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ローズ家の戦争

今をときめくロバート・ゼメキス監督の離婚をテーマにした映画である。ゼメキスの「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」を追い上げて全米ナンバーワンのヒットとなったのだから皮肉な結果ではある。コメディアンのダニー・デビートが監督で、当然コメディかと思ったら話は極めて道徳的(?)な展開だった。結婚17年目の夫婦に破局が訪れ、家の所有権を巡って壮絶な戦いが始まるというコメディにはぴったりの題材なのだが、後半は「危険な情事」を思わせる凄絶さなのである。決着のつけ方も当たり前すぎるし、「離婚戦争に勝利はない」などという警句めいたセリフまで出てくる。描写はコメディっぽいところも多いけれど、結果はシリアスというちょっと中途半端な映画なのである。

キャスリーン・ターナーとマイケル・ダグラスが夫婦を演じ、ダニー・デビートはその友人で語り手とコメディ・リリーフの役割を務める。美術品のオークション会場で出会った二人は幸福な家庭を築くが、マイホームを手に入れ、子供も大学に入って二人きりの生活になってから徐々に歯車が噛み合わなくなっていく。おまけに妻は料理の才能があることが分かり、経済的な自立も果たす。これによってなおさらヒビが大きくなる−というのはよくあるパターンである。だが、妻が「家は自分が見付けて、作り上げたものだから」と離婚の条件に家を引き渡すことをつけたために対立が深まり、一挙に戦争状態に突入する。ターナーはダグラスを殴リ、皿を投げ、サウナに閉じこめ、4WDのジープで大暴れする。ダグラスの方も妻が招いた客にあからさまな嫌がらせをしたりして、負けてはいない。事態はエスカレートするばかリだ。

ターナーはふとももの魅力もちらつかせて相変わらず、色っぼいけれども後半は怒りの表情に終始し、グレン・クローズも真っ青の怖さ。もともとコメディの似合う女優なのにこんな使い方はないと思う。ブラック・ユーモアというには悲劇的な結末で、バランス感覚を欠いているのが映画の最大の欠点である。

ただ1点、注目すべきはカメラの凝りようだ。斜めの構図やパン・フォーカスの多用はまるでヒッチコックである。クライマックスに、シャンデりアにつかまった二人を奥に、鳴り響く電話を手前に捉えた構図があるが、あれはきっとヒッチコックが「白い恐怖」で通常の4倍の大きさの拳銃を使ったように、大きな電話の模型を作って撮ったに違いないのである(あるいは単なる合成がもしれないが…)。考えてみれば、デビート監督の前作「鬼ママを殺せ!」(劇場未公開・ビデオあり)は、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」をモチーフにした交換殺人の話だった。だから、デビートはかなりヒッチコック映画の影響を受けているとみていいだろう。ヒッチコック映画の好きな監督がその手口をまねるのはよくあることである。

デビートの不幸は題材を間違えたことにある。「ローズ家の戦争」の原作がどういうものか知らないが、少なくともスリラーではないだろう。ヒッチコック・タッチと合うものではないはずだ(いや、もちろんヒッチコックにだってコメディはあリ、例えば「ハリーの災難」などはブラック・コメディの佳作だと思う)。かといって本格的なスリラーを題材に選べば、コピーにしかならないのは自明のことだし、デビート本来の持ち味も生かせなくなる。ジレンマですね。(1990年6月号)

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