ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔
2時間59分。アクションに次ぐアクションで密度が濃く、見終わった後、頭がクラクラした。前作の後半を占めた怒濤のアクションが今回は最初から最後まで途切れることがない。そのアクション場面を背負っているのがアラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)で、前作よりも格好良く、ほとんど主人公の風格。エオウィン(ミランダ・オットー)とのほのかなロマンス描写もいい。アラゴルンと同行するレゴラス(オーランド・ブルーム)のほれぼれするような弓の放ち方と、ギムリ(ジョン=リス・デイヴィス)のユーモアも楽しい。本来の主人公であるフロド(イライジャ・ウッド)とサム(ショーン・アスティン)のコンビの旅は波乱に富んでおり、指輪の前の持ち主であるゴラムのスメアゴルが加わって、ぐっと深みを増した。善と悪に揺れ動くスメアゴルは今回の大きなポイントだ。クライマックスの怪物1万対人間300の壮絶な戦いは延々と続き、圧倒的に迫力がある。CGと分かっていても、このスケールの大きさは感動的である。
ピーター・ジャクソンの演出に狂いがないと思うのはラストをフロドとサムの力強いセリフで締め括っているところ。指輪の邪悪な力に圧倒されて弱気になったフロドに対して、サムは「物語の主人公は決して後には引かない」と話すのだ。この脱映画的とも思える場面はジャクソンの「指輪物語」を映画化することへの決意をも表しているのに違いない。ジャクソンの演出は決して細かい部分でうまいわけではなく、もう少しドラマティックに盛り上げてほしい不満もあるのだが、原作への愛と情熱とパワーで押し切った感じがする。「スター・ウォーズ」シリーズよりも物語の背景に深みがあるし、演出が正攻法である。よくぞここまで立派な映画を作ったなと、前回と同じような感想を持たされる。
前作で火の鞭を振るう怪物バルログとともに奈落に落ちたガンダルフ(イアン・マッケラン)のその後を描く冒頭から画面に力がこもっている。物語の時間軸は前作からそのままつながっており、これぞ正しい続編という感じがする。9人の旅の仲間は3つに分かれて、冥王サウロンのいるモルドールへの旅を続ける。道に迷ったフロドとサムは指輪を盗もうと接近してきたゴラムにモルドールへの道案内を頼む。空飛ぶ獣に乗る黒い騎士ナズグルの強襲を避けながらの困難な道のりだ。一方、アラゴルンとレゴラス、ギムリはオークたちにさらわれたメリーとピピンを追って荒野を行くうちに人間の国ローハンの一団に出会う。サウロンと組んだ悪の魔法使いサルマン(クリストファー・リー)はローハンに兵を送ろうとしていた。アラゴルンたちは復活したガンダルフとともにローハンの王セオデン(バーナード・リー)を助け、峡谷にある石の要塞・角笛城で押し寄せる怪物軍団を迎え撃つことになる。
今回の中心はこの角笛城の攻防戦で1時間近く続く。1万対300、しかも300のほとんどは子どもと老人。絶望的な戦いをジャクソンは執拗にダイナミックに描く。これが動のパートであるのに対して、フロドの一行はいわば精神面での善と悪の戦いと言える。逃げ回るハン・ソロと、ダークサイドに引き込まれそうになりながらフォースの修業に励むルークを交互に描いた「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」を思い起こさせる構成だ。映画の魅力を補強しているのはニュージーランドの素晴らしい風景で、これまた前作よりも効果的に使われている。戦いを描く物語の常で好戦的な描写も散見され、それゆえにこの物語から現実を照射するのは簡単なのだが、これはあくまでも人間対怪物の戦いであり、アメリカ対テロリストのような狭い了見での解釈はしたくない。ジャクソンは少なくとも「指輪物語」を満足のいく出来栄えに完成させることしか頭にはないはずだ。優れた物語は完成した途端にいろいろな輝きを持ち始めるものだ。完結編「王の帰還」が公開される来年を首を長くして待ちたい。
【データ】2002年 アメリカ 2時間59分 配給:日本ヘラルド映画 松竹
監督:ピーター・ジャクソン 製作総指揮:マーク・オーデスキー ボブ・ワインスタイン ハーヴェイ・ワインスタイン ロバート・シェイ マイケル・リン 製作:バリー・M・オズボーン フランク・ウォルシュ ピーター・ジャクソン 原作:J・R・R・トールキン 脚本:フラン・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン スティーブン・シンクレア ピーター・ジャクソン 撮影:アンドリュー・レスニー 美術:グラント・メイジャー 衣装:ナイラ・ディクソン リチャード・テイラー 音楽:ハワード・ショア
出演:イライジャ・ウッド イアン・マッケラン リヴ・タイラー ヴィゴ・モーテンセン ショーン・アスティン ケイト・ブランシェット ジョン=リス・デイヴィス バーナード・ヒル クリストファー・リー ビリー・ボイド ドミニク・モナハン オーランド・ブルーム ヒューゴ・ウィービング ミランダ・オットー デヴィッド・ウェンハム ブラッド・ドゥーリフ アンディ・サーキス カール・アーバン クレイグ・パーカー