少林サッカー
香港で大ヒットした周星馳(チャウ・シンチー)主演のサッカー・コメディ。落ちこぼれチームが試合に勝っていく快感とデフォルメされた効果的なCGの使い方が漫画チックで面白い。計489カ所に使われたというCGによって、登場人物たちの目はメラメラと燃え、蹴ったサッカーボールは炎を上げ、風圧で芝生を抉り、壁をぶち抜く。ストーリーと描写のエスカレーションがうまく相乗効果を挙げており、思い切り笑わせてハッピーな気分にさせてくれるエンタテインメント。「あしたのジョー」や「シコふんじゃった。」を踏まえ、スポーツ映画の定石を外していないし、軽快さに徹した作りが極めて気持ちのよい映画である。チャウ・シンチーの人柄の良さが画面ににじみ出ているのも良い。
少林寺の達人で少林寺を広めることに情熱を持っているが、社会的には落ちこぼれのシン(チャウ・シンチー)と、20年前、八百長をしたことでスター選手の座を追われたファン(ン・マンタ)が出会う。シンの鋼鉄の足に目を付けたファンはサッカーチームを作り、全国大会に出場しようとする。シンはかつて少林寺拳法をともに学んだ兄弟子、弟弟子たち5人を訪ね歩くが、いずれもかつての技術は残っていない。優勝すれば100万ドルという言葉に釣られて集まったメンバーは、最初の練習試合でボコボコにされるが、試合中にふとしたことでかつての力を取り戻す(このシーンがおかしい)。全国大会に出場したチームは連戦連勝。ついに決勝へと勝ち進む。決勝の相手は20年前、ファンに八百長を持ちかけ、足を折らせたハン(パトリック・ツェー)のチーム魔鬼隊。筋肉増強剤と過酷なトレーニングで人間とは思えない力を持ったチームにシンたちは一人また一人と倒されていく。
香港では観客動員を途切れさせないため、途中からシーンを追加したロングバージョンが公開された。日本公開版もこのロングバージョンで、チームをつくるまでに余計なエピソードが挟まれて、やや間延びした感じになった。しかし、それが小さな傷にしか思えないのは、例えば、善玉のキャラクターたちがことごとく報われない生活をしているとか、太極拳の達人で美人に変貌するムイ(ヴィッキー・チャオ)とシンのボロボロの靴を巡るエピソードとか、ハンに虐げられるファンの浪花節的エピソードなどが抜群の大衆性を兼ね備えているためだ。汚い手法でのし上がったエリート階級に一撃を加える展開、これがこの映画が支持を集めた一因でもあるだろう。
チャウ・シンチーはブルース・リーの映画で、映画を志したという。ジャッキー・チェンと同様、年齢的にはアクションは苦しいのだが、ジャッキーが体を張ったアクションに固執している(これは素晴らしいことだ)のとは対照的にシンチーはCGに活路を見いだしたようだ。だからといってこのCGの使い方、決して安易ではなく、シンチーのキャラクターと密接に関わっている。観客を喜ばせることに心を砕いたシンチーの姿勢には好感が持てるのだ。
【データ】2001年 香港 1時間49分
監督:チャウ・シンチー 製作:ヨン・クオッファイ プロダクション・スーパーバイザー:ティン・カイマン リー・リクチー 脚本:チャウ・シンチー チャン・カンチョン アクション指導:チン・シウトン 音楽:レイモンド・ウォン 監督補:リー・リクチー CG:セントロ・デジタル・ピクチャーズ
出演:チャウ・シンチー ラム・チーチョン ウォン・ヤッフェイ モク・メイラム ティン・カイマン チャン・クォックァン ヴィッキー・チャオ ン・マンタ パトリック・ツェー セッ・チーワン ポー・イップトン チョン・ミンミン カレン・モク セシリア・チャン ビンセント・コク