」とか「Tomorrow明日」に似ているんですけど、いろんな方向から深く描いているなという感じを受けました。役者が結構そろっていて、中島ひろ子や石田えり、香川照之など、皆良い味を出していたと思います。非常に良かった。また、見たいと思いました。

加 賀 黒木監督の集大成という感じで、おちついていて重厚さも感じるなかなか良い作品だったと思います。監督自身の経験を基に作った作品らしいけれど、幾つかのエピソードを交えながら、敗戦間近の田舎町をよく描いていると思いました。原田芳男以外は、それほど激しい演技もなく、主人公の少年役(柄本佑)の内気な性格の演技も、脇役(エンディングをみたら、見ているときはわからなかったけど結構有名な女優が出ていた。)もでしゃばらずに、それが良かったです。
 でも、陸軍の駐屯地があるのに、敵戦闘機はいつも遠くの空を編隊で飛んでいるだけだったなぁと少し不自然に思いましたね。(笑)

杉 尾 私は、黒木監督作品で一番気に入っているのが「竜馬暗殺」なので、わりと動きのあるドロドロとしたモノを期待していたんだけど、この作品は先ほどから出ているけど「祭りの準備」や「Tomorrow」の淡々とした感じの方でしたね。あと、霧島の山々のある雄大な風景があまり感じとして出ていなかったと思いました。、映画館のスクリーンではなかったからかもしれないけど、画面が暗くて、色などの印象もなかった。主役の男と子なんだけど、あの時代にしては、足、長いよね。(笑)腰の位置も高いし、あまりに美しすぎて時代を感じさせなかったのが残念。木訥とした台詞回しとか雰囲気は良かったんですけど。私は、宮崎弁とか字幕とかは、さほど気にならずに見ることが出来ました。

野 口 最初この映画を見たのが、えびの市でだったんですが、わざわざえびの市まで 行ったのに眠ってしまいました。(バイト明けだったので。笑)まず、古くさいなぁと感じが正直いってしました。ストーリーとか、見ていなくて、演出、映像、音楽しか見らずに、字幕をつける作業に入ったので、その試写会で2、3回見ています。だから、作品として見た気がしないんです。それでも、映画としては凄いなと思ってみました。人物描写が細かく、そつがない。台詞のひとつひとつにしても。‘はる’が自殺をしようとしたとき、それを助けて、苦悩する母に「(父には)黙っとればよかとじゃないと」とか言うあたりが、本音が効いていた。映画祭でこの作品を上映して良かったと思いました。この映画に関しては、上映する側にたっていたので、やはり、普通には鑑賞することが出来なかったという気がします。

加 賀 牧瀬里穂が、あの時代にしては美しすぎて、派手やったね。(笑)

笹 原 今度、牧瀬里穂来るね。(人権フェスタで、再上映がある際のこと。)

杉 尾 主人公の男の子が、前線で親友や友人達を失いながらも、自分だけ村に帰って来ているという負い目、それをどう納得していくかという、そこら辺の苦悩がさりげなかったけどよく描かれていたと思う。神と天皇を比較しての発言なんか、あの時代では、あれほどあからさまには言えなかったよね。どこまでが黒木監督の実体験なんやろか。

加 賀 親友が亡くなったというのは本当らしいよ。(未亡人なんかのエピソードもありそうだよね。)

野 口 当時、言いたかったけど言えなかったということが、凄く沢山あって、この映画の中につまっているような気がしますね。

その後、「戦争時代にしては、戦闘の場面とかもなく淡々としていたね。」「最後、アメリカ兵に突っ込んでいく場面は、なんか可笑しかったけど、あれはあれで良かったよね。」とか「CGの蝶は、やっぱ頂けないね、あんまり不自然だった。」などの感想が出ていた。


インソムニア

監督:クリストファー・ノーラン
出演:アル・パチーノ ロビン・ウィリアムス ヒラリー・スワンク

酒 井 評価が完全に二つに分かれていると思うんですけど、僕は意外と楽しく見ることができた方です。ただ、アルの雰囲気なのか本物なのか、ストーリーは今一つ面白くなかったけど、あの眠れない苦しさとかが本当によく出ていました。実は、面白いと思ったのは、その点だけです。相手役のロビン・ウィリアムスの悪役というのは、僕は初めてでこんな役もできるのかと(彼のイメージって結構出来上がっているので)思い、恐くて冷たそうなというところは、本当は、彼、そういうところも性格的に持っているのではないかと思わせる側面が、逆に新鮮だったような気がしました。
 ヒラリー・スワンクも良かった。最後のところで、アル・パチーノが正気に戻って、破綻せずに正義を思い出すところが、いかにもアメリカ的で、僕は嫌い。あのまま静かに終わって欲しかった気がします。でも、ユニークな作品、傑作ではないけど、悪くはないと思いました。

笹 原 どしても「メメント」という傑作があったので、その後ということで期待してしまったのが良くなかった。 あまりストーリー的にも面白くなくて、アル・パチーノとロビン・ウィリアムスの演技合戦というところが見せ場で、それだけだった。ひねりが欲しかったと思います。白夜の雰囲気は良かったけど残念でした。決して、悪い作品というわけではないけど、まぁ、こんなモンですかね。

横 山 面白くなくはなかったんですけど(笑)、ストーリーにひねりがなくて、ま、どうでもいいような話だなという気がしましたね。そのあと「メメント」をビデオを借りて見たんですが、ああ、こっちの方がよっぽどスゴイやと思いました。(メメントの)あの斬新さに比べると、これは、非常にオーソドックスに作ってあったかなとは思います。ロビン・ウィリアムスは、最近悪役が多いそうで、今度、ストーカーの役もやるんでしょ?、で、アカデミー賞、主演賞を取っている人が3人も揃っているのに、あまり見せ場がなかったですよね。ま、そんなところです。

野 口 とても面白かったと思います。タイトルが全然違う感じで、My知識が何もなかったので、眠れないとかそんなことがメインではなく、アル・パチーノが、嘘をついて事実をもみ消したりするのは良くないよという結論に達するまでの映画だったというのが、逆に私は新鮮でした。やっぱり、アルを見ていると引き込まれるものがあったし、ロビンもいい人そうなんだけど人間がどこかに必ず持っている狂気みたいなものが、ポッとでてきたみたいな、そういうところが良かったと思う。対照的にヒラリー・スワンクの正義感も非常によく見ることが出来た。面白かったです。

加 賀 凄く面白かったです。最初、訳ありの2人の男がオンボロの双発水上機でアラスカの田舎に着く、実は殺人事件の捜査に来た刑事だったという話の始まりが、とても期待を持たせるしいいと思いました。アル・パチーノも年を取ってもカッコいいし、同僚を撃ってしまうところを目撃されて、ぐちゃぐちゃ(神経が)になっていくところとか良かった。あんまりひねってなくて、僕は逆にいいなと思いましたけど。ロビンのキャスティングも、ヒラリーも良かったです。伝説的な刑事と三流推理作家の対決というのが、ちょっと笑ってしまうけど面白かった。でも、一番は主人公が白夜で寝不足になっていくシーンでした。最後は、やっと眠ることができて良かったと思いました。

酒 井 やっぱり、ちょっと単調ではありましたね。もうちょっと展開があっても良かったかな。それで、・・・・僕も思わず眠くなって・・映画では眠れずに苦しんでいるのに・・なんかワケわかんなくなったりして。(笑)

笹 原 でも、最初はやっぱり、ぐっと物語に引き込む力はあったと思いましたよね。導入が凄いと思った。ロビンが出てきた当たりからがどうもダメでしたね。

横 山 殺しの話でずっと続くのかと思ったら、主人公の悩みの方にいってしまうんだよね。(不満そう。)

野 口 サスペンスなのにサスペンスではない。

加 賀 犯人はすぐに分かるし、これはハードボイルドじゃないですか。

酒 井 しかし、これを「メメント」と比較するのはどうかと思いますけどね。

笹 原 この手の話は、過去に腐るほど見たし、事件ひとつだけで、別に連続するわけでもなく・・。

杉 尾 そろそろ、カナダ行きの飛行機の中から、林田さんの反撃の声が聞こえてきそうですね。


アバウト・ア・ボーイ

監督:ポール・ウェイツ クリス・ウェイツ
出演:ヒュー・グラント トニ・コレット ニコラス・ホルト レイチェル・ワイズ

加 賀 独り者の僕としては、身につまされる導入で、ちょっとブルーになりましたが(笑)、話がよくできていて、ヒュー・グラントと少年の会話が楽しかったです。
 小林聡美にちょっと似ているあの少年は、親の教育(環境)のせいか、周りとのズレで、いつも四面楚歌の状態でかわいそうでした。でも、それなりに登校拒否とかにもならず強く生きているところが、健気ですよね。面白い話で「ブリジット・ジョーンズの日記」に比べると僕はこっちの方が好きです。「やさしく歌って」とか「雨の日と月曜日は」なんていう曲を歌う小学生に会ってみたい気もします。個性的で良いと思う。歌は非常に懐かしかったです。

横 山 「ブリジット・ジョーンズの日記」を僕は大好きで、あれに比べるとちょっとおちるかなという気がしました。監督はアメリカ人ですが、非常にイギリス人らしさが(作品の中には)いろいろあって、ストーリーも単純でなく良いですよね。ホームページにも書きましたが、少年の母と、いい仲になるのかと思ったらそうではなくて、後半にでてきたレイチェル・ワイズを好きになるところとかね。ヒュー・グラントは、ちょっと年を取ったかなと思いましたけど、こういう役が向いているんじゃないかなと思いました。

笹 原 やはり、イギリス映画だな。こういうのはアメリカじゃないなと思って見ていました。特に少年とヒューとのつき合いが、ユニークで面白くてですね。少年も、また悩みを抱えていて、それに(ヒューも)拘わってしまうというところが上手く描いてあったなぁと思う。ヒューは、今回は非常に良い役でほのぼのとしていて良かったと思います。

酒 井 日本語吹き替えで見たので、ちょっと本来と印象が違うかもしれないです。皆「ブリジット・ジョーンズの日記」と比較していますが、僕は「ブリジット〜」の方が主人公の魅力で比べると随分勝っていると思います。映画自体はそんなに両方とも大したことないんだけど。で、これって、僕は設定がどうも感情移入できなくて、あの、金持ちでぶぅらぶぅらして、仕事もせずっ!女ばっかりひっかけているっ、もぉ〜〜そこで、コイツは!!ゆ、ゆるせん!!(怒)と思って、何も考えていない!もっと真剣に生きろよなっ!って思わず説教したくなりましたね。(笑)映画の方は、コメディータッチで面白かったんですが、じゃ、最後にどうなったかって、別に彼が変わった感じもなく、そんなの後ではもとにもどっちゃう感じがして、結局何だったんだろうなって、いまいち劇的な終わり方でなく、何となく欲求不満が残りましたね。好きにはなれなかったです。

野 口 本当に羨ましい生活をしているヒューはいいなぁと思いましたけど。わりとすきな俳優なので、そこはそれで楽しみましたが、なんか、それより子役の子がかわいらしく、健気で、おぅがんばれっていう感じで見ていました。お母さん思いというか、あれじゃ子供がしっかりせざる得ないよなというのが、凄く身につまされる感じがして。子供は大変だよなって思いながら。結局あの子が、逃げなかったことで、ヒューの生活がちょっと変わってきたと思いました。ヒューが本当に変わっていくのは、これからのことなんだなという気がしたんです、ラストを見ていて。人に囲まれていれば、変わることも増えてくるだろうし・・・。良かったね、がんばれよって、そういう映画でした。

杉 尾 昔からヒュー・グラントは嫌いで、全然悪もなく魅力を感じなかったんだけど、今回は、いいじゃんかと思いました。素敵な年のとりかたをしていて、ホントに良かったです。あの少年がまたいいですよね。あれじゃぁ、いじめられるだろうという格好をしていて、最初画面に表れたとき、あの眉毛、スタートレックのスポックみたいで、前髪もパッツンだし。母親がキッチンで泣いているとき、それを見るその子の表情・・、子供ってあんな感じで見るんですよね。気持ちがすごく伝わってきて。直接聞けない、こわくてとまどって・・心臓だけドキドキして。不安な気持ちに押しつぶされそうになるんですよね。母親が、子供にあんな姿を見せるのは大変な罪だと思う。重いテーマも扱いつつ、さらりと描き、かつツボを押さえた作品だと思いました。それぞれのキャラクターが愛しくて、死んじまったカモにまで同情してしまいました。 パンフレットを読んだら、脚本を書いた人が「ギルバート・グレープ」の人と同じとあって、物語の中のちょっとした非現実的な設定や印象に残る台詞に思いが込められているのを感じることに納得しました。私には、非常に肌にあった作品でした。「ブリジット・ジョーンズの日記」も好きだけど、こっちの方が余計に楽しめたです。

酒 井 ブリジットは、抱きしめてあげたくなるけど、アイツは勝手にやってろって思うっ!(あくまでも、酒井さん今回は怒っちょります。笑)

加 賀 でも、今回は少年がメインだから・・・。(笑)

酒 井 でも、少年でも、あのくらいの年になっていれば、ぐぁつんっとイッパツ喝っをいれてもいいっ!(あくまでも、あくまでも、怒りおさまりません。笑)

この映画、酒井さんの逆鱗にふれちゃったみたいで、どんどんヒートアップする酒井サン。なだめすかしつ、その他の感想。「親子関係がなんとも良かった。」「絶対にヒューはあの家族とはなじめないと思う。」「ボランティアやってたよね。なんで」「何よりも恋人役のレイチェル・ワイズがサイコウだったね。」「ヒューは、細かい顔の表情が抜群だよね。」「歌を歌う場面はどうかと思った。」など。以上、酒井サン怒るっ!の巻でした。


今月の一本

酒 井  【ピストルオペラ】

鬼 束  【とらばいゆ】

笹 原  【クレヨンしんちゃん 戦国大合戦】

野 口  【シロくまたちのダンス】

加 賀  【ノンストップ・ガール】

杉 尾  【プロミス】

横 山  【プロミス】下記横山さんからの推薦のことば

イスラエルとパレスチナの子供達を取り上げたドキュメンタリー。これは明確な傑作だ。子供達の言葉の一つ一つに重みがあり、激しく心を揺れ動かされる。テロに脅え、仕返しに脅える生活などだれも望んではいない。投石で抵抗すれば、銃殺される。死と戦争が身近にある子供達はどこか大人びているが、少女や双子の兄弟が語る「殺し合いはしたくない。もっと話し合うべき」という言葉は純粋な気持ちから発している。
 確かに相手を殺し続ければ、いつかはいなくなるとしう考え方に取り憑かれた少年もいるのだが、そんな考えがすべてではないということを示したことがこの映画の大きな価値だ。こういう映画を見ると、排他的な宗教というのは人を不幸にするシステムなのではないかと思わざるを得ない。イスラエルとパレスチナは宗教が絡んでくるからややこしい。和平のためには政治的指導者ではなく、宗教的指導書が対話に乗り出す必要があると思う。タイトルのプロミスが実現する場面の奇跡的な幸福感には涙、涙である。しかもそれで終わらず、問題の根深さを指摘して終わるあたりが賢明なところ。
 和平は簡単ではないが、希望はある。その可能性を信じたくなる。必見。 (ホームページより)

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