ジュディ 虹の彼方に
「ゴールすることがすべてじゃない。夢を持って歩き続けることが大事」。ラストステージ、ジュディ・ガーランド(レネー・ゼルウィガー)はそう言って「虹の彼方に(オーバー・ザ・レインボー)」を歌い始め、途中で感極まって歌えなくなってしまう。そこからどうなるかは映画を見て欲しいが、人を勇気づけるこのクライマックスはとても素晴らしく、100点満点だと思う。
2005年にオーストラリアで初演された舞台「エンド・オブ・ザ・レインボー」を基にルパート・グールド監督で映画化。レネー・ゼルウィガーがアカデミー主演女優賞を取ったといっても、見る前は気が重かった。5度の結婚と離婚を繰り返し、47歳で亡くなったガーランドの生涯は決して幸せなものだったとは言えず、熱演型の演技も予想できたからだ。実際、2人の子どもと共にステージを務めるガーランドは70歳のように見える。「ブリジット・ジョーンズの日記」で分かるようにゼルウィガーはふっくらした顔と体型が魅力なのだが、この映画ではほとんどおばあさんのように見えるのだ。実際のガーランドに似せているのだろうが、これはあんまりではないか。
映画で描かれるのはガーランドが薬物中毒から復活した「スタア誕生」(1954年)より後、1968年のエピソードがメイン。多額の借金を背負い、ホテルからは宿泊代の滞納で契約を打ち切られ、子どもを元夫のシド(ルーファス・シーウェル)に託さなくてはならなくなる。借金返済のために自身はロンドンのナイトクラブのショーに出演することになった。ロンドンではまだガーランドの名前が通用するのだ。しかし公演初日からガーランドは遅刻する。不眠症で薬と酒が手放せない。ガーランドがそうなったのはなぜなのか。映画は「オズの魔法使」に出演したころのことを描いていく。
太りやすいガーランドはステージママの母親から厳しく食事を制限され、ハンバーガーさえ食べさせてもらえない。1日18時間も撮影があり、眠らせないためにアンフェタミン(覚醒剤の一種)を与えられる。そうなると眠れないので睡眠薬を渡される。大物プロデューサーのルイス・B・メイヤーはパワハラまがいの言葉でジュディを拘束している。そうして今のジュディがある。
見ていて痛々しくなるのだが、中盤にじんわりと温かいエピソードがある。深夜に公演を終えたジュディが外に出ると、2人のファンが待っていた。男性のカップルでゲイらしい。「あなたは最高のスターだ」という言葉に嬉しくなったジュディは食事に誘うが、開いている店はなく、2人のアパートで手作りのオムレツ(クリームを入れすぎて失敗する)を食べながら飲み、話を聞く。2人のうちの一人はゲイを理由に収監された経験があるという。2人を勇気づけるようにジュディはピアノ伴奏に合わせて歌をプレゼントする。
ここは大変良いシーンであるにしても、本筋とは関係ないじゃないかと思える。ところが2人はクライマックスに再登場するのだ。なるほど。だからあんなに丁寧に描写していたのか。
映画を見終わってから知ったのだが、ジュディ・ガーランドはLGBTのアイコン的存在という。LGBTのシンボルがレインボーフラッグなのは多様性を表すと同時に、「虹の彼方に」から来ているという説があるそうだ。ハリウッドで抑圧された人生を歩んだガーランドは同じように抑圧されたLGBTの人たちに深い共感と理解を示したのだろう。あの中盤のエピソードが胸にしみる温かさで描かれるのはそのためだ。
ただし、映画はそうした部分を十分に説明しない。一部の人には分かるかもしれないが、もう少し説明的な描写があっても良かったのではないかと思う。