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シネマ1987online

ジャーヘッド

「ジャーヘッド」パンフレット

ジャーヘッドとは米海兵隊員の俗称。1991年の湾岸戦争を経験したアンソニー・スオフォードのベストセラー「ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白」を「ロード・トゥ・パーディション」のサム・メンデス監督が映画化した。劇中にある「4日と4時間と1分で戦争が終わった」という表現は地上戦が始まった1991年2月24日から28日までを指す。

主人公が所属する第2小隊はサウジアラビアに駐留して油田警備などをしながら、半年近くも延々と待った挙げ句、イラク国境に進撃するが、銃を撃つこともなく、終戦を迎えることになる。狙撃兵の主人公が生きた敵の姿を目にするのは、はるか遠くにいるイラク将校の姿をライフルのスコープの中にとらえる場面だけ。だから、映画の中で描かれるのは湾岸戦争というよりも出番を待ち続ける海兵隊員たちの姿である。インターネット・ムービーデータベースによると、「Fuck」とそれに類する言葉が278回も出てくるそうで、そういう猥雑な海兵隊の日常がユーモアを交えて描かれていく。メンデスは一場面一場面をかっちりと撮っていく監督なので、燃え上がる油田の描写や砂漠の中の訓練など印象的な場面が多い。爆撃シーンはあっても兵士同士の戦闘場面はなく、それゆえ反戦とも好戦とも違った異色の戦争映画、軍隊映画になっている。ただ、それ以上のものではない。海兵隊の実情はよく分かっても、批判精神が希薄なので、中途半端さを感じるのだ。

映画の最初にざっと描かれる説明によれば、主人公のスオフォード(ジェイク・ギレンホール)の父親はベトナム帰還兵。母親は生活に疲れきっており、妹は精神病院に入っている。典型的なプアーホワイトの家なのだろう。「大学に行く途中で間違って」18歳で海兵隊に入ったスオフォードはスタンリー・キューブリック「フルメタル・ジャケット」の前半にあるような訓練を受けた後、サウジで「砂漠の盾作戦」に参加する。ところが、まだ外交交渉の段階なので、海兵隊の当面の任務は油田警備だった。ここから過酷な訓練やスオフォードの恋人への思い、「地獄の黙示録」の襲撃シーンに興奮する兵士たち、気温45度の中でのフットボール、クリスマスイブの騒ぎ、兵士たちのいらだち、苦悩などなどがスケッチされていく。そして砂漠に来て175日と14時間5分後にようやく「砂漠の嵐作戦」が開始される。

湾岸戦争は一応、イラクのクウェート侵攻をやめさせるという大義名分があり、アメリカ側の犠牲者も少なかったから、空爆によるイラクの死者が10万人を超えようとも、アメリカにとっては正義の戦いを標榜できた。その戦争を一兵士から見るという狙いは悪くなく、メンデスは無難にまとめているが、ドラマティックな要素は少ないので、ちょっと物足りない思いも出てくる。原作自体、海兵隊の人間ドラマのようだから仕方ないが、それをベースにフィクションを構築しても良かったのではないかと思う。物語の中心となるポイントらしいポイントがないのが弱いところか。

付け加えれば、映画の中に登場する砂漠は当然のことながら、中東ではロケできなかったので、南カリフォルニアのインペリアル・バレーで撮影された。背景にあった山などはデジタル処理で消したのだそうだ。

【データ】2005年 アメリカ 2時間3分 配給:UIP映画
監督:サム・メンデス 製作総指揮:サム・マーサー ボビー・コーエン 製作:ダグラス・ウィック ルーシー・フィッシャー 原作:アンソニー・スオフォード 脚本:ウィリアム・ブロイルズJr 撮影:ロジャー・ディーキンス 音楽スーパーバイザー:ランドール・ポスター 音楽:トーマス・ニューマン プロダクション・デザイン:デニス・ガスナー
出演:ジェイク・ギレンホール ピーター・サースガード ジェイミー・フォックス クリス・クーパー ルーカス・ブラック ブライアン・ゲラティー エヴァン・ジョーンズ ラズ・アロンソ

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