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ジャンヌ・ダルク

「ジャンヌ・ダルク」

わずか2カ月間の栄光の日々と1年8カ月に及ぶ苦難の日々。17歳で世に出たジャンヌ・ダルクの以後の生涯はこの2つに分けられる。映画的に面白いのは最初の2カ月の方だから、リュック・ベッソンもここの描写に力を入れている。オルレアンの解放からフランス国王の戴冠式までは戦闘シーンのリアルな描写や兵士を鼓舞するジャンヌの高揚感を克明に描いて、映画は間然するところがない。しかし、ジャンヌが捕らえられ、裁判に掛けられる後半、ダスティン・ホフマン扮する良心との対話などは観念的で退屈だ。ベッソンはジャンヌを神の啓示を受けた特別な少女ではなく、一人の普通の少女として描きたかったという。神の啓示と思えたものは、実は自分の内面の声だった、という解釈だ。それを明らかにするために映画は後半、ジャンヌの内面に入って行かざるを得なくなる。「ニキータ」や「レオン」を見て分かるように、ベッソンはアクションシーンに冴えを見せる監督。人間の内面描写は苦手らしい。力作ではあるけれど、傑作にはなり損ねたな、という印象だ。

わずか2カ月間の栄光の日々と1年8カ月に及ぶ苦難の日々。17歳で世に出たジャンヌ・ダルクの以後の生涯はこの2つに分けられる。映画的に面白いのは最初の2カ月の方だから、リュック・ベッソンもここの描写に力を入れている。オルレアンの解放からフランス国王の戴冠式までは戦闘シーンのリアルな描写や兵士を鼓舞するジャンヌの高揚感を克明に描いて、映画は間然するところがない。しかし、ジャンヌが捕らえられ、裁判に掛けられる後半、ダスティン・ホフマン扮する良心との対話などは観念的で退屈だ。ベッソンはジャンヌを神の啓示を受けた特別な少女ではなく、一人の普通の少女として描きたかったという。神の啓示と思えたものは、実は自分の内面の声だった、という解釈だ。それを明らかにするために映画は後半、ジャンヌの内面に入って行かざるを得なくなる。「ニキータ」や「レオン」を見て分かるように、ベッソンはアクションシーンに冴えを見せる監督。人間の内面描写は苦手らしい。力作ではあるけれど、傑作にはなり損ねたな、という印象だ。

百年戦争下のフランス。隠れ場所をジャンヌ・ダルク(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に譲った直後、ジャンヌの姉は襲ってきたイギリス兵から殺される。自分のために姉が殺された、と悩むジャンヌに対して教会の牧師は「それは神があなたを選ばれたのだ」と話す。何のために神は自分を選んだのか。1日に何度も告解をする敬虔なクリスチャンのジャンヌはその命題を抱えることになる。ここから映画は数年後に飛ぶ。ジャンヌは神の啓示を受けた“ロレーヌの少女”として有名になっていた。ジャンヌは王太子シャルル(ジョン・マルコヴィッチ)にオルレアンを解放するため自分に軍勢を与えるよう直訴する。ジャンヌの不思議な資質を認めたシャルルと義母ヨランド(フェイ・ダナウェイ)はジャンヌに軍を率いることを許す。ジャンヌの登場で兵士は勇気と希望を得て、次々にイギリス軍に勝利。オルレアンを解放し、シャルルは国王に座に就く。

映画は戴冠式の華やかな場面から一転して、雨の中にたたずむジャンヌを映す。ジャンヌの軍はパリ攻撃で援軍を得られずに惨敗。以後、戦いを継続しようとするジャンヌと資金の拠出に不満な王室の溝は深まっていく。ジャンヌはコンピエーニュの戦いでブルゴーニュ派に捕らわれ、イギリス軍に引き渡される。そして異端審問が始まり、ジャンヌは有罪を宣告されて火刑に処せられる。

軍を連戦連勝に導くジャンヌの行動は史実に少しのアレンジを加えればいいのだから映画化はしやすい。後半、幽閉されたジャンヌについては異端審問での発言などから推測するしかない。いったん悔い改めたジャンヌは男装したことで再び有罪となるが、その間の心の揺れ動きはどうだったのか、本当のところは分からないだろう。ベッソンは良心(というか心の声)を登場させることで、この間の説明を試みた。普通の少女として描くことが狙いなのだから、ここでジャンヌは神の啓示などなかった、との結論にたどり着くほかないのである。ベッソンは神の啓示の場面を直接的には描かず、前半を周到に演出しているが、それでもジャンヌが神の声を聴く場面はあり、描写に中途半端さを感じた。そうしたものをすべて幻想と結論づける演出が前半から必要だったのかも知れない。

美術、衣装、アクションシーンは素晴らしいレベルにある。ミラ・ジョヴォヴィッチの、ものに取り憑かれたような熱演も僕は支持する。

【データ】1999年 アメリカ・フランス 2時間37分 コロンビア映画作品 ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント配給
監督:リュック・ベッソン 製作:パトリス・ルドゥー 脚本:アンドリュー・バーキン 撮影:ティエリー・アルボガスト 美術:ユーグ・ティサンディエ 衣装:カトリーヌ・レトリエ 音楽:エリック・セラ
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ ジョン・マルコヴィッチ フェイ・ダナウェイ ダスティン・ホフマン パステル・グレゴリー ヴァンサン・カッセル チェッキー・カリョ リチャード・ライディングス デズモンド・ハリントン

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