ラン・ローラ・ラン
映画が始まって30分余りで、主人公のローラ(フランカ・ポテンテ)は警官に撃たれて死んでしまう。「おや」と思っていると、そこから映画はループの世界に入っていく。「こんな結末はいやだ」と思ったローラが人生のある局面を繰り返すのである。ケン・グリムウッドの小説「リプレイ」のような設定だが、「ラン・ローラ・ラン」の場合、主人公が自力でリプレイを繰り返すところが異なる。なぜローラにそんな能力があるのか。映画は冒頭、ローラが大声を上げてガラスをこなごなに砕く場面を挿入し、ローラの少し変わった能力を示している(まるで「ブリキの太鼓」。これは後半の伏線になっている)けれど、これだけではこのローラの能力を納得させるのは少し無理。しかし実験的、SF的な映画であることは間違いなく、アニメも駆使したポップな展開と合わせて大変ユニークだ。こういう作品が出てくるから、ドイツ映画は侮れない。フランカ・ポテンテにもう少し魅力があれば、もっと良かっただろう。
発端は恋人マニ(モーリッツ・ブライブトロイ)からの1本の電話だった。恋人は麻薬取引で得た10万マルクを電車に置き忘れ、浮浪者に盗まれた。20分以内に用意しないと、ボスに殺される。元はといえば、ローラが待ち合わせに遅れ、電車に乗る羽目になったのが原因だった。「おまえは俺が困ったら、必ず助けてくれるといっただろう。ダメなら、スーパーに強盗に入る」。泣いて頼むマニの命を救うため、ローラはアパートを飛び出し、ベルリンの街を走る走る。10万マルクを20分で手に入れるために最初に頭に浮かんだのは銀行に勤めるパパのこと。しかし、銀行に着くと、パパは恋人と深刻な話の最中。しかも「おまえは私の本当の子どもじゃない」と打ち明けられ、銀行を追い出される。強盗を阻止するためにローラはスーパーに走る。マニは一足違いで既に強盗を始めていた。しょうがない。ローラは協力し、現金を奪うが、警官隊に囲まれ、ローラは撃たれてしまうのだ。「ストップ」。ローラが声を挙げると、場面は電話を受けた直後に戻っている。そこからローラはまた走る走る。果たして今度はうまくいくのか…。
上映時間81分。その中で3度、同じ局面が繰り返される。3度目の局面で、ローラはカジノに入り、特異な能力を発揮して、10万マルクを手に入れる。それとは別にマニもまた、解決策を用意しており、映画はハッピーエンドを迎える。短編の映画化のような印象だが、アイデアが面白い小品と言えようか。監督のトム・テイクヴァはこれが映画デビューで、ニュー・ジャーマン・シネマ以降の注目株の一人らしい。演出はリズミカル、自身が担当した音楽もよく、他の作品も見てみたい気がする。
【データ】1998年 ドイツ映画 1時間21分 Xフィルメ・クリエイティブプール作品 製作:シュテファン・アーント
監督・脚本・音楽:トム・テイクヴァ 撮影:フランク・グリーベ 音楽:ジョニー・クリメック ラインホルト・ハイル 美術:アレクサンダー・マナッセ
出演:フランカ・ポテンテ モーリッツ・ブライブトロイ ハイノ・フェルヒ ヘルベルト・クナウプ