ラブ・オブ・ザ・ゲーム
主人公のビリー・チャペル(ケヴィン・コスナー)はデトロイト・タイガースの投手で、数々の栄光を築き上げてきたチームの大黒柱でもある。しかし40歳を迎えて、腕は痛み、体にはガタがきている。ある日、ビリーはオーナーからチーム売却の方針を伝えられた。新オーナーはビリーをトレードに出すつもりらしい。ビリーは好きな野球を辞めるかどうかの瀬戸際に立たされる。おまけに恋人のジェーン(ケリー・プレストン)は仕事でロンドンに移住するという。ビリーはさまざまな思いを秘めてニューヨーク・ヤンキース相手のマウンドに立つ。
映画はこのビリーにとっての最後の試合を追いながら、ビリーの回想でジェーンとの愛の日々を描く。ジェーンは16歳でジャンキーの男との間に子どもを生み、ホントの恋をする暇もなかった。愛に対して臆病になっているという設定である。演じるケリー・プレストンがなかなかいい。若く見えるけれども、実際は38歳。大人のラブストーリーにピッタリだ。対するビリーは野球一筋の人生。野球を取ったら何もない男なのである。サム・ライミはこの2人の関係をじっくりと時間をかけて描いている。
映画は終盤、ビリーが完全試合を達成できるかどうかに焦点が移るけれども、その後にいったん仲違いしたビリーとジェーンが再び結ばれるシーンを描く。野球映画というよりも中年男女のラブストーリーとして収斂していくのである。試合の場面はCGを使っているのだろうが、ケヴィン・コスナーのピッチング・フォームを含めて出来はいい。過去に珍プレーで放映されるような致命的エラーをした黒人選手が、それを払拭する好プレーを見せるなど伏線の張り方がやや分かりやすすぎるのが難か。
それにしても、サム・ライミの変貌をどう受け止めればいいのだろう。前作「シンプル・プラン」はサスペンスだったから、まあホラーと縁がないこともなかった。だが今回は野球を絡めたラブストーリーだ。あの「死霊のはらわた」の監督がなぜ、と戸惑ってしまう。はっきり言えば、この映画、演出に際だった点は見られず、取り立てて褒めるところもない代わりに、悪口を言うべきところもない(長すぎる点を除けば)。極めてフツーの出来なのである。予告編を見て、これがサム・ライミの作品とはとても予想できなかった。もちろん異端から正統への転換が悪いわけではない。フツーの映画で監督の個性が表れないような映画を撮る意味が分からないのである。サム・ライミが今後、どういう道を進んでいくのか分からないけれど、少なくともこれがゴールではないだろう。過渡期の作品と位置づけていいのではないか。
【データ】1999年 アメリカ 2時間18分 ユニバーサル映画提供
監督:サム・ライミ 製作:アームヤン・バーンステイン エイミー・ロビンソン 原作:マイケル・シャーラ「最後の一球」(ハヤカワ文庫NV) 脚色:ダナ・スティーブンス 撮影:ジョン・ベイリー 音楽:バジル・ポールドゥリス
出演:ケヴィン・コスナー ケリー・プレストン ジョン・c・ライリー ジェナ・マローン ブライアン・コックス