参加者 鬼束・加賀・酒井・笹原・林田・野口(書記)
加 賀 不思議な映画でした。四コマ漫画見て、面白さがわからなくて、作品が面白くないのか、自分に知識がないから面白くないのかわからない事があるけれど、サインも、意図が良くわからなくて。演技とか不思議な感じがしました。SFなのに特撮がないし、家族の会話・・演技がぼおっとしていて、なんだか1950年代の映画のような、不思議な感じがしました。一応、伏線とオチみたいなものがあったと思うんですけど、オチのような会話がよくわからなくて。最後までぼおっと焦点が定まらないような感じで。だから、誰かわかる人に聞きたいです。
笹 原 単純な映画だと思いました。いろんな出来事がつながっている、偶然にも意味があるんだよ、というような話だと思うんですが。主人公の牧師さんが、ある出来事があってやめて、そこにUFOが(言っちゃっていいよね?)来て、ミステリーサークルが出来て・・・で、各地にUFOが来て。そういう展開から、終末になった時に人間がどう動くか、ということを上手く描いているな、と思いました。
最初から、ミステリーサークルを解明している映画じゃないから、そこを期待した人は駄目だったと思う。これはそういう映画じゃなくて、UFOが来て宇宙人がきたときに、人間がどうなるか、って言う。で、たまたまある家族のいろんな出来事を含めて、つながっているんだよ、ということを言いたかったんでしょう。
とても良くて、2回観ました。一回見て、もう一回みたいな、と思ったから。奥さんが亡くなった時の話はこまぎれにしか出てこなくて、最後にバッと謎が解けるみたいになっていて、最後につながっていくから。あの時ああ言ったのがこうなるのか、ってわかるから。
加 賀 それは、つまり宇宙人をやっつけるときの・・・・
笹 原 そうそう。
加 賀 あれ、どういう意味があるんですか?そのまま?
笹 原 そのままです。奥さんがそういう『サイン』を送っていた、ということですから、非常に単純な映画です。そんなに深く考えるような映画じゃなくて、つまらない人はつまらないだろうと思ったけど。わたしはこの監督(M.ナイト・シャラマン)、すごく好きなんですよ。『シックスセンス』にしても『アンブレイカブル』にしても、ああいう人と違った映画を撮るって言うのは、今の映画界ではすごく貴重な存在だと思っているので。ああいうのをずっと取りつづけてほしい。 やっぱり少し目先を変えた奴じゃないと、ストレートな映画はもう面白くない。結果的に、面白いか面白くないかは別として。
加 賀 あれ、変わってますか?
笹 原 普通の奴なら、ミステリーサークルの話になるところが、それが単にきっかけで、メル・ギブソン一家の話になって、しかも宇宙人が出てUFOがでて・・変わってると思います。わたしは、どうせ観るならこういう映画が観たいです。
酒 井 観た後に、「ばかやろう」と叫びたくなった人が何人いたでしょうか?わたしもその一人です(笑)途中までは、すごく盛り上げ方はうまくて、ミステリーサークルのあたりで「くるぞ、くるぞ!」とものすごく期待させるんですが、出てきた宇宙人があまりにもちゃちいこと(笑)なんだか三流映画の宇宙人みたいで(笑)そこでもう映画が持っていたイメージが音をたてて崩れていきました。何だこれは!と思いながら、それで引っ張っていくところがなんと言うか、馬鹿馬鹿しいと言うか・・観終わった直後は「ばかやろう」と叫んだんですが、一ヶ月くらいたってちょっと変わってきて、これはあまり深刻な映画ではなく、パロディなんだと(笑)『サイン』と言うのは「兆候」と言う意味ではなくて、サインコサインタンジェントのサインではないかと(笑)そう思うとなんとなく納得するような、そういう映画でした。
演出は上手いですよね。持っていき方とか、途中まで『次に何が起こるんだ、宇宙人が来たぞさあどうする!』って言うのが上手いだけに、せっかくの宇宙人が水に弱いと言うあの情けなさ!
笹 原 前半に伏線があったでしょ?
林 田 水に弱いって、水につけるわけ?
酒 井 そうそう(笑)
加 賀 それが、シドニィ・シェルダンみたいで、なんかね(笑)
林 田 水を飲まない動物なの?
笹 原 まじめに考えれば、地球を狙ってるんだけどね(笑)
野 口 ストーリーがわからなかったんですけど、要するに、宇宙人が侵略してきて、それを・・・
酒 井 そうそう、やっつける話。で、やってきた宇宙人は地球に水がいっぱいあるので『これは住めない』と思って帰っていくって言う(笑)
笹 原 だから、ミステリーサークルは水のあるところにはできないよね。
林 田 ミステリーサークルは自分たち(宇宙人たち)で作るんでしょ?現実にもあるわよね。
加 賀 それはイタズラ。
笹 原 まだ解明されてないからね。人間に一晩でできるものでもないし。
酒 井 大体、宣伝とかパンフレットとかは豪華で、『ついに謎が解明された』とかそんな大仰にしていて・・
笹 原 アンブレイカブルもそうでしたよね。
鬼 束 「開けるな」とか書いてありましたよね。
笹 原 ある意味映画も見世物だから、そういう面白さもあっていいと思います。仕掛けと言うか・・。
酒 井 みんなが「大馬鹿やろう」って叫んで、監督だけは「二ヒヒ」って笑ってたりして。
笹 原 前半の出し方は本当に上手かったと思いますね。畑の中を、メル・ギブソンが、こう・・ちょっと見えるじゃないですか。それから、ブラジルの映像があるでしょ。「ブラジルから映像が送られてきました」って言う。あれは上手いよ、はっ!て出て来て。
酒 井 その感じがドッキリカメラみたいで。
加 賀 出だしは、登場人物が一人一人出て来て、主人公とか子どもが出て来て、で、奥さんは出てこなくて。奥さんは死んだのかな、って出し方をして・・
笹 原 最後に奥さんが何で死んだのかがわかる、って言う。そういう映画を、ミステリーサークルの話として宣伝していて、あの話というのが大好きなんです。
鬼 束 特に前半の映像が、わざと汚くしてるのかな、という感じで観てたんですけど、後半はきれいなのを持ってきて・・あれは、時代的なものを出そうとしたんだと思うんですよ、ギャングの世界って言うか。全然知らないで観に行ったので、最初トム・ハンクスが銃を持っていたから、ケンカの話かと思ったら(笑)ギャングの話で。ああいう序盤の持っていき方が上手いな、と思いました。
ギャングの殺し合いの話で、ストーリーが展開して、だからなんだろうと思いながらずっと観たんですけど、最後のほうで、「父さんの願いは僕に同じようになってほしくないこと。銃に触ったのはあれが最後だった」って言う台詞で、ああこれがテーマなのかな、って。やっぱり銃はなくしてほしいよね、って言う。ここで監督と共鳴できたから、この作品は好きになれました。
トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウが熱演しているんですけど、こういう単純なテーマなんですが、その熱演がテーマに力を持たせているな、と思いました。ジュ―ド・ロウの死体を写真に撮る殺し屋、って言うのがちょっと常軌を逸していて、ラストのトム・ハンクスを撮ろうとするところが異様な感じがあったので、何か表現したいものがあったのかな、と思ったんですが、まあ、異様さだけが出せればよかったのかな、と言う気がしました。
観た後に、雨のイメージが強く残りました。ポール・ニューマンが年寄りっぽく見えなくて良かったです。もう年取ったじじいのポール・ニューマン、って何かで言ってましたけど、それだったら観たくないな、って思っていたので、その点は元気いっぱいでとてもよかったです。
ちょっと引っかかるところもあって、ラスト近くで、教会でポール・ニューマンの後ろにハンクスが難なく近づけていたり、カポネのお金を奪うシーンがするすると描かれていたり、多少はしょったところもあって、わざとああいう描き方をしたらしいんですけど、まあ許せるかな、と。パンフレットのプロダクションノートを読むと、ハンクスの原作を読んだときのイメージとか、ジュ―ド・ロウの役のイメージとかストーリーの解釈とかが、すごく深いんですよね。あれだけ深く解釈しているから、演技がしっかり・・充実してるんだろうな、って。あの三人の演技を見ているだけでもう言い、って言う感じで。
あと、最後のハンクスが撃たれるシーンは、「やっぱりね」って言う感じで。後ろにいたカップルの女の子も「やっぱりね」って言ってたんですよね(笑)振り返って考えると、やっと辿り着いた幸せを打ち壊す、って言う意味で、銃のひどさって言うのを感じさせる、象徴するようなシーンだったのかな、と思います。
加 賀 話は、ギャング映画ということで、それほど目新しくはなかったんですけど、完璧な映画かな、と言うふうに思いました。普段映画を見るときは、割とぼおっとして観るんですが、今回はぼおっとしてみながらも映像がすごくきれいで、特に最初の工場の中を覗く男の子のシーンとか・・。雪の白さと、どろどろに汚れた工場の壁とか、歩いてる人たちの白と黒の感じとかがすごくきれいだな、と思って。最初から最後まで、映像はすごく良かったな、と思います。
話は別にして、トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウの三人がすごく上手く描けてましたね。トム・ハンクスが伝言を持っていって、殺されかけて逆に殺すっていう緊張したシーンとか、男の子が犯人の顔をガラス越しに見るところとか、すごくポイントポイントが上手いな、と思いました。
ラストは、やっぱりたぶん殺されるんだろうな、と思ったらそのとおりで、そうだったんですけど、男の子があの老夫婦の家に行って、幸せに暮らせる、というところでちょっと救われました。最後のあのトム・ハンクスのシーンは、プライベート・ライアンに似てましたよね、なんか感じが。
久々にいい映画を見た、と思いました。
酒 井 本当にすばらしい映画だったと思います。アカデミー賞の最有力候補ではないでしょうか。お話は、最初の10分くらいを見るだけで、最後まで大体わかるんですよね。そういう意味では、この作品はストーリーでわくわくさせるとか、そういうのではなくて、演技とか、スタッフの技術力の高さとか、そういうので引っ張っている映画だと思います。そういう、お話が最初に見えちゃうから面白くない、って言う意見もあるんですが、僕はそうは思わなくて、わざとそういうお話にして、別のところでみせるところをいっぱい作っていると言うことだと思います。印象に残るところはいっぱいあるんですけど、やっぱりあの白と黒の、画面、カメラがやっぱり一番きれいですよね。で、演出が凝ってますよね。ものすごく独特な映像美というか。それがやっぱりすごいと思うし。そのなかで、役者さんがほとんど完璧に近い演技をして、その役割をものすごくうまく果たしてますよね。だから、どれをとっても非常に平均点が高い作品だと思います。
二時間きるか、そのくらいの作品なんですが、これで行くと後20分くらいは我慢できるんじゃないか、という感じで、ちょっと早く終るにはもったいない感じでした。僕もやっぱり、(カポネの預金の強盗のところは)はしょってるんじゃないかな、と思うので、そこをもっと丁寧に描けばもっと面白かったんじゃないかと思うんですが、まあ、演出する人の意図があったんじゃないかと思います。
一番いただけないのは、やっぱり題名ですね。「ロード・トゥ・パーディション」、これは何のことかわからないですね。「地獄への道」となるんでしょうが、ここのニュアンスが、英語圏の、キリスト教圏の人にはぴんとくるのでしょうけれども、日本人にはとてもぴんとくるようなものはないですよね。辞書を引いてもあんまりそういうニュアンスは伝わってこないし。ちょっと、もうちょっとまともな題名はなかったのかな、って、僕はそこが一番引っかかってるんですが。日本の子連れ狼をベースにした、という話もありますから、「地獄に行くぞマイケル」とかって副題があったらね(笑)
加 賀 たしか、二人が向かってるおばさんの家の地名がパーディションじゃなかったですか?
酒 井 引っ掛けるためにこうしたんでしょうね。結局、ポール・ニューマンもトム・ハンクスも人を殺していて、自分たちは天国にいけないことがわかってるんですよね。
そこで、最後に自分の息子たちが銃を使ったか、というところがポイントで、使ってない、撃たなかったというところで、トム・ハンクスが死んでいくって言う。そういう、自分たちはもう天国にはいけないけれども、自分の子どもにはやっぱり行ってほしいと。そういう主題が非常に伝わってきて、そのあたりの線の描き方がとても上手いんじゃないかな、と思います。
ポール・ニューマンのほうも、親子の葛藤があり、トム・ハンクスにもそういうのがあって、それで動くんですよね。そういうのは非常に上手く演出されていたと思いますね。とてもわかりやすいんですけれども、力強く、説得力のある映画で、非常に堪能しました。
笹 原 今、聞いてはじめてわかりました。自分たちが天国にいけないから、子どもには、って言うテーマが、今良くわかりました。私もこれは、完璧な映画だと思うんですが。特にコンラッド・ホールの撮影なんですけども、この人の代表作に「明日に向かって撃て!」があるんですが、実は私は10回くらい観てるんですよ。半分はビデオで見たんだけれど。最初の頃はストーリーとか、役者が好きで見てたんですが、もう半分くらい見ると、やっぱりカメラがすごいです。それだけでも引き込まれていきますね。それ以来の代表作になるんじゃないか、って言うくらい、今回の作品はすばらしかったです。
もちろん撮影だけではなくて演出も良かったし、役者がそろってますね。特にポール・ニューマンなんかは、ほんとにもうだいぶ歳なんだけれども、しっかりした役で、トム・ハンクスも殺し屋とかはやったことがないから向いてないかな、と思っていたら様になってるし。
それと、私がこの映画で思ったのは、長男の話なんですよね。結局、トム・ハンクスが言っていたんですが、長男っていうのは自分に似てるんですよね。やっぱりちょっと疎んじてしまうし、自分と同じになるんじゃないか、って言う不安があるんですよね。私なんかもそうなんだけど、どうしても長男は似ていて、次男は似てないもんだから、次男をかわいがったりしてしまうんですよね。それが良くわかって。それで長男が残って次男が殺されて、っていうのは、象徴的な感じに思いました。そういう意味でも、考えさせられる映画でした。
後はだいたい言っていただいたとおり、文句なしの映画でした。
野 口 やっぱり「映画を観たな」と思える映画でした。全部言われちゃったんでいうことがないんですが、ほんとに。映像がきれい、というのもあるし、視点がすごく凝ってるな、って言うのもあるし。目線が良いですよね。演出を際立たせてるというか。それやったのはカメラの人と、演出の人と、監督とが決めてやったんでしょうけれど、あれだけ完璧に引き込まれてしまうと、なすがままになってしまうな、と思いながら最後まで見て、最後のほうはやっぱり、「きっとこの辺でジュ―ド・ロウが出て来て、こんなふうに撃たれるんだ」って想像がつくんですけど、すごく心地いい感じでしたね。
最終的に、男の子は天国に行けるかもしれない可能性を残して終ったわけで、すごく良かったな、って思いました。なんだかもう言う事がないです。
酒 井 観終わったあと、やっぱりハリウッドの映画っていうのはトータルしてみると、いい作品を作るなって思いますね。さすがに世界中の才能を集めてあるな、って言う感じがしましたね。
野 口 技術力がものすごいですね。
酒 井 やっぱりお金をかけて、いい俳優を集めてきて、ってすればここまでやれるんだな、って。最近のハリウッドの映画であんまりなかったですから、久々に「やっぱり映画はハリウッドだな」っていうのを感じましたね。こういうのはハリウッドじゃなきゃ、お金かけなきゃ駄目だな、っていう。
観終わったあとの満足感、充実感ですね。そのまま立ち上がりたくない感じ。最近の映画ではなかなかないですね。
結局全部がいいものだから、お話が一番ヤワに見えるんですね。どんでん返しとかを期待するようなものじゃないから。正攻法でいったのが良かったんじゃないでしょうか。
ポール・ニューマンは年とってくると良くなってきますね。
野 口 マフィアのボスがポール・ニューマンでよかったですよね。伝統を背負ってる感じで。
鬼 束 「評決のとき」ではかなり歳をとってる感じだったんですよ。あれからだいぶ経つから、大丈夫かな、って思ったんですが。かえって若返ってるような。
酒 井 あれはやっぱり、歳をとらないと出来ない演技ですよ。
鬼 束 テーブルをたたくシーンとか、ものすごく迫力ありましたね。
野 口 ジュ―ド・ロウはどうでしょう?すごく好きだったんですが。
加 賀 いやらしい感じが良かったですね。
酒 井 ものすごく上手いですよ。
野 口 キャラが際立ってるから、へたくそな人がやったら浮いちゃうだろうな、って感じだったから。
酒 井 あの三人の中では、トム・ハンクスが一番地味になっちゃいましたね。もう一人のあの悪役も良かったですね。
笹 原 ジュ―ド・ロウは「A.I.」もよかったよね。
映画がちょっとあれだったけど、上手いよね、やっぱり。
林 田 いろんな役をするわよね。
野 口 美形俳優ででてきたのに。「リプリー」ですごいな、って思ったんですよ。
笹 原 監督のサム・メンデスは「アメリカン・ビューティー」でアカデミー賞をずらっと撮ったけど、フロックじゃなかったですね。もともと舞台の演出家なんだけど、映画も、まだ二本しか撮ってなくて、下手すると二本とも作品賞ですよね。
酒 井 驚いたのは、映画的な演出をものすごく心得てるんですよね。舞台の演出家なのに、映画のことを1から10まで良く知っていて、映画的な演出がものすごく良く出来てるんですよね。あれがやっぱり、すごいな、と。
野 口 映画好きだったんでしょうね。
林 田 なんだかこのごろのハリウッド映画に嫌気がさしていたので行かなかったんだけれど、どうせたいしたことないかな、と思ってたんだけど。
笹 原 ハリウッドの良い面が出たんですね。
酒 井 どこで止まっても絵になりますよ。
笹 原 これは自信を持って人に薦められますね。
鬼 束 ブラックユーモアの作品と聞いていったんですが。そうだったんですけど、大笑いするのかと思ったんですがそうではなくて、くすっと笑うようなところがいくつかある映画でした。一番おかしかったのは、地雷処理班の人をさして、「一度(地雷処理のとき)ではなくて2度失敗したら死ぬんだ」職業選択で一度失敗してるからそう言うんですが、そこがおかしかった。ボスニア・ヘルツェゴビナの状況をもうちょっと詳しく知っていたら、ごちゃごちゃっとしたところもちょっとあったので、その辺もわかりやすかったのかな、と思ったんですが、セルビア人の・・・ああいうのがあったのを途中で思い出して、ああそういえばそうだったな、って。でも、ほとんど退屈せずに見せたから、やっぱり脚本は見事だと思います。
地雷を踏んだまま、寝かされた男の人を残したまま、って言うのが、なんか悔しいな、と思って。やっぱり、戦争批判というか。そういう無意味さみたいなものを表現してるというようなことをチラシで読んで、そうだな、って思ったんですが。
内容が重い割にはそう暗くも重くもならずに、いい感じで仕上がってると思います。
林 田 今日はじめて出番が来ました。最近ちょっとハリウッド映画に、音は大きいわ、もう「どうだ!」という感じの映画が多くて嫌気がさしていて、「ロード・トゥ・パーディション」を観なかったのもそのせいなんですけど、その反動かこの映画はすごく「映画を観た!」って感じでした。
ほんとに面白かったんですけど、内容的には辛い映画ですよね。戦争映画ですし。内紛、って言うんですか?今、もう少しわかってれば、とおっしゃったけれど、結局私たち日本人には良くわからないんだと思うんですよね、本当の意味は。隣同士の人がある日突然敵・味方になって、セルビア人と、ボスニア人、結局見た目もいっしょですよね、そんな人たちが戦争になるとあんなふうになるのかな、って言うのと、人間って、いろいろ考えて深刻ぶってても、結局やってることはおかしい、馬鹿らしいような、動物かな、って言う。最後は笑うしかないかな、って言う感じでした。いろんな意味が入ってると思うんですけど、とにかく、声を殺してずーっと笑ってました。国連軍がバアッてやってくるシーンとか、すごくでっかい戦車が出てくるシーンも面白かったし、ドイツ人が時間にぴったりだ、とか言うところも、ああドイツ人って私たちが考えてるのとやっぱり一緒なんだなあ、とか。いろんな意味で、ほんとに人間っておかしいなあ、って。最終的にはやっぱり笑える動物かな、って思いました。
悲惨な話はいっぱいあるし、結局あの(地雷の上に寝てる)人も最後には死ぬわけよね。寝返り打って、たぶん死ぬんだろうけど、それでもなんか、ほほえましいというか。すごく面白い、楽しめた映画でした。
酒 井 キネマ旬報誌で一位になるかならないかぐらいの、批評家さんうけは高い映画じゃないかと思います。非常にユニークで面白くって、楽しめた、というか、説得力のある作品だと思います。
あの地雷というのが、紛争のシンボルだと思うんですね。国連軍がわっと来て、これを何とかしよう何とかしようとしながらも結局なんともならない、と。これはヨーロッパで起こっている紛争のシンボルだと思います。みんなでガチャガチャ言いながら結局どうにもならなくて、放置せざるを得ない、という。さらにそれも、最初はほっとこうといいながら、マスコミが騒ぎ出したらみんなでワーッと行くような。物凄く、今の現代の社会の構造を皮肉ってるんですよね。
僕はすごく面白いのと、半分怖さを感じました。要するに、こういうふうにしか、世の中動かないのかなという感じがしたんですね。それを物凄くリアルに、皮肉っぽく語ってるのが面白いですね。あと、登場人物のそれぞれの位置付けですよね。ヨーロッパの国の、多国籍軍ですから、イギリス人が出て来て、フランス人が出て来て、ドイツ人が出てくるんですね。全部みんなが持っているイメージどおりのフランス人、イギリス人、ドイツ人なんですよね。そこらへんも半分皮肉で、そういうのが物凄く笑えるというか。みんなのイメージどおりだから。わざとそうしてると思うんですが、そういうのがすごく面白かったです。
林 田 最初に、「英語がしゃべれるか」って聞くんですよね(笑)あれもおかしかった。
酒 井 そうそう。映画というものの可能性、というかなんというか、そういうのをやっぱり別なレベルで語ってる作品だと思います。
笹 原 やっぱりブラックユーモアで、非常に皮肉が利いていて、ほんとに、笑うんだけれどもやっぱり怖いな、というのがずっとありました。途中で、国連のフランス人が出てきたところからがまた面白いんですけれど、彼だけがホントの心を持っているふうに描いてますよね。それがちょっと気にはなったんですけど。
ここまで茶化していいのかな、って言うところもありましたよね。国連の、ヘリコプターで来たえらい人にミニスカートのお姉ちゃんがついてたり、いかにも、っていう感じで。でもそこまでやらないと、っていう感じがあったのかな、って気がしました。
林 田 あのフランス人の人はすごくいい人だったわね。
笹 原 正義感にあふれてね。さすがにアカデミー外国語映画賞とか、カンヌ映画祭とかで取ってますね。それだけの映画ですね。
林 田 もう取ってるなら、来年は関係ないわね。
笹 原 おととし位の映画ですよ。もう関係ないですね。
酒 井 あと取ってないのは、キネマ旬報のベストテンだけ(笑)三番までには入るでしょうね。芸術性というより、メッセージ性があるじゃないですか。
野 口 芸術性とは無縁かな、という感じはしましたね。ただその、メッセージ性というのも私はあまり感じなかったんですよね。人間のおかしみっていう感じで。確かに国連軍、面白いし、茶化してるところ、面白いし、人種的なジョークはすごく笑いました。やろうとして出来ない、もういいやほっとけ、みたいな面白さはすごく感じました。でも一番面白かったのは、あの、敵同士、地雷のそばに放置され、外に出ることもかなわず、仲間の一人は死にかけていて、そういう状況で、何とかして解決しよう、ってならないんだな、っていうところで。敵同士っていうのはあるんだ、って。というのを思いつつみていたら、結局最後には、「おまえが最初にやったから俺はやり返したんだ。だからやり返して殺してやる」みたいな、人間的なケンカになっていって、それを見ていて、戦争ってこういうもんかなって。なんか、おかしいんだけど、こういうおかしさでやっていくと、面白いんだけど、いいのかな、みたいな。そういう感じでした。
林 田 一回仲良くなりかかったでしょ?
野 口 そうそう。それが・・・
林 田 その気持ちも良くわかって、ああうまくいくのかな、って思うんだけど・・・
野 口 共感得て、仲良くなって、やっていこうとするんだけど、ちょっとしたきっかけで崩れちゃう、っていう。主義主張とか、人種とか文化とか関係なく、こういうもんだな、人間って、という面白さのほうが、私としては際立っていました。
酒 井 やっぱり脚本が面白かったんじゃないでしょうか。お話が。撮影がどうの、演出がどうのという話じゃないですよね。
林 田 戦争ってすごく悲惨なものしか想像しないけど、側によって見るとあんなものなのかも・・・
野 口 個人個人の集合が、国なんだなあ、って。
笹 原 二人でこう、裸になってさ、旗を振って、あこれは上手くいきそうだな、って思ったんですけどね。
酒 井 ポスターになってたとこですよね。
林 田 いろいろ知恵絞ったのにね、あの人たちも。
鬼 束 「東京物語」「北限の猿」 見直してみて、やっぱり良いなあ、って。何度も観ないとわからない良さがあります。
加 賀 「KT」 お金かかってない映画だけど、まずまず。ラストがちょっと中途半端で、はっきりしてほしいと思ったけど。
林 田 「ラブソング」 恥ずかしいけど、また見たんですけど、やっぱり良かった。マギー・チャンです。
酒 井 「たそがれ清兵衛」 皆さんぜひ見てください。ここ数年の邦画の中でも最も優れたものの一つになると思います。
笹 原 「たそがれ清兵衛」 過去の時代劇の傑作、いろいろあったけれど、それに並ぶ傑作です。
野 口 「凶気の桜」 いい出来の青春映画だと思いました。