スクリーン(新聞連載コラム) 

2003年6月

「マトリックス リローデッド」 人類支配する機械との戦い
(2003年6月5日付)
 斬新な発想で多くの映画ファンの度肝を抜いた「マトリックス」(一九九九年)の第二作である。前作の最後で救世主として目覚めたネオがますます力を発揮する。
 前作ではよく理解できなかったストーリーを今回は納得できて、人類対コンピューターの戦いにともに挑む気分で見る観客も多いことだろう。
 今回のアクションシーンは抜群である。高速道路でのすさまじいカーチェイスに息をのむ。コンピューター側の戦士は壁をすり抜け、倒れても再生し、また何体にも数を増やして挑んでくる。
 つまりは今われわれ人類がコンピューターを駆使し世界を動かしているように、機械が人類を操るようになるという恐ろしいお話だが、そこはキアヌ・リーブスふんする超カッコイイ救世主が次回も大活躍し、必ずや人類を救ってくれるに違いない。十一月公開の完結編「マトリックス レボリューションズ」へと期待は膨らむ。(林田)


「アバウト・シュミット」 定年後の人生こまかに表現
(2003年6月12日付)
 定年後の人生をどのように過ごすか。これはサラリーマンにとって重要な問題である。
 この映画の主人公シュミット氏も長年勤めた保険会社を円満退社し、有意義な老後? を過ごす予定だった。
 ところが、現実は大違い。愛する妻に先立たれ、会社を訪れても邪魔者扱い。そして愛する一人娘は変な男と婚約してしまう。
 シュミット氏は自問する。
 「自分の人生とは何だったのか。何か少しでもひとの役に立ったことがあったのか」
 何もかも思うようにならなかったシュミット氏であったが、最後に…。
 シュミット氏を演じるジャック・ニコルソンの演技は抜群である。シュミット氏のこまやかな感情を全身で表現している。
 これから定年を迎える方はもちろん、若い方にも「価値ある人生」を送るために見てほしい作品である。(酒井)


「二重スパイ」 80年代韓国の緊迫感を再現
(2003年6月19日付)
 最近、南北の分裂を題材にした映画が韓国で製作されている。日本でもヒットした「シュリ」や「JSA」である。この作品もその流れをくみ、今年の初めに韓国で大ヒットした。脱北者を装って韓国の諜(ちょう)報機関に潜入した二重スパイと、生まれながらに北朝鮮のスパイとして生きてきた韓国人女性との愛の行方をサスペンスタッチで描いている。
 この作品の最大の長所は、背景となる1980年代の韓国の緊迫した雰囲気をうまく再現している点にある。その結果、南北分断の悲劇に切迫感が与えられている。さらに、ストーリーがテンポよく進むためサスペンス映画としても十分に楽しめる作品となっている。
 近ごろ、007などのスパイ映画がリアリティーに乏しく、アクションに偏り過ぎて本来の面白みが失われたと思っている方にはお薦めの作品である。それにしても最近の韓国映画、秀作が多く見逃せない。(酒井)


「8Mile」 心を突き刺すエミネムの歌
(2003年6月26日付)
 その昔、エルビス・プレスリーは、黒人歌手のような歌い方だと騒がれたが、この映画の主役を演じる歌手エミネムの人気はエルビスがデビューした時の衝撃に少し似ている。エミネムの自伝ともいえるこの映画は、若者のサクセス・ストーリーだ。米国の底辺にいる人々の行き場のないエネルギーが激しいリズム、聞くに堪えない汚い言葉の応酬となってさく裂する。
 タイトルの8マイルとは映画の舞台デトロイトの白人と黒人の居住区を分けている道路のこと。貧しい白人のエミネムは黒人の中でラップを競い合う。母親は男にすがっていくしか生きる道を知らない。そんな母親や幼い妹を気遣いながら、彼は底辺から這(は)い上がろうと心の葛藤(かっとう)を即興で歌詞にしてたたき付けるように歌い、バトルを勝ち進む。
 エミネムの歌う主題歌「ルーズ・ユアセルフ」はアカデミー賞オリジナル歌曲賞を受賞。心に突き刺さる。(林田)


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