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サイダーハウス・ルール

「サイダーハウス・ルール」

メイン州にある孤児院とそこで育った少年の自立を描く。膨大な原作を脚色するにあたって、原作者のジョン・アーヴィングは少年が大人になる上で必要な通過儀礼と、“父と子”の関係に重点を置いたようだ。主人公は父親のような存在の院長に対する反発から孤児院を出るが、人生経験を積んで院長の歩む道を理解する。その中心となるのが堕胎に関する考え方だ。しかし、そういう風に理屈をどうこう言うより、素直に青春映画と受け取ってしまった方がいいのだろう。孤児院の子どもたちや主人公のロマンスの描写が実に素直で新鮮で、心に響くのだ。ラッセ・ハルストレムの演出に狂いはなく、院長役のマイケル・ケイン、ロマンスの相手シャーリーズ・セロンをはじめ脇役に至るまで好演している。

孤児院で産み落とされた主人公ホーマー・ウェルズ(トビー・マグワイア)が里親に気に入られず2度も孤児院に戻されるという出だしから、いかにもアーヴィングらしい設定。院長のウィルバー・ラーチ(マイケル・ケイン)はホーマーを特別な子と見なし、本当の父親のような愛情を注ぐ。医学の知識を教え、自分の助手として出産の手伝いをさせるようになる。時代は1940年代。アメリカでは当時、堕胎は法律で禁止されていたが、ラーチは望まれない不幸な子どもを宿した女性を救うため、秘かに堕胎手術を引き受けていた。ホーマーは生命を奪う堕胎を嫌悪している。堕胎が普通に行われていたら、自分もこの世に生まれなかったかもしれないという考えがあるのだ。ある日、軍人のウォリー・ワージントン(ポール・ラッド)と恋人キャンディ・ケンドール(シャーリーズ・セロン)が孤児院にやってくる。妊娠したキャンディの堕胎をするためだった。退院の日、ホーマーは突然、2人とともに孤児院を出ていくことを決意。ウォリーの誘いで実家のリンゴ園の収穫作業を手伝うことになる。

リンゴ園には黒人の季節労働者たちがおり、ミスター・ローズ(デルロイ・リンド)が作業を取り仕切っていた。ホーマーは“サイダーハウス”と呼ばれる小屋で黒人たちと寝起きを共にして作業に汗を流す。この小屋の壁に貼ってあった「ベッドではたばこ禁止」「酒を飲んだら機械を操作しない」など五つのルールが題名の由来。「そんなのは他人が作ったルールだ。ここに住む俺たちが作ったものじゃない」とミスター・ローズが怒る場面があるにせよ、このルール、映画ではそれほど大きな意味は持たない。ビルマ戦線へ出征したウォリーの留守中に親しくなるホーマーとキャンディのロマンス、不幸な妊娠をしたミスター・ローズの娘ローズ(エリカ・バドゥ)のエピソードが大きくクロースアップされる。青春の輝きと人生の重さともいうべきこの明暗二つの経験を通じてホーマーは大きく成長するのである。不幸な妊娠を目の当たりにしたホーマーは堕胎の必要を痛感し、院長の行為が理解できるようになる。それは作者アーヴィングの主張でもあるのだろう。

ハルストレムの演出は細部の描写が豊かだ。犬の子でも探すように孤児院を訪れる里親、それでも里親に気に入られ、引き取ってもらいたいと願う子どもたちの描写などは切なく胸を打つ。主演のトビー・マグワイアは繊細な演技を見せるけれど、あまり成長を感じさせないのが難か。ケイト・ネリガンとジェーン・アレキサンダーというかつての贔屓女優二人が一様におば(あ)さんになっているのは悲しいが、しっかり脇を固めて映画に重みを与えている。

【データ】1999年 アメリカ 2時間6分 フィルム・コロニー提供 配給:アスミック・エース
監督:アカデミー脚色賞) 製作総指揮:ボブ・ワインスタイン ハーヴィ・ワインスタイン ボビー・コーエン メリル・ポスター 共同製作:アラン・C・ブロンクイスト レスリー・ホールラン 撮影:オリバー・ステイプルトン 衣装デザイン:レネー・エールリッヒ・カルフュス 音楽:レイチェル・ポートマン
出演:トビー・マグワイア シャーリーズ・セロン デルロイ・リンド ポール・ラッド マイケル・ケイン(アカデミー助演男優賞) ジェーン・アレキサンダー キャシー・ベイカー エリカ・バドゥ キーラン・カルキン ケイト・ネリガン ヘヴィ・D K・トッド・フリーマン パ・ドゥ・ラ・ユエルタ J・K・シモンズ イヴァン・デクスター・パーク ジミー・フリン ロニー・R・ファーマー エリク・バー・サリヴァン スペンサー・ダイアモンド ショーン・アンドリュー ジョン・アルバノ スカイ・マッコール・バータシアク クレア・ダリー コリン・アーヴィング

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