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2003年4月号

出席者 野 口、酒 井、笹 原、矢 野、林 田、杉 尾、横 山  書記 加 賀

レッド・ドラゴン

監督:ブレット・ラトナー 原作:トマス・ハリス 脚色:テッド・タリー
出演:アンソニー・ホプキンス エドワード・ノートン レイフ・ファインズ エミリー・ワトソン

酒 井 これで、このシリーズ3作目なんですけども、2作目の「ハンニバル」よりは、こちらの方が面白かったというか、スリラーとしてきちんと形をなしていた気がします。レクター博士の話を強調しすぎているから、実際にはそんなに話としては関係ないんですよね、まぁ、所々でアドバイスを受けるというような話なんですけど。実は映画観る前に原作読んだんです、そしたらねほぼ原作どうり非常に忠実に描いています。ですから原作のイメージが、ものすごく映画にでてます、そういう意味では上手くいってるんじゃないかと思います。やっぱり「羊たちの沈黙」に比べるとどうしても二番煎じ、三番煎じ的なイメージがあって、それから考えると劣るんですけども、それなりに楽しめたような気がします。この主人公エドワード・ノートン、弱々しそうな感じがありますよね、ところがびっくりしたのは、ちょっとベットシーンのところが出てきて、非常に筋肉もりもりだったのが非常にびっくりしました。

笹 原 私は「羊たちの沈黙」はあんまりだめで、「ハンニバル」はもっとだめで、今回は一番面白かったです。アンソニー・ホプキンスのこのキャラクターは、そんないすごいとは思わないんで、今回ちょっとしか出てこなかった分良かったです。今回、エドワード・ノートンと犯人のレイフ・ファインツとか、エミリー・ワトソンとかハーヴェイ・カイテルあたりが中心になってるので、話としては非常に面白かったです。最期まで二転三転するところもね、ある程度の予測はできるんですけども、飽きずに見られました。非常に楽しめた映画でした。特に私が驚いたのはエミリー・ワトソンの演技、この人は「奇跡の海」でも非常に変わった役をやったんだけども、今回は目が見えない役なんだけども、ものすごく上手いんですよね。その演技にびっくりしました。エドワード・ノートンは前から変わった役が多かったんで、今回はまともやなと思って、それがちょっと以外といえば以外でしたね。変な役ばかりだったんでね。好きな映画でした。

矢 野 ほとんど「羊たち」は忘れて、「ハンニバル」は、あそこのシーンだけが残っててだめで、この作品は楽しめて観ることができました。ただ、手紙がでてきましたよね、手紙の破けたところ、あの辺からもしかしたら解らなくなるかもしれないていう、そっちの方がついて行けるかしらと思ったんですけど、その部分ははっきり最期までわからなかったんですけど、最後はついていけたので、楽しめて観ることができました。

加 賀 原作としては1作目の作品なんですけど、今回の映画はですね、面白かったんですけどすごくまともというか、正攻法というか、安心して見れたんですが。まあ原作に忠実なんでしょうが、良かったけど、まともかなぁと。もう一つ物足りないような気もしました。私自身としては前作の「ハンニバル」みたいなちょっと変な映画の方が好きなんです。前作でレクター博士のエピソードで、気に入らないオーケストラの団員を殺してスポンサーに食べさせたって話が冒頭のシーンであったんで、あ、これかと思って納得できました。それなりに面白い作品で、けっして悪くはなかったと思います。

酒 井 この映画で原作と比べてどんと落としているシーンは、この犯人の生い立ちの話なんです。なんでレッドドラゴンの絵に固執するのかというところ。そこがちゃんと原作では描かれているんですよ。僕は原作を読んでからだいたい解ったけど、知らない人は解りにくいんじゃないかなと思った。だからなんでわざわざニューヨークまで行ってあの絵を見て。だってずっと犯罪を繰り返しながら、ああいう変なことをするとすぐ足がつきますよね。彼はなんかの使命感みたいに一体化することによって自分が神になれるんだと。そこらへんの動機付けが映画では解りにくい。

加 賀 二家族を殺すシーンが無かったじゃないですか回想シーンだけで、そのあたりが見易い。

酒 井 でも言葉で言いますけど非常に残酷ですよね。殺した子供をベッドのところまで持ってきたとか検証する。殺すシーンは出てこないよ、どうやって一家を虐殺したんだという話で。

林 田 想像力がたくましいから、すごいのを想像してしまう。

加 賀 予告で、犯人が刑事の家に行って、ドアを開けた子供にお父さんの友達だよっていうシーンがあったけど、本編ではなかった。

酒 井 ああ、あった、あった、カットされたんじゃない。

林 田 本編でカット、おかしいね。

矢 野 犯人は次は誰っていうのは言ってます?

加 賀 犯人がビデオ映像を現像する会社にいて、美人の奥さんの家庭を選んでいる。

酒 井 だから全然手がかりがつかめなかった。全然違うところで同じような殺されかたをしている。

笹 原 その二家族のつながりがね。

酒 井 破綻なしにストーリとして良くできてるじゃないかなと、そういうところを写真の現像というところに結び付けてるというところが。だからべつにレクター博士が出てくる必要もない。

笹 原 だから脇役なんですよ、だからそれが良かったんですよね。


8人の女たち

監督:フランソワ・オゾン 脚本:フランソワ・オゾン/マリナ・デ・ヴァン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ エマニュエル・ベアール イザベル・ユペールほか

林 田 最初から観るつもりで今年の予定に入れてました。昔の女優さん、ダニエル・ダリューですね、八十幾つですけど、あの人の若い頃から何回か映画観ていますけど、本当にきれいなおばあさんになってて、それからカトリーヌ・ドヌーヴがやっぱりきれいで、映画全体がカラフル、皆の洋服が素晴しくってカラフルで、ほんとにそれだけでも楽しかったんですけど突然歌を歌う、私ミュージカルとはまったく知らずに見に行ったら突然うたを歌いだして、懐かしい、昔の映画はそうだったですよね。急に2人、3人寄って歌いだして、ほんとに楽しくって。推理ドラマなんですけど、最初から解っていたようなドラマで、フランス語がほんとに耳に気持ちよくって大好きな映画でした。内容は大したことないんですけど、私はフランス語は、まったく意味はわからないのにフランス語を聞くのは心地よいですね。それとこの頃は、アメリカ映画、地球どころか宇宙とかという広いところを走り回ったり暴れまわったりする映画が多いなかで、まったく一つの部屋の中だけで、少し外も映りますけど、あの中だけで最初から最後まで終わったということと、ちょっと舞台みたいでしょう?舞台劇みたいな。とりあえず楽しめました。

野 口 ミュージカルということで、ちょっと引きはしたんですけれども。そんなに違和感なく楽しく、最初はびっくりしましたよね。でもカトリーヌ・ドヌーヴがバックダンスをしてるじゃないですか、びっくりはしたけれど面白かったです、そんな突拍子もないということもなかったように思います、なんというか話の内容が結局ある事件をきっかけに、それぞれの女性の秘密が暴露されていくっていうことで、ワイドショーみたいな面白さがあったかな、という気がします。そんなに的をはずれたこともなかったですよね、想像がつくみたいな、ただそれが気持ちよかったんですよ、すごく納得できました、ラストシーンで八人並んで手をつないでお辞儀をするところで終わるんですけど、結局なんだかんだ暴露だれても女たちは手をつないでやっていくんだね、みたいなそういう感じがして納得したんです。細かく見たら、いろんな映画のパロディとかオマージュがいろいろあるらしくって、すごいフランス映画に詳しい人には別の意味で面白かったんではないかと思います。

酒 井 非常に楽しくって面白かったんですけど、似たような感じの映画で先週「ゴスフォード・パーク」っていうのを観てしまいまして、それと比較するとやっぱり非常に、こんなものかなで、ちょっと軽くなったんですけども。まずこの映画がフランス映画で非常にセンスがいいと思うんですよね、ですから監督がもってるセンスが非常によくって、それで映画をひきずっている感じがしたと思います。この監督の前の作品「まぼろし」を観て、あまり買ってないんですけど、この映画は非常に楽しめました。ストーリはたわいもないんですけど、突然歌がでてくるところとか、悲惨な話がどんどんころがりながら、でもでてくる音楽は非常に楽しい音楽がどんどんどんでてくるから、非常にユニークな点で、面白いなという感じがしました。とにかく、こんなもんかなぁという、非常に楽しめたというか、そういう感じの映画でしたね。深く考えるところがあるようなものではないですけど、久しぶりに観たフランス映画の良さっていうのが一番印象に残ったかなという、そういう感じがしました。

笹 原 一番好きなフランス映画の女優が四人出たんで、カトリーヌ・ドヌーヴでしょう、それからファニー・アルダン隣の女とかで有名な。もう一人はイザベル・ユベール、とエマニュエル・ベアールってゆうね、この四人がでただけでもすごいなと思って。特にイザベル・ユベールはものすごく演技派なんですよ、昔からうまいんですけども、変身した時がすごかったですよね、元々の顔を知ってるから、わかるんだけど。ミュージカルも好きなんですけど、それぞれの見せ場があって、しかもさっき言った「ゴスフォード・パーク」を私もみたんだけど、ああいうグランドホテル形式でちゃんとミステリもあって、けっこう楽しめるように作ってあるなというのが良かったです。満足したんですが、ちょっと音楽が地味だったな、もっと派手なのを期待してたんで、割と地味な映画だったかなというのが、もうちょっと踊りまくって派手なのかなと、「ロシュフォール」とかを期待していたもんだから。まあ良かったです、ただ私は「まぼろし」を福岡の慰安旅行で見れたのに見逃したので、しまったと思ったんだけど、大したことなかった?

酒 井 僕はね、あんまりきませんでしたね、グッと。だからあそこまで上位にあがる作品とは思えないんですけどね、

笹 原 評価高いですよね。

酒 井 各女優さんがね、見せ場があるんだけど楽しんで演技してる感じするんですよね、だから私はこんなこともできるんだ、とか舞台を楽しみましょうやって、映画自体がスタッフからして皆が楽しんでわいわいやりながら映画を作ってる雰囲気がこちらまで伝わってくるんですよ。そういうところが非常に微笑ましいというか好ましい。だから8人の女優さんが集まって、わいわいがやがや言いながら、「わたしこう言うから、あんた、こう言いましょうよ」とかなんかね楽しい雰囲気が伝わってくる。楽しい作品なんだけど、よーくひとりひとりの女性とか見るとね、女性の持ってるいろんな物がでてきてね、逆に男としては恐くなる、男としては恐くなる、こんだけ恐いのかていうすさまじさていうか女性って裏でこんなことを考えてて、ていうのはようするに一見表面上はつくろうんだけど、どんどん暴露の話が出てくるんですよね、そうすると殺されたおとうさんがあまりにもみじめでね。

笹 原 まあ、どんでん返しがひとつありますから。

野 口 そんないい話じゃないですよね。

林 田 全然いい話じゃないです。

笹 原 ゴスフォードと一緒ですよね、両方のキーポイントは姉妹なんですよね。同じなんですよね。

酒 井 だからパターンは同じなんですよね。ただ、あまりにもフランス的とイギリス的な重厚な雰囲気の違いで作ってますから。おんなじ時期におんなじような感じで映画ができてる。


戦場のピアニスト

監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロナルド・ハーウッド
出演:エイドリアン・ブロディ トーマス・クレッチマン フランク・フィンレイ モーリーン・リップマン

杉 尾 ナチスを扱った映画にしては、あまり感情のうねりもなく観ることができました。あのピアニストはただ単に運がよかったという訳じゃないと思うんですね。ヨーロッパの人たちというのは、やっぱり音楽の愛し方が日本人とかそういうのと違って思いいれっていうのがすごくあるような気がする。で、ピアニストの人はけっこう有名な人なんですよね? だからけっこう知ってる人たちの中でああゆうことが起こって、運が良かったんじゃなくて、皆でピアニストを守っていこうていうようなのがあったのかなあていうふうには思いました。ピアニストが細腕で闘ったりとかレジスタンスに加わったりとか、そういう感じじゃなかったのが返って私は良かったかなて思いながら観ました。戦争映画にしては穏やかに見ることができたかなぁ、ピアノの調べがですね最初流れてきた時は、そうジンとはこなかったんですけど、主人公の彼がいろんな体験というか、必死で生きていろんな人に助けられたりするなかで、後半でピアノを弾くと感情移入が違って調べも変わってきてるじゃないかていうか、最期の録音してる時とかは最初の時と曲にいれる気持ちていうのが、また深くなってるっていうような。私が勝手に思ってるだけかも知れないけど、そういうふうに聞こえました。音楽を発明した人間ってすごいなって思ったんですね。一個一個音があって、それを弾くとああいうすばらしい音になるのは、戦争とは関係ないですけど感動した映画でした。

矢 野 あっさりとした感じかなって思いながらピアニストの家族がでてきますけど、家族がどんなかよく分からなくて、戦争とかでてきて……わたし寝ました。音楽家の人の、逃げもしませんよね、逃げもしなくて家に残ってそして。そういう生き方があるんだなあとも思いながら観てました。最期曲を聴きながら終わった感じですね。最後の最後まで文字が流れてていいなって思いながら観ました。

横 山 悪くはないとは思うんですけど後半がですね、主人公が何もしないのが、何もせずに生きさせてもらってるだけなのか。あまり面白くないなという気はしました。それとピアニストの話ですけども、杉尾さんが言ったようにピアニストだから助けた部分というのは同じポーランド人の人なら分かるんですよね、あの人才能のある人だから助けよう、それがですねドイツ人との話になってくるとですねちょっと違うんじゃないかなという気がしますね。ドイツ人がピアニストだから助けたのか、というのはですね、じゃ何もない人を殺すのかというふうな、関係から考えるとそういうふうになってしまってですね、好きじゃないです。あのドイツ人は他にも助けたことがあるようで、決してピアニストだから助けたというわけじゃないだろうというふうに僕は思いました。ピアニストが主人公の割には音楽があまり関わってこないなという気はしました。クライマックスのピアノを弾くシーンもそんなに意味があったかな、それまで全然なかったですよね、最初の5分あって、ずっとなくてちょこっとあるだけで、音楽には意味がないんじゃないか、そういう気がします。前半のゲットーの描写なんかは非常によくできていると思います。

笹 原 私も前半のゲットーは予想できたんですけど、後半がですねあんな展開になると思わなかったんで、自分だったらどうするだろうと思いながら、はらはらしながら最後までいったっていう感じでした。ドイツ人も気まぐれなとこもあるんですよね殺し方ともね、だからあれも一歩間違っていたら殺されていたかもしれないなという感じでしたね。たまたまピアノを弾いて、その時のその人の階級とか気分で助かったんじゃないかという感じもしたんですけどね。話としては私は最後まで飽きずに見たし、面白くというとおかしいけども、観られました。良かったと思いますけど。

酒 井 たんたんとしてましたね、映画みたいに。私は感動の名作ということで期待して観て、観終わったらすぐ思ったのは、これは作品賞は無理だなと思いました。なんかやっぱり盛り上がりに欠けるというか、淡々としてるところが評価としてどうなのかというところなんですね。ポランスキーはこういう自分自身が体験したから、こういう描き方しかできなかったのかなと思うですけど、ただ見てる人間にとっては盛り上がりに欠けるし、もう少し感情的な部分がほとんどでてこないんですよね、それの主人公の淡々とした感じから観客がどうゆうふうに受け取るかというんだけども、実際に今のような日本の状況に暮らしてる人間がああゆうふなものを想像しろと、命の尊厳とかそういう話になっても、いまいちピンとこない部分がありまして僕もいまいち感情移入ができなかったという感じがするんですよね。話としてはやっぱりゲットーのシーンやそこらへんまで前半部分はかなり良くできていて、最後の方はどうなるのかなと思ったら、なんかだんだんしりつぼみ的な感じになってきて、いまいち欲求不満が残った感じがするんですよね。映画の撮り方としては非常に丁寧に撮ってます、全然手抜きをしてる部分もないし、その部分は非常に評価できるんですよね、じゃ、きちんと作ったからといってそれがこちらに伝わったかというと僕は残念ながらいまいちですねくるような物ではなかったですね。ですからいろんな人がよく褒めてんですけども、僕はそれほどでもなかったんじゃないかなと思うんですけど、ただあの人としてはやっぱり高いもんじゃなかったかなと思います。

野 口 私はけっこう入っていけたというか、恐怖感とか息苦しさみたいなものが丁寧に描かれてはいたので、そういうところからすごく入っていきました。すごくリアルだったのが、訳のわからなさがリアルだったっていうか家族だけポンて送られちゃうじゃないですか、その後も全然音沙汰なくって一人残されて、どうしようみたいな、あの空気がですね、すごいリアルに感じられて、そのあとも、まぁそこがすごい入っていけたんでその後も、つまらないと皆さんおっしゃる後半部分がわりとこう身じろぎもせずに見ました。実際なにかドラマチックなことが起こるというわけではなかったんですけど、それが良かったというか、まあ良かったと思います。パンフをちょっと読ませてもらったんですけど、芸術家というよりは職業的にピアノを弾いてたんじゃないかなって思ったんですね、だからやっぱり音楽に対するとらえ方っていうのは、ちょっと違うのかなっていうか、職業的にもし弾いてたんだったら、それこそ昔の日本でいったら雅楽師の皆さんなんだけど、そんな感じになるのかなみたいなことで、イメージがちょっと違うかなあとか思って、だからその辺は難しくてよく分かりません。あとは何も行動しない主人公なんですけど、私はすごく良かったです。

林 田 私がまとめですね。後半なにもしないですよね、あれはやはり記録映画的で、それがすごく新鮮だったんです。ドイツから逃れる映画っていうのはすごくあって、トンネルを掘るだとかね、「大脱走」だとか「地下水道」だとかいろいろあって、すごくドラマチックな映画が多いんですけどこのピアニストの場合はほんとに流されていって、うまい具合に命が助かっていくんですよね、ひょっとしたら現実ってあんなのかな、こういらぬ工夫をしたり細工をするとかえって命を落とすけど、人の情けにあるときはすがって、あるときは親子が別れても泣き叫ぶでもなく、兄弟家族は死んだだろうけど淡々と受け流して、戦争が終わるのを待つという、なんか現実かなと思ったのでそういう意味で野口さん言われたように、かえって後半が私はほかの映画にない筋書きだなと思って興味ありました。ドッジボールなんかしてて、私はほんといつもやられるスポーツなんですけど、人の陰にかくれて上手い具合に逃げてると最後に生き残るていうのがあるんですよ。なまじ出て行って取ってたまには相手をやっつけようとか思うとやられるというね、なんかそういう現実、映画を観ながら、ああこれかも知れないって。私、自分がこうなった場合は多分泣き喚きもできずに、ただただどこかで死ねばそれで諦めるという、そういう淡々としたものが現実なのかなっていう、そんな映画だったような気がするんですよね。だからドラマチックなところはまったくなかったし、ピアニストでなくてもなんでも良かったのかなっていう気もしました。ポーランドは戦争が終わった後も悲惨な状態がついこないだまで続くわけですから、そういう意味であの付近の話というのは私はすごく興味があるので、ポーランド、チェコ、東ドイツ、あの辺りの話というのは、本当に深いなっていうように思いました。でも、たしかに映画としてはドラマチックじゃなかったと思います。

野 口 映画は筋書きだけじゃないような気がします。

林 田 ポーランド人は善人でドイツ人は悪人でというように分けてなかったでしょう、結局同じ家の人がこの人はユダヤだ!と叫ぶところがありましたよね女の人が、あれはポーランド人でしょう。だからやっぱり自分の危険が起きると、私でも自分に火の粉が降りかかるのはいやだからっていうのは、そういうところはちゃんとだしてあって、ドイツ人すべてが悪くはない。

野 口 本能的ていうか…

林 田 そういうところが描いてあったかな。外套を着てたところで殺されるかなと、ドイツ兵と間違えられてね。そしたらドラマチックですよね。もう終わるというところで殺されるといかにも映画らしい、でもちゃんとまた生き残っててね。そういう意味でおもしろい映画でしたね。

酒 井 人間の弱さとかに視点を置いて描いてますよね、ユダヤ人の中でもゲットーの中で警察の役割をする人とかに分かれて。人間というのはそういう状況にあると、醜くなっていく人間も一方ではいれば、一方では彼を助けるためにあれだけ努力してくれる人もいる。そういう状況になった時に人間の本質的な物っていうのは見えてくる。そこらへんがリアリティがあるんでしょうね。実際にポランスキーが経験した幾つかの部分は出てくるし、キャラメルを高いお金をかけて、一つのキャラメルを分けるシーンとかですね。あれは大変なシーンだったと思うんですけど、

杉 尾 最初弾く場面があって、ずっと弾く場面がなくて最後のほうでまた弾くっていうのが、ああもう一度ピアノが弾けてよかったなってすごく、流れてないからこそ最後のほうでインパクトがあったような気がした。

酒 井 静かな映画だけど非常に印象に残るシーンがある、やっぱりポランスキーのうまいところだと思うんですよね。たとえばユダヤ人が広場に荷物をもって列車を待ってるんだけど、荷物を全部置いてぽんといなくなってしまうとかね、そうすると今ここにいた人は連れて行かれて今ごろ処刑されているんだろうなっていうイメージがポンと浮かぶわけですよね。そういうところが上手いんですよね。

杉 尾 死なんと思って見てるもんだから、死なんから大丈夫から、緊張感がなかった。でも涙はでなかった。涙は出さない映画だった。突き上げてくるような感情っていうのは全然なかった。

酒 井 僕もそれを期待して行ったからね、肩透かしをくらったんですよね。

野 口 先にそういう話を聞いて行ったから、よかったのかもしれない。死ぬか生きるかわかんなかった。

酒 井 でもおもしろいですよね、このポランスキーっていう監督、ほんと器用な監督ですよね、いろんな映画撮れますよね。どんな映画撮ってます?

笹 原 「ローズマリーの赤ちゃん」が一番有名。「水の中のナイフ」とか。

酒 井 「チャイナタウン」撮ってるでしょう。あれは僕は大好きなんです、あの雰囲気っていうのはすごいなと思うんですね。「テス」っていう映画も非常に格調高い映画でしたよね。あと「血だらけのマクベス」って映画ありましたよね。だからすごい監督ですよ、こんな幅が広い。この人なんでアメリカに入れないの?

笹 原 13歳の女の子を…

酒 井 赤狩りじゃなかったんだ、そういう高尚なあれじゃなくって。

杉 尾 どうしたんですか?

酒 井 アメリカに帰ると捕まっちゃう。帰ると言うとおかしいんだけど、元々ポーランド人だから。でもホロコースト映画としてはちょっと異色ですよね。


今月の一本

笹 原 猟奇的な彼女

酒 井 ロード・オブ・ザ・リング

野 口 ドリトル先生航海記(本)

林 田 猟奇的な彼女

杉 尾 うなぎ

矢 野 ロード・オブ・ザ・リング

横 山 ロード・オブ・ザ・リング

加 賀 猟奇的な彼女

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