スクリーン(新聞連載コラム) 

2004年1月

「ラブ・アクチュアリー」 おおらかな愛包まれた映画
(2004年1月1日付)
 冒頭のヒュー・グラントのセリフ「ラブ・アクチュアリー・イズ・オール・アラウンド(愛は実際、周りにあふれている)」が、この映画のすべてを物語っている。
 クリスマス直前のロンドンを舞台に何組もの恋人たちが織りなすラブストーリー。すべてがハッピーエンドに向かっていると確信して見ていられる。
 もちろん起伏がないわけではない。しかし、そのほとんどは、出会いのときめき、思いを伝えようとする必死さ、伝わったときの喜びであり、いくつかの別離もポジティブな目線で語られている。
 とてもありえないような話(例えば、首相と家政婦の少女との恋)も、「まあ良いか」と思える。英国映画らしいユーモアのある会話や描写は時にドキッとするほどみだらだが、それも愛の一部。おおらかでコミカルで、しかもほとんど女性側がリードを取っているという点で好感が持てた。(野口)


「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ東京SOS」 ゴジラ復活に奇跡祈りたい
(2004年1月8日付)
 怪獣映画で映画館の闇の魅力を覚えた世代に属しているので、毎年正月、いそいそとゴジラを見に行く。正月映画がそれらしくなくなっている中、唯一年末年始を感じられるのがゴジラシリーズだ。
 今回の「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」、脚本の幼稚ぶりには目をつぶろう。若手の学芸会的演技や脇役陣の時代錯誤的演技もなかったことにしてよい。おもちゃメーカーとの結託がありありとうかがえる怪獣造形についても許す。けたたましいという言葉をはるかにしのぐ同時上映のアニメでさえ顔色を変えずに座っていよう。実際のところ、今のゴジラとはこうしたあらゆるチューブにつながれていることで延命されている、いわば脳死状態なのだ。
 だから来年はそんなすべてのチューブをぶち切って、大都市を蹂躙(じゅうりん)する本当のゴジラが見たい。奇跡を祈る。(臼井)


「ミスティック・リバー」 生きることの本質を厳しく
(2004年1月15日付)
 白日の悪夢のような映画である。舞台はボストン、季節は秋から冬らしいのだが、青空はついにワンショットも姿を見せない。
 そんな白日の陽光の中で悲劇は起こる。旧友たちの悲劇的な過去と再会。ラスト、映画史に残るであろうパレードのシーンでも影はくっきりと地面に落ちているのに、やはりそこに青空はない。
 この映画において過去は郷愁でもなく、未来は希望でもない。それらは主人公たちの生々しい現在の中に重ね合わされ、過去も未来も今この瞬間の生の中にしかないからだ。したがってその現在は肯定されねばならない。その現在が正しいなどとは言うまい。そんなことはなにより主人公たちが知っているだろう。
 それが生きるということではないのか。この映画の空はそれを教えてくれる。生きるということの本質をこれほどの厳しさで描いた映画がこれまでにどれほどあっただろう。(臼井)


「女はみんな生きている」 新しい人生に目覚める主婦
(2004年1月22日付)
 生き生きと希望にあふれ、納得いくストーリーのフランス映画。ほのぼのとした女たちの後ろ姿で終わるラストシーンには深い愛情と共感を持ったが、さて、男たちにはどう映るのだろうか?
 この映画、男には作れないだろうと思ったら、やはり女性監督のコリーヌ・セローだった。身勝手な夫にこき使われていた普通の主婦が偶然、娼婦(しょうふ)を助けたことから、自分本来の生き方を取り戻し、新しい人生を歩んでいく。彼女が素晴らしいのは、自分だけでなく他の不幸な女性をも引き連れて男から去っていくところだ。
 妻を家政婦としか見ていなかった夫のぼうぜんぶりが小気味良い。悲劇と喜劇が交ざり、久しぶりにドキドキしたり笑ったりの二時間だった。
 主婦役のカトリーヌ・フロが細い体で大活躍。娼婦役の新人ラシダ・ブラクニも画面狭しと走り回り、体当たりの演技で目が離せない。(林田)

「半落ち」 ベストセラー見事に映画化
(2004年1月29日付)
 アルツハイマーの妻を殺して自首してきた警部の梶。事件はすぐ解決するかに見えた。しかし妻を殺して自首するまでの二日間について梶は何も語ろうとしなかった。空白の二日間をめぐって、取り調べに当たる警察官、検事、弁護士、新聞記者、そして裁判官がそれぞれの立場から真実に迫ろうとする。
 原作は「このミステリーがすごい!2003年版」と昨年の「週刊文春傑作ミステリーベスト10」で第一位を獲得、四十万部を超えるベストセラーとなった。映画は原作をほぼ忠実に描きながら、後半で原作にはない映画的なヤマ場をつくっている。主役の寺尾聰をはじめ芸達者な役者(柴田恭兵、吉岡秀隆など)がわきを固め、佐々部清監督のオーソドックスな演出も映画に厚みを与えている。
 ミステリーの面白さを十分に生かしているとは言いがたいが、ここ数年公開された邦画の中では特筆すべき出来になっている。(酒井)


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