シビル・ウォー キャプテン・アメリカ
ヒーローたちの戦いによって一般人に犠牲者が出たことで批判を受けるという「バットマン VS スーパーマン」と同じような設定から始まるのに、その後の出来は随分違う。こっちの方が数段上である。途中まではよくある話でVFXも大したことないなと思って見ていたが、終盤の展開で大きく点を上げた。序盤から張っていた伏線がクライマックスで見事に生きてくる。しかもそのテーマは現代に密着している。
ナイジェリアのラゴスでアベンジャーズとヒドラの残党との戦いでビルが破壊され、一般市民に多数の犠牲者が出る。これまでのアベンジャーズの戦いでも大きな被害が出てきたことから、国際的な批判が高まり、アベンジャーズを国連の管理下に置くソコヴィア協定が提案される。米国政府はアベンジャーズに協定への署名を求めるが、署名に積極的なアイアンマン(トニー・スターク/ロバート・ダウニー・Jr)に対して、キャプテン・アメリカ(スティーブ・ロジャース/クリス・エヴァンス)は「自由な活動が奪われる」として拒否する。
さらにソコヴィア協定の署名式が行われていたウィーンで爆破テロがあり、演説中だったワカンダ国王のティ・チャカが死亡する。監視カメラに映っていたのはバッキー・バーンズ(ウィンター・ソルジャー/セバスチャン・スタン)だった。アベンジャーズはキャプテン・アメリカチームとアイアンマンチームに分かれて対立することになる。この対立の陰には謎の男ズィモ(ダニエル・ブリュール)の暗躍があった。
アイアンマンがズィモの陰謀に気づき、対立が解けるかと思えたところで、冒頭に描かれたある事件の真相が描かれる。ここがとてもドラマティックだ。Wikipediaによれば、監督のアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟は「本作品を"サイコスリラー"と位置付けており、『セブン』や『ファーゴ』、『ゴッドファーザー』といった作品に加え、西部劇やブライアン・デ・パルマの映画から影響を受けたと述べている」。そして「ジョー・ルッソは本作のテーマを"裏切り"とし、『とてもエモーショナルな作品』だと称した」そうだ。クライマックスで爆発するエモーション。もちろん、映画はこのエモーションにつながるエピソードを前半に入れている。
ハルクとソーを除いてアベンジャーズの面々が集結し、スパイダーマンとアントマン、ブラックパンサーも新たに加わっている。これを「アベンジャーズ」第3弾としてもそれほどの違和感はなかっただろう。しかし、メンバーを増やしたことよりもレベルの高いCGやアクションを入れたことよりも、観客をミスリーディングするストーリーとエモーションを重視したことがこの映画の成功の一番の要因だ。
ズィモの設定も単純な悪役ではない。そのズィモに対して攻撃の爪を収めるブラックパンサーの姿は言うまでもなく憎しみと報復の連鎖を断ちきる重要さを訴えている。
「ウィンター・ソルジャー」で「キャプテン・アメリカ」を驚くほど面白くしたルッソ兄弟は今回も期待を裏切らなかった。VFXの水準が大きく上がった現在、どこまでどうやって話を面白くするか、脚本を練り上げることが重要なのだと改めて思う。「キャプテン・アメリカ VS アイアンマン」の構図は次の「Avengers: Infinity War」のパート1とパート2に引き継がれていくのだろうか。