例会リポートのトップへ

1999年12月号(152号)

出席者:臼井 川越 酒井(正) 笹原 杉尾 書記:鬼束
秘密

加賀 つまんなかったですね。一応原作を読んだんですけど、原作を読まなくて見た方がいいんじゃないかなと。あとで杉尾さんが言うだろうけど、ラストの終わり方がですね、だめですね。小林薫は、自分では秘密が分かってても、気づいたと分からないようにするようなラストじゃないと最後の余韻というのが全くなくなってしまうので、あれはちょっと失敗かなと。全体的に言うと、メリハリがなくて、脚本も演出も全然だめかなと、きっとこれは監督がへたくそなんだろうなと思いました。広末ももう一つねえ、もう飽きたかなって、演技がもう一つね、感情移入できないていうかね、あまりよくなかった。これはちょっと失敗でしたね。

笹原 私は非常に良かったんですが、確かにラストの一言は、ちょっと問題あるなという感じはありました。せっかく盛り上げて泣かせて、ちょっとそれはないよというところはありましたね。わざとあそこは落ちをつけなくてもよかったんじゃないかなという感じはありました。滝田監督は、今年『お受験』という映画があったんですよ。これがもう最悪の映画でね。滝田、馬鹿じゃないかという位ひどかったんですよ。それがこれは、話が面白くて最初からね、テンポもいいしね、演出も脚本も素晴らしくて、最後のあそこで、あー口惜しい映画やなと思ってね。広末も『鉄道員(ぽっぽや)』なんかと比べたら、今回一番良かったなあていう。役柄があってたなという感じがしたんですが。小林薫がね、今までで一番いいんじゃないと思ってね。もともとコミカルなのは得意なんだけど、コマーシャルなんかでこの人いい味出してるなと思ってたのが、やっと出たなっていう感じはしましたね。あそこまで落ちをつけるんだったら、それで終わらずに、おまえは直子だなって言ったでしょ、そこで小林が結婚するのはやめろって叫んで、そこに金子が来て実は子供ができたんですとか言って余計落ち込むとかね。そこまでするぺきかなと思ってね。どうせならね。何か中途半端な終わり方だったなあという感じはしたんです。原作では、お父さん(小林)言わないでしょ、分かっただけで。

加賀 人形の中に入れた指輪を作り直すんですよ。お父さんは、時計屋に行ってそれを聞いて、その人形に指輪を入れたのはお母さんしか知らないのにそれを作り直したってことはということで、でも最後まで気づかない振りをしている。

笹原 それやったらいいような気がするね。奥さんがだんだんいなくなっていくじゃないですか、あそこは非常に盛り上がってね、涙が出るとこやわ。

杉尾 泣かされたからいいわねえ。私だまされないもの。

笹原 そうか原作読んでるから。何かあるかなとは思ったけども。

酒井 期待してなかった割りには面白くって。その前に実はサメの映画(『ディープ・ブルー』)を見てがっかりしていたので、こっちははるかに良かったと思います。あの映画はいい悪いっていうよりも、やっぱり先程から話題になっているように、元がですね、話が面白いからその上に乗っかって作ったという感じですから、この映画で一番いいところは、脚本というか原作だと思いますね。それ以上の何ものでもないし。ただ、私はすっかりだまされて、涙も流して完全に映画の中に入ってしまいました。主人公の広末ですけども、まあどうなんですかね、別に広末じゃなくても他の子でもあれくらいのことはできるんじゃないかと思います。広末は、あの役で得をしたなという感じはするんですけども。はっきり言って、大学休んであの程度の演技しかできないのだったら、私は「良」はつけられないと大学の先生はそう思います。(笑)

鬼束 原作読んでなかったので面白くて、久しぶりに滝田監督の最高傑作と言ってもいいくらい、僕は気にいりました。最後は、金子賢と結婚するというのがいかにもとってつけたような展開で、ウェディングドレスにパッと変わった時には嫌だなとなんやこれと思ったんだけど、その後に気がついて、直子だと分かっていて送り出す気持ちというのがいいなあと思いました。話としては、そういう気持ちというのがいいなあと思いました。笹原さんから言われて思ったんですけど、小林薫はいい演技でした。僕が見た中でも一番いいと思います。それと、広末涼子はいいですよ。(笑)僕は好きでした。「可」はあげれるかなと思います。

杉尾 広末はいいですよ。(笑)私も広末は好きでした。原作を読んでたもんで、やっぱり(小林と)一緒にだまされないものだから、最初から直子がだましてる演技だというのを分かって見てるもんだから、何かすごいずるいていうか、そういうことができるなんてかなり相当な女やなていう感じで見てしまうもんだから、そこらへんでは感情移入できなくて涙までいかなかったけど、どこかでじんときた場面があったんですよ。原作は、読んでる時に、娘を失ったお母さんの気持ちとかいうのが全然書いてないんですよ。だから、そこが親として、(娘の)体はそのまま残ってるんだけど魂はなくなってしまったんだから、子供を失った親の悲しみというのが全然なくてそれがちょっと不満だったんだけど、映画では、娘とお母さんが一緒に撮ってる写真を見て寂しそうな場面があったですよね。ベットに横になるところが。それだけでも(母親としての気持ちが)十分表れてるかなとは思ったんです。で、ラストなんですけど、原作を読んだ時に、「秘密」っていうその題名が、何が秘密なのかというところで、娘が実は奥さんなんだよっていうのが世間的に見た秘密ですよね。だけど、原作では、お母さんはちゃんとだましきったと思ってるんですよね。それを一人の秘密として一生やっていこうって思うわけですわ。だけど、お父さんは、時計屋さんに一人で行ってたまたま話を聞いて、娘に返ってないんだと気づくけど、それを言わないんですよ。映画は、(手を)こうやって気づいたなってお互いに分かるけど、原作は気づいたっていうのも言わないっていうお互いのやさしさっていうか、別々の秘密を持ってしまうっていうところが何か切なくって。煮えきらんとこでもあったんだけど。(笑)

加賀 この終わり方は、すごく納得いくなっていう終わり方だったんだけど。

杉尾 お父さんだけ分かってで、2回殴らせてくれって言う部分もなぜ2回かっていうのはお父さんしか分かんないんですよ。それが活きてきて、最後の最後を読んで何が秘密かっていうのが分かるところが、すごい良かったなあって思ってたので、映画はちょっとあそこはまずいと思いました。映画を見てる間に、運転手の息子が現れた時に、原作でも現れるんだけど、こいつと結婚したらどうしようって、あまりにも安易やわって思ってたら、お願いお願いって思ってるうちに結婚して。

加賀 再会するところも、のれんをこうやってて偶然小林薫とぷつかるとかさ、すごく安易なね再会の仕方っていうか。よくこんな偶然があるなって。

鬼束 原作はそういう秘密があったけど、映画にも二人だけが知っているという意味の秘密があるわけだから、それでいいと思うんですよ映画は。「私たちは宇宙から来ました」は、すごいいい台詞だと思います。好きです、あれ。

杉尾 どこで泣いたか思い出しました。岬のシーンで。

加賀 お母さんが抜けていくシーンね。

杉尾 分かっててもあそこはジーンときました。

笹原 あそこは絶対泣くとこやね。うまいね。

鬼束 ひとつだけカメラがすごく映画やあって思ったシーンがあって。小林と広末が海岸で海を見て座っていて(岬のシーンかな)、後ろから撮ったカメラが、普通の高さからゆっくり上がるんですよ、そのシーンがすごく好きやった。

杉尾 私はなかなか面白かっただよ。

臼井 ラストは結局、夫に分からず子供はそのまま嫁はんであったていうことを観客だけに分からせるっていう方法でしかないんでしょうね。それでしか映画としては成立しないんだと思う。僕自身の意見かもしれないけど、映画ってのは細かいところが全体を裏切っちゃだめってのがありますから、ミステりーとしては上出来の上出来だと思いますよ最後で背負い投げ食らわせますから、サプライスエンディングですから。ただ、映画としては、そこまでの細部ってのはラストで全部裏切られるわけですよ。だから、僕は映画としては成立してないっていう意見です。細かいとこは良くもなく悪くもなくっていうので、僕にとっては嫌な映画でしたね。ちょっと納得しかねる。

川越 原作読んだん?

臼井 原作も読んだよ。

笹原 臼井さんは岬のシーンではだまされんかった?

臼井 岬のシーンはあまりにも叙情的過ぎだから何かあるなって思いました。

川越 やっぱり素直じゃない。こういううがった見方をするところが普通の映画ファンじゃない。

加賀 普通の映画ファン、そういう人が…。

臼井 まあ、見終ってそれしか話すことがないじゃないですか。だまされたかだまされなかったか。『シックス・センス』と同じですよ。分かったか分からんかったか、どこで分かったか。小林薫も悪くなかったし、石田ゆり子も悪くなかったし、残念な映画でしたね。滝田洋二郎って、最近良くないですね。

杉尾 原作者はコメディに書きたかったんだけど、ならなかたって。

臼井 書いてたら暗くなるでしょ、すけぺできないんですから。にっかつ時代の滝田だったら、突き抜けてよかったかもしれないけど。

この後、『ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』の感想を話したけどほとんど僕が話していてつまんなかったので割愛します。

〈今月の一本〉

加賀 『双生児』途中まで特に辛くって、これでもかって前衛みたいなメイキャップとファッションで、途中で出ようかなって思ったけど、僕一人だったから映画館の人に悪いなと思って最後まで見たけど、最後まで見たら結構面白かったですね。

笹原 『グロリア』カサベテス版より私は好きですね。

酒井 『サイモン・パーチ』原作のほうが面白いからじゃないかなと思いますけど。

臼井 ビデオなんですが、笹原さんとは逆にカサペテスの「グロリア』です。(笑)

川越 NHKの新人演芸大賞の林家都んぼの「掛売り』

鬼束 『バッファロー'66』 本で『0UT』の雅子の生きざまが好きになりました。

杉尾 北村薫の「盤上の敵』北村さんにしては珍しく人が死んで、銃が撃たれて、ちょっとりンチの場面があったりするんですが、どんでん返しも面白かったです。最初言葉遊びがうるさいなあと思ってたけど、中盤から面白くなって、最後びっくりしました。完全犯罪かな?

書記の気持ちとしては、「秘密』を面白かったと思えるような人にどしどし1987に入ってきてほしいと思います。

[BACK]