シービスケット
大恐慌時代に活躍したチビの競走馬シービスケットとそれを取り巻く人々を描いた実話。非常にゆったりとしたペースで、シービスケットが登場するまでに40分余りかかる(上映時間は2時間21分)。それまでは主要登場人物の人柄と背景を描いている。普通ならシービスケットの登場をもっと早くするはずで、いかにも原作がある映画らしい(というか、監督のゲイリー・ロスは競馬ファンではないのではないか)。ゆったりとしたペースはその後も変わらず、ここまで徹底されると、時代背景と合わせたのかなと思いたくなる。アカデミー賞にノミネートされたぐらいだからアメリカでは評判がいいのだろう。ウェルメイドな作りは好ましいけれど、作品賞ノミネートに値するのか疑問。技術的に特に優れた部分も見当たらないし、普通の作品と思う。
ローラ・ヒレンブランドの原作「シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説」は400万部以上売れたそうだ。大恐慌で一家離散となった騎手のジョニー・ポラード(トビー・マグワイア)と息子を自動車事故で亡くした資産家の馬主チャールズ・ハワード(ジェフ・ブリッジス)、時代遅れのカウボーイで調教師のトム・スミス(クリス・クーパー)が力を合わせてシービスケットとともに栄光をつかむ物語である。3人ともそれぞれに挫折の経験があるため、一度の失敗で人を否定するなというメッセージが根底に流れる。だから右目を失明し、足を骨折したジョニーと、靱帯を傷めたシービスケットが再起する場面がクライマックスとなる。その前に映画は全米一と言われた名馬ウォーアドミラルとシービスケットのマッチレースを描く。ここもクライマックス並みに盛り上がるシーンだ。ただし、非常に分かりやすい話で、先が読める展開ではある。
監督のゲイリー・ロスはシービスケットの活躍だけでなく、時代そのものを描くことにも重点を置いたようだ。アメリカの当時の風俗が再現されており、アメリカ人ならそれを見るだけでも楽しいのかもしれない。感心したのはクリス・クーパーの演技で、いつもながら役にぴったりとはまった感じがする。
レース中のトビー・マグワイアのアップは明らかに合成。馬の首と騎手の体の上下する頻度が多すぎて、遠景のショットとまるで合っていず、この演出はあまりうまくない。ディック・フランシスの競馬シリーズが好きなので、競馬を題材にした映画はひいき目に見たいのだが、傑作と呼べる映画はあまり思いつかない。フランシスの傑作「本命」を映画化した「大本命」もがっかりするような出来だった。「シービスケット」も全体的には成功しているとは言い難く、競馬の魅力を十分に伝える映画にはなっていないと思う。ゲイリー・ロスの興味はあくまで、シービスケットを取り巻く人々にあったのだろう。
【データ】2003年 アメリカ 2時間21分 配給:UIP
監督:ゲイリー・ロス 製作:キャスリーン・ケネディ フランク・マーシャル 製作総指揮:ゲイリー・バーバー ロジャー・バーンバウム トビー・マグワイア アリソン・トーマス ロビン・ビッセル 原作:ローラ・ヒレンブランド 脚本:ゲイリー・ロス 撮影:ジョン・シュワルツマン プロダクション・デザイン:ジャニー・オッペウォール 衣装デザイン:ジュディアナ・マコフスキー 音楽:ランディ・ニューマン
出演:トビー・マグワイア ジェフ・ブリッジス クリス・クーパー エリザベス・バンクス ゲイリー・スティーブンス ウィリアム・H・メイシー デヴィッド・マックロウ キングストン・デュクール エド・ローター マイケル・オニール マイケル・アングラーノ アーニー・コーレイ ヴァレリー・マハフィー