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ロッキー5 最後のドラマ

映画界の柳の下にはドジョウが3匹までいることになっている。ロッキー・シリーズはそれを忠実に実践してきたが、さすがに4匹目、5匹目ともなると、痩せ衰えてくるようだ。スタローン人気もかつてのようなものではないし、この映画もそれほどヒットしていないだろう。映画自体の出来は悪くはない。少なくとも、第4作に比べて映画らしい作りになっている。ただ、観客にしてみれば、これはあってもなくても良いような話である。何となく、「猿の惑星」の第5作にして最終作の「最後の猿の惑星」を見た時のような印象があった。スタローンをはじめ製作者たちはシリーズに決着をつけたかったのだろうが、アメリカのチャンピオンとなり、ソ連の強敵を倒して世界一強い男となったヒーローのその後の物語など興味がわかない。エスカレーションの一途をたどってきたシリーズをここまで地味に描くことには一面で感心もするけれど、これはあくまでも後日談のレベルてあり、大いなる蛇足といって差し支えないと思う。

物語は前作のラストから始まる。ソ連のチャンピオン・ドラゴを倒したロッキーは体に変調を来す。強いパンチを受け続けたために脳に障害を起こしていたのだ。もうリングには上がれない。おまけに会計士が財産を横領してロッキーは一文無しになっていた。乱暴な設定だが、それは第1作で舞台となったフィラデルフィアにもう一度物語を戻す手段なのだから仕方がない。老トレーナーの故ミッキー(バージェス・メレディス)が残してくれたジムで今度はロッキーがトレーナーとなり、若手の指導に務めることになる。ロッキーを慕ってやってきたトミー・ガン(トミー・モリソン)という若者を育てることにロッキーは全精力を傾けるが、息子(セイジ・スタローン)はかまってくれない父親に怒り、グレ始める。プロデビューして連戦連勝のトミーもマスコミから“ロッキーのロボット"と言われることに腹を立て、ロッキーのもとを離れて行く。チャンピオンとなったトミーはロッキーに挑戦状をたたきつけるが…。

ロッキーが“奇跡の復活"を果たして再びリングに上がる展開を予想していたら、そうはならなかった。第1作の監督でもあるジョン・G・アビルドセンは、ロッキーとトミー・ガンとのストリート・ファイトで決着を付けた。これは、えらいと思う。絵空事になることを避けたのだろう。ロッキーシリーズの第1作はアメリカン・ドリームを描いたと言われ、アカデミー作品賞を受賞したが、その細部の描写にはリアリティがあった。アビルドセンは少なくともきっちりした映画作りを心得ている。スタローン自身が監督した第2作から早くも破綻を来したのは、スタローンにそれがなかったためだろう。子供をぞろぞろ引きつれて行うトレーニングシーンを見て、僕は「ケッ」と思った。今回、監督に返り咲いたアヒルトセンは、ま、「ベスト・キッド」の第2作以降でミソをつけたのだけれど、演出の手堅さは相変わらずだ。妻のエイドリアン(タリア・シャイア)や息子の耳の後ろからコインや眼鏡を出して見せる手品を何度か繰り返すシーンや第1作の頃の衣装をロッキーに再び着せたりするところに細部の重みを感じさせる。本来が地味な職人監督だからこういう題材を撮らせると、本領を発揮するのである。

これがロッキー・シリーズでなかったら、それなりに評価できる作品になっただろう。しかし、これまでの経緯があリますからね。やはり、どうでもいいや、という気になるのだ。もしかして第2、3、4作が好きな人がいるとしたら、その人にとっても不満な大団円なのではないだろうか。(1991年2月号)

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