スリーピー・ホロウ
すべての謎が合理的に説明されるミステリかと思っていたが、そうではなく、亡霊と魔女の存在を認めた上でのフーダニット、ホワイダニットになっている。なぜ連続殺人は起きたのか、犯人とその動機を合理的な頭脳(?)を持つ捜査官が突き止めるわけである。原作のおとぎ話「スリーピー・ホロウの伝説」を「セブン」のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが自由に脚色し、ハマー・プロの怪奇映画が好きというティム・バートン監督が本家をしのぐ見事な映像美でまとめ上げた。美術、セット、ダークな雰囲気が抜群の出来栄えで、ダニー・エルフマンの音楽も快調。アカデミー賞で美術、撮影、衣装デザインの3部門にノミネートされたのも当然だろう。このストーリー、SF的設定に理解を示さない一部のミステリファンは眉をひそめるかもしれないけれど、亡霊と魔女が出てきてもミステリの精神は息づいている。ウォーカーの脚本も、肩すかしを食わされた「セブン」などよりはずっと良くできていると思う。
時代は魔女や亡霊がでてきてもおかしくないような1799年。科学を信奉するニューヨークの捜査官イカボッド・クレーン(ジョニー・デップ)がハドソン川をさかのぼった所にある小さな村スリーピー・ホロウの連続殺人の捜査に派遣される。殺されたのは3人。いずれも首を切断されており、村では首なし騎士の亡霊の仕業と考えられていた。首なし騎士は20年前、独立戦争で残虐の限りを尽くした騎士で、首を切断されて殺された。その怨みから首を求めて殺人を犯しているというのだ。イカボッドは信じず、独自の捜査を始める。殺人はさらに連続し、イカボッド自身も首なし騎士を目撃。魔女に教えられた“死人の木”の根もとから騎士が現れるのを見るに及んで、その実在を信じざるを得なくなる。問題は亡霊が何者かに操られているらしいこと。その犯人と動機が後半の焦点になる。
イカボッドが科学捜査の道具を使う場面などはまるで「シザーハンズ」。捜査官が不思議な村にやってくるというのは「ツインピークス」を思わせる設定だ。しかもこの捜査官はちょっとしたことですぐに失神してしまうのである。バートンらしいユーモアが随所にあって、僕はクスクス笑いながら見た。ストーリーに奥行きを持たせているのは、イカボッドが見る夢の描写で、イカボッドの母親もまた魔女と誤解されて夫(つまりイカボッドの父親)に殺された経緯が明らかになる。スリーピー・ホロウの不気味な雰囲気、出演者たちの衣装やメイクアップ、最初と最後に出てくるニューヨークのセットなどいずれも独自の雰囲気がある。霧の立ちこめる森の描写は、フツーの森にしか見えなかった「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」に比べて格段に素晴らしく、バートンがプロの実力を見せつけたといったところか。
首なし騎士に扮したのは「スター・ウォーズ エピソード1」のダース・モール役レイ・パーク(当然、顔は映らない。“首あり騎士”の方はクリストファー・ウォーケン)。ブーンと効果音を響かせながら、剣を振り回す騎士のきびきびしたアクションもこの映画の魅力の一つだ。「エド・ウッド」のマーティン・ランドーやハマー・プロの怪奇映画でドラキュラを演じたクリストファー・リーがゲスト出演的な役柄で出ているのもファンにはうれしい。
【データ】1999年 アメリカ 1時間46分 マンダレイ・ピクチャーズ提供 日本ヘラルド映画配給
監督:ティム・バートン 製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ 原作:ワシントン・アーヴィング「スリーピー・ホロウの伝説」 原案:ケヴィン・イェーガー、アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー 脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー 音楽:ダニー・エルフマン 撮影:エマニュエル・ルベツキー 衣装デザイン:コリーン・アトウッド プロダクション・デザイン:リック・ヘインリック
出演:ジョニー・デップ クリスティーナ・リッチ ミランダ・リチャードソン マイケル・ガンボン キャスパー・ヴァン・ディーン イアン・マクダーミッド マイケル・ガフ クリストファアー・リー ジェフリー・ジョーンズ マーク・ピッカリング リサ・マリー クリストファー・ウォーケン マーティン・ランドー(クレジットなし)