シュレック
数年前、「政治的に正しいおとぎ話」という小説がベストセラーになった。白雪姫やシンデレラなど名作とされるおとぎ話に潜む社会的差別や男女差を撤廃して語り直したもので、意図はよく分かるのだが、それほど笑えるものではなかった。ドリーム・ワークス製作のこの映画も“政治的に正しい”CGアニメと言える。製作のジェフリー・カッツェンバーグはディズニーで「美女と野獣」「アラジン」などを発表し、低迷していたディズニーの復活に貢献した人物。美男美女のめでたしめでたしで終わる普通のおとぎ話の裏返しとして、このアニメを作ったらしい。設定は裏返しでも物語は真っ当で、ひねりすぎてはいない。キャラクターが描き込まれているため、エンタテインメントとして十分に通用する仕上がりだ。子どもよりも大人が見て楽しめる佳作になっている。ただし、シンプルなテーマを力強く歌い上げた「美女と野獣」を超えることはできなかった。技術的には勝っているが、ドラマティックな部分で負けているのである。
沼地に住むシュレック(マイク・マイヤーズ、吹き替え版は浜田雅功)は緑色の怪物で、村人たちから「人の骨を粉にして、パンにして食う」と恐れられている。ある日、シュレックのところにおとぎ話のキャラクターたちが大挙、押し寄せる。この国のファークアード卿(ジョン・リスゴー、伊武雅刀)は完璧な国を作るのにキャラクターたちが邪魔になると考え、沼地に追放したのだ。一人で暮らすのが好きなシュレック(というのには理由があることがあとで説明される)は、キャラクターたちの騒がしさに怒り、「お前たちを元いたところへ追い返してやる」とファークアード卿に掛け合いに行く。
ファークアード卿はシュレックの強さに目を付け、ドラゴンが守る城に閉じこめられたフィオナ姫(キャメロン・ディアス、藤原紀香)を助けたら、沼を元通りにしてやると持ちかける。美人の姫と結婚して王になろうと考えているのだ。シュレックはおしゃべりなロバのドンキー(エディ・マーフィー、山寺宏一)と協力してドラゴンを撃退し、フィオナ姫を救出。国へ帰る途中、シュレックとフィオナ姫にはほのかな愛が芽生えるが、フィオナ姫にはある秘密があった。この秘密が従来のおとぎ話とこの映画を分けるポイント。「白鳥の湖」や「美女と野獣」を逆にした設定で、人間は(怪物も)外見じゃないよというテーマ通りの結末を迎えることになる。
フィオナ姫が白馬の王子様からの救出を願っていたり、「マトリックス」のキャリー=アン・モスばりのキックを見せたりのパロディ的部分も楽しいのだが、本筋の物語をしっかり作っているところに好感が持てる。クライマックスは「卒業」風の描写になるが、これはパロディとか何とか言うよりも誤解から生じたすれ違いを正すのに必然的な展開。CGの質は高く、ドラゴンが吐く炎の描写には感心した。
【データ】2001年 アメリカ 1時間31分 配給:UIP
監督:アンドリュー・アダムソン ヴィッキー・ジェンソン 製作:ジェフリー・カッツェンバーグ アーロン・ワーナー ジョン・H・ウイリアム 製作総指揮:ペニー・フィンケルマン・コックス サンドラ・ラピンス 原作:ウィリアム・ステイグ 脚本・共同製作:テッド・エリオット&テリ−・ロッシオ 脚本:ジョー・スティルマン ロジャー・S・H・シュルマン 音楽:ハリー・グレグソン・ウィリアムス ジョン・パウエルプロダクション・デザイン:ジェームズ・ヘジェダス 視覚効果スーパーバイザー:ケン・ビーレンバーグ
声の出演(日本語版):マイク・マイヤーズ(浜田雅功) キャメロン・ディアス(藤原紀香) エディ・マーフィ(山寺宏一) ジョン・リスゴー(伊武雅刀)