サイモン・バーチ
スティーブン・キングの小説や映画のような味わいを持つ映画だ。といってもホラーではなく、「スタンド・バイ・ミー」の路線。障害を持つ子供サイモン・バーチ(イアン・マイケル・スミス)と親友のジョー(ジョゼフ・マッゼロ)の交流がアメリカの一般的な少年たちの日常を描いたキング(やレイ・ブラッドベリやロバート・マキャモン)作品の雰囲気によく似ている。サイモンが受ける仕打ちや浴びせられる言葉に重たいものはあるのだけれど、それはあくまでも点景。日常の描写が良くできているから、障害者が主人公の映画にありがちな感動の押し売りがなく、好ましい。
サイモンは自分の障害について「神様が大きなプランを持っている」と信じている。障害は何かの使命をさせるために与えられたものであり、自分はその時に使われる「神様の道具だ」と考えているのである(フェデリコ・フェリーニの「道」にも「どんなものでも何かの役に立っているんだ。ほら、この小石だって」というセリフがあるけれど、ひねくれ者の僕は別に何の役にも立たなくたって、生きていっていいじゃないかと思う)。こういう設定だから、映画の結末は容易に予想がつく。それをどう見せるかが監督の手腕だろう。
ジョンソン監督は先に書いたように少年たちの日常をきめ細かく描くことで、それをクリアしている。少年野球や学校や教会を舞台にレベッカの突然の死やジョーの父親は誰かという謎を絡めながら、映画はユーモアを交えて語られる。ジョーの視点から描いたことで、映画の奥行きは深いものになった。クライマックスで描かれるサイモンの“使命”はSFがかった奇跡ではなく、自らの決意と行動によるものである。サイモンはその状況を「神様のプラン」と考えただろうけれど、決して道具なんかではなく、主体的なものだったことに意味がある。
出演者の中では天使のように優しいアシュレイ・ジャッドが印象的だ。パンフレットには辛口の映画評論家ジーン・シスケルの「なにせ、アシュレイは、彼女の出演が映画の質の高さを保証するという稀な女優に成長しているのだ」との言葉が紹介されている。
【データ】1998年 アメリカ映画 1時間53分
監督・脚本:マーク・スティーブ・ジョンソン 原作:ジョン・アーヴィング「オーウェンのために祈りを」 撮影:アーロン・E・シュナイダー 音楽:マーク・シャイマン
出演:イアン・マイケル・スミス ジョゼフ・マッゼロ アシュレイ・ジャッド オリヴァー・プラット デイビッド・ストラザーン ジム・キャリー(クレジットなし)