ザ・セル
女性心理学者がシリアル・キラー(連続殺人犯)の脳(セル)に入り、誘拐された女性の居場所を突き止めようとするスリラー。女性は水槽の牢(セル)に閉じこめられ、40時間以内に救出しないと、溺れ死んでしまうという時間制限がある。精神世界の異様な描写が見どころで、馬を生きたたままガラスで輪切りにしたり、生きた人間の腸をぎりぎりと巻き上げたりの気色悪さと、石岡瑛子が担当した絢爛豪華な衣装の同居したイメージが繰り広げられる。ただしこのイメージは強烈なので好き嫌いは別れそうだ。監督はCM出身でこれがデビューのターセム。ビジュアルな部分のうまさはいかにもCM出身らしいが、独自の映像感覚があるようだ。加えてビジュアル面に頼りすぎることなく、ストーリー・テリングもまともである。「羊たちの沈黙」などサイコ・サスペンスの定石を踏まえつつ、「マトリックス」を彷彿させる異世界の構築に成功している。ジェニファー・ロペスの魅力を大いに引き出したのも功績だろう。
心理学者のキャサリン(ジェニファー・ロペス)は最新の装置で、自閉症の少年の精神世界に入り、治療を試みていた。しかし、少年の恐怖心から失敗。「自分のところへ少年を招き入れるしかない」とキャサリンは感じる。そのころ、女性を誘拐し、惨殺する連続殺人が繰り返されていた。FBIの捜査で精神分裂症の男スターガー(ヴィンセント・ドノフリオ)が容疑者として浮かび上がるが、FBIが家に踏み込んだ時、スターガーは発作で倒れ、昏睡に陥る。誘拐された女性の居場所はスターガーしか知らない。FBI捜査官ピーター(ヴィンス・ヴォーン)は医師の紹介でキャサリンの研究所を訪れ、捜査協力を要請する。男の精神世界に入ったキャサリンはそこに少年のころのスターガーが父親に虐待され、脅えている姿を見る。荒廃した精神世界の中で、少年スターガーを助けようとするキャサリンと、手がかりを得て女性の居場所を探すFBIの姿が交互に描かれ、サスペンスを盛り上げる。
精神分裂病患者の精神がこの映画で描かれているようなものであるかどうかは別にして、冒頭の少年の精神世界のイメージから面白い描写と思う。抽象的、アヴァンギャルドなイメージと皮膚感覚で気持ちの悪い場面、ホラー的場面などターセムの描くイメージには独自のものがある。しかもターセムは筋の通ったストーリーを大きく逸脱せず、ストーリーを効果的に語るためにこの独自の映像感覚を用いている。よくあるイメージ先行でストーリーをないがしろにしたつまらない作品ではないのである。SF的設定とサイコ・サスペンスをミックスしたストーリーを破綻させなかった演出力は認めていいだろう。ラスト、「私の精神の中では私が王様」と言い放ち、邪悪なスターガーを撃退するキャサリンの姿は「マトリックス」のキアヌ・リーブスに似た快感があった。
監督名は日本語ではなぜか、ターセムとしか表記されていないが、パンフレットにはTARSEM SINGH(ターセム・シン)とある。M・ナイト・シャマラン(「シックス・センス」「アンブレイカブル」)、シェカール・カプール(「エリザベス」)と同じくインド出身。そう聞くと、イメージにどこか東洋のにおいが感じられてくる。
【データ】2000年 アメリカ 1時間49分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:ターセム 製作:エリック・マクレオド スティーブン・R・ロス 脚本:マーク・プロトセヴィッチ 撮影:ポール・ローファー 美術:トム・フォーデン 衣装:エイプリル・ネイピア 衣装(スペシャリティ):石岡瑛子 メイク:ミシェル・バーク 特殊効果:クレイ・ピニー 視覚効果:ケヴィン・ドット・ホー 音楽:ハワード・ショア
出演:ジェニファー・ロペス ヴィンス・ヴォーン ヴィンセント・ドノフリオ マリアンヌ・ジャン・バプティスト ジェイク・ウェバー ディラン・ベイカー タラ・サブコフ ジェイク・トーマス ジェームズ・ギャモン パトリック・ボーショー キャサリン・サザーランド