シュリ
韓国映画史上最大のヒットとなったというアクション大作。朝鮮半島分断の悲劇とラブロマンスにアクションを加えた娯楽映画-と表面的にとらえても構わないし、事実そういう部分もあるのだが、この映画が普遍性を持ち得ているのはひとえに破壊工作を行う北朝鮮特殊部隊の動機に説得力があるからにほかならない。クライマックス、特殊部隊の隊長パク・ムヨン(チェ・ミンシク)が腹の底から絞り出すようにして吐くセリフには心を打たれる。「チーズとコーラとハンバーガーか。おまえたちがそんなものを食べている間に北の人民は飢えに苦しんでいる。飢えて自分の子どもの肉を食べる父と母の気持ちがおまえに分かるか」。「祖国統一を掲げる政治屋たちを信じたばかりに俺たちは苦しんできた。50年間も騙されれば、もうたくさんだ」。
このクライマックスで部隊は北と南の政治家両方を倒し、革命を起こして祖国統一を図ろうとしていることが明らかになる。単なる北の工作員ではなく、腐った体制への反逆部隊なのである。つまりこの映画は北と南の対立ではなく、体制側と反体制側の抗争を描いた映画なのである。反体制側の部隊が国家の手先に過ぎない諜報員によって倒されるというのが本筋であり、南が北の陰謀を殲滅する映画でないことは強調しておきたい。北も南もない、悪いのは体制だ、という構図は冒険小説の常道であり続けてきたものだ。韓国映画でまさかこんなモチーフに出会うとは思いもしなかった。主人公の恋人が北の工作員とすぐに分かるなどプロットに弱さはあるし、荒削りで演出が緩む場面も確かにあるけれど、この映画の価値を著しく損なうものではない。激しく胸を揺さぶり、熱い血を呼び覚まされるような傑作だ。
冒頭の北朝鮮部隊の訓練場面から画面には力がこもっている。死ぬか生きるかをかけた凄絶な訓練の中で、一人の女性隊員に焦点が絞られる。凄腕のこの女はイ・バンヒ。イはその能力を認められて、韓国に工作員として潜入。次々に要人を倒していく。1カ月後に恋人のイ・ミョンヒョン(キム・ユンジン)との結婚を控えた韓国諜報機関OPのユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)は同僚のイ・ジャンギル(ソン・ガンボ)とともにイ・バンヒを追うが、なかなか行方はつかめない。同じ頃、国防科学研究所が開発した液体爆弾CTXが輸送中に北朝鮮部隊から略奪される。一味は爆弾をソウル市内10カ所に仕掛けたとOPを脅迫、高層ビルが爆発し多数の死傷者が出る。部隊の破壊工作を止めるため、ジュンウォンは必死の捜査を開始するが、なぜか情報は相手に筒抜けになり、ジュンウォンは内部に裏切り者がいるとの疑いを抱く。
凄腕の女スナイパーと来れば、誰もが思い出すのが「ニキータ」。カン・ジェギュ監督は欧米のアクション映画をよく見ているらしく、「ニキータ」のほかにも「ダイ・ハード」や「ブラック・サンデー」などの影響が見て取れる。銃撃シーンの迫力(音響がもの凄い)は香港映画を参考にしたのかもしれない。しかし、そうした参考作品が透けて見えるにもかかわらず、この映画が優れているのは最初に指摘した通り激しいアクションの必然性(理由)があるからで、最近のアメリカ映画のように大した理由もないのに大がかりな破壊を繰り返すだけのB級作品とは一線を画している。出演者の中では凄みのある顔つきのチェ・ミンソクが素晴らしい。チェを中心にした特殊部隊の視点で描いてくれれば、文句なしに好みの映画になっていたところだ。ちなみにタイトルの「シュリ」とは朝鮮半島の澄んだ川に生息する体長7、8センチの淡水魚で、映画では北朝鮮部隊の作戦名、コードネームとして使われている。
【データ】1999年 韓国 2時間4分 シネカノン/アミューズ配給 製作:サムソン・ピクチャーズ
監督・脚本:カン・ジェギュ 撮影:キム・ソンボク 音楽:イム・ドンジュン アクション監督:チョン・ドゥホン CG監修:チョ・ソンベ 特殊効果:チョン・ドアン 主題歌「When I Dream」キャロル・キッド
出演:ハン・ソッキュ キム・ユンジン チェ・ミンシク ソン・ガンホ パク・ヨンウ パク・ウンスク