トップページに戻る
例会リポートのトップへ

2004年7月号

参加者:酒井・野口・林田・笹原・杉尾・横山  書記:加賀

グッバイ、レーニン!

監督:ヴォルフガング・ベッカー
脚本:ベルント・リヒテンベルク ヴォルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブルュール カトリーン・ザーヌ他

林 田 私はなぜか、あの付近の話は好きなのですけど。チェコとかドイツとか東ヨーロッパっていうのは、なんとなく観るのに力がはいるんですけど。グッバイ・レーニンも思っていたよりも軽くて、楽しくて、たぶん10年以上経ったいまだから、明るく作れたのかもしれないなと思いました。お母さんをやった人が、演技が上手くって大好きでした。それと、あんな息子がいたら、さぞや幸せな人生だろうと、愛想の悪い息子をもっていると、私があんなになったら、どっか引っ越して行くだろうと。それと東ドイツと西ドイツの話はもういやというほど、本で読んだり映画で観たりしていますから、それにしたは深刻な話を上手にまとめてあるなと思いました。私、東ドイツ側のベルリンにホテルをとったんですけど、全然景色が違っていて、ちょうど統一10年目でしたけど。電車が街の中を走っているのは東ドイツだったと思うんですけどね。ほんとに古い昔の、映画で見たような電車が走っていて、道路が広くって、何にも無くってガランとしてて、西ベルリンとは、全然景色が違っていたんで、やっぱりそうかなと思って映画を観ました。レーニン像が運ばれるとこも面白かったし、ニュースを作るとこも、ほんとに面白かった。現実には、あんなことは出来ないだろうけど。楽しい映画でした。

野 口 林田さんと逆で、きのう観たばかりで何しゃべろうみたいな、きのうぎりぎりでようやく行きました。一番最初に思ったことは、社会に個人が振り回されて、いやな思いをするというのは、たいへんだなぁと、いうのを思いました。 アメリカにいたときにベトナム人の移民の女の子と友達になって、その子はなんだか知らないけど、ものすごい共産主義に対して憎悪みたいなものを持っていたんですね、で、その時に、あるんだこの世の中にと始めて実は実感して。だからちょっとピンときたのが、そこらあたりの移り変わりに沿って生きて行かなきゃいけないっていうことなんですけど。この映画すごくいいなと思ったのは、お母さんがずっと、昔のこと、自分の主義みたいなものを信じたまま、亡くなってしまって、息子がそれをずっと支えて、それによって回りの急な変化でバランスの取れなくなっている人たちが少し楽になって、みたいなところを感じて、いいなぁと思いました。空飛ぶレーニンの手がこっちを向いているのがすごい恐かったですね、難しいことはよく分からないので、あまりその関係の映画も観ているほうではないので、こんな感じです。

酒 井 非常に面白い映画で、東ドイツっていう国が壊れて、そこに残された人がいかに、時代に取り残されていたか、そこが非常に上手く描かれていて。そこの疎外感というかノスタルジィというんですかね、共産主義を好きなわけじゃないけれども、そういうところがやっぱり非常に象徴的に出ていると思うんですよね。でもあのお母さんが、最後まで時代が変わったことを知らなくて死んだのかどうか、といったら、ちょっと分からないのだけども、あれだけのことをして本当は分かっているんじゃないかという気もしないでもないのだけども。それはあえて、お母さんが違うんじゃないと言わないところ、分かっていたら、息子に対する一つの思いやりだとおもうし。そういうところがやっぱり、チョロチョロと見えそうな感じがして、あの映画のいいところなのじゃないかと思うんですよね。全体的に作り方が深刻にならずに、喜劇風にポンポンポンとテンポ良く進んでいく、そこがあの映画の暗くならないところだと思うのですよね。話はかなり暗い話になるのじゃないかなと思いますけど。皆さんが言うようにすごいなと思うのは、目覚めて歩けるようになって、自分でお母さんが外に出たときの、外の空気を感じたときに東ドイツとあまりにも違う空気がボンと出てくるんですね、それを映像でパンと一瞬にとらえているところ、あの映画の素晴しいっていうのは、そこだと思うんですよ、あのお母さんが出たところで、これは今までの東ベルリンじゃないだよというところが、お母さんはそれが認識できなくても、頭でわかんなくてもこの情景で停滞した社会から躍動した社会に変わったというところが一瞬にボンと出てくるところ、そして最後にダメ押しのようにレーニン像が飛んできますよね。あそこがこの映画の上手いところだと、凄いなと、監督の持っている力量とか映像の力っていうかね、そういうところが非常に感心したところです。相対的に非常に面白い映画じゃなかったかなと思います。

笹 原 わりとテンポ良くて面白い映画だったんですけど、東西ドイツの関係をあまり身近に感じてない、行ったこともないので。それでちょっと醒めて観てしまったというのはあるんですけど。ただ一生懸命隠そうとするところと、自分でテレビニュースを作っていましたよね、それが自分の考えを入れた、息子さんなりの変化というのをいれていたのが面白かった。なかなか上手いなと感じた映画でした。ただ個人的に思い入れが無いもんだから、感動とかそういうのはなかったんですけど、面白かったなというのは思いました。

杉 尾 酒井先生が言ったような感じなのですけど、すごく面白かったです。何々主義とかいうのは、よくわからないけど息子がお母さんを思う気持ちと、お母さんは分かっていたと思うんですけど、息子の恋人が言ってた時にそういう場面がちょっとあったから、その時にわかったんじゃないかなって思って、最後のダメ押しの時にその彼が実は変わっていったんだよって作って見せたところ、テレビを見ているんじゃなくて息子の顔を一生懸命お母さんが見てたから、それはお母さんの優しさかなと思って、最後まで騙されて亡くなったんだろうなと思いました。お父さんが亡命して本当は一緒にいくはずだったのだけど、行けなかったのだというとこを告白した時に、最初からお母さんは社会主義にのめりこんでいたわけじゃないのだなというところを。その本心っていうのを息子が分かってちょっとうろたえたというかショックだっただろうなと思いました。あと細かい描き方が、すごく暖かくて回りの人たちが、お母さんがブラジャーの紐とか洋服類に注文をつけるのを全部翻訳してね、近所の友達がするときに半分ベソかきながらわかってるけど合せるっていうところがすごく切なくて、彼女といると昔を思い出すよって、言ったところが、やっぱり、酒井さんが言われたように郷愁というか、そういうものが出ているのかなって思いました。世界の流れに翻弄されながらも、こんなあったかい気持ちっていうのが、すごくコミカルに描かれていて、ベリィ・グッドでした。

加 賀 テーマのわりには分かりやすくて、観やすい映画でした。息子がお母さんを騙す為に、嘘を重ねるとこが見ていてつらかった。社会主義から資本主義に変わって、若い人はいいことも多いけど老人やある程度の地位のあった人には、社会主義のほうが良かったんじゃないかと、けっして皆が得するわけじゃないなと思った。お母さんは息子に騙されていると分かっていたと思いますよ。それが思いやりだと分かっていて最後まで気づかないふりをしていたんじゃないかな。いい映画でした。

林 田 出来ることなら西に行きたかったよね、ただ子供がいたし命がけだったから、そうできなかったけど。そしてどどまった以上、文句だらだらで暮らすよりは明るく生きて行こうと、社会主義のなかで自分の出来ることをやって、生きていこうという、そんなお母さんだった。

杉 尾 お父さんが会いにきたけど、そのシーンはなかった。どういう話をしたのだろうね。

林 田 もう今度は時がたちすぎているから元へ戻すことはできない、お父さんも新しい家族があるからできないし。いろんなことが笑いの中に入っているかなと思った。


世界の中心で、愛をさけぶ

監督 行定勲
脚本 坂元裕二・伊藤ちひろ・行定勲
原作 片山恭一
主演 大沢たかお・柴咲コウ 長澤まさみ・森山未來

笹 原 原作は読んでないのですけども、全然内容を知らずに観たもんだから、よけい新鮮だった。長澤まさみっていう女の子の映画になっていて、それが全体の印象に残っています。話としては、核心に行きますが柴咲コウが昔の女の子だったと分かるところあたりの作りが上手いなと思って、そこで非常に感動しました。演出が上手いなと思ったのは、現在と昔の交錯するところあたりの描き方とか、原作には無い部分で、ウォークマンでのテープのやりとりとか。原作は交換日記ですよね。もちろん柴咲コウは出てこないし、まったくの創作ですよね。それがこの映画を深くしたのじゃないかな。行定監督作品としては「GO」以来の傑作だと思っています。

酒 井 僕も全然期待してなかったんで拾い物でした。ちなみに拾い物の拾いという字が間違っていました。本当に全然期待しなくって、宮崎ではめずらしく並ばされたんですよ。初日に行って、並んでて、なんでこんな映画に、とぶつぶつと思いながら入ったんだけれども、スッと入っていけて。主人公の女の子が可愛いっていうか、非常に上手いというかつぼに入っているというか、そこが非常にいいんですよね。だから彼女が出てくるシーンと出てこないシーンとでは、やっぱり全然ちがうんですよ、そういう意味では、まわりが食われちゃったんじゃないかなという気がします。ストーリーの組み立てが上手いし、スー、スー、スーと入って行けるし。話しが現代から昔の話に戻って、また戻ってくるところの構成も非常に上手いと思いますね。小説で話題になって、それを非常に上手く小説の素材を映画的に生かして最近では珍しいような成功作だと思います。小説で売れながら映画も違う視点から掘り当てられたと。やっぱりこれは監督の演出力と脚本の上手さだと思います。ですから今年公開された6月までの作品のなかでは話題作でそれなりに形になってる、そういう作品じゃないかなと思います。あと細かいところはいっぱいありますけども、印象的にいい思い出になって爽やかな作品になって、というところで。話は暗い話だろうけれども、そんなに暗くならなくて思い出の部分が中心になっている作品だから、後味は非常に良かったと思いますね。最後は、ああいう終わり方をすくことによって、それを一つの義理として、また次にというふうな希望がもてるような終わりかたをしていた。非常に好感がもてました。

 

野 口 これも、おととい観たのですが、長澤まさみが良かったというのはすごくおもいました。ただ、それが彼女が役者として素晴しいというのもあるのでしょうけど、それ以上に状況というか、テープに吹き込まれた声を聞きながら、大沢たかおがうろちょろするじゃないですか、彼がいろいろ追体験していくシーンがずっと続いて、そんなふうに自分を残しておきたかったのかなとか、死ぬ前に思い切った恋愛をしておきたかったのかなみたいな、そういう気持ちが伝わってきて、だから林田さんとかが書いている現在の恋愛の大事さよりは、彼女の切ない気持ちの方が伝わってきて感動しました。最後の方のエアーズ・ロックまで行って、わざわざ行かなくてもいいんじゃないかと、あの辺蛇足かなとか思って、最後のほうでちょっと醒めたんですけども。でもやっぱり、よかったなぁと思いました。

林 田 私は素直に映画を観たのじゃなくて原作と見比べてしまうんですね、原作が本当に嫌い。嫌いというか、こんな話がどうして売れるのかなというか、どこがいいのかなという感じでしか本を読んでなかったので売れていて、すごくいいていうので騙されたというか、本を買ったのまでが騙されたというくらいに嫌な、私には面白くない本で誰にでもやっちゃって、誰にやったかも分からないくらいなのですけど。だから映画も同じだと思って絶対観る気がしなかったんですね。そして笹原さんに二度も三度も薦められて、しょうがないなと思いながら、一回は観ませんって断ったのですけど、また来たんで、それでもうしようがないので観てやるかって感じで観にいったらですね、原作通りに作ってあったら、やっぱりブツブツ文句をいいながら出てきただろうと思うんですけど、もう全然なんというか、新しく生き返らせた映画に出来上がっていて私自身は原作と同じところあたりは、ぽっかりと興味がなくって、うまいぐあいに再生させた監督。もう片山恭一はこんなことで儲けるなんて憎たらしいと思っていたんですけど。私は行定監督に片山恭一は頭下げるべきだと、よくぞこれほどの映画に作ってくださいましたと、お礼を言わなくっちゃ、小説ではこんな映画は絶対できっこないわと、私はそれぐらい落差を感じました。その分映画はすごくよくて原作のところも、今回のようなつくりにしてあって本当にうまく作ってあったと思うし、そして新しくあの女の子が最後に律子になったところあたりも大好き。テープを渡して、私はどうしても新しい映画の方へ気分が投入されてるもんだから昔の恋人の声を聞いてウロウロする彼が憎らしい、ひょっとしたら辛くって、それを全部すませて新しくやり直して自分と一緒にっていうふうに思ってるだろうなと思って、そっちの切なさの方が私はすごく身にしみて、演じてる柴咲コウの恋愛が初恋の恋愛から今度の現実の恋愛の方へ替わるというところで、本当にうまく作ったなとそればかり思っていました。あのまま原作通りに映画にしていたら成功はしてないと思う。

加 賀 まったく内容は知らず面白いらしいとしか聞かずに観にいったんですが、柴咲コウが四国へ帰ってしまうとこからミステリアスですよね、何でかなと。そして大沢たかおが自分の過去を探しに行くような話で、話の展開がすごくおもしろかった。劇中で大沢たかおが、テープを聴いたあと自分はこんな貴重な体験をしたのに何故今まで忘れていたのだろと言うけど、大人になって社会の中でもまれている内に忘れてしまうのかなと、思ったりして印象的でした。長澤まさみは始めて見るんですけど、すごく良くて彼女のおかげでずいぶいい映画になったんじゃないかなと思います、まぁ男がみるからそうみえるのかもしれないけど。最後に柴咲コウがあの女の子だったというオチもすごく良くて、大変素敵な映画でした。

杉 尾 映画を観終わったときには、そんなに感じなかったんだけど後で考えてると、やっぱりいい映画だったなて感じで。まず難病もので、主人公が死ぬっていうのを聞いただけで拒絶反応だったんですけど。皆さんがいいと言わなければ観に行かなかった。私はやっぱり主人公の女の子はごっつい感じがしたから、どっちかというと森山未來君の自然な演技に心打たれて、過去と現在が交錯するところも面白かったんですけど、高校生の恋愛というか、そこの純粋な部分がストレートに感動できたというところが一番印象に残っています。細かいことを言うと、なぜテープをずっと聴かなかったんだろうかとか、テープを持っていた女の子があの人にどうやって紹介して、どうやって繋がったんだろうかなとか。そういうことを考えちゃうと引いてしまうけど。でも素直に受け入れると、二人の思いが一途なのがわかって、空港のシーンで今でも忘れられないのが森山君が「僕たちは今日いかなくちゃいけないんだ!」と言ってたのに、諦めて「帰るか」と言った、あの一言だけがどうしても忘れられられなくて、もう一度あのシーンだけでも見てみたい。オーストラリアには写真を現像したから行かなくちゃいけないのかなと思いました。あそこに行くって空港まで行ったから最後にはそこに行ってちゃんと締めないと大沢君としては物語が終わらなかったかなって思います。

横 山 原作のひどさは聞いていたんで、あら探しをしに言ったんですけど、まあまあよかったです。そんなに絶賛はしませんけど。長澤まさみが好きなんで、そういう意味で高校時代の方がよかったです。長澤まさみじゃなかったら、たぶん変な映画になったんじゃないかと思います。病院でちゃんと髪を剃っていましたけど。杉尾さんがおっしゃったように難病もので白血病だから非常に抵抗があるんですけど、その割にはうまくできていたと思います。それに比べると現代の方が話が物足りないですね、ただ過去を振り返っているだけで。振り返って、それがどうなるのかというと柴咲コウとうまくいくのかどうかというのが、それが非常に疑問がありますね。よく言いますけども死に別れたら相手のいいとこしか覚えてないから、今つきあっている女はよくは見えないと、その辺もあるんでしょうけど。


今月の一本

笹 原 「下妻物語」

横 山 「下妻物語」

酒 井 「オープン・レンジ」 ケビン・コスナーとロバート・デュヴァル主演の西部劇

野 口 「ほぼ日刊イトイ新聞」 HP

林 田 「龍のペルソナ」 本 

杉 尾 「東京物語」 本 奥田英朗

[HOME]