ワールド・イズ・ノット・イナフ
いつものように始まるタイトル前のアクション・シーンの手際が悪く、これはもしかしたら、と思ったら、やはりその後のアクションにもキレがさっぱりない。アクション・シーンの演出は前作「トゥモロー・ネバー・ダイ」(傑作!)に続いて第2班監督のヴィク・アームストロングだが、全体を締めるマイケル・アプテッドの演出の方に問題があったようだ。きわめて大味なのである。パンフレットによると、「アクション活劇としてはシリーズ中でも屈指の出来に仕上がっていた反面、テンポを速めるためにドラマ部分を犠牲にしていた感が否めなかった前作が、一部のファンから不評だった」ため、今回はドラマ重視に変えたのだそうだ。ドラマ重視とはいっても、おっと思ったのはボンドがためらいもなくボンドガールを撃ち殺す場面だけで、それ以外はいつものようにアクションを交えたストーリーが進行する。ボンドガールを演じるソフィー・マルソーが美しく素晴らしいだけに、この程度の演出では残念だ。
今回の敵はテロリスト。M(ジュディ・デンチ)の友人で石油王のロバート・キングがこともあろうにMI6の本部で爆殺される。犯人は国際的テロリストのレナードことヴィクター・ゾーカス(ロバート・カーライル)。レナードはMから暗殺指令を受けた009が撃った銃弾が頭に残り、痛みを感じない怪物となっていた。そしてmi6とキングに恨みを抱いている。次の狙いは娘のエレクトラ・キング(ソフィー・マルソー)らしい。mはジェームズ・ボンド(ピアース・ブロスナン)にエレクトラの警護を命じる。エレクトラは以前、レナードの一味に誘拐され、自力で逃げ出した過去があった。レナードは旧ソ連の地下核実験場から核弾頭を盗み出し、エレクトラが建設中のパイプラインを妨害する。ボンドはエレクトラの態度にも不審な点を見いだす。
007シリーズはスーパーヒーローを主人公にしたファンタジーだから、ドラマ重視と言われても困るのである。ドラマを盛り上げようという努力は買うが、マイケル・アプテッドの演出、今ひとつピリっとしない。この程度のドラマなら、もっとアクションシーンに力を注いで欲しかった。前作のロジャー・スポティスウッドのうまさが身にしみる出来である。
ソフィー・マルソーは大変良い。「ラ・ブーム」から20年、すっかり落ち着きのある美女に変貌していた。今回はマルソーの魅力を引き出しただけでも収穫はあったと思う。これでもう少し役柄が良かったら言うことはなかったのだが…。もう一人のボンドガール、デニース・リチャーズは「トーマス・クラウン・アフェアー」あたりからいい味を出すようになったと思う。
個人的には第8作「死ぬのは奴らだ」から劇場で007シリーズを見ている。つき合いの長いシリーズなので、今回つまらなかったからといって見捨てはしない。次回はいよいよ20作目。区切りの作品だから、きっと大がかりな仕掛けを用意するのではないか。捲土重来を期待しよう。
【データ】1999年 2時間8分 イギリス UIP配給/MGM作品
監督:マイケル・アプテッド 製作:マイケル・G・ウィルソン バーバラ・ブロッコリ 原案:ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド 脚本:ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド ブルース・アスティアン 音楽:デヴィッド・アーノルド 主題歌:「ワールド・イズ・ノット・イナフ」ガービッジ 撮影:エイドリアン・ビドル
出演:ピアース・ブロスナン ソフィー・マルソー ロバート・カーライル デニース・リチャーズ ロビー・コルトレーン ジュディ・デンチ デズモンド・リューウェリン ジョン・クリース サマンサ・ボンド ゴールディ