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2004年5月号

出席者 笹原 酒井 杉尾 林田 野口 横山 書記:矢野

花とアリス

笹 原 岩井俊二監督の新作と言うことで前作の「リリイ・シュシュのすべて」は悲惨な話だったのですが、今回はうって変わってほのぼのとした高校生の三角関係、純愛の話だったので、非常に気持ちよく観ることができました。全体的な流れ、雰囲気が気に入って良かったです。もう一回見たいです。アリス役の蒼井優ちゃんが女優っぽくなくて、たぶんそれが狙いだったんだろうなと思いました。他の映画の方が綺麗にとってありました。かえってその分、身近な本当にその辺にいる高校生だなぁという感じがしました。話もなかなか面白くて楽しめて音楽も良かったです。映像は横山さんに言わせると質が悪いと言うことですが、それは岩井俊二の持ち味なんで私は別に気にしていません。

酒 井 僕もこの映画非常に大好きで、最後まで演出が行き届いていて、いい作品にできあがっていたんじゃないかと思います。岩井俊二監督作の中では一番にいい作品だと思います。前作の「リリイ・シュシュ…」は陰で、こっちは陽と、対になっているのではと思います。前作は男が主人公でこちらは女が主人公。雰囲気が良く、女性がうまく描けている、脚本、音楽もいいし。撮り方は僕も横山さんと同じ意見で、もうちょっと普通の撮り方の方がいいんじゃないかという気はします。笹原さんが新聞で書いていた通り、いくつか細かい演出の所とか凝ってますし、バレエのシーンが非常に良かったと思います。今年のベストテンに入ってくる作品だと思います。

杉 尾 女の子二人の雰囲気がとっても良くてアリスとハナが性格も違っていて対照的で面白かった。アリスとお父さんの感じが最後の方で男の子にかぶさってくるのよね、中国語でウォアイニィって言うところとか、その辺は、アリスがお父さんを求めていた部分が出ているのかなと思いました。印象的なシーンは紙コップを足に履いてバレエを踊るシーン。夢の中のようでした。好きだったのは写真を撮ってる女の子がハナとアリスに喧嘩しちゃだめだよとハナが言うシーン。引きこもりだったのかどうか、その辺ははっきりわからないんですけれど、引き出してくれたのがアリスという部分で、胸が一杯になって涙が出てしまいました。「なんとかっつって」、めがねをかけた落研の男の子がなんか憎めなくて好きです。アリスの家の散らかり方も好きでした。「リリイ・シュシュ…」でも思ったのですが、女子高生の白い靴下、印象に残ります。の映画は3本しか観ていないけど、「LOVE LETTER」が好きです。

野 口 そんなにとても大好きというとではなかったです。アリスちゃんがかわいくて、言動がとても面白く、もちろん引き込まれて面白かったのですが、なぜか「LOVE LETTER」と比べて観てしまうところがありました。岩井俊二の映画は最初に「LOVE LETTER」で次に「スワロウテイル」、映像の綺麗さでは「LOVE LETTER」が好きです。ストーリーの面白さでは「スワロウテイル」でしたが、そういうのと比べちゃうと、これはお話というよりか、現実的かなと思って、そういう意味で大好きという作品じゃなかった。現実的な話という意味で「リリイ・シュシュ」の対になっているのかなと。

酒 井 僕も「LOVE LETTER」好きなんです。「LOVE LETTER」観て一番最初に思ったのが瑞々しいという感覚がありますよね。今回の作品ではざらざらした感じで全然ありませんでしたよね。「LOVE LETTER」のイメージが強いもんだから、今回のも「LOVE LETTER」みたいな撮り方をしてくれていたら、もうちょっと良かったんじゃないかなというところがあるんですが、これは作風だから何とも言えないのですが。今まで作った作品の中で「四月物語」を観ていなっかたので観たのですが、「スワロウテイル」と「リリイシュシュ」の間の作品で、北海道から上京してきて、武蔵野の大学で女の子が新しい生活を始めるという何でもないような作品なんだけど、その作品も考えると非常に岩井俊二の個性が出ている、それと同じような感覚。この人はこのようなものが持ち味なんだなという気がしたんです。「リリイ・シュシュ」の時は長く感じたけど、今回は同じくらいの上映時間(2時間15分)たんだけどそんなに長さを感じなかったというところが良かった。

野 口 よく観ていると二人それぞれ悲しいものをもっているみたいだし、共感してしまえばいやな気持ちにもなってしまうんだろうけど、引きずらないというかそれが良かったかな。

酒 井 僕もよく頭を打ったんだけど(笑)、一向に、あなたは昔の私の恋人だったのよ、なんていう女性は現れないので(笑)、もっと打たなきゃいけないのかなって(笑)

野 口 タイミングが問題じゃないですか…(笑)。誰かいるときに頭打たないと…(酒井:そうか…)。演技で泣こうとしていて泣けないところの変な顔がすごくかわいかったですよね。

酒 井 そういう表情を作るのがこの監督うまいですよね。ごめんなさい、とか。

笹原 あのシーンすごかったね。

野 口 この辺に変なしわが寄って…。

笹 原 アリスのお父さんの台詞、あの台詞がね、も一回観たいんですよ。万年筆を贈る訳とかさ、うまいんですよね。一人でしゃべってるんだけど、なるほど、といわせるような、全体的に今回台詞がうまいなと、それが一番感心しました。「LOVE LETTER」は宮崎未公開で観てないのですが、「スワロウテイル」はワーストにしました。初めて観たのが「スワロウテイル」で、「ええっ」て、「これが岩井俊二?」って。「リリイ・シュシュ」は一位にしましたが。

杉 尾 ちょこちょっとしたユーモアがすごく気持ちよかった。カメラをアリスに向けたところとか…

酒 井 この映画を一言でいうと「心地よさ」っていう形容詞がぴったりのような気がしますね。「LOVE LETTER」は「瑞々しい」。独特の世界を持っていて個性的でなおかつ説得力がありますね。

皆様 (このあといろんなシーンを思い出しては、心地よさを再び味わっていらっしゃいました。)


イノセンス

最初にけなされた方が後でほめようがあるということで、トップに酒井先生。

酒 井 いきましょうか! この作品どうなんでしょうか。感覚的には映像・音楽で面白いものがあるけど肝心のストーリーがぱっとしなくて、更に哲学的な言葉が一杯出てきて難解だと思わせるんですけれど、すべて借り物で実は内容も何もない。ただ言っているだけで意味があるようには思えない。ストーリーに新しさもないし結論的に言うと画像の良さに映画の一番根本的な内容自身がついていっていないような気がします。

野 口 ??でしょうか。「攻殻機動隊」のときはオリジナルな哲学的な台詞がいっぱいあって…

酒 井 アニメの方向性として、リアリティーに富んだ細かい描写というのは技術としてはすごいですがそうやって実写に近づいていくことがはたしていいのかどうか。アニメーションっていうのは実写でできないものをやるというのがその良さであって、実写に近づいてきいたら、それはちゃんと人間で撮った方がいいのではと思うのですね。描写が細かくなってくればくるほど、アニメとしての特質が失われてくる気がする。映画の根本的なところがまだ弱いようで、見終わった感想は「マトリックス」を観たときと全く同じなんです。いまいちだったのでは、と僕は思います。

笹原 アンダーグラウンドの演劇ってあるじゃないですか、赤テント、黒テントって。好きでずっと観てるんですけど、同じなんです。台詞の意味ないんです。言葉の遊び、語呂合わせなんです。それで演劇を際だたせている役目をしている。潤滑油みたいな。それを今回特に感じました。私は非常に気に入ってます。押井守さんの映画もずっと観てますが、「うる星やつら」とかあの辺はまあいい、実は「機動警察パトレイバー」と「攻殻機動隊」はついていけなかった。あまりにもコンピューター用語が多すぎてそれを理解しようとするとついていけない。今回は割り切ってみると、なんだ演劇と一緒だと思ってみると言葉よりも映像や音楽に集中できたから、それだけで非常に楽しめたし、面白く感じました。実は長男つれて2回見に行きました。

杉 尾 課題作じゃなかったら見に行かなかった。話の内容もわからなかったけど、子供が誘拐されて、人形の中にはいるのかなと思ったんだけど違う? 音楽と映像は好きでした。サントラがほしい。もう一回観てもいいと思います。面白くなくはなかった。

野 口 押井守はとても大好きな監督で「攻殻機動隊」はとても面白かったです。「パトレイバー」も大好きだし「アバロン」はともかくとして、興味深かったんですが、今回はとてもいいとはいえない、なぜかというと、オリジナルなストーリーがないというか、「攻殻機動隊」の時にテーマになっていた人間と機械の融合というか、区別分けをどうするかという事を引きずっていて、それしか裏ストーリーがなくて表のストーリーもたいしたことなく、皆さんが言っているCGも技術はすごいのですが、あまり綺麗とは思いませんでした。音楽も「攻殻機動隊」の時のミックスバージョンでサントラ買うなら「攻殻機動隊」の方がおすすめです。私の評価は高くないです。今回ジブリが入って宣伝も大きくなって、けっこう売れたと思うけど、「攻殻機動隊」のほうが良かったんじゃないかな。

林 田 私さっぱりだめだった。あっちが先で「マトリックス」が後だって聞いたので、そういう意味では、これを見て「マトリックス」を作ったんだなって、NHKのアニメの特集でこれから世界のアニメが変わるって言ってたんですよ。世界中が日本を追っかけてくるって、そういう意味でこれが課題作でなくても日本のアニメが世界一だって分かってたし、ちょっと観てみようかなって思いました。好きか嫌いかって聞かれたら暗くて不気味なのは私はやっぱりだめなのね。音楽は魅力的だったけど話の筋は今日教えていただかないと本当にわからない。時代的にというかついていけない、バトーがあんなおじいさんだとは、思いもよらずに、若い男の子と思ってて少佐がたぶん年上の女だと思っていたのよ。かっこいいキャリアウーマン的な女性と若い男の子の話と勝手に決めてみていたら、さっぱりわからない。教えて。映画というものを意味が分からなかったらだめだと思うこと自体が感覚が悪いのか、言葉も筋もちゃんとしている方がいいのか、「マトリックス」の時もそうだったんだけど、何もかも規則正しく観ていくんじゃなくて、感覚的にぱっと言うものが私にはないのかなって、引け目というか、遅れを感じてしまうのね。わかるように頑張ろうと思うんだけどついていけない。だめだ、って捨ててもう観ないというふうになるか、あくまでもみんなが良いって言うのならどこがいいのか知ろう、ってするほうがいいのか。

酒 井 分かろうってするよりもこの映画が持っているセンスが好きか嫌いか。嫌いならそれでいいんですよ。

林 田 ただほら、ひょっと何かで好きになるのを自分が気づかないだけかもしれないでしょ。何でもこれはだめってしないで必死になって学ぼうとすると分かるかもしれない。感覚だけでは今のところ私には無理かもしれない。

酒 井 その感覚が、他の人でも作れるというものと、これはこの人が持ってる独特の世界なんだ、この独特なものがオリジナリティーと思うわけです。それが好きになるかどうか。この人しかこういうものはできないんだとなると、嫌いでもその人はすごいことになる。

書記 このあとフェリーニを例えにして映画に観方のわかりやすいお話がありました(なるほど…納得)。あと人形、ロボットと…そう簡単に答の出ない話や、また、ある方は「イノセンス」のストーリーを間違えて読みとっていたせいで、さらにこの映画を難解にさせていたようでした。誘拐された女の子の犯人探しではなく、暴走したロボットの原因を捜していたお話だったようです。


今月の1本

杉 尾 「恋愛適齢期」

野 口 「白い巨塔」

林 田 「デッドゾーン」

酒 井 「恋愛適齢期」

笹 原 「恋愛適齢期」

横 山 「ドッグヴィル」

矢 野 お笑いのケダムショー

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