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2004年6月号

コールドマウンテン

酒 井 久しぶりに文芸大作ということで、非常に期待してみた作品です。アンソニー・ミンゲラの端正な映画の作り方、取り方もきれいだし、話の進め方もうまいし、非常に水準の高い作品だったと思います。ただ、高水準の割に胸に響いてこない、これはいったい何なんだろうと思ったら、やっぱり一番の中心になるニコール・キッドマンがイマイチ良くないのではないかと。お嬢様が貧乏になって非常に困り、そこにレニー・ゼルウィガーがやってきて農婦の仕事をおぼえて、と、変わっていかないといけないんですが、そこで完全に食われてしまっている。存在感が軽くなってしまっているんです。そこでもうちょっと土臭さが匂ってきていいんじゃないかな、と思いました。逞しさが備わっていく、というお話なので、そこでキッドマンの存在感が薄かった。お話としては、「風と共に去りぬ」のようなインパクトのある作品になりえたんですが、そこで残らなかったのは、そういうところが原因だと思います。演出の端正さが、逆に南部を描くときに必要なの土臭さを薄れさせてしまった、残念ながら傑作にはなれなかったのはそのせいではないかと思います。

笹 原 あまり期待していなかった分、ジュード・ロウが苦労して故郷にたどり着くというところが面白くて、そっちのほうで感動しました。やはりミンゲラ、格調高くてうまいですね。これだけの物語をきちんと描ける人というのは今少ないんじゃないでしょうか?大きい物語をきちんと描ける、非常に貴重な監督だと思います。「イングリッシュ・ペイシェント」にしても「リプリー」にしても、その格調の高さがすごいですね。私はこの2作よりは今作のほうがすごかったと思うんですけれども。確かにキッドマンがイマイチであるとか、そういうことはあるんですが、お嬢様のひ弱さとかは良かったのかな、と。ゼルウィガーはやはり上手いですね。いろんな役ができることに感心しました。アカデミー賞は当然だと思います。ナタリー・ポートマンも良かったです。

林 田 私は(シネマ1987のホームページで)横山さんが書かれているのを全部読んで、すごいショックを受けました。べた褒めしてあるのがまったく通じず、自分に映画を観る感性が無いのか、ちゃんと観てないのか、書いてあることが全然わからなかったです。これでは、私はひとりで映画を観て、一人で納得すればそれでいいかな、話し合って何になるんだろう、と思ってしまいました。何が原因なのか、その時の私の気持ちなどもあるのでしょうが、ジュード・ロウとキッドマンがキスだけで別れてしまって会えなくなり、再会を待ち望んでいるというのが大事なのに、それほど二人が惹かれあっている、という表情が、キッドマンには無かった気がするし、ジュード・ロウにもただ自分の役をこなしている、という感じで。最初にそんな風に見てしまったら、全部うそ臭く見えてしまいました。なぜジュード・ロウだけが運良く周りの女性に助けられながら生き残っていくのかというのも、一途さが伝わってこなくて納得できなかったです。「風と共に去りぬ」はとてもインパクトを受けているので、最初からつまらないと思ってみたせいか、タイトルからぴんとこなかったのか。主役の二人が嫌いなわけではないのに、お芝居を見せられているという感じでした。「イングリッシュ・ペイシェント」のときはものすごく感動したのに、この違いは何なんでしょう?もしかしたら映画に対してすれっからしになっちゃったのかな、と、そんな風に感じてしまいました。

杉 尾 あまり期待せずに見に行ったんですが、最初からぐいぐい引きずり込まれて、最後まで飽きずに感動しながら観る事ができました。二人の主人公以外の話も盛りだくさんで、村で待っているキッドマンの回りの出来事なども面白かったし、ジュード・ロウが一生懸命帰って行く一途さというのは、私は感じました。ジュード・ロウが好きな俳優だから見ているだけでよかったのかもしれないです。再会したときに「エイダ」って呼んでわからなかった時に、何も言わずにくるっと後ろを向いて去ろうとしたところが、一瞬切なかったです。その後再会したことがわかったときの二人の抑えた感じがなんとも。

野 口 アメリカで一回見たんですが、その時は、周りの高い評価に反して、何でみんな面白いというんだろう、と疑問を持ちました。それで今回見直したんですが、やっぱり台詞が聞き取れてなかったというのが面白くなかった一番の理由でした。でも、それはほかの映画でも台詞はあまり聞き取れてなかったと思うんですが、何でこの作品だけは台詞が聞き取れないくらいで面白くないんだろうと思いました。やっぱり主人公二人の表情が足りない、とか、そういうことが原因になってるんでしょうか。わかってみるとそれなりにいい映画だな、と思ったんですが、でもやっぱり、せっかく映画なのにもったいないな、と思ったり、でも台詞が上手いというのは良いことなのかな、と思ったり色々です。「イングリッシュ・ペイシェント」は好きだったんですが、砂漠の中を飛行機が漂っていく情景や、女優さんがきれいだったこととか良く覚えてます。今回はそういう情景のよさが個人的に響いてこなかったので、すごく良かった、と思えないんじゃないかと思いました。

杉 尾 義勇軍の大将の人が突然冷酷になるところがすごかったですよね。

笹 原 割と残酷なところがありましたね。

杉 尾 戦争が人を変える、と言っても、すごい変わりようだと。

酒 井 冒頭の戦闘シーンって話の筋には関係ないですよね。でも、そういうのが無いと戦争と言う感じが出ない。

林 田 ジュード・ロウはナタリー・ポートマンの所に留まればよかったのに。それで、キッドマンはそれを知らずにずーっと待つの。

杉 尾 「ひまわり」よ!

林 田 あの方が心に響いたよね。

酒 井 演技が全部抑制的で、感情の露出が無いから物足りない感じがするんですよね。ぎりぎりのところで理性を保っている。それが監督の格調高さに嵌っていて。

林 田 大抵の人は理性で抑えますよね。それはすごく辛いけど、どうにでもなれ、と言う気持ちには自分はなれない。その苦しい表情がキッドマンに欲しかった。

笹 原 とはいえ、随所にものすごく緊張感が無かったですか?それが持続するのはすごいことですよ。

横 山 キネ旬でも、二つに意見が分かれてましたが、僕は嵌りました。非常に好きなタイプの映画で、良く出来てるなあ、と思いました。コールドマウンテンの村の描写が特に良かったですね。権力をカサに着るような奴がいたりとか。キッドマンはもう30歳も過ぎて、ああいう役はちょっと似合わないと思いましたけれども、まあ上手いし、ゼルウィガーがものすごく上手いし。出て来た時は「助かった」と言う感じでほっとするんですよね。ポートマンも良かったし。男優よりも女優のほうがずっと良かったです。ミンゲラ監督を観るのは3作目ですが、これが一番良かったです。

林 田 ラストシーン、取ってつけたみたいじゃなかったですか?

横 山 あれは、新しい家族と言うことでしょう。

林 田 でも、やっぱりジュード・ロウはあそこ(再会の場面)で撃ち殺されてれば良かったのに!一番ドキドキしたシーンなのに、すぐに終わってしまって。

杉 尾 一発でも打つとかね。

笹 原 あれがこの映画の一番の山場ではあるんですよね。

酒 井 そういう盛り上がりを持っていくべきところの印象が薄いんですよね。それで動機付けがわかりにくくなってしまう。多くの映画を観ている人は「こういうもの」と思うかもしれないけれど、あれだけ苦労して会ったのに、これで終わりか、と納得できない。でも、ミンゲラ監督はものすごく計算して、そこを盛り上げた撮り方をしたくなかった。偶然の再会ですよね、あれって。

この後も、ゼルウィガーの次回作、アカデミー賞、監督の出自など、しばらく続きました。


ジョゼと虎と魚たち

笹 原 ジョゼの存在自体がいとおしく、忘れられないキャラクターです。原作は読んでいないのですが、脚本でこれだけ盛り上がるものが書けたという渡辺あやさんを非常に買っています。もちろん犬童さんの演出も、俳優さんもみんな上手かった。個人的なことですが、主人公の恒夫以外はみんな大阪弁で、ロケは東京近郊とはいえ、大阪で大学生と言うと自分と重なる部分が多く、どうしても他人事ではなくて、それで感動が大きかったのかとも思いました。役者と、脇も良くこれだけ揃えたな、と言うくらい良くて、それもこの映画の面白さで、上手いところだと思います。

横 山 非常に面白かったです。決して良い子ぶっているところが無くてリアルだし、厳しい視点も持って作っているし、脚本も、ジョゼ役の池脇千鶴もとても上手かったし。21歳位ですが、細かいところまで表現できているし。大阪弁が良かったですね。本当に出身が関西だからあれだけ上手いのでしょう。感心しました。

酒 井 最初からすっと入っていけたのが上手いところだと思いました。物語が、最初は妻夫木のナレーションから始まっていますが、これを聴いた瞬間、これはもう終わった話で、死別したか別れたかしたんだな、とわかります。観ている人間が結末、悲劇で終わるだろうということを大体知っているところからストーリーが始まるというのが非常に上手いと思うんです。だから、観ているほうはいとおしく感じると思うんです。結末を知らなければ、最後がちょっと だと思うんですが。最初に、きちんとした結論でなくて、「これは悲劇的に終わるな」と言うことを匂わす導入部分がこの映画の鍵で、多くの人が引き込まれたところだと思います。ナレーションで真冬の出来事だった、とかジョゼはどうだった、などが語られますが、そこから「ジョゼっていったい何なんだろう」と期待させる、そこが上手いですよね。僕はそこがこの映画のすべてのキーだったと思っています。ところどころ、映画としての良いところや悪いところはあったと思うんですが、それをあまり感じさせず、勢いでスーッと入って言って、上手く結ばれて。後は「ジョゼ」と言う名前もおかしいし、何で虎や魚が出てくるんだ、っていうところが印象的で、上手いな、と思いました。

杉 尾 最初に原作を読んでいて、大して面白くなかったので、課題作でなかったら見逃していたかもしれません。期待していなかった分すごく面白くて、ジョゼも見ているうちにだんだん愛しくなって、妻夫木君も大して良い子ではなくて普通の青年なんだけど、ちょっと魅力があって ・なんだか断片的にとてもよくて、全体的なことはちょっとコメントできないんですけど、一つ一つの場面の、言葉を交わしたこととか、そういうことが印象に残っています。この男の子が、ジョゼを一生背負って行くっていうのはやっぱり無理な話で、どうしても別れがくると言うのは分かっているんだけど、別れの後、妻夫木君がガードレールにしがみついて泣いたところは、一番たまらなかったです。ジョゼも自立はしていったんだろうけれど、やっぱり、一生引きずるだろうな、と思います。一年間の素敵な思い出が出来たかもしれないけど、辛いでしょう。

林 田 これは私も大好きで、映画を観ながら、まず「これはフランス映画にも勝てる!」と思いました。俳優さんがみんな上手かったし、私は観た後で原作を読んだんですが、映画を作る人はやっぱりすごいな、と思いました。この本からあの映画が出来る、と言うのが、やっぱり感受性や才能や、色々なことがすごいんだなあ、と思い、あんなに短い、どうってことのない小説でこれだけの人を感動させることに感心しました。私は女性で振られた経験もあるので、そういうことも思い出して、ジョゼは普通でも大変なのに、いろんな面で大変だっただろうな、と。その後は人から押してもらわなくても良くなったシーンがあって、この娘は自立して、これから一人で暮らしていくんだな、というのを見せてもらって少しはほっとしたんですけれど、見捨てられた直後は如何程であったか。それこそやせ細っただろうな、と、そういう見えないところで涙が出てきました。嫌われてなくても去られる、という辛さが身にしみました。

野 口 とても良かったです。酒井さんのおっしゃるとおり、ナレーションが良くて、公式HPでトップで見れますよね(笹原 インターネットのホームページに行くと、音声は出ないんですがシーンを追っかけてナレーション部分が観れます。)、ものすごく想像力を書き立てるものが凝縮されていて、これはちょっとすごいぞ、と思いました。映画では妻夫木の声がかぶるんですが、それが予想に反して合っていて、とても普通の感じでよかったです。原作に全然出てこなかった麻雀店でバイトしているところとか、その店長の飼ってる犬とか、そういう細かいところがリアルで、原付のシートを開けるとヘルメットと実家から送ってきた野菜が入ってたりとか。そういうことを一つ一つ映画にするのって結構大変なんじゃないかと思ったんですが、それが上手いなと思いました。SM雑誌の男の子の教科書を見ながら「こん子はねえ、馬鹿なんよ」ってジョゼは言うんだけど、ジョゼはそれに助けられてる、っていうのが面白いです。

笹 原 このSM雑誌の男の子も原作にはいませんよね。

林 田 朝ごはん食べるシーン、ものすごくおいしそうだった。

横 山 美味しそうに撮らないと二回目に行く意味が分からないですよね。

笹 原 期待してなかったのに、あっという感じがしましたよね。

林 田 一緒に育った男の子が、やっぱり生涯連れ添っていくんだろうなあ、と思いますよね。

酒 井 妻夫木聡はどこにでもいる大学生、というのを思わせるところが上手いですね。

笹 原 受けの演技、ジョゼの話を聞いて、反応するところがいいですよね。

杉 尾 憎まれ口を言われてもにっこりするところが。ジョゼのおばあちゃんが怖かった。劇画のような顔で。

横 山 「ぼくんち」に出ていましたね。

杉 尾 ジョゼは淡々と人生を受け入れていくのがいいですよね。大変なこともあるんだろうけれど。

野 口 あれだけ笑えることがあればいいですよね。おばあちゃんがストレートだから、どんな大変なことがあったか想像できるんだけど。

酒 井 そういう大変なことがあるのを映像で見せないで、想像させるところが、演出の上手さですね。最後は明るく終わってるというのも。

笹 原 宮崎映画祭で再上映します。監督とプロデューサー、脚本家の渡辺あやさんがゲストで来る予定です。

この後しばらく脇役の話、監督について、別れのシーンなど個人的な体験も交えて続きました。


今月の一本

林 田 「ナイト・オン・ザ・プラネット」 ウィノナ・ライダーの映画の中で一番良く、笑った。

酒 井 「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」 死刑問題の話です。ある程度面白かったです。

横 山 「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ」 「えびボクサー」

笹 原 「スクール・オブ・ロック」 音楽を聴いているだけでも感動です。

杉 尾 「さよなら、クロ」 単なる動物モノかと思ったら青春映画で、主役の妻夫木君が自然な演技でよかったです。 「北京バイオリン」 バイオリンで周りの人たちが癒されていくという話です。

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