「石井のおとうさんありがとう」 感動に乏しい描き方が残念 (2004年9月2日付)
|
明治時代に三千人もの孤児や恵まれない子どもたちを引き取って育て上げた石井十次(高鍋町出身)の生涯を松平健主演で描く。百年も前の日本にこのような人物がいたとは驚きである。県民でありながら、つい最近まで彼を知らなかったことを情けなく思う。 そういった観点から見ると、この映画の功績はとても大きいと思う。もっと早くに映画化されて、“孤児の父”といわれた石井十次の驚くべき生涯を日本中に知らしめてほしかった。多くの人々に見てほしい作品ではある。 しかし、映画としての出来はいまひとつ感動に乏しい。十次の業績について淡々とガイドブックを読み聞かされているような作りは残念でならない。実話であり、内容も素晴らしいものでありながら、それはなぜか? 申し訳ないが、やはり監督の力量、脚本、音楽、すべてに何かが不足しているとしか言いようがない。子役の使い方も物足りなかった。(林田) |
「LOVERS」 ビッグスター3人の話題作 (2004年9月9日付)
|
「初恋のきた道」「あの子を探して」のチャン・イーモウ監督作品。主演に金城武、チャン・ツィイー、アンディ・ラウというアジアのビッグスター三人を起用した話題作である。 九世紀の中国。飛刀門なる反乱軍が勢力を拡大していた。一派を壊滅するため、捕吏のリウ(アンディ・ラウ)とジン(金城武)はリーダー拘束を命じられる。リウは盲目の踊り子シャオメイ(チャン・ツィイー)が飛刀門の一味とにらみ、ジンを送り込んでシャオメイを捕らえる。口を割らないシャオメイに対して、リウはある計画を立てる。 イーモウ監督は前作「HERO」で鮮やかな色彩感覚と華麗なワイヤアクションで観客を魅了した。この作品でもそれは十分に堪能できる。問題はストーリー。後半、二人の男と一人の女の三角関係に焦点が絞られていくのは当然としても、ほかの部分がどこかに飛んでしまう。消化不良を起こしたのは私だけだろうか。(酒井) |
「殺人の追憶」 実際の事件を基にした傑作 (2004年9月16日付)
|
傑作である。「シュリ」「JSA」など多くの韓国映画が公開されてきたが、私はこれらの作品に対してまじめであるが少々古臭く、大げさなイメージを抱いていた。しかしこの作品はまったく違う。サスペンス映画の名作「羊たちの沈黙」をもしのぐ素晴らしい出来栄えである。 どこがそれほど素晴らしいのか。それはち密な脚本を基にすべての場面が映像で表現されていることである。一九八六年のソウル近郊の農村。若い女性の裸の死体が発見され、その後も同じ手口の殺人事件が続く。捜査する刑事たちは、やがて心理的に追い詰められていく。そして有力な容疑者を見つけるが…。 実際に起きた未解決の連続殺人事件が基となっている。映画はコミカルなタッチで進行するが、殺人事件が重なるにつれて、観客は映画に引きこまれていく。事件が起きた韓国の時代背景を映し出しており、その重苦しく息苦しい雰囲気が見事に表現されている。(酒井) |
「ヴァン・ヘルシング」 ドラキュラと戦うハンター (2004年9月23日付)
|
十九世紀のヨーロッパ。バチカンの密命を帯びたヴァン・ヘルシング(ヒュー・ジャックマン)はドラキュラ伯爵を抹殺するため、トランシルバニアへ向かう。ドラキュラと戦い続けてきた一族の末えいであるアナ王女(ケイト・ベッキンセール)と協力し、戦いを挑むが…。 いつもはドラキュラを追い詰める役どころであるヘルシングは、モンスター・ハンターとして登場。ドラキュラ伯爵、ジキル博士とハイド氏、狼(おおかみ)男、フランケンシュタインと多数 のモンスターが登場し、大変にぎやかである。ヘルシングが指令を受けるシーンは明らかに007のパロディーで、ドラキュラの子供がまゆから誕生するところはエイリアンに似ている。 このように他の映画をうまく引用し、大掛かりなアクションを繰り出してストーリーを進めていく。ドラマが弱いとか、やぼなことを言わなければ、十分楽しめる作品に仕上がっている。(酒井) |
「白いカラス」 確かな演技力と美しさにため息 (2004年9月30日付)
|
最近のハリウッド映画と言えば、宇宙戦争にロボットもの、ホラー、暴力満載で少々うんざり気味の方も多いはず。それも時代の流れと、あきらめかけていたが、この映画は久々にじっくり見せてくれる逸品だった。監督は「クレイマー、クレイマー」(一九八〇年)でアカデミー賞を受賞したロバート・ベントンと言えば納得していただけるだろう。 内容は決して楽しいものではない。自由の国アメリカで今もなお、社会問題として厳然とはびこる人種差別、ベトナム帰還兵、性的虐待などの問題を包み隠さず、掘り下げて描いている。黒人の両親から白い肌で生まれたカラードの苦悩の物語である。 主演のアンソニー・ホプキンスは確かに演技力抜群だが、やはり何といってもニコール・キッドマンの美しさにはため息が出る。あまり詳しくは書けないが、苦悩を抱えた若い女性の、たばこをふかし続ける暗い表情が何とも切なかった。(林田) |