It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ジェヴォーダンの獣

「ジェヴォーダンの獣」パンフレット

18世紀のフランス・ジェヴォーダン地方に残る凶暴な野獣の伝説を基にした自由な映画化。印象に残るのはアメリカ先住民のマニを演じるマーク・ダカスコスの素晴らしいアクションと相変わらず美しく、イザベル・アジャーニに似ているモニカ・ベルッチ(「マレーナ」)。この2人に関しては大いに満足。映画自体もホラー、アクション、コスチューム劇などさまざまな要素を詰め込んで、クリストフ・ガンズの演出、サービスたっぷりである。主人公が終盤、急に強くなるのが不自然であるなど、細かい傷は目に付くし、ややシャープさに欠ける場面もあるが、美しい自然と神秘的な雰囲気を漂わせた演出は及第点と言っていい。徐々に姿を現す野獣の見せ方もうまく、2時間18分を飽きさせない。

国王ルイ十五世統治下の1765年。ジェヴォーダン地方で殺戮を繰り返す野獣の正体を突き止めるため、国王は自然科学者のフロンサック(サミュエル・ル・ビアン)を派遣する。フロンサックには武力の達人で兄弟の誓いを立てているマニが同行。地元の若い貴族マルキ・トマ・ダプシェ(ジェレミー・レニエ)は2人に協力し、野獣を捕まえようとする。映画は二十数年後のフランス革命で糾弾されるこのマルキの回想で語られる。フロンサックは地元の貴族の令嬢マリアンヌ(エミリエ・デュケンヌ)に出会い、一目で恋に落ちる。マリアンヌにはアフリカで片腕を亡くした兄ジャン(ヴァンサン・カッセル)がおり、ことあるごとにフロンサックと対立する。そんな中、国王が派遣した討伐隊に地元も協力して野獣捕獲の大作戦が始まり、巨大な狼が退治される。これで野獣事件は表向き解決、ジャンの策謀でマリアンヌとの仲を裂かれたフロンサックもパリに帰る。だが、野獣の仕業と思われる事件はなお続いた。マルキの要請を受け、フロンサックとマニは再びジェヴォーダンに向かう。映画はここから独自解釈で野獣の秘密を明らかにしていく。

フロンサックは人知を超えた野獣の存在など信じていない合理的な考え方の持ち主。という設定はティム・バートン「スリーピー・ホロウ」を思わせる。この映画の場合、その合理的な考え方通りに野獣の正体が明かされる。この正体と物語を回想するマルキのその後の運命が見事な対比となっているのがうまいところ。余韻を残すラストになっている。野獣のSFXを担当したのはジム・ヘンソン・クリーチャー・ショップ。アニマトロクスとCGを使い、凶暴な野獣にリアリティを持たせている。

しかし最大の収穫がマーク・ダカスコスなのは衆目の一致するところだろう。最初の登場場面、一人で悪人たちをバタバタとやっつけるアクションは感心するほど鮮やか。カンフーアクションに似ているなと思ったら、香港のスタッフが参加していた(スタント・コーディネーターは「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」などのフィリップ・クォーク)。自然と交信し、不思議な力を持つマニの存在は際だっており、ほとんど主役を食っている。途中で消えるのが惜しいキャラクターである。ダカスコスは「クライング・フリーマン」(1996年)でもクリストフ・ガンズと組んでいるが、これまでの出演作はいずれもB級アクション。この大作映画で本当にスターの仲間入りを果たした感じを受ける。モニカ・ベルッチは娼婦で実は、という役柄。もう少し出番を多くしてくれると、ファンとしては嬉しかった。

パンフレットによると、マルキ・トマ・ダプシェは実在の人物で、映画同様、死刑にされるため民衆に連れ去られたが、実際には召使いや小作人たちに助けられ、ギロチンを免れたそうだ。

【データ】2001年 フランス 2時間18分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:クリストフ・ガンズ 製作:サミュエル・ハディダ リシャール・グランピエール 脚本:ステファン・ガベル 撮影:ダン・ローストセン プロダクション・デザイン:ガイ=クロード・フランソワ スタント・コーディネート:フィリップ・クォーク
出演:サミュエル・ル・ルビアン ヴァンサン・カッセル モニカ・ベルッチ エミリエ・デュケンヌ ジェレミー・レニエ マーク・ダカスコス

TOP