シックス・センス
ホラーの装いをまとってはいるが、プロットは純然たるミステリ。冒頭にあるブルース・ウィリスと監督M・ナイト・シャマランによる「お願い」字幕が余計で、ミステリの読者なら、最初のシーンを見ただけで、映画の仕掛けが分かってしまうかもしれない。過去の映画にもいくつか例があった仕掛けである。だから映画の半分ぐらいまでは「ここはこうなる」「あそこはああなるはず」と容易に演出の予想がついてしまう。そしてラストも結局、この仕掛けに収斂されるのだから、途中でネタが分かってしまった観客は、分からなかった観客の驚きや感動からは取り残されてしまう。これが最大の欠点。しかし、この映画、サイキック(霊媒)の哀しみや不幸、幽霊が見えてしまうことの怖さをしみじみと描いている点では例がない。僕はその点で評価する。
小児精神分析医マルコム・クロウ(ブルース・ウィリス)の家にある晩、10年前に治療した患者ビンセントが侵入する。ビンセントは「ちっとも治っていなかった。一人でいるのが怖い」と恨み言を言った後、マルコムを撃ち、自殺してしまう。1年後、傷は癒えたものの、ビンセントの事件に打ちのめされたマルコムはビンセントと同じ症状を抱えた少年コール(ハーレイ・ジョエル・オスメント)に出会う。両親が離婚し、母親と2人暮らしのコールは何かにひどく怯え、体には多くの傷があった。治療を進めるうちにマルコムはコールの周囲に不思議な出来事が起こっているのを知る。そしてコールはマルコムに「自分には死者の霊が見える」と打ち明ける。これがメインストーリー。映画はサイドストーリーとして、仕事に打ち込んで家庭を顧みなかったマルコムと妻(オリビア・ウィリアムス)との間に深い溝ができていることを描く。妻には他の男の影も見えるようになっている。
なぜ、霊たちはコールに近づくのか。コールは「自分を死んだと思っていない。何かを僕に頼みたがっているんだ」と話す。コールの言葉を信じたマルコムは協力し、ある少女の霊の手助けをすることになる。このエピソード、描写は怖く、内容もショッキングだが、これをきっかけにコールは怯えから解放されていく。つまり、サイキックとしての役割に目覚めたわけだ。あるいは自分の能力が何かの役に立つことが分かって自信を得たといっていいかもしれない。
ハーレイ・ジョエル・オスメントはブルース・ウィリスを凌ぐ好演。もの悲しい目つきがサイキックにぴったりだ。好みから言えば、ウィリスの立場よりも少年の立場から描いた方がSF的になって良かったとは思う。ただ、そうすると、このストーリーでは困ったことになる。詳しくは書けないけれど、仕掛けに影響を及ぼすから、これはこれで仕方なかっただろう。
フィルムの感触は冷たい硬質の感じがするが、ストーリー的には温かい。本当に怖い場面は後半の幽霊が出てくる数場面だけだ。ストーリーの仕掛けとB級ホラーとは一線を画する内容があったから、アメリカで「エリザベス」のシェカール・カプール同様、インド出身監督として注目しておこう。
【データ】1999年アメリカ映画 スパイグラス・エンタテインメント作品 1時間47分 東宝東和配給
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン 撮影:タク・フジモト 音楽:ジェイムス・ニュートン・ハワード
出演:ブルース・ウィリス ハーレイ・ジョエル・オスメント トニ・コレット オリビア・ウィリアムス ドニー・ウォルバーグ ピーター・タムバキス M・ナイト・シャマラン