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スナッチ

「スナッチ」

ロンドンを舞台に86カラットのダイヤを巡る争奪戦がスピーディーに描かれる。主要登場人物は14人。キャラクターはいずれもすねに傷をもつ人物ばかりなのに、どこかエキセントリックでおかしい。ミュージック・ビデオ出身のガイ・リッチー監督は短いショットをポンポン入れ、コミカルでテンポの良い映画に仕上げた。軽く軽く作ってあるが、逆に言うと、そこが弱さでもある。ラッセル・マルケイ(「ハイランダー 悪魔の戦士」)の昔からミュージック・ビデオ出身の監督に共通するのは、映像は魅力的なのに映画自体の印象は薄いということ(「マグノリア」のポール・トーマス・アンダーソンはその数少ない例外)。ガイ・リッチーの映画もまた、とりあえず楽しく見れるだけで何かもう一つ深みがない。この程度の映像を新しいなどと褒め上げるのはどうか。コメディであってもドラマは必要なわけで、ドラマ性が希薄な映画は個人的には魅力に欠ける。映像の技術はあるのだから、あとは脚本の問題と思う。もっとメリハリをつけ、どこか大きなポイントを設定すると良かった。

主人公はいちおう裏ボクシングのプロモーター、ターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)ということになっているが、ほとんど狂言回し的な役回り。パンフレットでもチラシでも一番右端に写っているのだから、ホントの主人公であるわけがない。あくまでもナレーター的な存在である。そのターキッシュの回想で映画は始まる。人間関係が入り組んでいるのに加え、細かいエピソードも多いので(これがどれもおかしいのだが)、ストーリーの要約は難しい。宝石泥棒のフランキー(ベネチオ・デル・トロ)が盗んだダイヤを巡り、ダイヤの故買屋デニス・ファリーナ、ノミ屋に強盗に入って偶然ダイヤを手に入れる黒人トリオ、その黒人トリオからダイヤを取り上げるロシア出身ギャングのボリス・ザ・ブレイド(ラデ・シェルベッジャ)、これに暗黒街のボスのブリック・トップ(アラン・フォード)が絡み、ブラッド・ピットを筆頭とするアイルランド人のグループが入り乱れる。ターキッシュと相棒のトミー(スティーブン・グレアム)はこれらの凶悪な悪党たちに翻弄され、生命の危機に脅されながらも何とか切り抜けていく。

映画が始まってしばらくはこうしたキャラクターの描写が次から次へとあるため目が回るよう。後半、登場人物が次々に(殺されたりして)リタイアしていき、ストーリーが収束していく。この脚本の整理の仕方は決してうまいとはいえない。出色なのはキャラクターの設定で、強力なパンチを持つボクサー役ブラッド・ピットは強いアイルランド訛りでほとんど何をしゃべっているのか分からない。ブリック・トップは気に入らない奴は殺して豚に食わせるというハンニバル・レクターも真っ青の非情さ。一ひねりもふたひねりもあるデフォルメされたキャラクターばかりである。

こうしたキャラクターがひたすら忙しく動き回る。ボクシングにたとえて言えば、ジャブの応酬ばかりで足を止めて打ち合う場面がないのが、物足りなさの原因かもしれない。前作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」は見ていないが、これと同じような手法の映画らしい。ガイ・リッチーの実力はほかのパターンの映画を見ないと、はっきり分からない。才能はあると思うので、次作には別のパターンを期待したい。

【データ】2000年 イギリス 1時間42分
監督:ガイ・リッチー 製作:マシュー・ボーン 脚本:ガイ・リッチー 撮影:ティム・モーリス・ジョーンズ 音楽:ジョン・マーフィー 美術:ヒューゴ・ルチック・ワイコフスキー 衣装デザイン:ベリティ・ホークス メイク:フェイ・ハモンド
出演:エイド ウィリアム・ベック アンディ・ベックウィズ オーエン・ブレムナー ニッキー・コリンズ ティーナ・コリンズ ソーチャ・キューザック ベネチオ・デル・トロ サム・ダグラス デニス・ファリーナ ジェイソン・フレミング アダム・フォーガティ アラン・フォード ロビー・ジー リンカーン・ゴールディ スティーブン・グレアム レニー・ジェイムズ ビニー・ジョーンズ ブラッド・ピット マイク・リード レデ・シェルベッジャ ジェイソン・ステイサム

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